第57回:日本の文化とオンライン追悼

[2021/1/29 00:00]

コロナ禍で日常生活が様変わりするなか、オンラインで故人を偲ぶ追悼サービスが活発になってきています。

新サービスのリリースが複数流れたこともありますが、利用者が国内でもじわじわ増えてきた感触もあります。

では、果たして日本にオンライン追悼は定着するのでしょうか?

米国ではオンライン追悼が長く受け入れられている

インターネットで追悼専用のページにアクセスして故人を偲ぶ。

米国では1990年代から着実に広まっている追悼の一形態ですが、日本の土壌にはなじまないと長らく言われてきました。

1990年代半ばに米国で誕生した“サイバー墓地"「The World Wide Cemetery」と「Virtual Memorials」。どちらも四半世紀経った現在まで稼働中

実際、日本人向けのオンライン追悼サービスは2000年前後からリリースされていますが、数年で姿を消したり何年も放置されたままになっていたりするケースが目立ちます。

数年前を振り返ったとき、社会に受け入れられて機能しているとは言いがたい状況だったのは間違いありません。

数年前にサイト更新を停止したある追悼サービスの運営者は、「色々なところに売り込みに行ってお話を伺った感触ですが、日本には追悼専用のネットサービスは需要がないんじゃないかと感じました」と率直に語ります。

「日本人は追悼の場を外部に残しておくより個々人の中に留めておきたいという人が多いのかな、わざわざオンラインで残しておく必要性を感じない人が多いのかなと。そういうふうに感じました」

ただ、変化の兆しも現れています。国内で活発に展開しているサービスをみていきましょう。

米国大手のライセンス提供を受けた「追悼サイト」

米国の追悼SNS大手「forever missed」のライセンス提供を受けてスマートシニア(本社:東京都江東区)が2020年7月から日本向けに提供している「追悼サイト」は、およそ半年間で220件の追悼ページが登録され、アクセスしたユーザーは累計で19万を超えました。

「追悼サイト」のトップページ

故人の写真や人生史、思い出などをゆかりのある人たちが投稿してページを育てていけるオンライン追悼サービスで、写真が3枚までアップできる無料版と動画投稿や細かなアクセス権限を設定できる有料版を提供しています。

利用者の年代は35~44歳が3割近くでもっとも多く、そこから山なりに広がっているとのこと。「65歳以上の方が5%程度と少ないのが意外でした。想定したよりも若い世代の方に広く受け入れられているのかなと思います」(同社)

承認制の追悼ページのQRコードを墓石に付けてお墓参した知り合いの人に写真やメッセージを投稿してもらったり、新聞のお悔やみ欄のデジタル版として期間限定で公開設定にしたりと、利用法も様々です。

また、コロナ禍で葬儀やお墓参りに来られない縁者の人に向けて作成するケースも見られます。

有料版の利用割合は1割弱とのこと。月額(690円/月)と年額(6,600円/年)の契約が大半ですが、永代タイプ(3万9,980円/1回払い)の契約も数件あるそうです。

2008年から提供している米国“本家”も有料版の契約は1割強程度なので、スタートから半年での割合としては、なかなか順調といえるでしょう。

14万5千人の追悼ページを抱える「まいり」

7年以上継続しているオンライン追悼もあります。2013年にスタートした「まいり」は、歴史上の人物を含めた著名人を対象にした個人運営の無料サイトで、登録人物の総数は14万5千人を超えています。

「まいり」のトップページと追悼ページ

発足時は故人の命日を思い出せるサービスというコンセプトから「死去.net」という名称で運営していました。トップページには「本日が命日の人」や「最近亡くなった人」などのリストが並び、日々変動します。

当初、故人のページは管理人さんが全国紙やロイター通信、Wikipediaなどを情報源に作成していましたが、13万人を超えた頃からユーザーによる作成を主体に切り替えています。

ただし、「ご登録はニュースサイト等で亡くなったことが確認できる方を対象としています」という条件があり、著名人という限定は変わりません。

2021年1月現在の登録ペースは1日15ページほど。また、多くのコメントや献花が付けられたページも多く、さながら街の墓園のように地域に根付いて利用されている様子がうかがえます。

利用者は18~65歳くらいまで偏りなく広がっているとのこと。国内からのアクセスが中心ですが、最近は海外からも増えつつあるといった変化が感じられるそうです。

なお、著名人に限らないサービスの計画も兼ねてから明かしていますが、まだ実現には課題が残っています。「現状では無制限で受け付けると管理ができないので、そこを自動化して完結できるシステムを構築しています。そのシステムが構築したら登録の範囲を広げていきたいと考えています」(管理人さん)

自分用の他者用の追悼ページが作れる「R.I.P.」

登場したばかりのサービスとしては、グッドトラスト(東京都港区)が2020年12月に提供を始めた「R.I.P.」があります。

「R.I.P.」のトップページとサービス解説ページ

指定した公開範囲のメンバーで写真やメッセージをアップしたり献花したりできる追悼SNSで、自分用の追悼ページ(自分用R.I.P.)も作成できます。

また、他者を追悼するページ(個別R.I.P.)ではペットや架空のキャラクターを指定することもできます。将来の自分も含めて、追悼したい対象を自由に指定できるのが特徴といえるでしょう。

リリースから1カ月後、個別R.I.P.は約80件作られ自分用R.I.P.も10件超の登録がなされています。

各タイプには有料版もあり、個別R.I.P.は作成から50日以上の経過、または51名以上での利用で有料化する仕組みです。

料金はメンバー10名で1年間利用の場合1,320円となります。投げ銭方式のため、メンバーが各自で払っても、管理人などが一括で払ってもかまわないとのこと。

自分用R.I.P.は1年間無料で使えて、その後の課金は個別R.I.P.に準じます。

発足まもなくのため、「何年先まで存続させる」といった確約は難しいところがあります。それを踏まえたうえで同社は「新しい追悼プラットフォームであり、コミュニティでもあるので、ゆっくり延ばしていく形を想定しています」と長期的な展望を語っていました。

お墓参りの需要は伸びている

これらのサービスが四半世紀先まで安定して機能して、追悼のひとつの手段として日本に定着するのか、あるいはニッチな存在のままでいるのか。断定はできませんが、定着する可能性は十分にあると思います。

NHK放送文化研究所が5年ごとに実施している「日本人の意識」調査によると、お墓参りする人の割合はここ半世紀で1割増えて70%を超えています。

「礼拝・布教」などの宗教行為の割合が下がるなかで顕著に伸びていることから、宗教性とはあまり関係なく、お墓参りのニーズが高まっているといえるでしょう。

その背景には年間死亡者数の増加、つまり亡くなる人が多くなったことで近しい人の墓前に行く機会が増えたというシンプルな事情があります。そしてそれは、追悼機会の増加とも言い換えられると思います。

お墓や仏壇の前で手を合わせて黙祷するのも、共通の知人や親族と集まって故人の思い出話に花を咲かせるのも、追悼行為です。

前者はいわば宗教的な行為に基づいた追悼で、後者は故人の具体的な記憶に基づいた追悼といえます。感情を高めるための方法は異なりますが、どちらも最終的な目的は変わりません。

そうであるならば、後者の選択肢のひとつとしてオンライン追悼の需要がこれから伸びていくのも自然な流れではないでしょうか。

とはいえ、ありふれた選択肢になるほど市民権を得るには、それなりの時間が必要でしょう。それまでに便利で誠実なサービスが存在し続けることが重要な鍵を握っているのではないかと思います。


記事に関連するWebサイト/関連記事


古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。

[古田雄介]