第54回:ここ数年で話題を呼んだ「デジタル×終活」サービスのいま
リモートワークやオンライン帰省、オンライン診療など、新型コロナウイルスによりオンラインやデジタルに対する社会の見方が劇的に変わった感があります。
終活や葬儀、供養に関してもここ数カ月で様々なサービスが方々からリリースされました。
ただ、いまの動きが時代の転換点になるのか、一過性の傾向が強いのかは慎重に見定めたいところです。そのために必要なのは長期的な視点といえるでしょう。
そこで、ここ数年で話題を集めた「デジタル×終活」サービスの現状を追いかけてみました。
故人のアバターを作る「エターナム」・・・サイト閉鎖
メールやSNSの投稿などオンラインに残したアウトプットから、その人らしい言葉使いや思考回路を紡ぎ出して分身(アバター)を作成。その分身を死後に子孫や仲間たちに贈る。それが「エターナム(eternime)」です。
このサービスはマサチューセッツ工科大学(MIT)の起業家育成プログラムで初めて発表されて世界中で大きな反響を呼びました。
開発者のマリウス・ウルサク氏は2014年1月29日に公式サイトをオープンさせるとともに、サービスと同名の会社を設立。利用者や共同開発者、出資者をつのり、6年のうちに利用希望者は4万7千人を超えました。
しかし、サービスが本格稼働することはなく、2020年5月に公式サイトが消滅して現在にいたります。
ウルサク氏が残したプロジェクトページを読むと、賛同の声とともに故人の尊厳を傷つけるといった否定的な意見も届いていたようです。
プロダクトの時点で技術的には十分な水準が見込めたことなどから考えると、そうした倫理的な問題が本格稼働の障壁になった可能性もありそうです。
故人の写真を3Dフィギュア化する「遺人形」・・・安定して提供
大阪府にある3Dデザインと3Dプリントの専門会社・ロイスエンタテインメントが、2015年7月にリリースした「遺人形(遺フィギュア)」も話題を呼びました。
故人の写真から3Dモデルを抽出し、フィギュアに仕上げるサービスです。料金は、20cmサイズのフルカラー石膏製で13万8千円(税別)から。
遺灰を収納したペンダントを収納するなどのオプションも選べます。
受注件数は非公開ながら、現在にいたるまで安定して注文を受けているとのこと。
依頼者の中心層は明確ではないものの、肌感覚としては「30代以上の女性が、お子様や配偶者の方、ご両親をモデルとして依頼される」ケースが多いといいます。
終活の一環で自分のフィギュアを作るというパターンよりも、遺族として亡くした家族の遺人形を求めるのが中心のようです。
新型コロナ前後での依頼件数や依頼パターンの変化は今のところ感じられないそうです。「物珍しい印象を持っていただけており、これまで通りの規模感でコンスタントにお問い合わせを頂戴しております」(同社)
僧侶の法事動画を配信する「どこでもお墓参(おぼーさん)」・・・安定して提供
新型コロナの影響でオンライン葬儀への関心が急速に高まりましたが、リモートで法事動画を提供するサービスは以前からありました。
2016年1月にリリースして話題になったのは、大分県金剛宝寺の住職が始めた「どこでもお墓参(おぼーさん)」です。
どこでもお墓参は、同寺が管理する樹木葬(永代供養墓)に対応したお墓参り代行サービスで、僧侶が墓前や本堂で読経する様子をYouTubeでライブ配信します。
遠隔地に暮らす家族がその場にいながら供養できるのが特徴。2017年3月にリニューアルし、現在は基本料金1万5千円(税込)で提供しています。
井上仁勝住職によると、新型コロナに影響で2020年4~5月は依頼の微増が感じられたものの、長期的にはほぼ普段どおりに「毎月1~2件程度」のペースを維持しているそうです。
依頼者の中心は同寺にお墓を持ち、都市部で暮らす40~60代の人。やはりITリテラシーが高めの傾向があるようです。
現在は、お墓で眠る故人の情報を無料で管理するサービスを年明けから提供するために、新たなシステムを開発中とのこと。
墓前でAR動画を再生する「Spot message」・・・提供終了
千葉県の石材店・良心石材が2016年8月にリリースした「Spot message」はこの連載でも採り上げました
「第4回:AR追憶サービス「Spot message」に未来はあるか」を参照してください。
実際のお墓や記念の場所などの前でスマホを掲げて専用アプリを立ち上げると、あらかじめ登録していた故人の写真や動画が画面上で再生されるという、AR技術を使ったサービスになります。
有料版の利用料は月額500円(税別)で、動画等の登録料は1件ごとに1,000円(税別)がかかる仕組みです。
その後、2017年8月にはお骨預かりサービスもパッケージにした「スマ墓」というサービスを展開。現実のお墓を持っていなくても、好きな場所に仮想のお墓を作り、ARによって故人を偲べる拠点が得られるようになりました。
しかし、2019年までに両サービスのサイトが閉鎖され、現在はアクセスすることができません。同社のサイトは現存していますが、この記事が掲載されるまで連絡がとれない状況になっています。残念ながらすでに提供を終了していると見たほうがよいでしょう。
ロボットによる読経「Pepper導師」・・・いったん終了
供養・終活業界の見本市「エンディング産業展2017」で注目を集めた「Pepper導師」の姿は、ニュース番組や新聞などで目にした人が多いかもしれません。
神奈川県にあるプラスチック加工メーカー・ニッセイエコがリリースしたサービスで、ソフトバンクのコミュニケーションロボットを導師、副住職として法事法要などを行ないます。
僧侶を呼べない福祉葬(生活保護を受けていた人の葬儀)での読経をメインに据えて展開し、これまで数件の施行を行いました。また、住職に代わり、朝晩の勤行を行った実績もあるそうです。
しかし、精密機械のため移動リスクが高く、故障が頻発したために、2020年3月に、いったんサービスを終了。
新型コロナによる需要増はなく、むしろ自粛要請により受注ペースは落ちたそうです。
同社は「先駆けて始めたロボット読経なので、いまは他のロボットでできないかと考えているところです」と話していました。Pepperよりも反応がよく汎用性に長けたロボットを探しているとのことです。
「デジタル×終活」サービスは矛盾と対峙する宿命にある
ネットやデジタルの業界は日進月歩でトレンドが変化するといわれています。一方で、終活や供養に関するサービスは一生涯、あるいはそれ以上先を見据えて向き合いたい人が多いのではないでしょうか。
想定できる時間軸と求められる時間軸のズレ。「デジタル×終活」サービスは、宿命的にこの矛盾と向き合うことになります。
どれだけ緻密にデザインしても、真摯に顧客と向き合っても、時勢でどうにもならなくなることは多々あります。それでも新たな利便性を提示してくれるサービスがたくさん登場しています。
いま大切なのは、新しいサービスの新奇さを否定的に断じたり、夢の将来像を過剰に期待したりすることではなく、冷静な距離で見つめることなのかもしれません。
なるべく過小過大にしないように。「デジタル×終活」の先人が教えてくれることは少なくないと思います。
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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。