第56回:「デジタル遺品は怖いね」をなくす方法

[2020/12/24 00:00]

故人が契約したサブスクリプションの契約解除ができない、亡くなった家族の携帯電話がなかなか契約解除できないといったデジタル遺品のトラブルが話題になるたび、「デジタル遺品は怖い、厄介だ」「業界の対応が急務だ」との声が上がります。

実はそうした反応は数年前から繰り返されています。しかし残念ながら、業界の状況に劇的な変化は見られません。

どうしたらデジタル遺品の怖さや厄介さが抑制されたり、業界の対応が進んだりするのでしょうか。遺族にも故人にもなり得る一消費者として、私たちがいま働きかけることのできる現実的なアプローチを考えていきましょう。

なぜデジタル遺品は厄介で怖いのか~サブスクを例に

人が亡くなったときに残された持ち物や権利は遺品となります。土地や預金、有価証券に愛用の文具や衣類、コレクションなど、昔から多種多様な遺品が発生してきました。デジタル遺品もその延長線上にある遺品の一ジャンルに過ぎませんが、新顔ゆえに扱いに困ってしまうことがしばしばあります。

たとえば冒頭の例でも触れたとおり、ここ数年でIT界隈を中心にサブスクリプションサービス(定額でサービスを受ける契約)が盛り上がっています。

かつては買い切りが基本だったオフィスアプリや写真加工アプリもサブスクが主流になっていますし、バックアップ先として定額制の有料クラウドサービスの需要も伸びています。

最新のデジタル環境を使いこなすほどにサブスク契約が増えていくといっても過言ではないでしょう。そうして積み重なっていく様々なサブスクですが、契約者が死亡したときの正しい対応方法がまちまちなのが「厄介」で「怖い」ところです。

契約者が亡くなったとき、自動で契約解除や相続手続きが進む仕組みは今のところ存在しないので、遺族などの残された人たちが何かしらのアクションをとる必要があります。サブスクサービスの場合、契約解除は次の3つの方法を選ぶことになるでしょう。

  (1)運営元に連絡して所定の手続きを進める。
  (2)契約者のIDとパスワードを使って退会手続きを行う。
  (3)引き落とし先のクレジットカード等を停止し、支払いを止める。

一網打尽に処理できる魔法は、ない

一般的な正攻法は(1)ですが、デジタル遺品界隈においてこのノウハウが十分に整っている業界はネット銀行やネット証券といった一部だけです。

会員登録時に厳密な個人情報の提出を求めないサービスではIDの持ち主と死亡者を同定するために多大なコストがかかりますし、申請した人が法定相続人であるのか、他の法定相続人の同意を取り付けているのかといった問題もクリアにしなければなりません。

申請する側もされる側も非常に骨が折れますし、時間もかかります。

ある遺族は故人が交わした海外発のサブスクサービスの契約を終了するために、戸籍謄本や申請者との続柄が証明できる書類を揃えて運営とやりとりし、契約解除までに2カ月近くかかったと話していました。

こうした手続きをサブスクごとに実施するとなると相当な労働となるでしょう。このため、現実的には(2)や(3)の方法をとる遺族が多いようです。

しかし、どちらも念頭に置くべき注意点があります。

遺族等が契約者のIDやパスワードを使ってログインする(2)の方法は、マイクロソフトのように公に認めるサービスも徐々に増えてはいますが、なりすましと区別がつかないということで厳密にはNGとしているサービスが多勢です。

また、そもそも遺族等がIDとパスワードを把握していないと使えない手段でもあります。

するともっとも汎用的なのは引き落とし先を絶つ(3)だといえますが、やはり闇雲に選ぶのは控えたいところです。

引き落としが止まって契約解除に至るまで猶予期間中の料金について、後日郵送など別の方法で請求書が送られるケースが増えていますし、契約内容を把握せずにお金の流れを絶ってしまうと、サービス領域にのみ保存されている故人のファイルやメッセージなどに二度と触れられなくなるといったリスクもあります。

つまるところ、一網打尽で処理できる方法は今のところ存在しません。遺族はできる範囲で契約を把握し、バックアップデータがあれば引き取り、(1)や(2)の方法で個別に解約(ときには承継)手続きを進める。そのうえで、カバー仕切れないものは(3)で処理して、後日の請求にも備える――というのが現実的なやり方だといえます。

デジタル遺品は頼れる存在が育っていない

デジタル遺品は確かに「厄介」で「怖い」です。ただ、このあたりの煩雑さは、実のところデジタル遺品に限ったことではありません。

例えば故人がクルマを所有していたとします。このクルマを適切に相続しようと思ったら、クルマ自体の所有権や金銭価値、車検やその他の保険といった契約関連を把握したうえで、法定相続人それぞれの意向も確認し、ひとつ一つを適切に処理する必要があります。

なかなかに「厄介」で、具体的なやり方が見えにくくて「怖い」感じないでしょうか。しかし、クルマの相続に関してそうしたイメージを抱く人は少ないと思います。

それは具体的な処理を任せられる仕組みが社会にしっかり根付いているためだと思われます。クルマを購入したディーラーや相続を相談する士業、クルマ関連保険の担当者といった専門家に相談すれば、後の煩雑な処理の多くはお任せできてしまいます。

デジタル遺品はそうした仕組みがまだ十分に育っていないのです。専門家なり制度なり、何に頼っていいのか分からない。実はそれが「デジタル遺品は厄介で怖い」の本質ではないかと思います。

デジタル遺品のことを安心して任せられる仕組みがあれば、非物質だから姿が見えない、経年劣化しない、無限にコピーして拡散できるといったデジタルならではの不安要素に遺族自らが立ち向かう必要もなくなるでしょう。デジタル遺品を残す本人の立場から見ても、死後処理の動線がはっきりすれば、死後に見られたくないデータの対策も打ちやすくなるはずです。

デジタルサービスは流行の移り変わりが速く、種類も多岐に亘るため、遺族としても本人としても消費者側がすべてを把握して対処するのは不可能に近いところがあります。そう考えると、デジタル遺品問題を解消する現実的な手段は環境を整備すること。これに尽きると思います。

「運営側や専門家に相談する」がもっとも堅実な方法

そのために私たち消費者は何をすべきでしょうか。

実は答えはシンプルです。なるべく声を上げることです。

家族が亡くなったとき、遺族としてデジタル関連サービスに問い合わせて、相続なり承継なり必要な対応を尋ねる。

友人が亡くなったとき、残されたページに対して何かできないことはないか運営元に相談する。

士業に相続相談する際に、他の遺品と同じようにデジタル遺品の対応方法も確認する――などです。

サブスクの例で挙げた(1)=運営元に連絡して所定の手続きを進める、もこのアクションに含まれます。

(2)や(3)に比べて面倒ですし、直接的なコスト対価はどうしても低く感じてしまいます。しかし、長期的にみるとその効果にはとても大きなものがあります。

通信サービスやホームページスペース、ブログ、コンテンツ配信などを提供するインターネットサービスプロバイダー(ISP)との契約は2000年代半ばまでは「一身専属性」といって相続できないタイプが主流でした。

ところが現在は相続できるほうが圧倒的に多勢です。ISP各社が利用規約を変更して相続できるようにした原動力は遺族の声でした。

Facebookは2009年10月、他のSNSに先がけて故人のページを没後も保護する「追悼アカウント」機能を搭載し現在も機能拡張を続けています。

しかし、Facebookもサービス開始からしばらくは「故人のアカウントは抹消するもの」というスタンスをとっていました。

変わるきっかけとなったのは、2007年4月に発生したバージニア工科大学銃乱射事件と言われています。犠牲者が残していったアカウントを存続してほしいと友人や親族から嘆願が届き、同社がそれに答えたのが原型となっています。

また、Twitterは2019年11月末に休眠アカウントを随時抹消すると発表し、「亡くなった人のアカウントも無差別に削除するのか」と世界中から猛反発を受けました。

同社はそれを受けて計画を一旦取り下げ、約1年後に改めてポリシーの修正を発表。2021年中に「追悼アカウント」機能を実装すると発表しています。

デジタル遺品に強い士業はまだそれほど多くないですが、オプションでSNSのアカウントの解除等を依頼できる死後事務委任契約を提供している士業事務所もありますし、当連載で2020年1月に取り上げた三井住友信託銀行の「おひとりさま信託」のように、デジタル遺品を含めたサポートを行なう金融機関サービスも注目を集めています。

相続の相談でデジタル遺品に関する相談が増えれば、取り組みは一層充実していくでしょう。(参考:第45回:おひとりさま信託における「デジタル遺品の消去」の意味を見極める

私たちはこうした変化を起こす原動力を持っているわけです。利用者として、遺族として、友人として、運営側や専門家に相談する。

こちらの希望を無理強いするのではなく対等に対話をして、そのときにどうにかできる対応をできるかぎり検討してもらう。

一度の働きかけで変わるのはわずかだと思いますが、多くの人が繰り返すことで大きな流れができるでしょう。

デジタル全盛のいま、望むと望まざるとに関わらず、デジタル遺品はますます増えていきます。

2020年末の時点ですでに、当事者となって困り果ててしまう将来と隣り合わせかもしれません。

デジタル遺品を対処せざるを得なくなったとき、少しの余力があれば、なるべく「運営側や専門家に相談する」。そうすることで少しずつ世の中や自分の中から不要なストレスが消えていくと思います。デジタル遺品を普通の遺品としてしまいましょう。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。

[古田雄介]
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