第66回:「性格診断サイトみたいに相続対策できたら」――はなまる手帳の狙い

[2021/10/26 00:00]

自分ごととしての介護や相続の気になる問題にチェックを付けていくと、自分に最適化された対策ページが作れる「はなまる手帳」。

登場から4カ月後には、クラウドファンディングで2千万円の資金を調達するなど業界で注目を集めています。このサービスの使い勝手と意図を探ってみました。

2021年4月にリリースされた「はなまる手帳」

セルフチェックで将来の課題を抽出できるサービス

「将来発生する相続について、納税資金が心配」「介護施設を探しているが、入居一時金がものすごく高いところがあるけど、安いところとの違いがわからない」「身内に万が一のことがあったとき、相続のことを誰にどのように相談したらいいのかわからない」……。

「はまなる手帳」にログインして「相続対策トラブル診断」を選ぶと、「税・法務・不動産」「介護・ファイナンシャルプラン」などのカテゴリー別に上記のような項目が並ぶアンケート画面に進みます。

マイページのメニューから「相続対策トラブル診断」に進み、カテゴリー別に該当する項目をチェックしていく(画面はPC版)

該当する項目にチェックをつけていくと、点グラフが生成されます。縦軸が優先度で、横軸が重要度。右上の項目ほど早めに手を打つべき項目だとわかります。

筆者の場合、「実家の整理、親の家の整理などを遺品整理業者に依頼することを決めたいが、どこの業者を選んでいいかわからない」が最優先となりました。

アンケート結果が「かぞく相続手帳」の「相続対策TODO」グラフに反映される(画面はPC版)

グラフの下にリストアップされた項目をタップ(クリック)すれば、一般的な対応策をまとめたコラムと。専門家に無料相談できるリンクのあるページに進みます。コラムを読んで「解決済み」とするのもいいですし、専門家の話を聞いたうえで対応を決めるのも自由です。

グラフの下は優先度や重要度順に問題点がリストアップされる(画面左)。各項目の対策を読んだ上で、その道の専門家に無料相談するステップに進むことも可能だ(画面右)

また、マイページに家系図や大まかな資産情報を入力しておけば、やるべきことはさらに具体的に見えてくるでしょう。診断結果を製本する「たくすノート」という有料オプションも用意しています。

性格診断アプリのような感覚で取り組めて、介護や相続など将来のライフプラン全般の課題が紡ぎ出せる、として必要であれば比較検討したうえで専門家に相談できるというのがこのサービスの特徴といえます。

終活セミナーを通して見えた真のニーズ

はまなる手帳の代表 吉野匠氏がこのサービスの構想を思いついたのは、2019年3月に実父を亡くした後といいます。創業90年の葬儀社の跡取りとして生まれ、10代の頃から東京都内の葬儀社で修行したうえで5代目の経営者に就任した吉野氏でしたが、父の死後は想定外の連続だったそうです。

はなまる手帳代表の吉野匠氏

「相続財産について相談できる先をいちから調べようと思ったら、フラットに比較検討できるサービスが見当たらなくて閉口したのを覚えています。例えば、不動産も他の財産もまとめて対応してくれる士業(しぎょう)事務所を単独で見つけたとしても、そこの価格設定や対応力がどれくらいのものなのか。あるいは、自分のところの状況がそこが得意とする規模感とマッチしているのかが分からず。それがこのサービスを立ち上げる直接のきっかけになりました」

そこから1年かけて「株式会社 はなまる手帳」を開業し、サービス開発に10カ月かけて2021年2月にサイト公開にいたりました。

ただし、下地は遡ること10年前からあったといいます。吉野氏は当時から葬儀や相続関連のセミナーを主宰していましたが、そこではこんな光景がよく見られたそうです。

「金融機関や不動産会社の終活セミナーをぐるぐる回っている、常連的な方が結構多くいらっしゃいました。『こないだは証券会社のセミナーに行ったよ』と自慢げに話してくれるんです。

裏を返せば、セミナーにどれだけ行ってもやるべき終活が見えてこない、あるいはセミナーに参加するだけで満足してしまって、実際の終活に進まないということ。このままでは本当の解決にいたらないのかなと常々考えていました」

その帰結が、「性格診断サイトみたいに気軽に使えるワンストップな相続対策サービス」(吉野氏談)という、はなまる手帳でした。

ベッドで寝転がりながら、あるいは電車の待ち時間にチェックを付けるだけで自分に最適化できるよう、とにかく面倒がなく、手軽に使えるサービスを目指したそうです。

2025年問題を解決する糸口として

サイトを公開して8カ月。相談先となる提携企業は契約過程のところを含めると約900社、広告等を通さずに(オーガニック検索で)会員登録したユーザーは約500人になります。

当面は提携企業を増やしてポータル性を高めることに主眼を置くそうですが、利用者数の目標も2022年末に月間アクティブユーザーベースで5千人と設定しています。

「一都道府県につき百人の方がアクティブに使っていたらいいなという数値です。実際のところは、利用する方も提携してくれる企業も都市部が多くて郊外は少ない傾向がありますが、それを踏まえたうえで5千人を目標としました」

その先には2026年にIPO(新規公開株式)という目標を立てています。2021年8月に株式投資型のクラウドファンディングで2千万円の資金を調達した際に明言しました。団塊の世代の人たち全員が後期高齢者となる2025年の先に照準を合わせて動いているわけです。

これから介護や相続にまつわる親世代と子世代の問題はシビアになっていくだろうと吉野氏は予想しています。

2021年6月に同社がインターネットで実施した相続意識調査によると、相続対策している人は親世代と子世代ともに1割程度でした。しかし、「話をしたいと思ったことはあるが話せていない」という回答は3割を超えています。

なぜ親子で相続について話せていないのか。その理由を両世代に尋ねると、親世代は「話すほどの資産はないと思っているから」という理由がトップになり、子世代は「話しづらいから」という理由が抜きん出ていました。両世代で意識のズレが見られた格好です。

はなまる手帳の「相続意識調査2021」レポート

吉野氏は「令和元年の司法統計年報によると、相続調停の約8割は5千万円以下、3件に1件は1千万円以下の遺産で発生しています。『話すほどの資産はない』と思えるかもしれないけれど、もう、とりあえずは話しておくに越したことはないわけです。そのきっかけとして、はなまる手帳を使ってもらえたらいいなと思っています」と言います。

はなまる手帳は何度も書き換えたり、チェックをやり直したりできます。一方で、診断結果を見せたり、「たくすノート」を使って親子で将来の問題を共有する使い方もできるでしょう。

死後を含めて、人生の晩年の先には自分だけではどうしようもない問題がたくさんありますが、それらの問題を顕在化して、周囲の人に「とりあえず話しておく」のに、はなまる手帳が役立ってくれるのではないでしょうか。

記事に関連するWebサイト/関連記事


古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。

[古田雄介]