第18回:良い高齢者施設の選び方~5つの評価ポイント~職員総数が入居者数の8割以上の施設を選ぼう
「終(つい)の棲家」として高齢者施設や高齢者向け住宅に入居する人が増えています。
ところが、施設や住宅の種類だけでも10種類以上あり、それらの違いを把握して理解した上で、比較や評価をして、自分や家族の希望に沿った良い施設を選ぶのは、一般の人には極めて難しいと言われます。
そうしたことから、施設紹介センターや施設紹介サイトの数は、増加の一途をたどっています。
そうした中、上岡榮信(うえおか しげのぶ)氏は、2010年に一般社団法人 有料老人ホーム入居支援センターを設立しました。
高齢者施設からは紹介料などの報酬は一切受け取らず、入居者の視点に立って施設の調査と格付けを行ない、優良な施設だけの紹介を行なっています。
施設からの紹介料に依存していない上岡氏に、良い高齢者施設を選ぶための5つの評価ポイントについてお訊きしました。
評価ポイント1:「3対1」の職員数では良質な介護にはならない
さまざまな高齢者施設の中から、良い高齢者施設を選ぶための評価ポイントとして一番重要なものは何でしょうか。
私が一番重要だと考えているのは、経営者や法人の理念や考え方です。ところが、一般の人は、経営者にはそう簡単には会えませんし、会えたとしても短い面談の中で理念や哲学まで聞き出すのは難しいことです。
そこで私は、一般の人でも確認しやすい客観的な数値から優良施設かどうかを見分ける方法を推奨しています。
それは、優良施設は「職員総数が入居者数の8割以上」であるということです。
私は、見て回った全国の高齢者施設を格付け評価していますが、優良施設に共通する特徴の一つは、総職員数が入居定員を上回っていたことです。つまり、お客さんよりスタッフの数の方が多いのです。
そして、優良施設とそうでない施設の分岐点は、職員総数が入居者数の8割になっていました。
一方、格付け評価が低い施設では、5割を切るところが多く、中には2割を切るようなひどいところもあります。
厚労省が示している職員配置数の基準は「要介護者3人対職員1人」ですから、これとは違いますね。
要介護者3人対職員1人というと、たいていの入居者や家族は、介護が必要な入居者が30人いたら、介護職員10人が四六時中お世話してくれるのだろうと思うでしょう。
ところが、そうではないのです。ここが一般の人が誤解しやすい数字のマジックです。
どういうことかと言いますと、入居者1人が介護を必要とする時間は24時間ですから、3人だと72時間になります。
片や介護職員の勤務時間は1日8時間ですから、「3対1」と言っても、実は一日当たりに換算すると「9対1」時間の人員配置なのです。つまり、要介護時間は9時間に対して、職員は1時間しか介護サービスをできないのです。
ですから、法律を順守しただけの「3対1」の配置では、良質な介護にはならないのです。
「要介護者1.5人対職員1人」という職員配置基準もありますね。
一番贅沢な人員配置と言われていますが、これも一日当たりに換算すると、「4.5対1」時間にしかなりません。
それに対し、私が言う「総職員数が入居者数の80%」というのは、分かりやすくするために入居者を100人とすると、一日の生活時間は2,400時間、スタッフ80人の一日の労働時間は640時間です。
そうすると、一日当たりは「3.75対1」時間となり、要介護者1.5人対職員1人よりずっと良くなります。
つまり、社長もフロントも掃除のおばちゃんも、皆が入居者のことを考えて動く施設が一番良いのです。
極端な言い方をすると、担当とか、職務が分れていたら、入居者が倒れていても手を貸さないかもしれないし、ゴミが落ちていても拾わないかもしれません。
これに対し、総職員数が多い優良施設は、入居者が困っていたら職員皆が何でもするので、入居者は居心地が良く、満足度も高いのです。
優良施設と低評価施設それぞれ9施設の、入居金の償却や家賃、食費、介護保険料など入居から7年間にかかる費用の平均を計算してみたら、優良施設と低評価施設の平均費用はあまり変わりませんでした。
それならば、優良施設に入居した方がよほど良いわけです。
総職員数が多いということは人件費などがアップするわけですが、経営的にはどうなのでしょうか。
優良施設は経営的にも良いところが多いです。というのは、人手を増やすことによって、入居者が満足し、家族が安心しますので、口コミ、評判がよくなり、その結果、常に満室となり、職員も辞めませんので黒字経営になるのです。
介護を行なおうという人たちは、高収入より、入居者に喜んでもらい、満足してもらうことを働きがい、生きがいとしている人たちが多いのです。だから、入居者を大切にする優良施設は、職員の定着率も良いのです。
職員数が入居者数の8割未満では、入居者の満足、家族の安心、納得が不十分であり、職員も作業負荷が重く、責任とストレスも過大となって、離職率が高くなります。
職員がコロコロ変わってしまう施設では、入居者は安心できません。同じ顔の職員がズーッと居てくれるからこそ安心できるのです。
ですから、優良施設かどうかを見分けるのに、職員の勤続年数もひとつのモノサシになります。3年以上勤務している職員が、全体の5割以上を占めていれば、安心できる施設と言えます。
評価ポイント2:「子や孫をここで働かせたい」等と思えるか?
良い高齢者施設を選ぶための評価ポイントの2つ目は何でしょうか。
プロでなくても判断しやすい評価の方法がもう一つあります。それは、「親に勧めたい」「自分も入居したい」「子供や孫にここで働かせたい」などと思えることです。
例えば、親が入居する施設を探しているなら、「将来、自分も入居したいかどうか」を想像してみてください。緊急を要する時ほど妥協したい気持ちが先にたちがちになりますが、自分のこととして想像してみると、ハッと目を覚まさせてくれるものです。
あるいは、子供や孫がいらっしゃる方なら、「ここで働かせられるかどうか」と考えてみると良いでしょう。そこで働いている職員が明るくノビノビとして、子供や孫を働かせたいと思えるような施設なら優良施設です。
そうではなくて、こんなところで働かせるのは「大変そう」「恥ずかしい」などと感じるような施設は、入居しないことです。
評価ポイント3:「認知症ケア」が充実していること
評価ポイントの3つ目をお聞かせください。
「認知症ケア」が充実していることです。
現在は、80歳を過ぎたら、5割くらいの人が認知症になります。人生の最期になって、馬鹿にされたり、放っておかれたり、騙されたり、虐待されたりすることが、入居者や家族にとって一番嫌なことですよね。ですから、認知症ケアが充実していることが重要なのです。
介護・ケアは、知識、経験が重要ですが、それ以上に、接し方、対応の方法といった特別の配慮が必要なのが認知症への対処法です。
最近は、認知症介護専門士という資格もありますが、一般の方が知っておくべきことは、入居する前に、認知症ケアの優劣を見分ける方法です。
通常の施設では、「大声を出す」「叫ぶ」「暴力を振るう」「昼夜を問わず徘徊が見られる」といった場合は、他の入居者の迷惑になるからといった理由で、入居を断られることがほとんどです。
しかし、精神病と伝染病、感染症以外はどなたでもお受けしますという施設もあります。こういうところこそ、自宅にも勝る本物の「終の棲家」です。
どなたでも受けるのは、どういう施設ですか。
介護の人手が十分あって、やる気のある施設です。先ほど言いました、接し方や対応の仕方といった特別の配慮ができるのは、そういう施設です。
認知症が悪化するのは、病院で放っておかれたりしてストレスがたまったということが多いのです。ですから、人手があって、誰か一人が真正面から向き合って相手をすれば、認知症の症状は改善してきます。
評価ポイント4:「看取りケア」が充実していること
良い高齢者施設かどうかを見分ける4つ目の評価ポイントは何でしょうか。
「終の棲家」として、看取りケアがきちんと行なえることです。
最近は無理な、あるいは不要な延命治療は避けて、家族や知人に囲まれた中で自然な最期を希望される方も多くなっています。
それを可能にするのは、本人と家族、親族の合意に加えて、施設のスタッフ、そして老衰死に理解のある医師の存在が不可欠です。
治療よりも終末期の判断、症状を介護スタッフや家族に伝え、指示・助言し、見守り、そして看取る医師の存在こそが良き最期を迎えられる条件です。
協力医療機関の医師が、老衰死に理解があることが重要なわけですね。
そうです。看取りを行なうと、介護保険の看取り加算が付きますが、さほどの金額ではありません。
儲けようとするなら、薬をどんどん出して延命治療した方が良いのです。看取りになったら、薬は出さない、延命治療はしないから儲からないわけです。
ですから、看取りをしようと思ったら、協力医療機関の医師が心ある医師の施設を探さないといけません。
一般の人には難しそうですね。
確かに、施設に「看取りをやっていますか」と聞くと、2~3年に一人しか看取っていないところでも、「やっています」「出来ます」と言います。
そう言って入居させておきながら、症状が悪化したりしてくると、「うちは医療機関ではないので病院に行かれた方が良いですよ」などと言うところもあります。
そういう意味では、入居する前に見極めるのは難しいかもしれません。
でも、「どういうお医者様が来ていらっしゃるのですか」「延命治療はしなくてもよいですか」などと聞いていくと、心ある医師と連携している施設は、「実は、うちには○○先生という方がいらして、これこれこういう先生なのですよ」と自慢げに話しますよ。
医師の名前が出てこないような施設では駄目ですね。
評価ポイント5:経営者/法人の理念や考え方に共感できる
良い高齢者施設を選ぶための評価ポイントをもう1つ挙げていただけますか。
冒頭で言いました経営者・法人の理念や考え方です。一般の人には、情報が得にくくて判断しにくいのですが、優良な高齢者施設を選ぶ上では一番重要なことです。
というのは、各施設の優劣を左右するのは、トップの理念、考え方、言葉、行動だからです。
施設長、スタッフが高いモチベーションを持って介護サ―ビスに取り組むか、入居者が満足し、家族も納得・感謝して、口コミ・評判が高まるかは、すべてが経営者次第と言っても過言ではありません。
逆に、経営者に正直さ、誠実さ、真贄さなどが欠ける場合は、現場の施設長、スタッフがそれを見抜き、やる気を無くして組織がチームとしてまとまらず、離職率の高い職場となってしまいます。入居者、家族もそれに気づき、満足度も入居率も低迷する施設となります。
優良な高齢者施設とは、建物、設備の立派さや、広い居室、至れり尽くせりのサービス以上に、誠実で優しいスタッフが心を込めて一生懸命に世話をしてくれる施設のことです。入居者はそれに満足し、家族も納得・安心して感謝するのです。
実際、現場を担う良いスタッフは、自然に集まるものではありません。経営者が考え、理念、展望、目的、目標などを明確に示し、教育、研修、訓練も行ない、入居者・家族への献身的なサービス、介護や看護を認め、励ますことで良いスタッフが生まれ、集まり、定着するのです。これらはすべて経営者にしかできないことです。
経営者/法人の理念や考え方が、高齢者施設の優劣を左右するということを数値データで示すものはありますか。
高齢者施設の優劣を左右する項目を30項目ピックアップし、各項目の権限・責任は誰にあるのかを配点して合計を出してみたところ、運営法人(経営者)が69%、スタッフ16%、施設長15%の権限・責任という結果でした。
つまり、施設の優劣は、運営法人(経営者)によって約7割が決まってしまうのです。
冒頭で言いましたように、一般の人は、経営者にはそう簡単には会えませんし、会えたとしても短い面談の中で理念や哲学まで聞き出すのは難しいですが、とは言え、施設の優劣の決め手は経営者なのです。
入居の最終的な判断を下す前に、短時間でも良いので、経営者に直接会って話を聞いてみることをお勧めします。
高齢者施設建て直しの支援もスタート
良い高齢者施設を選ぶ時の評価ポイントを5つ挙げていただきましたが、施設にとっては厳しい評価ですね。5つの評価ポイントをクリアした、上岡さんが入居希望者にお勧めできる施設はどのくらいあるのでしょうか。
私は、高齢者施設に入居を希望される高齢者やその家族のために、入居相談や施設紹介を始めましたので、厳しく調査・評価をしています。
その結果、私がお勧めできるのは全施設の中の5パーセント位しかありません。非常に少ないのが現状です
そのため、当法人に施設紹介の依頼をされても、ご自宅の近くにはないことが多く、遠くに行なってもらわなければなりません。それでは、消費者にとっては不便ですし、もっと身近にあった方が良いと思います。
また、施設経営者は悪徳経営者ばかりではなく、良心的な経営者もいます。そうした経営者のところでも、「部屋が埋まらない」、「従業員が定着しない」というところが多くあります。
そこで私は、そうした施設の経営を立て直すためのお手伝いを始めることにしました。
今までの入居相談や施設紹介だと、ご本人と家族など10人程度の関係者のお役に立つ事業でしたが、一つの高齢者施設を建て直すことができると、入居者や施設のスタッフなど、100人、200人のお役に立つことができます。
ですから、今後は施設の建て直しのお手伝いにも力を入れ、優良な施設を増やしていきます。
本日はとても貴重なお話をありがとうございました。
【上岡榮信(うえおか しげのぶ)氏のプロフィール】
一般社団法人 有料老人ホーム入居支援センター理事長。
1949年愛媛県伊予市生まれ。
通訳業を経て、1983年から厚生労働省や全国有料老人ホーム協会、高齢者住宅財団、民間企業などと共に、国内外の高齢者施設・住宅を多数訪問。高齢者施設の多様な実態をつかみ、独自に調査を始める。
2010年に一般社団法人 有料老人ホーム入居支援センターを設立。入居者の視点に立ち、独自の基準で施設の調査・格付けを行なう。また、優良な高齢者施設を紹介し、依頼者の「終の棲家」選びをサポートしている。
これまでに視察・見学した高齢者施設・住宅は、国内で1,600物件(2,350回訪問)、海外で650物件を数える。
主な著書に『絶対に失敗しない有料老人ホームの選び方』(2010年、河出書房新社)、『老人ホーム探し50の法則』(2013年、日経BP社)、『安心・快適 高齢者施設ガイド2019』(2018年、日本経済新聞出版社)がある。
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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。