第20回:王計生氏に訊く中国葬祭業界の現状と展望
デジタル技術によって葬祭文化は豊かになる

[2019/11/5 00:00]


人口は約14億人、年間死亡者数は約1千万人と、いずれも日本の約10倍の中国。

1970年代後半に改革開放政策が導入され、市場経済体制に移行して以降、経済は急速に成長し、世界第2位の経済大国にまでなったことは日本でもよく知られています。

しかし、葬祭業界のことについては、あまり知られていません。

そこで、中国葬祭協会の副会長で、中国では飛躍的に発展している福寿園国際集団の王計生(おう けいせい)代表取締役に、中国葬祭業界の現状と展望についてお訊きしました。

王計生(おう けいせい)氏

葬祭事業で重要なのは人間の尊厳と環境保護

本題に入る前に一つお聞きしますが、「中国葬祭協会」というのはどのような団体でしょうか。

政府の下部組織のような団体で、政府の政策の実行をサポートしたり、政府と葬祭業界との間の調整などを行なっています。

福寿園国際集団という民間企業の社長が、政府系の団体の副会長に就任されていらっしゃるのは、政府からも高く評価されているということですね。

では、本題に入らせていただきますが、葬祭について、王さんの基本的なお考え方をお聞かせ下さい。

私のメインの仕事は墓地ですが、墓地は葬祭の中のごく一部でしかありません。

しかし、墓地の背景には、葬祭文化という大きい豊富な内容があり、それをいかに引き出し、いかに世の中にアピールしていくかが私の使命だと思っています。

葬祭という文化は、人間にしかありません。

その人間には、2種類の性質があります。一つは自然性、もう一つは社会性です。

人類の最初の段階は、動物とさほど変わりがなく、自然性の方が強かったけれども、人類の進化とともに、人類の自覚もますます高まり、人間としての尊厳を重視する方向に進んできました。

葬祭文化の数千年に渡る研究テーマの一つは、人間と自然との循環ということです。

中国の伝統文化にも、天人合一(てんじんごういつ)という言葉があります。これは、科学技術などを駆使して、人間はもっと自然と融合できるようにしていこうという考え方です。

例えば、昔は土葬でした。今は、世界中で火葬が主流となり、さらに新しい技術を駆使したいろいろな方法が出来てきています。例えば、宇宙葬とか、低温で遺体を分解する氷葬等々です。

このように、人間と自然とがいかに融合できるかという考え方で葬祭文化を研究、開発、実践しています。

もう一つの社会性というのは、人間には感情や思想など精神的な面や、家族や他の人との人間関係などの社会的な面があるということです。

そうした社会性も葬祭の中に含まれ、一つの文化となってきました。これが葬祭文化ということですね。

「循環」という考え方は、日本にはあまりありません。

私は、葬祭というのは人間と自然との「肉体的な循環」と、「精神・感情的な循環」が一緒になったものだと理解しています。

どういうことかと言いますと、例えば墓地は、遺体やお骨を埋葬し、自然に還すという肉体的な循環の場所であると同時に、メモリアルゼーション、すなわち追悼するという精神・感情的な循環の場所でもあるということです。

言葉を変えますと、墓地というのは精神・感情的な財産を、後世の人たちに遺すということなのです。

これからの墓地や葬祭は、どのようになっていくとお考えですか。

お墓には、2つの意味があります。一つは、記号的、つまりシンボル的な意味、もう一つは、記念・記憶的な意味です。

私は、これからのお墓は、後者の意味が大きくなっていくだろうと考えています。

昔のお墓は、大きければ良いという傾向にありました。それは、大きくして人に見せるためでした。

しかし、デジタル時代になって、お墓にも一つの空想的、想像的な空間が生まれてきています。

我われはそれを、「虚擬(きょぎ)」と言っていますが、将来のお墓というのは、物理的な空間より、架空の空間になっていくのではないかと思われます。

科学技術の発展により、文字や画像などは全部デジタル化できますので、それが可能になると思うのです。

今後、葬祭がそういう方向に向かえば、今までの葬祭とは違って、葬祭文化の内容も非常に豊富になり、人類文明にも大きく貢献できるだろうと思います。

もちろん、古代のお墓にもいろいろなメッセージが残されており、人類文明に大きく貢献しましたが、でも、ボリューム的には少ないです。

それが、デジタル化によって、どんどん拡大していくことが可能になりました。

デジタル化によって、墓地だけでも莫大なメッセージが入りますので、そういう意味で、これからの葬祭というのは、非常に有望な産業で、面白い仕事だと思っています。

葬祭を事業、仕事としていくには、何が重要だとお考えですか。

一番重要なのは、人間に対する尊重、尊厳です。二番目は、環境保護、環境に優しいということです。

私は、この両面から葬祭を研究し、実践してきました。また、中国の葬祭業界で、こういう理念をずっとアピールしてきました。

葬祭事業のキーワードは「高齢化」「都市化」「市場化」

次に、中国の葬祭業界の現状についてお聞かせください。

中国は、改革開放政策が導入されて以来、経済はハイスピードで発展してきました。

特に都市建設が発展するに連れ、我われの葬祭業界においても、新しい近代的な施設がたくさん造られ、人々の葬祭関連で困ることをだいぶ解消してきました。

さらに、我われの業界では、人文、環境保護、生態、科学技術などの新しい理念で業界の発展を推し進めており、それらが次第に業界に浸透し、変化してきています。

一つの例を挙げれば、お墓を公園にするという変化です。そして、土地を節約するために、お墓の小型化という方向に向かっています。

環境保護という意識が高まってきた結果、火葬率も年々上がってきて、48.9%となっています。

改革開放政策が導入されたことにより、葬祭業界も変わってきたわけですね。

そうです。中国の葬祭事業を理解するには、いくつかのポイントがあり、一つは「高齢化」ということです。

国家統計局が今年2月に発表した官報によると、全国の65歳以上の人口は、2018年末に1億6千万人を超えました。

ポイントの2つ目は、都市化です。中国では、農耕文明が長く続きましたが、近年になって都市化が急速に進み、人口の都市化率は59.6%と6割近くになっています。

この高齢化率と都市化率が高くなることは、死亡率も高くなることを意味しています。

中国の死亡者数はいま、どのくらいですか。

年間1,000万人です。それが、国の予測では、15~20年後には、2,000万人になると予測されています。

高齢化率と都市化率が高くなるということは、農耕文明時代の葬祭が、近代的な葬祭に変わっていくということも意味しています。

農村部の葬祭は、自給自足で、とてもシンプルなものです。しかし、都市部の葬祭は、農村部とは全く違います。

都市部では、人々の生活の質の向上を図るニーズが増加し、それと共に、葬祭サービスに対するニーズも増えてきました。

これは、葬祭事業の「市場化」であり、中国の葬祭事業を理解する上での3つ目のポイントです。

中国では、葬祭事業が市場化されることによって、新しい、レベルの高いサービスに対するニーズがどんどん膨らんできています。

都市化によって、葬祭の市場が形成され、事業にできるようになったわけですね。

そうです。ところが、中国の人口は約14億人なのに対し、葬祭サービス施設は、全国に4,132カ所しかありません。そのうち、火葬場は1,760カ所、霊園は1,420カ所です。

例えば、火葬場ですが、火葬炉は6,361基と非常に少なく、年間482万体しか火葬できていません。

このデータから分かるように、中国の葬祭事業は明らかに遅れています。葬祭施設は不足していますし、葬祭事業に携わっている従業員もとても少ないです。

中国の葬祭は、ニーズは莫大にあるのに、供給は不足しているという矛盾した現状になっています。

でも、中国政府もこの問題に気づき、少しずつ改善してきています。

葬祭サービス施設4,132カ所の中に、葬儀会館はどのくらいあるのですか。

非常に少ないです。というのは、法律上では、亡くなった後は、火葬場に直行して火葬することになっており、他の場所に葬祭会館を造ってはいけないことになっているからです。

火葬場には、ホールもありますので、15分~30分程度の葬儀を行なう人も増えてきていますが、法律上は火葬すればOKということになっています。

ですから、中国の葬儀は、歴史的に言えば、まだ処理の段階に留まっています。この処理を、葬祭サ―ビスに変えていくのが我われの仕事だと思っています。

でも、政府も少しずつ変わってきています。

葬儀はなぜ、処理の段階に留まっているのでしょうか。

いろいろな要因があると思いますが、文化大革命の影響も大きいと思います。

文化大革命によって、中国の伝統文化は、葬祭文化も含めてすべて否定され、破壊されました。

儒教の生命の尊厳を重んじる思想なども否定されてしまいました。

例えば、日本ではお盆には、企業も休みになり、田舎に帰って先祖を祀るということが習慣になっていますよね。

中国にもお墓参りの日として清明節(せいめいせつ)がありますが、国が決めた休日になったのは、つい数年前のことです。

逆に言いますと、伝統文化も復活してきているのでしょうか。

はい。文化大革命の影響で、葬祭文化の発展は遅れてきましたが、改革開放以降、政府も伝統文化のことを認めはじめ、少しずつ回復してきています。

中国の葬祭は、火葬場と墓地が中心ということですが、運営主体はどうなっているのでしょうか。

火葬場は役所が運営しており、墓地は、実質的に半官半民になっています。

つまり、墓地の方が市場化されやすく、発展しやすくなっているということですね。

そういうことです。

伝統的な葬祭から、近代的な人文記念へ

中国葬祭業界はどのように進化・発展してきていますか。

中国の葬祭事業も、伝統的な葬祭から、近代的な人文記念へという転換の段階に入っています。

特に、霊園は、文化的な霊園を創造する方向に向かっています。例えば、墓地を公園にしたり、墓地での命の継続よりも精神の伝承が重要と感じさせる場所づくりなどです。

写真でいくつかの霊園をお見せしましょう。

下の写真は、福寿園国際集団が中国各地に作った霊園です。本当に公園のようになっています。

出典:福寿園写真集

墓石も小さくなっています。この小さな自然石は、すべて墓石です。

出典:福寿園写真集

これは、上海福寿園が癌患者クラブメンバーのために提供した公益的なお墓です。

出典:福寿園写真集

下の写真は、壁墓地です。

出典:福寿園写真集

これは室内墓地です。いわゆる納骨堂のようなものです。

出典:福寿園写真集

次は芝墓地です。

出典:福寿園写真集

花壇墓地です。花の下にお骨が入っています。

出典:福寿園写真集

森林墓地です。記念碑を建て、その下に名前を刻んでいます。

出典:福寿園写真集

最近は芸術的な墓も求められています。この2つの写真はその例です。

出典:福寿園写真集
出典:福寿園写真集

葬儀でも新しい偲び方が登場

今は霊園のお話でしたが、葬儀についても、新しい動きが出てきているのでしょうか。

出てきています。故人をお花で偲(しの)んだり、書籍あるいはインターネットで偲ぶという、新しい偲び方が生まれてきています。

これらの偲び方も、伝統的な文化の要素と近代的な儀式の要素が融合して、より人に優しいものになってきています。

また、偲び方が多元化すると同時に、テクノロージ化してきているという傾向もあります。二次元コードやインターネット技術などを使って、もっと豊富な内容がメモリアル化されるようになってきています。

例えば、これは墓地・墓石の例ですが、墓石の上にブロンズのプレートを載せ、そこに二次元コードを付ければ、インターネットを通して、音声や画像などたくさんのデータが入りますので、葬祭文化の内容がかなり豊富になります。

インターネットによるお墓参りも行なわれるようになっていますし、3Dプリントによる遺体修復技術も使い始められています。特に、交通事故で家族を亡くした人にとっては、とても嬉しいことです。

そのほか、中国の葬祭業界で進歩・発展してきていることは何でしょうか。

中国では、環境保護の政策が厳しくなってきました。葬祭事業の面では、まず、火葬炉の基準が厳しくなりました。

昔の中国の火葬場は、黒い煙と異臭が非常にきつく、恐ろしい状態でした。それが、政府の厳しい要求のおかげで、中国で新しく造られた火葬炉の品質は、かなり良くなりました。

先ほど、中国の火葬率は平均48.9%と言いましたが、上海などの沿海地区では90%以上になっています。

火葬炉業界も、外国の無煙、無臭の新しい技術を使うことによって、かなり良くなっています。

このように、近年の中国では、霊園が文化的な公園になり、偲び方が人に優しくなり、そして、環境に優しいという3つの面で進歩してきています。

一方、中国の葬祭業界の課題点としては、先ほど指摘されました葬祭施設や従業者不足のほかに、どのようなことがあげられますか。

政府は、環境保護政策を強化する中で、環境に優しい埋葬の仕方ということも求めています。私の個人的な理解では、先ほど言いました自然と融合していくことが必要であり、課題であるということです。

例えば今、納骨堂、永代供養塔、土地区画が小さい墓、海洋散骨、樹木葬などがありますが、お骨からダイヤモンドや生命クリスタルをつくるという技術も中国でも話題になっています。

また、墓石や霊園を造るための関連部品についても、回収できる材料、溶ける材料など新しい材質のものが使われはじめています。

さらに自然と融合させていくことが必要です。

本日は、中国の葬祭業界の現状や課題点などを分かりやすくご説明いただきありがとうございました。

(通訳:安 剣星)


【王計生(おう けいせい)氏のプロフィール】

福寿園国際グループ 代表取締役兼総裁、中国殯葬協会 副会長。

1995年葬祭業界に参入する。

王総裁は、学者的な考え方と企業家としての行動力を持ち、運営する上海福寿園は「東洋で最も美しい霊園」と呼ばれ、「世界霊園BEST 10」の栄誉を獲得している。

福寿園国際グループは、王総裁のリーダーシップの下、飛躍的に発展し、香港で上場する中国大陸初の葬祭企業になった。

また、中国で「全国現代霊園建設セミナー」や、「全国霊園年次大会」など啓蒙的なイベントを主催し、さらに国際的な交流も促進し、中国殯葬業界に斬新な理念と活気をもたらした。

王総裁は、2015年に「全国労働模範」、2019年には「祝中華人民共和国70周年」記念勲章をという栄誉を中央政府からあたえられた。

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]
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