施設介護Q&A集。「入居一時金を払う、払わないは、どう判断すればいいですか」ほか

[2021/8/4 00:00]


この記事は、角川SSCムック『離れて暮らす親に介護が必要になったときに読む本』の内容の一部を著者の許可を得て掲載しています。

Q1:入居一時金を払う or 払わないはどう判断すればいいですか?

A:入居期間が長くなりそうなら一時金を払ったほうがお得です。

下の図は、入居一時金を払う方式と、入居一時金なしの月払い方式の主な内訳です。

入居一時金を支払うと、毎月の費用は安くなります。

支払総額は下のグラフにある通り、入居年数が長くなると月払い方式のほうが総支払額は多くなります。

ちなみに損益分岐点は、5年前後の施設が多いようです。

ただし、一時金を支払ってしまうと入居してから施設と合わなくても、転居しにくいというデメリットもあります。

Q2:認知症が重くなっても施設に入居し続けられますか?

A:認知症に限らず本当に心配なのは入退院を繰り返した時です。

老人ホームは亡くなるまでの入居を保証する終身契約ではないため、入居後に身体状態が大きく変わったりすると退去を求められる可能性があります。

施設によって詳細は異なりますが、退去を要請される主な要件は下の表の通り。

契約書や重要事項説明書に内容は明記されています。

ただし、認知症が重くなっても他人へ危害を加える度合いがひどいなど、よほどのことがなければ退去といった事態にはなりません。

書面の文言が分かりにくい場合は、具体的な事例を聞くなどして正しく理解しておきましょう。

それよりも、病気を併発し入退院を繰り返すようになった時のほうが問題です。

3カ月以上入院すると、施設から退去を通告されてしまう場合もあります。

そんな時は病院のソーシャルワーカーに相談し、退院時期や、次の受け入れ先などについて相談しましょう。

Q3:父は持病がありますがサ高住へ入居できますか?

A:入居は可能ですが、サービス内容は施設ごとに確認が必要です。

「サ高住」とは「サービス付き高齢者向け住宅」のことで、バリアフリーや居室面積が原則25平方m以上といった基準を満たした住宅に、安否確認や生活相談サービスが付いた高齢者向け住宅。

ただし、受けられるサービスは下の図のように施設によってさまざま。

自立から要介護者まで入居でき、介護施設に比べて生活の自由度が高めです。

サ高住は生活不安がある高齢者が、安心して住める場所を提供するのが目的。

中には介護事業所や医療機関と提携して、サービスを提供している施設もあるので、持病がある場合はそういう施設を探すといいでしょう。

Q4:親が老人ホームから退所したいと言います。支払った入居一時金はどうなりますか?

A:90日以内ならクーリングオフ、償却期間内なら返還金があります。

入居契約は老人福祉法のクーリングオフ制度が適用され、90日以内であれば無条件で解除することができます。

入居一時金は、入居していた期間分の日割り家賃を差し引いて全額返還されます。

また90日を超えて入居していた場合も、償却期間内に退去した場合は返還金制度があります。

一般的には契約時に一定額を償却し、残額を償却期間(月または年)で割った額を償却し、未償却期間分が返却されるという仕組みです。

償却期間は施設ごとに異なります。

Q5要介護2の父と自立の母は一緒に施設へ入ることはできますか?

A:介護付き有料老人ホームか、介護サービスが手厚いサ高住ならOKです。

要介護者と自立の人が一緒に入れる介護施設は、介護付き有料老人ホームか、介護サービスが手厚いサ高住の2つが考えられます。

ただ、入居者の多くが介護を必要とする人だと、自立の人は物足りなく感じる可能性も高く、2人が満足できる施設を探すのは難しいかもしれません。

部屋も2人部屋にすると、どちらか一方が亡くなったり退去した場合、1人部屋が空くのを待つことになり、同じ施設の中でも新たな費用が発生する場合もあります。

Q6:施設入居を検討していますが年金では費用が賄えません。

A:リバースモーゲージを活用して資金を調達する方法もあります。

「リバースモーゲージ」とは、自宅を保有したまま、その自宅を担保にして一括または年金の形で銀行から融資を受け、借入人の死亡(契約終了)時に担保不動産を処分して返済する仕組みです。

これまでは利息分のみ毎月支払う商品が中心でしたが、最近では利息も借入残高に組み入れることで、利払いもないタイプも登場しています。

持ち家はあるけれど預貯金は少ない、自宅を承継する人がいない、という高齢者世帯から需要が高まっています。

ただし、担保となる不動産が建つエリアや対象となる不動産については条件があり、その内容は金融機関ごとに異なります。

Q7:認知症の母の施設入居費用を実家を売却して捻出したいです。

A:判断能力がなくなると成年後見人を付けないと売却できません。

認知症などで判断能力が不十分になり、意思確認ができないと法律行為ができません。

ということは定期預金を解約したり、自宅を売却するといったこともできないのです。

そうなったとき、法律的に支援するのが法定後見制度。

家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人に代わって財産管理や身上監護を行ないます。

本人に判断能力があるうちに、自ら選んだ任意後見人に代わりにしてもらいたいことを契約しておく任意後見制度もあります。



酒井富士子(さかい ふじこ)

“金融”を専門とする編集・制作プロダクション(株)回遊舎の代表取締役。日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。リクルートの「赤すぐ」副編集長を経て、2003年から現職。「お金のことを誰よりもわかりやすく発信」をモットーに、様々な書籍や記事などの制作・企画・執筆に携わる。

『株主優待ハンドブック 2021-2022年版』(日本経済新聞出版)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(井戸美枝著、日経BP)、『図解とイラストでよくわかる 離れて暮らす親に介護が必要になったときに読む本』(KADOKAWA)などを企画/制作を担当。

[酒井富士子]