第38回:万が一のとき、スマホのロックを開くのは誰だ?

[2019/6/28 00:00]

誰のスマートフォンでもマスターキーのように開く技術は存在します。その技術はどんな条件下で使えるのでしょう、また、利用できない場合はどんな手が打てるでしょうか。

どんどん存在感が増していくスマホの非常時対応について、ちょっと考察してみましょう。

緊急時の「スマホリスク」は年々上昇している

デジタル終活をするうえでもっとも重要なアイテムは、間違いなくスマートフォンといえます。

LINEやSMS、通話履歴などが蓄積するだけでなく、肌身離さず持ち歩くものなので、自然と行動履歴も残ります(GPS機能をオフにしていても通信した基地局のログ情報は否応なく保存されます)し、最近はインターネットを見る主役の端末であり、電子マネーの支払い機としての役割も担うようになってきました。

財布を落とすよりもスマートフォンを紛失するほうがダメージが大きいという人も少なくないのではないでしょうか。

加えて、セキュリティの仕組みがパソコンよりも強固で、持ち主が設定したパスワードや代替認証なしにロックを解除するのは非常に困難という特徴もあります。

とくにiPhoneは、10回連続で入力ミスすると中身を初期化する設定になっている可能性もあるので、闇雲に解錠を試みるのはとても危険です。

Androidもかつては遠隔操作でパスワードを再設定したり、秘密の質問やGoogleアカウントのパスワードを入力したりといった代替手段を用意していましたが、最近の端末は端末に設定したパスワードか生体認証が通らなければ先に進めないようになっています。

日常ではとても頼もしいつくりです。しかし非日常、持ち主に万が一のことがあったとき、重要な情報にアクセスできなくなるリスクもはらんでいます。そのリスクは収納する資産の重要度と全体的なセキュリティレベルが双方上がったことで、ますます高まっているというわけです。

スマホの「マスターキー」が使われるのは国防や刑事裁判のみ

そんな非常事態に陥ったら、誰が助けてくれるのでしょう?

端末のパスワードだけをリセットする技術は市井に出回っていないため、本人や家族がキャリアショップに持ち込んでもロック解除の相談に応じてくれません。

メーカーでも事情は同じです。厳密なことをいえば、Appleは2008年から2015年にかけて米国政府筋の要請で70回ほどiPhoneのロックを社内で解除したと報じられていますし、Googleに関しても同様の措置を実施した記事が過去に出回っています。

どうやらマスターキーのようなものを作る技術自体はOS製造元には存在しており、国家レベルの要請なら応じることもあるようです。しかし、社外には決して出さないスタンスは徹底しているので、一般に提供することはまずないでしょう。

そうなると、頼る先は民間のスマートフォン修理会社やデータ復旧会社となりそうですが、残念ながら、ロック解除は非対応というところが多いです。受け付けている数少ない会社も基本的にOSや機種固有で生じる隙をつくスタンスのため、成功率は機種ごとに大きく左右されますし、パソコンほどの高確率は望めません。

ただし、あらゆる端末のロックを解除する機器も実は存在します。

代表的な機器としては、イスラエルのセレブライト社が開発した「Cellebrite UFED」が挙げられます。80カ国以上のキャリアやメーカーとつながりがあり、対応端末はおよそ6,500機種に上るといいます。

親会社であるサン電子によると、「日本での導入開始時期は2010年ごろであったと記憶しています」とのこと。

サン電子の「Cellebrite UFED」紹介ページ

しかし、これら確度の高い機器は国防や刑事裁判レベルでないと提供されないため、やはり雲の上の存在と考えておいたほうがよさそうです。国内の刑事事件では、2017年に福岡県で起きた元警察官による家族殺害事件では被害女性のiPhoneのロックを、2019年の遺体遺棄事件ではGalaxyのロックをそれぞれ解除したとの新聞記事がありました。

そうした局面ではスマートフォンのロックは絶対ではなくなっているようです。つまるところ、普通に暮らしているなら、確実な助けは期待できないと捉えておいたほうがよさそうです。

機種変したら「スマホのスペアキー」を作ろう

最後に頼るべきは自分。非常時に家族や仲間に迷惑をかけないためには、おそらく持ち主が普段から備えておくのがもっとも確実な対策といえるでしょう。

大きな手間はかかりません。以前、「2019年の動向も見据えつつ、デジタル資産を大掃除」で解説したように、スマートフォンのパスワードを含む重要なデジタル資産のメモを紙にまとめて、実印や預金通帳と一緒に保管しておくのが効率的です。

しかし、この方法だと平常時にパスワードが盗み見られるという心配はどうしても拭えません。

そこでお勧めしたいのは、スマートフォンのパスワードのような重要度が高い情報だけ修正テープでマスクする方法です。

修正テープならコインなどの堅いもので簡単に剥がせますし、剥がした跡も残ります。いわばスクラッチカード化することで、日常時の秘匿性を確保し、非常時に情報が伝わるようにするのです。

ただ、通常のコピー用紙は裏写りするので、確実に隠すには裏側に修正テープを走らせるなどの手間が必要です。折り曲げでテープが剥がれないように配慮する必要もあります。

ならばいっそ、名刺大の厚紙にスマートフォンのパスワードだけメモするほうが扱いやすいかもしれません。そう考えて、先日画像のようなカードを作成してみました。名付けて「スマホのスペアキー」です。

スマホのスペアキー

「iPhone 6s」「革ケースのスマホ」など家族が分かるように“端末名"を書いて、パスワードを添え、パスワード部分だけ修正テープで覆うかたちです。修正テープは2回走らせると油性ペンでも確実に隠せます。

端末とパスワードを記入する
修正テープで覆って完成。実印や預金通帳などと一緒に保管する
スクラッチカードのようにコインで削れる。跡を残さずに盗み見るのは困難だ

実際に使う台紙は、自分自身の名刺でもいいですし、ゴミと間違われなければちょっとした厚紙の小片でも十分です。修正テープならコンビニで買えますし、デジタル資産全体のメモを作るよりもさらに手っ取り早く作れるのではないでしょうか。

非常時に頼りになるマスターキーがない以上、自前でスペアキーを作っておくのが最強の備えになるのではないかと思います。機種変したらスマホのスペアキーをつくる、といった習慣ができたらいいですね。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2019年3月に、コラム集『死とインターネット』をKindleで発行した。

[古田雄介]