第51回:2020年のお盆に家族と進めたいデジタル終活、またはデジタル新生活
実家への帰省は家族で一緒に終活に取り組める絶好の機会といえます。
しかし、今年のお盆休みは故郷に顔を出したくてもできない人が多いのではないでしょうか。
いろいろと大変な状況ではありますが、年末年始でも来夏でもなく、このタイミングでやっておきたいデジタル終活があります。人によっては、デジタル新生活ともいえるかもしれません。
必須作業は家族で一緒に「スマホのスペアキー」を作るだけ
デジタル終活といっても、必ずやっておきたいのは1つだけです。家族で「スマホのスペアキー」を作る。これだけです。
スマホを安全に使うならパスワード(パスコード、パターン)の設定は欠かせません。生体認証機能を使う場合もパスワードの登録は必要なので、何かしらのロックをかけているなら誰しも固有の“鍵"を設定しているはずです。
この鍵を知らなければ、生体認証等でログインできる本人を除いて、基本的には誰もスマホの中身に触れられません。
とても頼もしい仕様ではですが、持ち主に不測の事態が起きたときに誰もスマホが開けられないと、仕事の引き継ぎに支障が出たり、家族が葬儀や相続に必要な情報を引き出すのを難航したりする可能性があります。
この感覚は、運転免許証やクレジットカードなどが詰まった財布と仕事の手帳が、自分の死後に誰も開けられない強固な金庫に封印されてしまうというものに近いです。
緊急時に限ってスマホが開けられる仕掛けを作っておけば、強制的な封印で家族や仕事仲間を困らせずに済むでしょう。そのためのスペアキーを家族で一緒に自作するのです。
以前、このコラムでも「万が一のとき、スマホのロックを開くのは誰だ?」で解説しましたが、作業はいたって簡単です。
まずは名刺大の厚紙を用意して、スマホの特徴とパスワードを併記します。次にパスワード部分だけ修正テープでマスキングする。これだけです。
これを預金通帳や実印と一緒に保管しておけば完了です。
いざというときはそれらと一緒に発見されるので、あとはコインで削るだけで鍵が伝わります。平常時に盗み見られたとしても削った痕跡は残るので、直ちにスマホのパスワードを変更することで対処できます。
これを家族と一緒に作るわけです。もちろん、パスワードを覗き見るのはいけません。作り方だけ共有して、作業はそれぞれプライバシーを守りながらこなすのがよいでしょう。
この作業を今夏に推奨する理由は、スマホに切り替えるシニアが加速度的に増えるタイミングだからです。
これまで折りたたみケータイを使っていたり、スマホを持っていてもあまり積極的に利用しなかったりした人たちの意識が変わらざるを得なくなっているのです。
3G終了の波でスマホ化が加速
「折りたたみケータイご利用の皆さまへ スマホ乗り換えは○○○へ!」
2020年に入って、そんな惹句を載せたチラシが投函されることが多くなってきました。引き金は、昨年までに3大キャリアが発表した3G通信サービスの終了予定です。
auの「CDMA 1X WIN」は2022年3月末、ソフトバンクの3Gサービスは2024年1月下旬、NTTドコモの「FOMA」(とiモード)は2026年3月末に終了します。
2019年10月から携帯電話端末の割引規制が始まっていますが、3Gから4G以降への乗り換えに関しては例外扱いになっています。そうした事情もあり、いまは前述のチラシのような乗り換え推奨の動きが業界全体で高まっているのです。
4G以降のサービスに対応する折りたたみケータイもありますが、ラインアップの主力は各キャリアともスマホ。今回の機にスマホに乗り換える人が増えるのは自然な流れのように思います。
総務省の「令和元年通信利用動向調査」によると、携帯電話/PHSの利用割合は70代が40.3%でピークとなっています。70代以上はスマホを持っている人が少数派ですから、このあたりの世代が今回のキャンペーンの影響をとりわけ大きく受ける見込みが高いです。
加えて、新型コロナウイルス感染症の影響もあります。
「オンライン診療」や「オンライン帰省」などがにわかに注目を集めるようになりましたが、それを実現するファーストチョイスの端末はスマホになります。
ウィズコロナ時代は、密なコミュニケーションを続けるために、対面の代替ツールを柔軟に使いこなすことが求められます。そうした側面もスマホへの乗り換えを後押ししそうです。
そうしたスマホへの乗り換えを家族がサポートしながら、同時にスマホのスペアキーも一緒に作成しておくのが良いのではないかと思います。
デジタル終活はデジタル新生活の延長線上にある
終活全般で言えることですが、一回やったきりで終わるのはあまり意味がありません。いざというときに役立てるためには、定期的に備えを更新できるように習慣化することが大切です。
習慣化するには、なにより手間がかからないことが重要。そのために、作業は最小限に留めてとにかくカンタンにすることだと思います。
そして、継続するためには「皆でやる」のが力になります。一人でやるならやめるのも簡単ですが、皆で取り組んでいると、人の目があるのでやめにくくなります。
そうした“縛り”を利用しつつ、デジタルに詳しい家族が、不得手な家族のサポートもこなしながら取り組むと、自然とデジタル終活が深まっていくと思います。
家族がすでにスマホを持っているなら、実際に帰省する際はもちろん、オンライン帰省でもビデオチャットでやり方を伝えて一緒に作業できるでしょう。
スマホを検討中なら、パンフレットを眺めつつ、自分のスマホのスペアキーを作ってみせるのもいいかもしれません。
おそらくこれからの世の中は、緊急時にデジタルが使いこなせることが不便を回避する重要な要素になってくるはずです。
その要となるスマホを家族皆で使いこなし、緊急時にも困らないようにする。つまり、家族のデジタル終活はデジタル新生活のサポートの延長線上にあるのだと思います。
記事に関連するWebサイト/関連記事
- 「FOMA」および「iモード」のサービス終了について」|NTTドコモ
- 「CDMA 1X WIN」サービスの終了について」|au
- 「3Gサービスの終了について」|ソフトバンク
- 「令和元年通信利用動向調査」|総務省
- 「万が一のとき、スマホのロックを開くのは誰だ?」|シニアガイド
古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。