第5回:火葬場をめぐる問題を「火葬研」代表理事に訊く
都市圏で“火葬場難民”が生まれるおそれがある

[2018/8/7 00:00]


いま、日本の火葬場をめぐって2つの大きな問題が起こっています。

1つは、火葬を行なうまでの待機日数が長期化してきていること。もう1つは、焼骨の引き取り(収骨)を拒否する人たちが増えてきていることです。

待機日数の長期化に対応するためには、効率優先の火葬場運営にならざるをえなくなってきており、儀式/供養のあり方が問われています。

そこで、火葬場の調査・計画から建設・運営の支援など、火葬場に関わる総ての業務をサポートしている一般社団法人 火葬研の代表理事で、建築家でもある工学博士の武田至氏に、2つの問題の現状や今後の見通しなどについてお話をうかがいました。

武田至氏

◎問題1:火葬までの待機日数の長期化

繁忙期では1週間待ちの火葬場も

火葬するまでの待ち日数が長くなってきていると言われていますが、どのような状況でしょうか。

地域によって違いますが、首都圏や人口が集中している都市部では待ち日数が長くなってきています。特に亡くなる方が多い冬場では、1週間くらい待たなければならない火葬場もでてきています。

死亡者数は30年前の倍近くに増加

待ち日数が長期化してきている要因は、何でしょうか

1つは、死亡者数の増加です。30年前の1987年は、年間75万人であったものが、2017年には134万人と倍近くに増えています。

死亡者数が増えてきたのは、都市人口の増加とともに、人口に占める高齢者の割合が増加し、死亡率が高くなってきたからです。

年間死亡率は、人口対比で1987年には0.62%であったものが、2017年には1.08%まで上がりました。

また、死亡者数を推計し、将来需要を見込んだ火葬場計画を立てますが、特に首都圏や都市部の人口が集中しているところでは、人口の自然増減よりも、人口移動などの社会増が大きく影響します。

市町村合併という状況も含めて、そうした変化に適応した火葬場整備や運営を行なうのは非常に難しいのです。

例えば、2010年国勢調査での2015年の将来人口推計と、2015年の国勢調査結果では、数千人も違っている自治体もあります。

5年間で、それくらい人口移動により変化が起こるので、火葬場で長期的に需要見込みを立てて対応していくのが難しいのです。

さらに、学校や公民館など他の公共施設は、同じ市町村でも複数あるので、人口変動に対応して増やしたり、減らしたりできるので調整しやすいのですが、火葬場は1~2カ所しかないので、死亡者数の変化に対応しにくいということもあります。

そのため、既存の火葬場を長期間使用していると、社会増が多い地域では火葬能力が足りなくなってきます。

既に、火葬の受け入れ枠に対し死亡者数が上回っている自治体もいくつかあります。そうした自治体で火葬場整備が進まないと、待ち日数はどんどん長くなっていってしまいます。

いま挙げられたのは、火葬場を取り巻く外部要因ですが、待機日数が長期化しているのは、火葬場内部の要因もありますよね。

そのとおりです。

1つは、葬儀に適した時間帯に予約が集中するということがあります。遺族や会葬者の便宜を考えて、昼前後に葬儀・告別式を行ない、それに続いて火葬をしたいという希望が多く、どうしても、昼の時間帯に集中する傾向があります。

また、公営の火葬場では、葬儀場を併設しており、その葬儀場を利用するために待ち日数が長くなっているということもあります。

葬儀場から火葬場までの移動がなくて便利であるのに加え、公営であれば葬儀場も安価に利用でき、葬儀費用も安くなるからです。

火葬場での儀式を簡略化、短縮化

火葬までの待ち日数が長期化してきている火葬場では、どのような対応をしているのでしょうか。

火葬炉数を増やすことができればよいのですが、都市部では周囲の市街化が進み、敷地の拡張が難しく増築や建て替えが難しいところが多くなっています。

火葬場を運営しているのは地方自治体が多く、財政的に厳しいことに加え、新しい土地を探すにしても、建設する際に住民の反対などもあって土地の確保も非常に難しくなっています。

では、火葬能力に余裕がある地方の火葬場で火葬を受け入れたらどうかという考え方もあると思いますが、会葬者の移動に時間がかかったり、交通費がかさむという問題などもあります。

例えば、石川県の小松加賀斎場では受入数に余裕があるため、「故郷でお葬式」というキャッチフレーズで、大阪や東京などから利用者を呼ぼうとしたのですが、利用はほとんどありません。やはり、葬儀場は近くでないと難しいのです。

火葬炉を増やせないとしたら、どのような対応をしているのですか。

火葬場の増改築がすぐには難しいため、火葬炉の稼働率を上げて、受入れ数を少しでも増やそうとする火葬場もでてきました。

受入れ数を増やすために、焼香や読経、花入れなどを禁止し、告別や収骨の時間を短縮するところも増えてきています。

また、火葬のタイムスケジュールがタイトになるため、火葬場への到着時間の順守が求められています。

火葬場での儀式が簡略化、短縮化されてきているわけですね。そうした効率優先策によって、待機日数の長期化問題はどの程度解消するのでしょうか。

公営の火葬場では、火葬炉は1日2回転をベースに設計しているところが多くなっています。

緊急の場合には3回転させるということもありますが、火葬炉自体がフルに3回転、4回転できるような設計にはなっていません。排気設備の能力面でも対応していない場合もあります。

一方、火葬場の回転率を上げていくのが難しくなる動きも出てきています。

直葬は火葬場に来る前に葬儀・告別式を行なっていないので、火葬場で棺にお花入れをしたいとか、場合によっては僧侶による読経をしたいという要望が出てきて、お別れの時間が長くなってきているのです。

特に都市部では直葬が増えてきており、そうしたことを認めると火葬場の運営に支障をきたすということで、直葬では花入れや読経は禁止するところもでてきています。

しかし、クレームになったり、当初は「直葬の花入れは禁止」としていても、花入れの要望があまりにも多いために、認めざるを得なくなった火葬場もあります。

このように、効率優先の運営をしにくいといった状況があります。

また、火葬場のホールなどの平面構成上の問題もあります。

日本では火葬の際に、最後のお別れや火葬炉に柩が納まるのを見送ったり、会葬者による収骨が行われます。儀式を簡略化しても、炉前ホールや収骨場所の問題から、回転率を上げるには自ずと限界があります。

一つの炉前ホールに多くの火葬炉が並ぶ火葬場では、火葬炉の回転をあげにくい
炉前ホールを分割し個別化を図る火葬場が増えている

相反する動きが出てきており、待機日数を短縮化することはますます難しくなってきているわけですね。

火葬場は各自治体に任されており、火葬場のあり方として、儀式を簡素化して効率優先でいくのか、最期のお別れとしてある程度の儀式は認めるのか、そうした基本的な議論が抜けており、その辺から議論し、検討するべきだろうと思います。

日本人の感覚で言うと、昔は、葬儀を行ない「故人の魂をあの世へ送る」ことが一番重要でしたが、今は変わってきています。

「棺に納まり、火葬炉の前で最後のお別れを行ない、焼骨を確認し拾う」ということが、死を受け入れる上で一番重要な行為になっています。

ですから、それを簡素化していいのかどうか、そういうことをきちんと検討すべきだと考えます。

生活者にとっての選択肢

今まで挙げていただいた様々な要因からしますと、待機日数の短縮化はなかなか難しいわけですね。そうした中で、生活者の選択肢はいくつかあると思うのですが、まず、待機日数の長い火葬場は避けて、他の火葬場を探すという選択についてはどうでしょうか。

火葬場は自治体ごとの財源で運営していますから自治体住民が優先で、他の自治体住民が利用する時は料金が数万円高くなります。

自治体住民には優先枠もあり、枠が空いていたら予約できるという場合もあります。また、遠くまで行く交通費や交通の便などの問題もあります。

ですから、余計にお金を払ってでも他の自治体の火葬場を利用するのか、自分の自治体の火葬場が空くまで待つかの選択になりますが、中には何日も待てないので、周辺の火葬場を利用する場合もでてきています。

火葬場の利用希望時間は、昼前後の時間帯に集中することが、待機日数長期化の一つの要因ということでしたが、では、それより早い時間帯や遅い時間帯に利用するというのはどうなのでしょうか。

直葬のように、立ち合う人が少ない場合は早い時間でもいいかもしれませんが、立ち合う人がある程度以上の場合は、遠くから来る人もいたりすると、早い時間は集合しにくいと思います。その時間帯は最後に埋まっていきます。

遅い時間は、火葬炉の回転数や人員体制など全体の運営体制見直さなければならず、コストアップになる可能性もありますので、なかなか難しいでしょうね。

都市部の火葬場では、どうしても火葬炉の回転数が多くなり、効率優先の運営となってしまいます。できるだけゆったりとお別れできるようにといった考えが強い、地方の火葬場とは大きな違いがあります。

市街化が進んだ東京近郊が危ない

いずれにしても、待機日数を短縮化させるのは簡単ではなさそうですね。首都圏や人口が集中している都市部で、火葬場を建て替えたり、移転できないとしたら、今後、どのような状況になると予想されますか。

火葬場は、都市部では都市計画決定を受けていなければ建設できません。その法律ができる以前に建てられた火葬場は、都市計画決定を受けなければならず、受けるためには住民の同意が必要です。

東京23区外を例にとると、9カ所ある火葬場のうち2カ所は、都市計画決定を受けていません。

この2カ所のエリアは、人口が増えて住宅地が多くなり、住民の同意を得るのは非常に難しいと思います。建物の老朽化もみられ、さらに火葬場がない自治体もあり、現状のままだと、将来火葬場難民が生まれる可能性があります。

火葬場難民が生まれることが一番危惧されるのは、市街化が進んだ東京近郊です。

住宅が近接している火葬場の例

◎問題2:焼骨の引き取り(収骨)拒否

火葬場と墓地は明確に分けられている

火葬場をめぐるもう1つの大きな問題は、焼骨の引き取り(収骨)を拒否する人たちが出てきていることです。この背景には、おひとりさまの増加や血縁関係の希薄化、金銭的理由などがありますが、0(ゼロ)葬(焼骨の処分は火葬場に任せる。そうすることで墓を造り、守る必要はなくなる)を主張する人たちの登場によって、拍車がかかってきています。

焼骨の引き取り(収骨)拒否をどう考えるかは、東日本では全収骨(すべての焼骨を収骨)、関西では部分収骨(全体の3分の1程度を収骨)と収骨方法が異なりますので、まずこの点からご説明ください。

明治以前は、火葬した焼骨をそのまま埋葬するなど、墓地と火葬場は一体でしたが、明治8年に火葬を再開する際に定められた通達では、「火葬場内に焼骨を埋葬してはならない」とされ、火葬場と墓地は明確に分けられることになりました。

その結果、東日本などでは火葬場は墓地以外に造られましたが、関西ではいまだに部分収骨になっているのは、従前通り墓地内に造られたことに起因していると思われます。関西では墓地内に火葬場があったため、火葬後に焼骨を置いて帰っても問題はなかったのでしょう。

東日本などでは、火葬場と墓地は別の場所に造られ、焼骨は火葬場内に埋葬出来なくなったため、全部持って帰ってもらわないと困ることになったわけです。

全部持って帰ってもらうために、どのようにしているのですか。

各自治体の火葬場の運営規則や条例などにより、「火葬場の火葬炉を使用した者は、火葬終了後、直ちに焼骨を引き取らなければならない」といった焼骨の引き取り義務を定めています。

また、焼骨の扱いについては、「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)で、「埋葬または焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行なってはならない」と定められています。

ですから、火葬場としては、「焼骨はいらない」と言われても困るのです。

引き取り拒否を「残骨灰」として扱う火葬場が出現

ところが、「遺骨はいらない」、あるいは「持って帰らない」という人たちが増えてきていると関係者からの声が聞かれます。そういう人達に、火葬場はどのように対応しているのでしょうか。

焼骨を少しでも持って帰ってもらって、あとは「残骨灰」として扱う火葬場が東日本でも出てきています。

残骨灰の扱いについては、特に明確な規定もなく、取り扱いも火葬場に任されていますので、現状の運営の中での妥協策と言えるかもしれません。

しかし、焼骨を残骨灰として扱うのは、墓埋法や自治体で定めている焼骨引き取り義務違反ですよね。

そうなのですが、この問題は簡単ではありません。焼骨を入れた骨壷を、電車の中やその他の場所に置き去りにする人が増えてきています。特に首都圏ではそういう話を多く聞きます。

火葬場でも遺骨の安置を検討しないと、遺骨の置き去りがさらに増えることが懸念されるのです。

確かに、かなり増えてきているようですね。遺骨の置き去りは、「3年間で200件」などとのマスコミ報道もありますが、私が複数から入手した情報では、その程度ではなく、非常に多くなっています。置き去りを防ぐためにも、火葬場で焼骨を少しでも持って帰ってもらい、あとは残骨灰として処理する方がまだ良いのでしょうか。

残骨灰処理にもいろいろ問題があります。一番問題なのは、残骨灰を処理するのは処分業者なので、供養としてどうなのかということです。

例えば、残骨灰処理の委託を受ける大手業者は、寺院内に供養塔を設けて年1回供養会を行なっていますが、残骨灰の供養ですから、引き取り手のない焼骨を火葬場や寺院内に合祀する供養などとは意味合いが異なります。

また、焼骨を火葬場や寺院内に合祀した場合は、焼骨は混ざっていても、納骨した記録がありますので、誰が合祀されているのかは分かります。一方、残骨灰の供養は、いろいろな火葬場からの残骨灰が混ざっており、だれの残骨灰が混ざっているのかは分かりません。

残骨灰処理については、その他にも、所有権や売却して火葬場側(自治体側)の収入にしてもよいのかなどの問題があります。

遺骨は焼き切ることはできない

0葬を主張する人たちの中には、「焼骨は火葬場が引き取ってくれれば良い」というだけでなく、「遺骨を焼き切って焼骨が残らないようにしたらよい」という人もいます。インターネットを検索すると、「遺骨は焼き切れる」と書いているサイトも散見されますが、どうなのでしょうか。

結論から先に言いますと、遺骨を焼き切ることはできません。

順を追って説明しますと、日本の火葬炉の耐熱温度は、1,200度程度です。通常800度くらいで燃やしており、温度を上げてもせいぜい1,000度くらいです。

この程度の温度ですと、火葬時間を長くしても遺骨は残ります。遺骨が無くなったように見えることもありますが、それは、骨粗鬆症など骨がもろくなっていて、粉々になってしまうようなケースです。

火葬炉の耐熱温度を上げ、燃焼温度を上げるとどうなりますか。

燃焼温度を上げると、骨は溶けますが、気化はしません。また、火葬により科学反応を起こして他の物質に変化するということもありません。ですから、焼き切れることはなく、遺骨は残ります。

日本人の宗教的感情に配慮した火葬場運営を

遺骨の引き取り拒否問題は、いろいろな問題を内包していて難しい問題ですが、どのようにしたらよいとお考えですか。

行政が面倒をみなければならない時期にきていると考えます。遺骨を引き取ることができない人たちのために、自治体が火葬場に合祀墓を設けて遺骨を受け入れるとか、無縁遺骨の扱いを含め、火葬場と墓地の一体的運営の検討も行なう必要があるのではないかと思います。

その場合、大事なことは、日本人の宗教的感情に配慮しなければいけないということです。

墓埋法は、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行なわれることを目的」としており、本来、火葬場では宗教的感情を満足させることが求められています。

欧米の火葬場では、遺族による火葬の立ち会いや収骨は基本的に行われませんが、信仰を理由に希望すれば立ち合いが認められます。そのまま遺骨を引き取ることもできます。

森林墓地の延長で森に溶け込むイメージのベルギー・ロンメル火葬場、併設されたカフェテリアが人の集まる場所になりつつある
墓地と一体で計画された、ノルウェー北部の都市トロムソの市街を望む火葬場

日本国憲法では、「信教の自由と政教分離の原則」が定められていますが、火葬場では、どちらかというと運営の効率化と公平性の名のもとに、画一的な運営となっており、信教の自由よりも宗教儀礼の排除につながっていくことになります。

墓埋法本来の趣旨に基づき、遺族の宗教的感情に配慮した火葬場運営が必要だと思います。

本日は、火葬に関する専門的なお話をありがとうございました。


【武田至氏のプロフィール】

一般社団法人火葬研代表理事、博士(工学)、一級建築士、日本建築学会会員、日本建築家協会会員

1990年東京電機大学大学院建設工学専攻修了。火葬炉プラント建設の専門メーカーで火葬炉の設計・施工を担当。その後、社団法人日本環境斎苑協会の研究員を経て、同法人解散に伴い1999年火葬研究協会を設立。2009年一般社団法人化し、名称を火葬研に変更。それを機に代表理事に就任、現在に至る。

火葬場建設に関する技術支援の業務の他、火葬場を中心とした国内外の葬祭施設に関する研究を行なっている。著書に『弔ふ建築 終の空間としての火葬場』(鹿島出版会)の他、葬祭施設に関する論文多数。自治体の各種委員も務める。

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塚本 優(つかもと まさる)
葬送ジャーナリスト。1975年早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。葬祭事業者向け月刊誌の編集長を務める。また、新規事業開発室長として、介護、相続、葬儀など高齢者が直面する諸課題について、各種事業者や専門家との連携などを通じてトータルで解決していく終活団体を立ち上げる。2013年、フリーの葬送ジャーナリストとして独立。葬祭・終活・シニア関連などの専門情報紙を中心に寄稿し、活躍している。

[塚本優]