「老後の最低源の日常生活費は22万円、ゆとりのある生活費は36万円」という数字の根拠

[2021/5/11 00:00]

老後の生活を考えるための金額

老後の生活資金を考える時に、よく出てくるのが、公益財団法人 生命保険文化センターによる金額です。

具体的には、「老後の最低源の日常生活費は22万円、ゆとりのある生活費は36万円」というものです。

この数字は、3年ごとに行なわれる4千人規模の面接調査による結果で、調査の方法の信頼性が高いため、いろいろなところで使われています。

ただ、現在の扱われ方は、少し過剰で、数字が独り歩きしてしまっているように見えます。

この記事では、もともとのアンケートにさかのぼって、この数字の正しさと限界を紹介しましょう。

データは、2019年4月から6月にかけて行なわれた最新の調査によるものです。

「老後の最低源の日常生活費」は幅が広い

まず、「老後の最低源の日常生活費は22万円」のもととなったのは、どんな質問だったのか見てみましょう。

正確には、次のように聞いています。


あなたは、老後を夫婦2人で暮らしていくうえで、日常生活費として月々最低いくらぐらい必要だとお考えですか。現在のお金の価値でお答えください。


    月々約□□□万円
    わからない

そして、ここに記入された数字の平均が「月額22万円」だったのです。

一番多い回答も平均に近い「20万円~25万円」でした。

しかし、回答された金額は、15万円~40万円の範囲に、かなり幅広く広がっています。

人によって現在の生活費は異なるように、想像する老後の生活費も異なるのです。

また、「わからない」と答えた人も2割いることも忘れてはいけません。

この調査は、「老後はどれぐらい生活費がかかるか」という予測を聞いているので、「わからない」と答える人も多いのです。

このように見ていくと、「22万円」という数字は、あくまでも平均であって、絶対的なものではないことが分かります。

出典:生命保険文化センターのデータをもとに編集部が作成

「あといくらぐらい必要か」と聞いている

次に「ゆとりのある生活費は36万円」の方を見てみましょう。

実は、この金額は、「ゆとりのある生活費はいくらですか」と聞いた数字ではありません。

正確には、次のように聞いています。


経済的にゆとりのある老後生活を送るためには、今お答えいただいた金額のほかに、あといくらぐらい必要だとお考えですか。現在のお金の価値でお答えください。


    月々約□□□万円
    ゆとりのある老後生活を送るつもりはない
    わからない

つまり、「老後の最低源の日常生活費」があって、それにいくら足すのかと聞いています。

金額の平均は「14万円」でした。

これに「老後の最低源の日常生活費」の22万円を足して、「36万円」という数字になっているのです。

一番多い回答は、平均に近い「10~15万円未満」でした。

しかし、回答の幅を見ると、「10万円未満」から「30万円以上」まで、幅広い金額が寄せられています。

ゆとりのある生活のイメージは、人によって大きく異なるのです。

そして、「10万円未満」という人や、「ゆとりのある老後生活を送るつもりはない」という人も2割います。

つまり、ゆとりのある老後生活を考えていなかったり、最低限の生活からあまり足すことを考えていない人も少なくありません。

こうして見ると、「36万円」という数字は平均値の足し算であって、「ゆとりのある老後生活には36万円が絶対に必要」というわけではないことが分かります。

出典:生命保険文化センターのデータをもとに編集部が作成

一人ひとりの生活は異なり、必要な生活費も異なる

私達は、2019年の「老後の生活資金2,000万円不足問題」のように、「老後に~万円必要だ」と誰かに断言されると、あわててしまいます。

「老後の最低源の日常生活費は22万円、ゆとりのある生活費は36万円」という調査結果も、これと同じで、数字がひとり歩きしてしまっているように見えます。

現役時代の生活が、人や家庭によって異なるように、老後の生活も一人ひとり違うのが当たり前です。

それを一律で、「何万円必要」とくくれるわけがありません。

人が言った数字にとらわれすぎてはいけません。示された金額は参考に留めましょう。

間違っても、自分の備えが、その金額に足りないからと言って絶望してしまったり、あわててお金を増やすために危険な投資などに誘われてしまってはいけません。

老後の生活を考えるときは、自分がどんな生活を送りたいのか、それにはいくら必要なのか、というところから考えましょう。

自分の今の生活を基礎にして考えれば、あなたらしく、しかも現実性の高い老後が想像できるでしょう。

[シニアガイド編集部]