新型コロナがもたらした「ウイルス除去バブル」。一瞬で市場が4倍に拡大

[2022/3/10 00:00]
出典:大幸薬品

新型コロナがきっかけに

空気中のウイルスなどを除去する薬品の市場は、新型コロナウイルスの影響で大きく変動しました。

2020年から2021年にかけて、「ウイルス除去バブル」と言いたくなる、需要が乱高下する状況だったのです。

この記事では、ウイルス除去薬「クレベリン」を販売する、大幸薬品の決算資料をもとに「ウイルス除去バブル」の状況を紹介します。

市場が1年前の4倍に

大幸薬品によれば、「国内ウイルス除去市場」は、新型コロナ前の2019年には、半年で「60億円」規模でした。

しかし、新型コロナの「緊急事態宣言」が出たことで、2020年前半には「256億円」まで膨らみます。

一気に、4倍以上に市場が拡大したのです。

しかし、需要が爆発したのは一瞬でした。

早くも2020年後半には、市場規模は「121億円」に半減します。

さらに市場の縮小は続き、2021年後半には、新型コロナ前に近い「72億円」まで減少します。

新型コロナによる「ウイルス除去バブル」は、たった半年ではじけ、2年で元に戻ってしまったのです。

出典:大幸薬品

たった1年で「111億円」の落差

「ウイルス除去バブル」の動きは、メーカーにも予想できませんでした。

2020年の大幸薬品の利益は「41億円」に達しました。

これは創業以来最大の黒字で「過去最高益」でした。

しかし、状況は暗転します。

2021年は「95億円」の赤字で「過去最大の赤字」になりました。

1年前の「41億円」の黒字から、「95億円」の赤字に、たった1年で136億円も落ちてしまったのです。

出典:大幸薬品

稼働したばかりの新工場も停止

大幸薬品が、赤字に転げ落ちた原因は、過剰な投資と在庫です。

大幸薬品では、2020年前半の実績をもとに、市場に製品を供給するために、「クレベリン」を増産するための新工場を稼働しました。

しかし、すでにバブルは去っていました。

「クレベリン」の売上は、前年の半分以下となりました。

製品が売れないために、在庫は過剰に積み上がります。

最後は、在庫を増やさないために、稼働したばかりの新工場も休止せざるを得ませんでした。

これらの臨時コストだけでも「92億円」が失われました。

出典:大幸薬品

「災害」から「日常」に

新型コロナウイルスによってもたらされた「ウイルス除去バブル」は、大幸薬品以外の同業者にも大きな影響を与えました。

殺菌剤以外にも、マスクやアルコール消毒液など、価格が乱高下して、最後は投げ売りになった製品は少なくありません。

最初の「緊急事態宣言」が出た2020年前半には、パニック的に大規模な需要が発生しましたが、「緊急事態宣言」が繰り返されるにつれて、急速に沈静化したのです。

これは、新型コロナウイルスが、一時的な災害から、日常的な危険へと変化していく過程でもありました。

「マスクの着用」や「人混みを避ける行動」などのルールが、日常に取り込まれていく中で、過剰な対策への需要が消えてしまったのです。

「熱狂は必ず去る」

「ウイルス除去バブル」の教訓はなんでしょう。

消費者の視点からみれば、「熱狂は必ず去る」ということでしょう。

少しでも手に入りにくい状況になると、そんなに必要ではないはずの製品が、「絶対に手に入れたいもの」に変化します。

しかし、ほんの少し待てば、状況は変わります。

「どうしても欲しい」「絶対に必要だ」と思っていたものが、いつでもそこにあるありふれた製品に戻ってしまうのです。

新型コロナ関係で言えば、一時的に不足が伝えられた「マスク」や「トイレットペーパー」のことを考えれば分かりやすいでしょう。

もし、何かについて、「どうしても手に入れなければならない」と思ったら、今回のことを思い出してください。

[シニアガイド編集部]