第11回:吉川美津子氏に訊く終活の現状と課題点
「生と死をつなぐ社会福祉士でありたい」

[2019/2/4 00:00]


吉川美津子(きっかわ みつこ)氏は、葬儀会社や葬儀関連事業者向けコンサルティング、研修/教育、講演/セミナー、取材/執筆を中心に活動されています。

加えて、2017年3月に国家資格である社会福祉士を取得し、重度訪問介護、特別養護老人ホームでの介護/見守り/看取り活動などへと活動の幅を広げ、「生」と「死」の双方から、逝く人と送る人を支える業務に携わっておられます。

「生と死をつなぐ社会福祉士、葬送/終活支援ソーシャルワーカーでありたい」と語る吉川氏に、終活の現状と課題点についてお話をうかがいました。

吉川美津子氏

「生」と「死」が分断されていることをリアルに実感

葬儀/供養関連の識者/専門家で社会福祉士の資格を取得し、なおかつ介護/医療を含めた福祉現場の業務に携わっているのは、吉川さんだけではないかと思います。なぜ、社会福祉士になろうと思われたのですか。

2009年に「終活」という言葉が生まれて、私にも終活の話をして下さいという依頼が増えてきました。

当初は、葬儀やお墓の話の依頼が多かったのですが、その後、終活の範囲が段々と広がってきました。例えば、お金とか、相続などの面からみた終活です。

終活の範囲が広がることによって、終活全体について話して欲しいという注文も増えてきました。

しかし、私は、亡くなった後の葬儀/供養のことを専門的に行なってきましたので、亡くなる前の暮らしや生き方などについて、終活としてどのように説明していいのか分かりませんでした。

そこで、本を読んだり、いろいろな人のセミナーにも参加してみました。でも、本を読んでも、人の話を聞いても腑に落ちないのです。

終活って一体何だろうという疑問が、頭の中でグルグルと回り続けていました。

「腑に落ちない」というのは、例えば、どのようなことですか。

例えば、終活を推進しようとする人たちは、生活者に向けて「自分の葬儀やお墓のことを考えましょう」と言っていますが、葬儀やお墓は自分だけで完結するものではなく、遺された人たちがどのようにしたいのかということも、とても大事です。

介護にしても、基本的には利用者本位でなければいけませんが、でも、本人だけではできないこともたくさんあり、一緒に住んでいる家族がどのように介護するのかということも重要です。

おっしゃる通りですね。腑に落ちなくて、どうされたのですか。

では、自分は、生きている人が老後をどのように過ごしていくのかということに、きちんと向き合って考えていこうと思い、社会福祉の勉強を始めました。

ところが、本などを読んでも全然頭に入っていきません。これでは駄目だと思い、現場を知るしかないと考えて、障害分野では重度訪問介護という資格を取って、現場に入りました。

私が入ったのはALS(筋委縮性側索硬化症)の方の現場です。死に近い人たちの現場をやりたかったのと、他にも仕事をしていますから、比較的自由度の高い現場に入りたいなということもあって、いろいろ探してALSの現場に入りました。

ALSの現場で一番印象的だったのは、私はパートなので訪問日はさほど多くはないのですが、私の訪問日に目の前で亡くなってしまった人がいたことです。

その時、以前から聞いてはいましたが、「生」と「死」というのは、本当に分断されてしまっているのだなーということを、とてもリアルに感じました。

「生」と「死」の分断というのは、どのようなことですか。

私も感覚的に、この方は危ないと分かりましたので、看護ステーションと医師の両方に「早く来てください」と連絡し、最後はご家族も呼んで看取ったのですが、医師が臨終の判断をした後は、「あとはご家族でごゆっくり」と言って、ではさようならという感じで部屋から出て行ってしまいました。

私は、「え、これだけで終わりなの。この後、ご家族と私たちどうしたらいいの」と、とまどいました。

でも、その医師が悪いわけではありません。訪問系医療/介護は、生活に密着してその方と長く付き合っていますので、その医師も思い入れもあり、死亡診断書を書く時は手が震え、「あ、間違えちゃった」と言いながら書いていました。

そういう環境の中で看取ったというのは、すごく良かったと思うのですが、あくまで障害者の保険制度の範囲内でのかかわりだったので、亡くなった後は自費になってしまうので、「あとは、ご家族で」という言い方になってしまうわけです。

ナースもそうです。身体を拭くのはご家族と一緒に行ないますが、着替えは、「本当に申し訳ありませんが、制度の問題で、ここから先は自費になってしまうのです」と説明するしかないのです。

終わり方があっけなかったので、「私の役割もこれで終わってしまったのか」と、ちょっとバーンアウト状態になってしまいました。

看取りの現場には葬儀/供養の課題が山積

吉川さんはその後、社会福祉士の資格を取得され、特別養護老人ホームの現場でも、介護/看取り支援活動をされているそうですが、「生」と「死」を繋ぐ専門家として、どのような課題を感じられていますか。

特養では、例えば、ご家族を亡くされて一人で入居している方もたくさんいますが、そういう人たちの課題もいろいろ見えてきました。

例えば、自室にたくさんの位牌を置いて、毎日お参りしている人もいます。

また、ご主人を亡くされ、遺骨は、お子さんがいないので、姪御さんに預けたままで、まだ納骨出来ていないお婆ちゃんもいます。

このように、一人遺されて、先に逝ってしまったご家族の供養で悩んでいる人がたくさんいるのですが、それらの課題を、ホームの相談員は解決してあげることができていません。

特養では看取る人も多いと思いますが、看取りの面ではいかがですか。

特養では、看取り加算がありますので、看取る人を積極的に受け入れています。当然、ご家族も死の準備をしているわけですが、亡くなった時に、葬儀社を決めていなかったというご家族もいます。

施設では看取りのことをしっかりやっているのに、相談員さんはなぜ、「この後のことも一緒に考えていきましょうね」というひと言が出ないのかと思います。

医師は、どうですか。

医師も同じです。特養の現場の話ではありませんが、私は医療から見た看取りの講演もいろいろ聞いています。どう看取るのかは、皆さん本当によく研究されていて掘り下げた話が聞けますが、どうやって弔うのかということについては、誰の口からも出てきません。

中には、高齢者施設で看取って、こういう葬儀をしましたという話を聞くこともありますが、自分たちはここまでやっているんだぞというアピールで、自己満足でしかないのではないかと感じました。

葬儀をしたというだけで、葬儀は何のために行なうのかという意義や目的を理解して行なっているとは思えなかったからです。

「餅屋は餅屋」という意識が壁をつくっている

「生」と「死」が分断されているという例をいくつかお聞きしましたが、なぜ分断してしまっているとお考えですか。

「生」と「死」の分野に携わっているそれぞれの専門職が、「餅屋は餅屋」という意識が強く、お互いの分野に関心を持たないからではないでしょうか。

葬儀/供養業界の人たち見ると、介護/医療業界の人たちは、亡くなられた人たちがこの後、どういう風に葬儀が行なわれ、供養が行なわれていくのということに対して関心がない。

介護/医療業界の人たちから見ると、葬儀/供養業界の人たちは、亡くなった方が、どういう生き方、暮らし方をしてきたかということに関心を持たない。

だから、双方の関心ごとが交差せず、「死」と「生」が分断してしまっているのではないかと感じます。

ただ、高齢者施設の現場は、人手不足ですし、自分達の現在の業務をしっかり行なうことで手いっぱいですから、葬儀/供養のことまで担うのは難しいと思います。

そうした時に、利用者の相談援助業務を担う専門職のひとつとして、私のような社会福祉士が葬儀/供養との橋渡しをしたらよいのではないかと実感しました。

病院もそうではないかと思います。現場の人たちは難しいと思いますので、医療ソーシャルワーカーの人たちが、葬儀/供養にまで向き合っていける体制をつくることが必要ではないかと思います。

多職種連携に葬儀/供養業者も参加を

「生」と「死」の分断の現状と問題/課題点を挙げていただきましたが、「生」と「死」が分断していることによって、特に何が問題なのでしょうか。

死を迎える際、医師から臨終を宣告されるまでに、きっと多くのドラマがあったことでしょう。看取った家族や周囲の人が、その現実に向き合える場合もあれば、受け止められない場合も当然あります。

葬儀は、その固有のプロセスを背景に行なわれる儀式ではないかと思いますが、その理解がないために、葬祭業者が過剰なサービスを提案したり、逆に儀式が必要なのに家族が直葬(火葬のみ)を希望しているからといって鵜呑みにしてしまうケースが出てきてしまうのです。

こうなると儀式は単なる通過点で、火葬は遺体処置、仏壇やお墓はモノでしかなくなってしまいます。

また、制度や業界が分断されているために、「生」と「死」にかかわる事業者間の情報の行き来がないことも残念です。

例えば、遺体が危険な感染症を有していても、葬祭業者に対しては守秘義務を盾に感染症の事実の告知が行なわれないことも多いです。

大きな問題ですね。では、「生」と「死」をつなげていくには、どのようにしていったら良いとお考えですか。

まずは、先ほど述べたように、「生」と「死」の分野に携わる専門家が、双方の分野のことに関心を持つ必要があると思います。

でも、ただ「関心を持ちましょう」と言っているだけでは関心は持ちませんから、関心を持つようなことを行なっていかなければならないと思います。

例えば、私は、葬儀の専門学校で講師をしていますが、介護の授業も少しずつ取り入れています。また、福祉の専門学校でも講師をしており、こちらでは葬儀の授業も少しずつ行なっています。

とても地道な活動ですが、私以外にも、「生と死をつなぎましょう」と声を挙げ、活動する人が段々と増えてきていますので、点と点が繋がって輪になって波及していけばいいなーと思っています。

ほかにいかがですか。

「生」の分野では、一人の人を多職種連携でサポートしていこうということで、医師、看護師、介護士、社会福祉士などいろいろな専門職が連携するようになってきています。出来ているかどうかは別にして、そういう仕組みにしようとしています。

多職種連携で行なうなら、そこに弔いを行なう業者も入った方が良いのではないかと思います。

入れてくれるように働きかけている葬儀社さんもいますが、なかなか入れてくれないようですね。

そのようですが、介護/医療分野でも、個別には、葬儀/供養も取り入れるところが少しずつ出てきています。

例えば、お墓という部分では、法人や施設単位で永代供養塔などを建て、その法人/施設に関係する人が利用できるようにしているところもあります。

高齢者施設が建立した200体を収容できるお墓 特別養護老人ホーム「草加キングス・ガーデン」

葬儀という部分では、施設の中に、ご遺体安置を兼ねた家族葬向きの式場を備えるところもあります。

高齢者施設内で行われる葬儀の様子 特別養護老人ホーム「さつまの里」

葬儀/供養分野でも、個別には、介護/看護も取り入れるところも出てきています。

例えば、葬儀社とは別に訪問看護や訪問介護事業も行なうところや、大手では高齢者施設を運営するところもあります。

このように、「生」と「死」の壁を取り払おうとする動きは、少しずつ見られるようになってきています。

訪問系の医療、看護、介護職の葬儀相談が増える

そうした動きは、今後、さらに加速するでしょうね。

今までは高齢者施設が増加し、亡くなる人も増えてきましたが、これからは、自宅で亡くなる人も増えてくると思います。そうなると、訪問系の医療、看護、介護は、葬儀の相談にのるケースが必然的に増えてくると思います。

高齢者施設で式場を備え、お墓を用意する動きも含め、葬儀社もうかうかしていられませんね。

そう思います。以前、葬儀社の何人かの人に、「介護事業についてはどう思いますか」と聞いたことがあります。

そうしたら、「生きている人のことは面倒くさいから」とか、「制度が難しく良くわかない業界だから」などと、最初から自分たちで壁をつくってしまっている意見が多く聞かれました。

でも、分からないなら、きちんと勉強しないと分かりませんし、関心も持てないと思います。

自分の地域には、どのような福祉の社会資源があり、どのような活動、サービスをしているのか。せめて、その地域にある施設の特徴を知るだけでも、もう少し関心が高まってくると思います。

時代に取り残されないようにするには、勉強するしかないと思います。

本日は、日頃あまり聞くことのない、「生」と「死」の間のお話をありがとうございました。



【吉川美津子氏のプロフィール】

社会福祉士。葬送/終活支援ソーシャルワーカー。

駿台トラベル&ホテル専門学校「葬祭マネジメントコース」/非常勤講師。上智福祉専門学校/非常勤講師。中央美術学院「シニアライフデザイン講座」/顧問。一般社団法人葬送儀礼マナー普及協会/理事。一般社団法人供養コンシェルジュ協会/理事。一般社団法人全国環境マネジメント協会/顧問。

90年代半ば、葬祭専門人材派遣会社にてセレモニースタッフとして葬儀の手伝いを始める。その後、東京一部上場葬儀会社「公益社」にて葬儀施行、営業、セミナー運営等の業務に従事。続いて、大手墓石/仏壇店「はせがわ」の営業スタッフとして活動。駿台トラベル&ホテル専門学校の葬祭ビジネス学科の運営に携わるようになった頃から、現場を離れ、コンサルティング業務を行なうようになる。

2017年社会福祉士資格取得。重度訪問介護(障害者分野)、特別養護老人ホーム(高齢者分野)での介護/見守り/看取り支援の活動などを行なっている。

著書に、『死後離婚』(洋泉社)、『お墓の大問題』(小学館)、『ゼロからわかる墓じまい』(双葉社)、『はじめての喪主 葬儀/葬儀後マニュアル』(秀和システム)、『終活のはじめかた』(メディアファクトリ)、『葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)などがある。

ラジオパーソナリティとして「吉川美津子のくらさぽラジオ」(レインボータウンFM)毎週日曜日18:20~19:00放送中。

「吉川美津子のくらサポラジオ」の収録の様子


塚本 優(つかもと まさる)
葬送ジャーナリスト。1975年早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。葬祭事業者向け月刊誌の編集長を務める。また、新規事業開発室長として、介護、相続、葬儀など高齢者が直面する諸課題について、各種事業者や専門家との連携などを通じてトータルで解決していく終活団体を立ち上げる。2013年、フリーの葬送ジャーナリストとして独立。葬祭・終活・シニア関連などの専門情報紙を中心に寄稿し、活躍している。

[塚本優]