第68回:故人の暗号資産やNFTとの正しい向き合い方

[2021/12/28 00:00]

前回の「故人のFXが負債化して遺族に襲いかかるリスクと対策」に続いて、今回は故人が残した暗号資産(仮想通貨)や派生商品の対応方法とその実際を追いかけてみました。

1日1件ペースで暗号資産の相続が発生?

今回は国内で暗号資産取引を提供している16社を対象に、相続手続きの件数や派生商品を含めた死後の対応スタンスなどを尋ねました。

回答が得られたのは匿名希望を含む6社で、回答拒否が3社、無回答や返答なしが7社という割合です。

まず、暗号資産における相続手続きの実際をみていきましょう。

今回の回答では相続案件がゼロという回答はありませんでした。

急増している空気はなく、実務として相続手続きに応対する機会がじわじわと増えている様子です。

例えば、国内最大手のコインチェックは「(12月初旬に回答した時点で)今年に入ってから100件超あります」といいます。

同社の本人確認済み口座数は2021年9月末時点で143万口座あるので、年間でみると1万口座に1件弱の割合で発生していると推測されます。

回答をもらった他のサービスと照らし合わせても、おおよそこの割合に収まりました。

暗号資産取引所の口座は国内全体でおよそ520万口座ある(一般社団法人日本暗号資産取引業協会が公表した2021年10月時点の値)ので、単純計算すると国内全体で暗号資産の相続は年間400件弱のペースで起きている可能性があります。

つまり1日1件ペースといえるでしょう。ちなみに、2020年の人口動態によると1日の死亡者数は3,760人となります。

高頻度ではないものの、滅多に起きないというわけではないという状況になっているわけです。

これは大きな変化です。2016年11月の調査では、相続のルールを設けている取引所は見当たりませんでした。2018年9月の調査の時点で枠組みはできていたものの、相続実績のある取引所は回答のうち半数に留まっていました。5年前とは隔世の感すらあります。

相続手続きの方法が確立した

整備が進んだ背景には、各取引所の努力はもちろんのこと、国の働きかけもあります。

2018年11月には国税庁が「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」という問答集や相続手続きの指針などを発表しました。

その後、2019年5月には国会で「資金決済法および金融商品取引法の改正法」が成立し、呼び方を「暗号資産」に改めるとともに、法的な位置づけや資産保護のルールを整えています。

国税庁が作成した「残高証明書等を活用した仮想通貨残高に係る相続税申告手続の簡便化(イメージ)」

これにより、現在は大半の取引所で、下記のような手順に従って相続手続きができるようになりました。

少なくとも金融庁の「暗号資産交換業者登録」をされている企業はこの手順が基本線となっています。


    1)代表相続人が公的書類を提出して残高証明書を受け取る
    2)相続人全員の同意に基づき、代表相続人が出金&口座抹消依頼を提出
    3)死亡日のレートに基づき、日本円に換金指定口座に振り込む

サポート窓口でナビゲートしたり入力フォームに従って申請したりと、具体的なアプローチの方法は企業によって異なります。

しかし、手続きを始める初手が遺族からの連絡であることは共通しています。

今回の調査でも、「まずは保有口座を家族が把握していることが望ましく、死亡後にはまずはコールセンターにお問い合わせいただく対応が必要となります」(SBI VCトレード)や、「事前に暗号資産口座を有していることを家族に伝えておくことが重要になります。以降は銀行預金相続と同じです」(bitFlyer)などの回答を得ました。

bitFlyerの場合、サポートの問い合わせ内容で「相続」を選ぶと必要な申請情報をまとめたフォームが表示される

遺族は亡くなった家族が利用していた暗号資産取引所さえ掴めれば、他の金融資産と同じように所定の手続きのレールに乗れるわけです。

ただ、マイニングや個人間取引、無人の取引所(DeFi)を使った取引で保有している暗号資産は取引所を頼れません。

この場合は遺族が暗号資産そのものを突き止めるしかなく、難易度はどうしても上がってしまいます。

死後対応の曖昧な部分がかなりそぎ落とされたとはいえ、暗号資産は一般的な金融資産よりも発見しにくく、未整備な部分が残されているのもまた事実です。

暗号資産のオーナーはそれを念頭に置いて運用するのがよいでしょう。

今後はNFTやレバレッジ取引の対応も

既存商品の整備が進むと同時に新たな商品も生まれています。

近年目立っているのは、NFT(non-fungible token、非代替性トークン)です。ブロックチェーンに守られたオリジナルの価値を持つデジタルデータのことで、画像や文字列など様々な作品があります。

NFTを相続する場合はどのように扱えばいいのでしょうか。「Coincheck NFT(β版)」を提供しているコインチェックは、「必要書類や手続については暗号資産と変わりませんが、円に換金せずそのままNFTを返還させていただく方針です」と言います。

扱いとしては芸術作品と近いのかもしれません。

「Coincheck NFT(β版)」Webページ

そのほか、証拠金により所持する数倍の暗号資産を取引する商品も多くの取引所で扱われていますが、相続時の手続きはFXなどと変わりません。

遺族が取引所に連絡したあと所定の手続きを経てすべて決済し、やはり円に換金したうえで指定口座に振り込まれる流れとなります。

商品の構造上は追証などが発生してマイナスになることもあり得ますが、今回の調査では負債化した事例に出合いませんでした。


今後は所有者の没後だけでなく、判断能力が低下した際の対応も必要になってくるでしょう。

コインチェックは80歳以上の会員を対象に、取引継続の意識確認を毎年実施しているといいます。

そうした取り組みが業界全体に広がっていく可能性に期待したいのと同時に、暗号資産を持つ人それぞれが有事に備える意識を持つこともより重要になってくるでしょう。

整備が追いつかない領域をカバーするのは、やはり個々の防災意識ではないかと思います。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)など。2021年10月に、伊勢田篤史氏との共著で『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版)を刊行した。Twitterは@yskfuruta

[古田雄介]