制度が変わって、ちょっとお得になった、年金の「繰り上げ受給」
60歳から年金が受け取れる「繰り上げ受給」
現在の老齢年金制度は、「65歳」から年金が支給されることが前提となっています。
しかし、60歳以上であれば、日本年金機構に「繰り上げ受給」を申請することで、65歳になる前に、年金を受け取ることができます。
本来の受給開始よりも、5年も早く、年金を受け取り始めることができるのです。
しかも、2022年4月に制度が変わり、少しお得になりました。
早くもらえる代わりに金額が少なくなる
最大で5年も早く年金が受け取れる「繰り上げ受給」ですが、良いことばかりではありません。
「繰り上げ受給」は、年金を早く受け取る代わりに、受け取る金額が少なくなります。
年金を受け取り始めた時期によって、65歳から支給される金額から、一定の割合で減額されます。
なお、減額された年金は、一生、そのままです。
65歳になったからと言って、もとの金額に戻ったりはしません。
60歳なら「30%減額」が「24%減額」に
2022年4月に年金制度が改正され、「繰り上げ受給」の減額率が下げられました。
これまでは、65歳までの1カ月ごとに、「0.5%」ずつ減額されてきました。
その減額率が「0.4%」になりました。
例えば、5年繰り上げると、30%減額されていましたが、これからは24%の減額で済みます。
減額率を下げるには年齢制限がある
ただし、0.4%の減額にするためには、1つの条件があります。
それは「本人が1962年4月1日以降の生まれ」であることです。
つまり、制度改正の時点で、60歳未満であることが必要なのです。
例えば、1961年生まれで、現在61歳の人が、今から「繰り上げ受給」しても、減額率は前のまま「0.5%」で計算されてしまいます。
すでに60歳以上の人は、この点を誤解して、あわてて繰り上げ受給を申請しないように注意が必要です。
1年ごとに4.8%ずつ減額される
減額は、65歳になるまでの期間によって、月単位で計算します。
ここでは、減額のイメージが分かりやすいように、1年毎の減額率を計算してみましょう。
例えば、64歳で「繰り上げ受給」すると、4.8%減額されます。
それから1年に4.8%ずつ減額率が増えていき、60歳で繰り上げ受給すると「24.0%」減額されます。
月額で1万5千円、年額で18万円減る
24%の減額と言ってもイメージしにくいので、実際の金額を計算してみましょう。
ここでは分かりやすいように、金額がはっきりしている「老齢基礎年金」を使います。
2022年度の「老齢基礎年金」は、一定の条件を満たしていると、月に「64,816円」支給されます。
それが、60歳で繰り上げ受給すると、「15,556円」減って、「49,260円」になります。
毎月、これだけ減額されると、年額では大きな差がでます。
60歳で繰り上げ受給したときの年額は「591、122円」で、本来の「777,792円」から、「186,670円」減ってしまいます。
5年早く受け取れる代わりに、月額で1万5千円、年額で18万円減ってしまうのです。
79歳までは、受け取る総額が多い
繰り上げ受給は、本来の支給開始よりも前に年金が受け取れます。
しかし、受け取れる金額が減額されていますから、いつかは、65歳まで待っていた人に受け取った年金の総額が追い越されてしまいます。
計算してみると、「79歳」までは、60歳で繰り上げ受給した人の方が、受け取る総額が大きく、80歳以上になると、本来の65歳で受給を始めた人の方が得になります。
現在の平均寿命は、女性が「87.71歳」、男性が「81.56歳」ですから、自分が平均寿命まで生きると考えるのであれば、「繰り上げ受給」しない方が得になります。
デメリットがあることも忘れずに
最後に、繰り上げ受給をしたときのメリットとデメリットを見てみましょう。
まず、メリットです。
- 本来よりも早く年金が受け取れる
- 79歳までは、65歳から受け取る人よりも、年金の総額が多い
早く現金が受け取れるのは、最大のメリットです。
次にデメリットを見てみましょう。
- 一定の割合で年金が減額され、それが一生続く
- 障害基礎年金がもらえない
- 寡婦年金がもらえない
最大のデメリットは「年金が減額され、それが一生続く」ことです。
ここでは、3つのデメリットを挙げましたが、日本年金機構の「繰り上げ受給」の説明ページには、「繰上げ請求の注意点」が13項目も書かれています。
つまり、早く年金を受け取れる代わりに、いろいろと面倒な制限が多いのです。
それが証拠に、2020年度の時点で、国民年金の繰り上げ受給をしている人の割合は「11.7%」でした。
つまり、10人に1人ぐらいしかやっていません。
極端な言い方をすれば、繰り上げ受給は「絶対お得で、みんながやっていること」ではなく、「とにかくすぐに現金が欲しいときに選ぶ手段」なのです。
年金制度が改正され、少しお得になったからと言って飛びつくのではなく、自分の生活状況も考慮して、冷静に検討してください。