第39回:いつか死んだとき、きちんと発動すると信じて良いか――デジタル終活3サービスを観察する

[2019/7/29 00:00]

自分が亡くなったときに、伝えたいメッセージや託したいファイル、こっそり消しておきたいデータなどを元気なうちにセットしておける。そんなデジタル遺品対策サービスが最近増えています。

自分の分身として死後の後処理をしてくれる便利な存在ですが、実際に使うには、いざというときに機能してくれる信頼性がなければなりません。

  • いつ訪れるか分からない死の瞬間まできちんと存在しているか
  • せっかく設定したのに情報漏洩したりしないのか
  • 自分が死んだときにはきっちり発動してくれるのか

上記3つのポイントに注目して、2019年に登場した3つのサービスをウォッチしてみましょう。

託すデータと隠したいデータを一緒に管理するWindowsソフト「まも~れe」

「まも~れe」は千葉県のIT企業MONETが開発したWindows 10(64bit)向けのファイル管理ソフトです。2019年6月に市場調査版を公開しており、セキュリティを強化した正式版「Lite Free」は年内にリリース予定とのこと。どちらも無料で利用可能です。

「まも~れe」をインストールしたあとは、下記のように用途に応じてファイルをフォルダに振り分けてして、万が一のときに備えていきます。

  • 銀行口座などの資産リストや遺言メッセージなど、死後に特定の相手に共有したいファイルは「重要データ」フォルダ
  • 遺影候補画像や仕事の相手の連絡先リストなど閲覧者を絞らずに共有したいファイルは「開示データ」フォルダ
  • 趣味性の高いファイルなど誰にも見せたくないファイルは「秘密データ」フォルダ
「まも~れe」市場調査版。「重要データ」は各フォルダの開示範囲を設定できる
「まも~れe」に登録したファイルは元の場所から移動とコピーが選択可能。伝えたい相手ごとに異なるIDやパスワードが自分で登録できる

「重要データ」は家族用や友達用など、開示範囲が異なる人たち向けに細かく分けて保管でき、それぞれに固有のログインIDとパスワードが付与される仕組みです。

あらかじめ、家族には家族用のIDとパスワード、友達には友達用のIDとパスワードを伝えておけば生前準備は完了。大枠ができたあとは、必要に応じてファイルを出し入れして自分の意思と同期して維持管理する付き合いになるでしょう。

そして、持ち主の死亡時は家族や友達が各自のIDとパスワードで「まも~れe」を開くことで、本人の意図するかたちで情報が共有されるというわけです。

今後は士業向けのPro版の開発を進めているとのことですが、ユーザーには無料で提供するスタンスは共通するそうです。

また、「市場調査版の反応から、スマホ対応版の開発も考えるようになりました。パソコン版よりはセキュリティを妥協したものになりそうですが、利便性重視で提供できれば」(MONET)といった動きも。

では、気になるポイントを見ていきましょう。

いつ訪れるか分からない死の瞬間まできちんと存在しているか

基本的にはオフラインで完結するため、サービス終了を心配する必要はありません。インストールしたパソコンが維持されれば存続しますし、設定を新しいパソコンに引っ越すことも可能です。すべて自らの手の内という感じでしょうか。

せっかく設定したのに情報漏洩したりしないのか

「まも~れe」にセットしたファイルはすべて暗号化(AES128bit)されるのは安心材料といえるでしょう。ただ元のファイルを別の場所に保存しているなら、生前にそちらを見られる可能性はあります。複製やバックアップファイルを含めて自分でどこまで管理するかによって状況は変わるでしょう。

自分が死んだときにはきっちり発動してくれるのか

死亡時には家族や士業の人がインストールしたパソコンを開いて、「まも~れe」に各自のIDとパスワードでログインすることで発動します。元気なうちからいざというときの手筈を家族に伝えておいたり、士業の人と契約したりしておく必要があります。

信頼する相手からのスイッチメールで死後設定が発動する「CUall」

「CUall(シーユーオール)」は東京都港区のIT企業シーユーオールが開発したIT終活サービスで、2019年7月にスタートを切りました。無料で使えるフリープランと、月額290円+税で使えるベーシックプランの2種類を用意しています。

「CUall」のプラン別機能表

「CUall」のサイトにログインすると、選択式のエンディングノートや動画や音声を含む遺言メッセージなどを登録できるのは両プラン共通です。ベーシックプランはさらにSNSアカウントや加入保険、スマホやパソコンのパスワード等も死亡時に特定の相手と共有できます。

ユーザーのやりようによっては、亡くなったときに伝えたいあらゆる情報をセットしておけるわけです。内容は送信相手ごとに調整できます。フリープランなら最大5人、ベーシックプランなら最大50人まで設定可能です。

そのメールが送信される、つまり死後発動するのに除籍謄本などの死亡証明書類は必要ありません。「スイッチメール」という独自の仕組みを使って実行します。

スイッチメールは死後に託すものとは別の機械的なもので、元気なうちに信頼できる複数の相手に送信しておきます。

相手のうち誰かがそのメールに返信することで「CUall」サーバーのスイッチが入りますが、まだ死後処理は発動されません。

本人宛に処理を止めるためのメールを送り、24時間は待機状態になります。その間に何もアクションがなかったとき、処理が実行されるという仕組みです。

「CUall」のサービスイメージ。スイッチメールの依頼者とメッセージを託す相手は無関係に設定できる

同社は開始1年で1万人のユーザーを獲得する目標を掲げており、今後も継続してインターフェイス等を改善していくといいます。そのうえで気になるポイントを見ていきましょう。

いつ訪れるか分からない死の瞬間まできちんと存在しているか

設定がいつまで維持するかは「CUall」というサービスの存続性にかかっています。同社は「存続期間を保証することは残念ながらできません。しかしながら、20年でも30年でも継続できるように企業努力を続けます」といいます。

せっかく設定したのに情報漏洩したりしないのか

「CUall」サーバーに保管した情報は、ユーザーごとに異なる鍵を使って暗号化される仕組みです。あらかじめ送信したスイッチメールの誤発動リスクはどうしても生じるので、日頃から「CUall」からの発動猶予メールを見落とさないよう意識しておくのが無難でしょう。

自分が死んだときにはきっちり発動してくれるのか

スイッチメールを送った誰かがアクションすれば作動します。このため、日頃からサービスのことを伝えておいたり、相互に利用して互助関係を築いておいたりする各自の努力が必要になるでしょう。お盆や正月に毎年再送信するといった習慣を作るのも有効かもしれません。

相手や公開のタイミングを細かく設定できるクラウドサービス「Secbo」

「Secbo(セキュボ)」は横浜市のIT企業Digtusが開発したデジタル終活サービスです。2019年6月に無料の試用版をリリースしており、今秋には正式版を開始するといいます。正式版の料金はライトプランが月額500円で、スタンダードプランは月額1,980円です。

なお、筆者は「Secbo」のサイト内情報の監修を行なっています。第三者としての記述に努めますが、公平を期すために先に報告させてください。

「Secbo」のログイン画面(スマホ版)。「メッセージ」や「財産目録」などの項目がアイコンで並んでいる
パソコンで「相続関連」項目を開いたところ。個別に必要項目を埋めていくことになる

「Secbo」はクラウド上に保管できるエンディングノートのようなサービスで、「住所録」「パスワード」などの項目別に自分の重要データを記録します。

各項目は生前から家族と共有するもの、相続時に託すもの、死亡時に消去するものといったように有事の公開条件が設定可能で、開示する相手も細かく指定しておけます。

開示も2段階に分けられるので、「入院したときに家族に一部を伝えて、死亡時にすべてを共有する」といったことも可能です。

2019年内は千人ほどのユーザーに使ってもらうことを想定しているそうです。「今年度は導入予定企業のみなさまや一部一般のお客様にトライアルでご使用いただき、フィードバックを頂戴している段階になります」とのこと。企業経由での提供も視野に、今後はスマホアプリの開発も計画しているといいます。では、気になるポイントを見ていきましょう。

いつ訪れるか分からない死の瞬間まできちんと存在しているか

同社は「保証期間はありませんが、年間契約、複数年契約をいただいた場合はその期間はサービス継続を保証しております」といいます。また、もしもサービス提供が終了することになったら、同種のサービスへの移行や、全データのエクスポートなどの対応をする考えもあるそうです。

せっかく設定したのに情報漏洩したりしないのか

「Secbo」に保管したデータは「WAP(電子割符)」という方式を採用し、全国に5カ所あるサーバーに分散配置しています。このうち3カ所にアクセスできれば復元可能で、仮に1カ所が漏洩しても意味のある情報に辿りつけない仕組みです。身近なところでログインパスワードの漏洩を防げば、不安材料は抑えられそうです。

自分が死んだときにはきっちり発動してくれるのか

死亡時は一般的な生命保険の申請と似たプロセスを経ます。遺族(法定相続人)がコールセンターに連絡し、公的な死亡証明書類を提出することによって手続きが始まります。Secbo側はユーザーの関係者に通知するとともに、必要に応じて関係者へのヒアリングなどをして、トラブルが起きないように対応していく仕組みです。

このため、日頃から家族などの近しい人にサービスを利用していること、いざというときに動いてほしいことを伝えておく必要があるでしょう。

生前準備サービスは成長途上

デジタルを使った終活サービスやデジタル資産の生前準備サービスはこれから成長していく道具といえます。実績だけでは図れない時期だけに、設定したあとの待機時や死亡時の仕組みをよく理解して付き合っていくのがよいでしょう。

今後も上記サービスのバージョンアップや新規サービスの登場に注目していきたいと思います。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2019年3月に、コラム集『死とインターネット』をKindleで発行した。

[古田雄介]