第16回:「相続診断士」資格取得者が3万7千人を突破
相続・終活関連の民間資格の中で断然トップの要因とは

[2019/7/4 00:00]


一般社団法人 相続診断協会(東京都中央区)が資格認定している「相続診断士」の取得者数は、3万7千人(2019年5月末)を超えました。

数ある相続・終活関連の民間資格の中でも断然トップです。

しかも、「相続診断士」では2年ごとに必要な更新の更新率も、他の相続・終活関連資格を大きく上回っている模様です。更新率は、その資格の役立ち度を示しています。

つまり、「相続診断士」は、相続・終活関連の民間資格の中で質・量ともにトップとなっているのです。

では、その要因はどこにあるのでしょうか。税理士で同協会の代表理事である小川実氏にお話をうかがいました。

小川実 氏

相続に関わる人たちとチームを組んでソリューションを提案する

まず、「相続診断士」という資格をスタートされた背景からお聞かせ下さい。

私は、税理士になって今年で21年目になるのですが、税理士という仕事を行なっている中で、相続は結構もめるということに直面しました。

日頃、中小企業のお手伝いをしている中では、「ありがとう」と言っていただけるし、お金ももらえるし、税理士って本当に良い仕事だなと思っていたら、相続の場合は結構もめて微妙な感じで終わることがあるのです。

私は、これはちょっと嫌だなと思いました。税理士を続けるなら、何かもう少し良い方法はないのかなと考えました。

一般の人にとっては、士業(しぎょう)は敷居が高いみたいで、士業に相談に来られるのは、ことが起こってからなのです。

亡くなって、相続でもめたら弁護士を探す。税金がかかりそうだと初めて税理士を探すというパターンが多く、95%以上の人は何もしないという印象でした。

何かやろうということで、世間でも行なわれている、事前にエンディングノートを書いたり、遺言書を書いておいたりすることが重要ですよということを啓蒙するために、本を書いたり、セミナーも開催したりしました。

しかし、集客力はほとんどないし、営業力もないので、全然役立ちませんでした。

そこで、「相続診断士」という資格を、2011年12月1日にスタートしました。

どういう狙いの資格でしょうか。

士業だけでは世の中に役立たないので、相続にまつわる、いろいろな人たちと一緒に、そのお客さんにソリューションを提供していった方が、お役に立てるのではないかと考えました。

税理士を初めとして、弁護士、司法書士、行政書士などの士業と、一般の人の近くにいる生命保険、不動産、金融関係の人、場合によっては終活に関わるビジネスをされている人などが、何かあった時にはチームを組んで、ソリューションを提案すれば、もしかしたらお役に立てるのではないか、と思いつきでつくったのがこの資格です。

相続診断士のアクションイメージ

2011年12月には、相続関係の資格は、既にいろいろありましたね。

いろいろあり、われわれも調べましたが、総て、資格取得料は20万~30万円で、しっかり学び、しっかりサポートするというつくりになっていました。

つまり、士業のための資格となっており、私たちがチームとして想定した生命保険、不動産、金融などの人たちが学んでも使えないだろうし、また、そこまでのものも必要ないだろうと思いました。

私たちは、いろいろな人に相続のことを広く浅く勉強してもらい、専門的なことは士業に橋渡ししてもらえば良いという資格として考えましたので、資格取得料も3万5千円(税別)と手頃にしました。

“争族”を減らすことを理念に資格制度をスタート

「相続診断士」の資格取得者は、相続関連のみならず、終活関連を合わせた民間資格の中で断トツではないかと思います。その要因は何だと思われますか。

この資格をスタートした時から、受講される人達に一貫してお話ししているのは、相続診断士を取得したからと言って、保険や不動産が売れることもないし、我われ士業のビジネスになることもありません。この資格は、今、起こっている、家族が相続で争ってしまう“争族”をなくすためにつくりました、ということです。

家族が相続で争ってしまうというのは、あってはいけない不幸だと私は思うのです。

親御さんって、子供のために働いているじゃないですか。何だかんだと言いながらも、自分の子供のために働いて残した財産だと思うのです。

ですから、その財産をめぐって、子供たちが骨肉の争いをすることは、親にとっては、これほど不幸なことはないのです。

“争続”は、なぜ起こっているのでしょうか。

理由は2つあります。1つは、財産は、平等や均等に分けられないのに、今の相続法では、均等や平等な相続になっています。このギャップが大きいからだろうと思います。

もう一つの理由は、家督相続と平等相続のギャップも結構大きいからです。

財産を渡す側の人は、長男がもらえば良いと思っている。でも、それをもらう側の皆に言わないのですね。

一方、もらう側の人は、渡す側の人が亡くなった途端に、「兄ちゃん、俺、半分もらっていいよね」と言うわけです。

渡す側の人が自分の意思を伝えないために、そうしたミスマッチが起こり、それが現在の“争続”の一番の要因になっています。

この“争続”を減らすために、この資格をつくりました。

“争族”をどのように減らすのでしょうか。

自分が何かを大切にして生きてきた結果、今の財産があるわけです。つまり、財産というのは、自分の考え方やあり方の結果です。もっと言いますと、命そのものだと思うのです。

そうすると、自分の考え方や生き方、あり方を受け継いでくれるのだったら、家業の事業も引き継いで欲しいから、それに必要な土地や株なども引き継いでくれる人、それが長男なら長男に渡るようにする。

一方、この考え方や生き方、あり方を継がない、例えば、東京に出ていった次男は長男と役割が違うので、渡すものは少なくする。

子供に対する愛情は、皆一緒だけれども、役割は違う。財産というのは役割に応じてついてくるものだよということを、遺言書やエンディングノートによってしっかり伝えることによって、“争続”は減らせると思うのです。

そのことを実行されているわけですね。

ただ、遺言書は一般の人にはハードルが高いので、「笑顔相続ノート」と呼んでいるエンディングノートに、自分の生きた証をしっかり書いていただく。

そうすると、自分の考え方や生き方、あり方が出てきますし、その結果、こういう財産があり、これは自分の生き方を継いでくれる長男がもらってくれ、と書いておくとそんなにもめないのです。

「相続診断士」というのは、それを行なう資格なので、良いと思う人は受講して下さいと言ってきた結果が3万7千人です。

そして、この資格をベースに、相続をスムースに行なうためのソリューションを提供していくと、商売にもつながっていきます。

生命保険は相続対策で必要になりますし、不動産の整理も出てきますし、我われ士業も相続のアドバイスや申告で報酬をいただけます。

“争続”を無くしましょうと訴えてきた結果、我われのビジネスにもつながっているということが皆さんに分かっていただけるようになったことが、現在の資格取得者数となっているのだろうと思います。

使える資格にするために「ツール」と「コミュニティー」をつくる

「“争続”を無くしましょう」というお客さん第一の理念を掲げ、取り組むことにより、お客さんに喜んでもらい、その結果、相続診断士を取得した人たちのビジネスにもつながってきているわけですね。

私が相続診断協会さんを取材させていただきたいと思いましたのは、相続・終活関連の民間資格の中で取得者数が断然トップというだけでなく、資格更新率も他の資格と比べて高いようだと耳にしたからです。その点はいかがでしょうか。

更新率については公表しておりませんが、相続関係資格の更新率は30%~40%といわれており、それよりは高くなっております。

相続診断士の更新期間は2年にしているのですが、実は、最初の更新の時、資格を活用できなかったので更新はしないという人が結構いました。

それでは申し訳ないと思い、活用できる資格にしようと検討した結果、「ツール」と「コミュニティー」という施策を導入しました。

ツールというのは、「笑顔相続への5ステップ」と呼んでいる、相続診断を行なうためのツールです。

相続診断士を取得した生命保険、不動産、金融関係などの人たちの中には若い方も多く、今まで相続の相談にのったこともない人もたくさんいらっしゃいます。そういう人たちでも相続診断ができるようにしました。

「笑顔相続への5ステップ」というのは、どのような内容なのですか。

それは、次の5つのステップからなっています。

  • (1)相続診断チェックシート
  • (2)相続診断ヒアリングシート
  • (3)笑顔相続ノート
  • (4)相続診断書
  • (5)遺言書

(1)の相続診断チェックシートは、相続において聞かなければいけない質問が全部入ってい
ます(30項目)。

30項目の中で当てはまるものにチェックを入れてもらうと、「相続診断結果シート」を作ります。このシートには、危険度(100点満点)、緊急度(5段階)、解説などを記入しています。

解説では、例えば、30項目の中の「相続人の仲が悪い」にチェックが入っていると、「資産分割が成立しない“争続”の可能性があるので、遺言書の作成をご検討ください」といったことが記入されます。

相続診断チェックシートにチェックを入れてもらうと、次のアポイントをとります。

そして面談した時には、(1)相続診断結果シートの説明をして、(2)相続診断ヒアリングシートによってヒアリングを行ないます。

「笑顔相続への5STEP」図

どのようなことをヒアリングするのでしょうか。

家族の状況をお聞きして家系図を書いてもらい、必要に応じて財産状況をお聞きします。

家族の状況をお聞きする時は、(1)の相続診断チェックシートのチェックした項目も参考にして聞いてくださいと言っています。

例えば、「相続人の仲が悪い」にチェックが入っていれば「誰と誰の仲が悪いのですか」とか、「親の面倒をみている子供と、みていない子どもがいる」にチェックが入っていれば、誰がどんな風にみているのですかなどと具体的にお聞きします。

私は、このヒアリングを行なう30分から1時間を大切にして、相談者との関係をつくってくださいと言っています。

どういうことかと言いますと、相続相談をする時には、財産がどのくらいあるのかを聞く必要がありますが、信頼関係のない人に言うわけはないからです。

信頼関係をつくるためには、相手のことを一生懸命に聞いてあげることが必要です。ですから、ここで一所懸命聞いてあげるようにしてくださいと言っています。

相続診断士に、こうした相続診断を行なってもらうのは、一つは、このままにしておくと争続になりそうかどうかということ、もう一つは、相続税がかかりそうかどうかということを、切り分けてもらうためです。

この2つの診断をするのが相続診断士の仕事であり、ここから先は我われ士業につないでもらうようにしています。

(4)の「相続診断書」のステップに入るわけですね。

そうです。我われにつないでいただいたら、お客さんにもう一度きちんとヒアリングしまして、診断書をつくります。

財産ごとの税金計算をして評価額を示し、どのように遺産分割をしたいのかを聞いてその問題点を示し、そして笑顔相続を実現するためのソリューションを提案します。

このステップと並行して、(3)の「笑顔相続ノート」を、セミナーなどを行ないながら書いてもらうようにしています。

そして、最終的には(5)の「遺言書」まで書いてもらい、法律的な効果が出るようにしましょうと言っています。

こうした「笑顔相続への5ステップ」は、相続診断士を取得した人にセミナーなどを開催して説明し、使えるようにしています。

相続診断士が士業をリードする

笑顔相続を実現するためのソリューションの提案を実行してもらうポイントは何でしょうか。

ステップの(3)あるいは(4)以降も、生保、不動産、金融などの相続診断士と我われ士業が一緒に進めることです。

従来、良くあったのは、士業が、お客さんを紹介してくれた生保などの相続診断士に相談せずに、お客さんに勝手にソリューションを勧めてしまうことです。

そうすると、紹介した相続診断士が、取り残されたような気持ちになり、士業との間がぎくしゃくしたりしてしまいます。

また、相続診断士の診断結果が、士業にきちんと伝わっていたとしても、お客さんは、士業が言っていることが良く理解できなかったり、言いたいことも言えなかったりします。

そのため、「思っていたのと違う対策になっていた」とか、「言っていることが良く分からないうちに進んでしまった」という不満やクレームになってしまうこともあります。

相続診断士が間に入っていれば、「今、先生が言ったことはこういうことですが、お分かりになりましたか」とか、逆に「こういうことをお聞きになりたいとおっしゃっていましたが、ちゃんと聞けていますか」などと確認することによって、不満やクレームを防ぐことができます。

士業よりむしろ、お客さんに近い、あるいはお客さんを紹介する診断士がリードした方が良いということですね。

そうなのです。そうなりますと、ある程度知識を持っていないと、我われ士業が言っていることが本当に良いのかということをジャッジできないので、勉強のために「上級相続診断士」を取得したいという相続診断士も増えてきています。

上級相続診断士というのは、士業ではない相続診断士の中から、もっと深く相続を学びたいという要望が多く出てきましたので、昨年12月からスタートしました。費用は8万円(税別)です。

32都道府県に相続診断士会を設立

相続診断士を使えるようにするための2つ目の施策「コミュニティー」というのは、どういうものですか。

先ほど言いましたツールによって相続診断ができても、今まで相続の相談を受けたことがない若い人などでは、その先をどう進めていいのか、依頼する士業をどのように探していいのか分からない人もたくさんいます。そのために、相続相談を受けないようにしている人もいました。

そこで、協会とは別に、相続診断士を取得した人たちの会である「相続診断士会」を設け、都道府県単位で支部を作っています。支部は、既に32都道府県で設立されています。

支部単位で月1回定例会を行ない、そこでは勉強会のほか、懇親会を行ない、相続の知識や事例を学んだり、相続相談ができる仲間をつくる場として活用してもらっています。これがコミュニティーです。

「相続診断士会」のみなさん

コミュニティーで特に重視されていることは何でしょうか。

信頼できる仲間づくりです。信頼関係ができない限り、自分の大切なお客さんを紹介しようとは思いませんし、うまくいきません。

信頼できる仲間が見つかると、お互いのお客さんを紹介しあうことなどによって、相続の問題が解決し、お客さんから喜ばれます。

私は、相続はネットで検索して探す仕事ではないと思っています。申告だけでしたらそれでもいいですが、財産全体の対策となると、信頼関係がないとできません。

また、私がいくら相続に詳しいからといって、大阪の土地のことは分かりません。大阪の事業主と事業承継の相談をしても、株のことは私でも出来ますが、土地のことは大阪の先生にお願いする方が良いと思っています。

そうすると、大阪は大阪でコミュニティーをつくってもらい、その中で解決できていくのが一番いいのです。

いま、面白いことが起きてきています。例えば、大阪の相続診断士のお客さんが東京に土地を持っていると、東京のコミュニティーに問い合わせて不動産屋さんを紹介してもらい、その不動産屋さんに売ってもらう、といったことが日本全国で起こってきています。

このように、コミュニティーもいい形に発展してきています。

相続診断士会を協会とは別に設けているというのは、どういう形にしているということでしょうか。

各相続診断士会の参加希望者による自主組織として運営してもらっています。運営費用はすべて参加希望者が負担し、協会から費用援助などはしていません。

協会が相続診断士をコントロールしようとすると依存されますし、手間がかかって面倒もみきれません。それならば、意欲のある人達で自主的にやっていただいた方がうまくいくだろうと思って、そのようにしました。

現に、相続診断士会の活動に自主的に参加している人たちは、自然と仕事になっていっていますので、「相続診断士会の活動が楽しい」と言っている人が多いです。

「笑顔相続落語」を270回開催し、3万人が来場

相続・終活団体の中には、資格を付与するだけのところも多くありますが、資格を付与するだけでなく、「ツール」と「コミュ二ティー」によって、相続診断士の人たちの実務にも活用できるようにしたことが、資格取得者が増え、更新率も他の資格に比べて高い要因になっているわけですね。

「ツール」と「コミュ二ティー」のほかに、資格取得者を増やし、更新率も高める要因になっている取り組みはありますか。

相続診断士のサポート策として、「笑顔相続落語」を全国各地で開催しています。

この落語は、真打の落語家と相続診断協会との共作で、一般の人には話題として敬遠されがちな相続を、「落語」というエンターテイメントと融合することにより、相続を楽しみながら身近に感じることができ、生前に何らかの準備をしようと思える内容になっています。

「笑顔相続落語」は二部構成になっていて、一部では落語で寿司屋の家族の相続が描かれます。二部では落語家と専門家が、一部の落語の話をもとに掛け合いをしながら解説をします。

どちらも笑いあり涙ありで大変好評を頂いており、5年間で約270講演を開催し、来場者は3万人を超えています。

「笑顔相続落語」の様子

最後に今後の方針についてお聞かせください。

相続は、どんな人にもやってきますが、その時期や内容は1つとして同じものはありませ
ん。

相続診断協会は、日本から1件でも多くの“争族”を減らし、笑顔相続を実現するために相
続診断士が1人でも多く活躍できるよう支援を続けていきます。

本日は、資格取得者を増やし、更新率を高めるノウハウまでお話しいただきありがとうございました。


【小川実(おがわ みのる)氏のプロフィール】

一般社団法人相続診断協会 代表理事。

昭和61年3月 成城大学経済学部卒業

昭和61年4月 河合康夫税理士事務所勤務

平成4年11月  野村證券系インベストメントバンク勤務

平成10年3月  税理士登録

平成14年4月  税理士法人HOP設立。税理士8名、社会保険労務士2名、司法書士、行政書士3名が常駐する中小企業のワンストップサービス事務所。

平成17年11月 税務訴訟の補佐人として、税務調査、異議申立て、不服審査請求、訴訟を経験し、50億円の勝訴に貢献。

平成19年~ 成城大学の非常勤講師

平成23年12月 一般社団法人「相続診断協会」設立。日本中の不幸な争続を1件でも減らし、笑顔相続を広げるために設立。

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行っている。

[塚本優]