第7回:韓国における葬儀ビジネスの特徴と現状
日本にはない「病院葬儀場」が過半数を占める

[2018/10/9 00:00]


葬儀の方法は、その国の文化や習俗・習慣などを色濃く反映しており、それを踏まえた葬儀ビジネスのあり方も、その国によってそれぞれ違います。

しかし、違うからこそ、他国の葬儀方法や葬儀ビジネスは、日本でも参考になります。

そこで今回は、韓国の葬儀方法や葬儀ビジネスについて精通されている「韓国葬儀文化新聞」の金東元代表に、韓国おける葬儀ビジネスの特徴と現状についてお話をおうかがいしました。

金東元代表

葬儀場は17年間で2.4倍に増加

まず、韓国の葬儀ビジネスの概況をお聞かせください。

葬儀を行なう場所として葬儀場があります。

葬儀場は、2000年では465カ所でしたが、2018年4月現在では1,112カ所となっており、この約17年間で2.4倍に増えています。

出典:金東元氏

この葬儀場は、病院葬儀場と専門葬儀場に分けられます。

病院葬儀場は、2000年では426カ所であったものが、2018年には635カ所となり、葬儀場全体の約57%を占めています。

専門葬儀場は、2000年の39カ所から2018年4月には477カ所へと増加しています。

葬儀場とは別に、葬儀顧客を集める互助会社もありますね。

はい、あります。互助会社数は、2000年には70社、2010年には337社まで増加しましたが、その後は整理淘汰が進み、2018年3月には154社に減少しています。

しかし、互助会社への登録会員数は増加を続け、2010年では275万人であったものが、2018年3月には516万人となり、韓国の全人口の約1割に達しています。

出典:金東元氏

接待食事販売が病院葬儀場の重要な収益源

では、葬儀場と互助会社に分けて少し詳しく教えてください。葬儀場では、病院葬儀場が葬儀場全体の57%を占めているとのことでしたが、これは日本にもない韓国の大きな特徴です。どうして、韓国では、病院葬儀場がここまで拡大したのでしょうか。

韓国の病院では、遺体を衛生的に処理して腐敗を防止するために、冷蔵保存する霊安室を設けているところが多くなっています。

特に大手病院は、この霊安室を必ず設置するよう「医療法」に定められています。

霊安室は通常、応急室の近くに位置しており、地下に設置される場合が多くなっています。

この霊安室を活用して、病院に葬儀場設備を付設して葬儀を行なうことはできましたが、付設葬儀場設備には厳しい規制がなされていました。

この規制が1994年に撤廃されたことにより、病院の霊安室が正規葬儀場に転換される道が開かれ、病院葬儀場が増えてきました。

病院葬儀場が増えてきた背景には、社会の変化もあります。

まず、高齢化と社会構造の変化により、病院で死ぬ人が増えました。

また、韓国でもアパート、マンションといった共同住宅が急速に普及しましたが、こうした住宅で葬儀を行なうのは難しく、葬儀場を利用する人が増えてきました。

病院葬儀場経営には、どのような特徴がありますか。

韓国の葬儀では、日本のように親族など特定の人だけが参列するわけではありません。

韓国には「互助参拝」の慣行があり、3日48時間ほど、誰もが自由に霊安室を訪問し、参拝することができるようになっています。

参拝に訪れた人には、日本のように返礼品を渡す慣行はほとんどなく、食べ物を提供します。

病院は都心に位置しており、アクセスが良いので、親戚や知人をはじめとしてたくさんの人たちが参拝に訪れます。従って、参拝者を対象とした、接待食事の販売が病院葬儀場の重要な収益源になっています。

病院葬儀場の収益率は30%~45%に達しており、非常に有望なビジネスになっています。

病院葬儀場の今後は、どうなると予測されていますか。

互助参拝の慣行が続く限り、病院葬儀場の経営はこれからも明るいと思われます。

しかし、病院葬儀場に対する否定的な認識が完全に消えたわけではありません。

医療法人の営利追求違反、建築法違反、参拝客への感染の懸念、地下層にある不便、排他的な暴利追求など様々な問題があり、政府も改善に乗り出しています。

自由競争化で専門葬儀場が大幅に増加

専門葬儀場についてお聞きします。冒頭で説明いただいた数値では、葬儀場数では病院葬儀場が57%と多くなっていますが、この約17年間の増加率では、病院葬儀場が約1.5倍に対し、専門葬儀場は12倍と大幅に増えています。この要因は何でしょうか。

葬儀式だけを専門的に行なう専門葬儀場が初めて登場したのは、京畿道坡州市立霊園内に建てられた「第一の冥福館」と呼ばれる葬儀場です。これは、自治体が運営する公営式場です。

その後、1996年保健福祉部が推進した「衛生的で便利な葬儀場」育成政策をきっかけに、全国のほとんどの専門葬儀場が近代化されました。

1999年に、専門葬儀場は自由に競争ができるようになりました。また、ローンによる施設資金の提供などの育成政策がとられることにより、専門葬儀場が全国に広く普及していきました。

消費者の権益を代弁するという名目で互助会社が急増

次に、互助会社に関して質問させてください。冒頭のご説明ですと、互助会社数は、2010年には337社にまで増えたそうですが、互助会社の誕生と発展の経緯について教えてください。

韓国には昔から、「相互扶助」という美しい伝統がありました。一人では大変なことを他の人が手伝い、一緒に解決する共同体思想です。

昔は、自宅で、親戚や隣人、または葬儀社によって葬儀を行なうのがほとんどでしたが、産業が発達し、都市化の進展に伴い生活が改善されると、より便利な互助方法を探し始めました。

そして、1982年には、本格的な互助会社が釜山で初めて設立されました。

その後、徐々に全国に拡大しましたが、これらの互助会社は独自の葬儀場を保有してはいませんでした。

葬儀場に対する消費者の不満が多く、政府は企業より消費者を優先する政策を取ったことを背景に、互助会社は消費者の権益を代弁するという名目で、会員の確保と拡大に成功しました。

その結果、2000年から2010年までのわずか10年の間に337社へと5倍近く増え、会員数も275万人へと大幅に増加しました。

しかし、その後は減少に転じ、2018年には154社まで減っているそうですね。どうしてそうなったのでしょうか。

2006年頃から、互助会社の不正が徐々に明るみに出てきました。

例えば、ある互助会社では、経営者が顧客から預かったお金を使ったり、ずさんな経営によって問題を起こしました。

そこで政府は2010年9月、分割払取引法を改正して、前受金の保全義務割合を増やしたり、互助業登録条件を強化するなど互助業への規制を強化しました。

政府はまた、消費者被害を防止するために、会員が納付した金額の50%を金融機関や共済組合に積立てておき、会社が廃業する際には、顧客に返却する制度を設けました。

最近では、その払い戻された50%の金額でも、約款に明示されているサービスを提供しなければならないようになっています。

こうした政府の政策が打ち出された結果、2010年に377社に達した互助会社数は、2015年までのわずか5年間で約150社が合併または廃業して、228社に激減しました。

その後も、合併、廃業は続き、2018年には154社にまで減りました。

今後は、互助業の資本金は3億円でよかったものが、2019年1月には15億円以上に増資することが義務化されます。

それにより、互助会社の上位数十社のグループ以外は、廃業または合併が避けられない見通しです。

しかし、先ほど数字で示されたように、互助会社の会員数は増え続けているわけですね。

そうです。会員数だけでなく前受金も大手互助会社の占有率が高くなってきています。

会員数は、売上上位24社が84%を占有し、前受金は、売上上位50社が97%を占有しています。

会員数や前受金の大手互助会の占有率が高くなってきているのは、どうしてでしょうか。

大手互助会社は、オンライン広告の強化、クルーズ旅行の追加、多様な付帯サービスの提供などのマーケティングを展開していますが、その中の一つとして、家電製品などの生活必需品を安く提供しているケースも増えています。

また、健全な財政基盤をもった大手互助会社は、その余力で直営の葬儀場を設けて収益を確保したり、様々なライフサービス商品を開発して一般消費者に販売しています。

一方、中小互助会は、2019年1月までに資本金を15億円まで増額しなければならなくなったことで危機に直面しました。

互助会社はマーケティング力でシェア拡大

葬儀場と互助会社との関係や競争はどのようになっているのでしょうか。

韓国の互助会社は、独自の葬儀場を保有しておらず、葬儀場から施設を借りて営業しています。

初期には、葬儀場と互助会社の顧客獲得競争が激しく、争いが大きくなって互助会員の葬儀は困難になることが多くありました。

しかし、互助会社は、消費者の選択権を保護するという大義名分を持っていたために、政府や自治体の支持を受け、葬儀場より優位に立ちました。

互助会社は、ビジネスの核心である会員の確保のためにマーケティングに全力を傾けました。一方、葬儀場は、じっとしていても、葬儀が発生すれば顧客は訪れてくれるという考え方に慣れ、マーケティングの重要性を認識できず、安易な姿勢でいました。

その結果、葬儀場での葬儀件数シェアは、互助会員6割、葬儀業者4割程度、またはそれ以上に互助会員のシェアが増えてきています。

互助会社のシェアが増えたことにより、葬儀場は、施設を備えているのに、互助会員の葬儀を獲得するために、不利な条件で互助会社と連携するケースも多くなっています。

小規模の葬儀社が増加し、「企業対象葬儀会社」が登場

葬儀場と互助会社についてお聞ききしてきましたが、韓国の葬儀ビジネスで注目される新たな動きはありますか。

小規模の葬儀社が増加し、「企業対象葬儀会社」が登場してきました。

それは、以下のような背景と経緯によるものです。

先程お話したように、互助会社の不正が大量に発生し、消費者の権益が大きく侵害を受けるようになった時点で、互助会社の経営が苦しくなりました。

そのため、葬式を互助会社に依頼することに対する不信が広がりました。

また、企業の社内福祉としての役職員の葬式を、互助会社だけに任せることに対する不信もつのりました。

そうしたことから、企業の役員・社員やその家族たちに対する将来の葬儀行事を、さらに効率的かつ安価に提供しなければならないという機運が高まりました。

そして、日本の「社葬」に対する関心が高まりました。

こうしたニーズに応える、少数の社葬専門会社が登場し、注目されるようになったのです。

ちょうどその頃、互助会社から独立したり、それを真似た、多くの小規模の葬儀社が設立されました。

このような小規模な葬儀社は、企業職員とその家族の葬式を主な収益モデルとして受注マーケティングを展開し、今日に至っています。

「企業対象葬儀社」とは、このような中小規模の葬儀社のことを言います。

互助会社とは違って、会費を事前に受けないという事実を信頼の根拠とし、互助会社の欠点を補完し、低廉で良質な葬儀サービスを提供するというメリットを強調しています。

小規模葬儀社や「企業対象葬儀社」の現状は、どのようになっていますか。

「企業対象葬儀社」は、企業のニーズに対応するだけではなく、葬儀のノウハウを活用して広く一般の団体に向けたマーケティングを拡大する傾向になっています。

小規模葬儀社は、互助会社の地域の葬式を代行し、互いに協力する場合も多くなっています。

韓国の葬儀業界では今、互助会社は次第に減り、その代わりに小規模葬儀社が増えてきています。

しかし、先程お話したように、少数の大手互助会社は会員数を増やし、次第に安定的な経営になって規模を拡大してきています。

本日は、韓国の葬儀ビジネスの最新情報をお聞かせいただきありがとうございました。


【金東元氏のプロフィール】

「韓國葬儀文化新聞」(Korea Memorial News)代表、図書出版「Memorial文化」代表、「社会貢献Journal」代表、終活企業「Memorial文化院」代表、社団法人大韓葬儀人協会常任顧問、日本葬送文化学会正会員。

明知大學校社會敎育大學院葬儀最高指道者過程修了。トータル葬儀会社「スカイバンク」企画理事、トータル葬儀会社(株)孝孫興孫專務理事、互助履行保証(株)代表取締役、(社)韓国葬儀文化研究会事務局長、韓国専門葬儀場協会専門委員兼事務局長などを歴任して現職。

2004年から日本をメーンに22回の海外葬儀文化の見学ツアーを実行。中国と東南アジアのCEO韓国見学ミッションを2回実行。韓国内の葬儀博覧会4回共同企画を主管実行。現在11月KINTEX主崔のWEBF2018(World Ending Business Fair 2018)実行委員長としても活動中である

日本の葬礼文化を見学するツアーを率いて何度も来日されている


塚本 優(つかもと まさる)
葬送ジャーナリスト。1975年早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。葬祭事業者向け月刊誌の編集長を務める。また、新規事業開発室長として、介護、相続、葬儀など高齢者が直面する諸課題について、各種事業者や専門家との連携などを通じてトータルで解決していく終活団体を立ち上げる。2013年、フリーの葬送ジャーナリストとして独立。葬祭・終活・シニア関連などの専門情報紙を中心に寄稿し、活躍している。

[塚本優]