第19回: 江村哲也氏に訊く「葬儀業界の読み方」と「天光社の戦略」
葬儀紹介業に頼るのは止め、自力の地縁活動の徹底で成長を図る

[2019/10/1 00:00]


株式会社天光社(本社:福岡)は、約四十の葬祭ホールを出店し、37億円(2018年度)を売り上げる中堅の葬儀専門会社です。

同社は今後、葬儀業界に大きな影響を及ぼす葬儀社の1社になるだろう、と私は見ています。

その主な理由は、2つあります。

1つは、2017年春、大手金融会社が天光社を買収し、オーナーになったことです。

もう1つは、フードサービス業に30年に渡って携わり、ワタミの専務を務めるなど、経営者として活躍してきた江村哲也(えむら てつや)氏が、2017年6月、天光社の副社長として入社(2017年12月社長就任)したことです。

そこで、江村社長に、葬儀業界の読み方や天光社の戦略についてお訊きしました。

江村哲也氏

ヘッドハンティングによって天光社に入社

まず、天光社さんに入社された経緯からお聞かせください。

ご存じだと思いますが、大手金融会社が天光社を2017年春に買収してオーナーとなりました。買収の最終段階に入って、天光社の社長を募集していました。

私は、海外で飲食店を立ち上げ、多店舗展開にチャレンジしていたのですが、新たな分野で自分の可能性を試したいという思いが強くなり、2015年に日本に戻ってきました。

日本に戻って、知り合いの会社などいくつかの会社のお手伝いをしていて2年ほど経ったので、そろそろきちんと就職しようと思い「ビズリーチ」(管理職や専門職などのハイクラス転職サイト)に登録しました。

天光社の経営者としてのお話は、ビズリーチから提案された候補先の一つでした。

私は、フードザービス業の経験が長いのですが、フードサービス業にこだわっていませんでしたし、地域にもこだわりはありませんでしたので、天光社を見学させてもらいました。

その上で、天光社の経営陣からお話をお聞きして検討し、お受けすることにしました。

何が決め手だったのでしょうか。

主な理由は2つあります。

一つは、日本全体の少子高齢化がさらに進み、フードサービス業など多くのサービス業の市場規模がシュリンクしてくことが目に見えている中で、葬儀業界にはまだまだ伸びる可能性があると思ったことです。

もう一つは、私の経験が活かせるのではないかと思ったことです。

具体的には、私はもともと、チェーン展開するフードサービス業のマネジメントを行なってきましたが、天光社も事業所が日本の各地にバラついています。

そのバラついた事業所をマネジメントしていく上で、私が行なってきたことが活かせるのではないかと思いました。

また、フードサービス業も直接お客様とかかわるサービス業ですから、葬祭業と近いところがあり、そういう面でも私が過去に行なってきたことが活かせるのではないかと考えました。

天光社としてもそのように思われて、私を雇ったのではないでしょうか。

葬儀はやりがいのある素晴らしい仕事

葬儀業界に関わられるようになられて2年経たれましたから、業界のこともだいぶお分かりになってきたのではないかと思います。葬儀業界の良いと思う点と疑問に思う点をお聞かせいただけますか。

良いと思う点は、まず、葬儀というのは社会から必要とされている、すごくやりがいのある仕事だということです。

そう思ったのは、私が今まで働いてきたところの人たちと比べると、当社の社員は優秀な人が多いことからです。20代、30代の若い社員でも礼儀正しく、思いやりがあるのは、多分、仕事のおかげだろうと思うのです。

葬儀業は、ご喪家が大変な時に寄り添い、一生のうちで数限られた大切なイベントを成し遂げるお手伝いをします。

ご喪家は、悲しみと不安の中にあり、お手伝いする我々は、見せかけの優しさや、上辺(うわべ)だけの思いやりなどは通用しません。

真摯(しんし)に仕事に向き合い、人間性が問われるような場面に何度も立ち会っているからこそ、本当に思いやりのある人間性豊かな人に育っていくのでしょう。

葬儀業では、同じ業界内で転職する人が多いのも、やりがいを感じる仕事という要因が大きいのではないでしょうか。

若くして葬儀を任され、場合によっては結構な金額のお金をいただくにも関わらず、お客様から涙を流して「ありがとう」と言っていただける職種など、他にはなかなかありません。

葬儀というのは、仕事によって喜び、やりがいを感じ、それによって人間としても成長していく素晴らしい仕事だと思います。

愚直に努力を続けなければならない仕事

一方、葬儀業界の疑問に思う点はいかがでしょうか。

葬儀業界の特徴は、フードサービス業や他のサービス業に比べて、顧客の反応が非常に鈍いということです。

飲食や洋服などと違い、葬儀というのは家族や親族として関わる機会が限られていますし、喪主になるのは一生に一度だったりします。

ですから、葬儀業は、サービス内容や料金などを変えても、その反応が返ってくるのが非常に遅いのでしょう。

他のサービス業であれば、値段の上げ下げやメニューの変更などに顧客はすぐ反応しますので、手の打ち方の善し悪しがすぐに分かるのですが、葬儀業は反応が現れるまでに時間がかかりますので、糠(ぬか)に釘を打っている感じですね。

ということは、葬儀業はどうあらねばならないということでしょうか。

反応がすぐに返ってこないと、胡坐(あぐら)をかいてしまいがちになります。例えば、高い値段をつけて、顧客は納得しなくても、葬儀業の場合はすぐに反応しないので、高い値段でいいではないかと胡坐をかいてきた部分があるのではないでしょうか。それでは、顧客の信頼を失っていきます。

反応が鈍いということは、反応が現れるまで、愚直に努力を続けていかなければならない仕事だということです。

しかし、反応が見えないのに愚直に努力を続けるということは難しいことです。それをどうやりきるかが重要なのだと思います。

葬儀業界には2つの大きなインパクトがある

葬儀業界の問題・課題点ということではいかがでしょうか。

葬儀社にいま、大きなインパクトを与えていることが2つあると捉えています。

一つは、葬儀単価が下がっていること。もう一つは、インターネットによる葬儀紹介業者が勢力を増してきていることです。

この2つに対して、葬儀社は危機感を持ち、明確な指針や戦略を立てて経営していかなければならないと思うのですが、果たして、そういう葬儀社はどのくらいあるのか、それが葬儀業界の一番の問題であり課題ではないでしょうか。

もう少し、具体的にお聞かせいただけますか。

多くの葬儀社は、二十年前位に建てた大きな葬儀場をいくつか持っています。

当時は多分、それでたくさん稼げたのでしょうが、葬儀単価が真綿で首が絞められるようにして段々と下がってきた。それに対して、周りで「最近は家族葬ホールがいいよね」と言っているので、うちもちょっとやってみようということで家族葬ホールを建ててみた。

しかし、やはり単価はすごく低いし、そこにシフトするわけにはいかない。

じゃ、どうする、どうすると思っているうちに、単価はさらに下がってきて、じゃ、売ってしまおうかと思う。そういう葬儀社がとても多くなっているのではないでしょうか。

しかし、そういう中途半端な考え方、対応ではなく、現状を否定して、シフトチェンジしていかなければならない時期にきていると思うのです。

今後、勝ち残っていくためには、それを、勇気を持って行なえるかどうかだと思います。

もう一つの、ネットによる葬儀紹介業については、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。

葬儀紹介業者による紹介を受けると、自社で提供している価格体系も内容も違う葬儀サービスを、同じブランドで提供するわけですから、自社のブランドが棄損(きそん)してしまいます。

また、従業員も嫌になってしまいます。

同じお客様なのに、葬儀紹介業者から紹介されるものは、紹介料を払って利益を出すためには、お客様にやってあげてはいけないことも多くならざるを得ません。

その結果、従業員としても納得できる施行ができず、疲弊してしまいます。

ですから、葬儀紹介業については、それに対抗できるリアル店舗ならではのことをしていかなければならないと思います。

コンビニ跡地の家族葬ホールを増やす

では、そうした問題と課題を踏まえて、江村社長はどのような戦略をとられているのか、あるいはとられていくのかについてお聞かせ下さい。

先ほど言いました、葬儀単価が下がってきているのは、参列者が少なくなってきていることから起こってきていることなので、葬儀の小規模化は避けられないことだと思います。

ですから、そこに大きくシフトチェンジしていくことが大事だと考えています。

天光社の中で、いま成績が良いのは、家族葬ホールを展開している大阪、兵庫の関西地区です。この家族葬ホールをプロトタイプとして、都市型の家族葬ホールを各地にどんどん展開していきたいと思っています。

片や、創業の地である福岡には、先ほど言いましたように、二十数年前に建てた式場がたくさんあります。

これらを、例えば、同じ敷地内に家族葬ホールを建てたり、2つ式場があるところは、1つを家族葬ホールにリニューアルするなど、ダウンサイジングしてきています。

これらのことは、多くの葬儀社が今後行なわなければならないことだと思いますし、当社はそれに勇気を持ってチャレンジし、しっかりシフトチェンジしていきます。

都市型の家族葬ホールにもいろいろあると思います。天光社さんの家族葬ホールの特徴はどこでしょう。

30人収容できる、40坪くらいのコンビニの跡地で展開できる形を基本に考えています。

大は小を兼ねますから、つい50~60人位は収容できるようにしようと思ってしまいがちなのですが、都市部での参列者数はほとんどが30人以下です。

50~60人位参列することもたまにありますが、これからはますます単価が下がっていくでしょうし、競争も激しくなりますので、欲張ってはいけないと思っています。

投資は5千万円位くらいに抑えないといけないと思いますので、そうすると、コンビニ跡地が最適ですし、新しく建てる場合も5千万円で納まるように考えています。

コンビニ跡地での家族葬ホールは、現状でも、全国の葬儀社の中で当社が一番多いのではないでしょうか。

コンビニでは潰れる店舗も増えていますね。

全国に約5万5千件あるコンビニのうち、潰れる店舗が、毎年2千件あります。

コンビニの跡地にフィットするのは、マッサージ、コインランドリーと葬儀業くらいしかありませんので、跡地物件も比較的入手しやすくなっています。

地縁活動をマネジメント強化によって徹底する

葬儀紹介業からの紹介については、どのようにされているのでしょうか。

私が入社した時には、関西地区では、紹介は施行件数のうちの3割を占めていました。それを、先ほど言った理由から、基本的には止めました。

基本的というのは、先方から依頼されたものは断わりませんが、こちらからはお願いしないという意味です。

その結果、紹介はほとんど無くなりました。

施行件数のうちの3割というのは、かなりの件数ですね。紹介を止めることをよく決断されましたね。

私は、葬儀業界で働くようになって、違和感を覚えました。それは、当社に限らず、他の葬儀社もそうだと思うのですが、葬祭ホールに結構な投資をしながら、稼働率は低いということです。

月の稼働日数で言いますと、葬儀/告別式に通夜を入れても10日位でしょう。残りの20日間は、式場としては稼働していないわけです。

言葉は悪いですが、そこにつけこんできたのが、葬儀紹介業者だと思うのです。

式場が空いていて、人もいる。ホールは損益分岐点を一応超えているのだから、紹介手数料を15~20%払っても紹介を受けた方が得でしょう、とそそのかされて、それに乗ってしまったわけです。

しかし、私は、ホールが20日間空いているなら、その時間にやるべきことをやり、時間をもっと有効活用すれば、葬儀紹介業者に頼らなくても、葬儀件数は増えるはずだと考えました。

その20日間は、我々は葬祭ホールを中心に営業しているのですから、自分達が納得できる施行ができるように、自分達でお客様を集めるという、リアル店舗ならではの渉外活動を行なうようにしました。

自治会や老人会、カルチャーセンターなどを回っています。これを地域との縁をつくるという意味で「地縁活動」と言っています。

地域向けイベント「終活いきいきカフェ」の様子。お葬式クイズで盛り上がっている
地域向けイベント「人形供養祭」の様子

地縁活動を行なう時間はどのようにしているでしょうか。

葬儀業界で働くようになって、この業界には、時間単位で仕事を管理する「人時(にんじ)」という考え方や、作業指示を行なうということがないということが分かりました。

先ほど言いましたように、月のうち、稼働しているのは10日間だけで、残りの20日間はどうしているのかというと、「それなりに任せます」みたいになってしまっていて、マネジメントがされていないのです。

人時で考えて、作業割当を行なうということをしないから、ちゃんとした地縁活動ができないのです。

フードサービス業などでは当たり前の人時での作業割当を、葬儀社で導入するのは初ですね。とは言え、葬儀は突発的に依頼されますので、葬祭業で導入するのはなかなか難しいと思うのですが、どうような形で導入されたのですか。

1週間単位で作業計画を立てさせます。その計画の中に、地縁活動を行なう時間も入れます。

その計画表に基づいて作業をしているうちに、施行が立て込んできたりしたら、4~5葬祭ホールで7~8人いるスタッフを見ているエリア長が、「A君はあっちに行け、B君はこっちに行け」と作業指示を出します。

その結果を記録して、1週間単位で振り返り、週次のタスクを予定通りクリアしたか、それに費やした人時は適正であったかをすり合わせします。

葬儀社の場合は、施行をしたくて入社してくる人が多いと思うのですが、そのあたりはどうされているのですか。

渉外活動は不得手な社員はいます。そこで、施行が得意な社員は、施行を主にして渉外活動はヘルプにする。渉外が得意な社員は、渉外を主にして施行はヘルプにして良いことにして、あとはエリア長の裁量に任せています。

それでも辞めていく社員はいるでしょうね。

多いですよ。全社員のうちの1割位が辞めました。間接部門を除き、現場担当者だけでみると、退職率はもっと高くなります。

先ほど言いましたように、葬儀紹介業からの紹介を受けるのは、ブランドを毀損するだけでなく社員も疲弊します。

葬儀紹介業からの仕事をするのは、現場の皆が嫌だと言っていたことです。嫌だったら、自分達でお客様を見つけてくるしかありません。

矜持(きょうじ)を持って葬儀社としてやっていくためにも、辞めていく社員が出てくることは、致し方のないことだと思っています。

ちゃんとお見送りをしたいという人達にフォーカスしていく

この2年間は、既存路線の中で改善・改革すべきところに手を打たれてきたわけですね。今後は、江村社長らしい新しい戦略も打ち出されてくるのだろうと思います。最後に、今後のビジョンをお聞かせ下さい。

葬儀はダウンサイジングしていこうが、家族だけでお見送りをしようが、ちゃんとお見送りしたいという方々はいらっしゃると思います。

将来、直葬が50~60%になったとしても、ちゃんとお見送りしたいという方々は30~40%は残ると思いますし、我々はそういう方々にフォーカスし、お客様になっていただくようにしていかなければならないと考えています。

それを、プライスゾーンとして、しっかり構築していきたいと思っています。

今の葬儀業というのは、同じホールで、200万円以上の高額施行を行なったり、葬儀紹介会社から50万円以下の安い葬儀も取って施行するということをしていますが、これは業態としていびつだと思うのです。

ですから、こういう店舗で、こういうクオリティーの、こういうプライスゾーンのお葬式が、当社のブランドである「千の風」とお客様に認識されるように、業態として確立していきたいと考えています。

コンビニ跡地を活用したホール展開をするといっても、安売りするわけではないということですね。

そうです。ちゃんと見送りたいという方々には、湯棺とか、お花とか、いろいろな商品やサービスがありますので、80万円位でもリーズナブルなプライスだと思います。そのことを、しっかり訴求し、理解していただかなければなりません。

今の生活者の皆さんの多くは、葬儀のことをご存じないと思うのです。

ネットで20万円以下という価格を見て、葬儀はこんなに安い時代になったのだと思っていらっしゃる方も多いのかもしれません。

しかし、その価格ではちゃんとした葬儀はおろか、儀式は行なえずに遺体処理程度のことしかできず、後で後悔することになるということをご存じない方も多いと思うのです。

ですから、こういう時に、このように選択をしないと、後でこのような問題になりますよといった情報提供も含めて、我々は前もってお伝えしていかなければなりません。

ホールを出店しているのは、そのためでもあるのです。

【家族葬ホール内部】家のリビングで過ごすかのような雰囲気でゆっくり過ごせる設備
【家族葬ホール内部】非日常の雰囲気で、家族がリラックスして過ごせるように設計

昔は、お見送りは地域社会が担っていて、死生観も自然に醸成(じょうせい)されていましたが、今は地域社会が崩壊して、お見送りの意義や大切さも伝わらなくなってきていますので、我々葬儀社がちゃんと考えて、地域の人達に伝えていくしかありません。

地縁活動やイベントも、我々のことを訴求してお客様を集めるためだけではなく、日本の良き伝統文化を受け継いでいくためにも、我々葬儀社が行なわなければならない役目だと考えています。

本日のお話の中で、特に、葬儀紹介業から紹介を受けるのは止め、自力での集客を徹底されているというお話は、多くの葬儀社や供養業者にとても参考になると思います。貴重なお話をありがとうございました。


【江村哲也(えむら てつや)氏のプロフィール】

株式会社天光社 代表取締役社長

1958年 富山県生まれ。長野大学卒業後、地元富山でホームセンターに就職。

1989年に上京し、株式会社 ワタミフードサービス(現株式会社 ワタミ)入社。

居食屋「和民」を業態開発し100店舗まで専務取締役として担当。

T.G.I.Friday's Japanへ移籍し、代表取締役社長として海外食文化の導入を実践。

その後ゴハンクリーエーションへ移籍し、社長として海外での日本食レストラン事業に従事。

2002年 ワタミグループを退社。

2004年 米国にてDream Dining Corporationを設立し、日本食レストランを展開。

2014年 帰国 現在に至る

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]