第29回:コロナ禍により葬儀、葬儀業界はどう変わるか
大規模葬儀に利益依存している葬儀社は非常に厳しくなる

[2020/5/18 00:00]


新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が延長されたことにより、経済や経営に与える影響も大きくなり、事業者の悲痛な叫びが増えてきています。

葬儀業界も例外ではありません。「コロナの影響が、まさかこんなに長期化するとは思わなかった。この先、どうなり、我われはどうしたらよいのだろうか」との葬儀会社の声も増えてきています。

そこで、葬儀社を中心に、広告宣伝物制作、ブランディング構築、経営コンサルティングなどの企画立案を行なう株式会社 トランスブレインの藤野正成(ふじの まさしげ)専務取締役に、コロナ禍により葬儀や葬儀業界はどう変わるか等についてお聞きしました。

藤野正成(ふじの まさしげ)氏

お葬式の単価や参列者の規模は2~3年位は回復しない

まず、コロナ禍による現状の問題についてお聞きします。コロナ禍によって思うような葬儀ができかった遺族や参列予定者が非常に増えています。これに対し、葬儀会社や寺院などからは、コロナ収束後に、「後葬」「後日葬」「やり直し葬」などとの名称で、葬儀や告別式をもう一度やろうとか、やり直そうなどの提案が多くみられます。これについては、どう思われますか。

やり直そうとする人は、ごく少数ではないでしょうか。というのは、火葬してお骨になって家族のもとに故人が帰ってきた後に、時間が空いてしまうと、お葬式のニーズはしぼんでしまうと思うのです。

それは、お別れ会が一般には広く普及しなかったことが示しています。火葬のみの直葬が出てきた時に、直葬を選ぶのは、お金のあまりない人たちだけでなく、お金を持っている人たちも多いのでお別れ会を行なうのではないかと考えて、葬儀社さんはこぞってお別れ会を提案しました。

しかし、従来から、家族だけで密葬を行ない、後日、一般の人向けに「お別れ会」を行なうことが一般化している著名人以外の人には、あまり受け入れられませんでした。

ですから、お骨にすることにより、いったん終わったと考え、それから時間が空いてしまうと、そのまま終わってしまう人が多いのではないかと思うのです。

そのため、コロナショックによって、葬儀業界は非常に苦しくなると思います。

東日本大震災の時は、お葬式の規模は一気に縮小し、2~3年くらい回復しませんでした。その後、単価の下落に歯止めをかけるべく、葬儀社各社の努力で高価値/高単価のサービスを提案する取り組みが続けられ、一定の成果が上がっていました。

しかし、今回のコロナショックで、お葬式の規模の縮小に拍車がかかり、お葬式の単価や参列者の規模は2~3年は回復しないのではないかと見ています。

では、その内容についてお聞きします。コロナショックによって、お葬式(葬儀)で一番変わるのはどこだと思われますか。

現在のお葬式の形を、規模別に三角形で表現しますと、三角形の上部は、いわゆる「一般葬」と言われている一般の人たちまで参列する大きなお葬式をする層、三角形の中部は、「家族葬」と言われている家族/親族や故人と親しかった人たちで行なう層、三角形の下部は、基本的には儀式を行なわない火葬のみの「直葬」を行なう層に分けられます。

この3つの層の中でコロナショックによって一番変わるのは上部の一般葬の層だと思います。コロナ問題が発生したことにより、大きなお葬式は実質行なえなくなってしまいました。

これは一時的なことではなく、大きなお葬式が事実上できない状態は、おそらく少なくとも半年、場合によって1年から2年位は続くのではないでしょうか。

やや強調した表現をしますと、三角形の上部は崩れてしまうだろうということです。

コロナショックでお葬式が変わる

次いで、変化するのはどの部分でしょうか。

コロナがまだ収束していない現在は、直葬が増えていますが、これは一時的で、コロナが収束してからも直葬が増えて、葬儀件数全体の半数を超すということは無いと考えます。

その大きな理由の一つは、サービスを供給する側が、儀式はせず火葬場に直行するという内容の直葬は、利益面の問題などの理由から積極的に勧めなくなっているからです。

葬儀社各社とも価格競争力の為に直葬プランを最安値に設定していますが、その内容は年を追うごとに簡素化が進んでいる傾向があります。

私も、依頼されて、さまざまな葬儀社さんの葬儀/直葬プランを作っていますが、直葬プランのラインアップで一番多いのは、直葬に簡単なお別れもできるようにした「直葬+お別れプラン」です。一口に直葬プランと言っても、バリエーションが広いのです。

一般の方にも分かりやすい言い方をすると、直葬と家族葬の線引きがあいまいになってきています。コロナ収束後は、さらにあいまいになってくるでしょう。

家族葬のバリエーションも広くなってきており、大きなお葬式の層が崩れることにより、家族葬のバリエーションもさらに広くなってくると思います。

コロナの影響で参列できないことから、葬儀や法要にオンラインで参加できるようにしている葬儀関連業者が増えています。このオンライン葬儀/法要は、コロナ収束後も利用されるようになるのではないかという見方もありますが、これについてはどう思われますか。

お葬式に参加できない人のために生中継しますとか、映像配信しますというサービスは、15年前位からありますが、普及していません。

家族葬、直葬は、呼ぶ人を限定するお葬式とも言えますので、不特定多数の方にオンラインで見られるようにする必要はあまりないと思います。

本来、お葬式に参加すべき近親者の方などが、なんらかの理由で参加できない場合などに補助的に使われるケースに留まるでしょう。

一般葬は、参列者を限定していないケースだと、オンラインでも参列できますよというのは参列したい人にとっては便利かもしれませんが、そもそもお葬式は結婚式とは違い、お祝いごとではありませんので、オンラインで見られるようにしても、見たいと思う人がどれだけいるか疑問です。

オンライン葬儀/法要よりも、亡くなった人のFaceBookなどのSNSに、いろいろな人がコメントを寄せるというようなものの方が、進むと思います。海外ではそうですし、日本でもそうなってきていますしね。

コロナショックで葬儀業界は二極化が進む

コロナショックにより予想される葬儀の変化により、葬儀サービスを提供する葬儀会社や葬儀関連業者は、どのようになると予想されますか。

大きなお葬式がしばらくできない状態が続くと予想されますので、参列者の人数で売上を上げ、利益を稼いでいる葬儀社や、たまに入る数百名規模の大きな葬儀に利益を依存している老舗葬儀社は、大きな打撃を受け、非常に苦しくなると思います。

これらの葬儀社は地方や都市部でも老舗と呼ばれる葬儀社に多いです。

「参列者の人数で売上を上げ、利益を稼いでいる葬儀会社」というのは、どういうところですか。

祭壇料は、例えば20万円と安いけれども、参列者が多いので、料理代と返礼品で売上の大半を上げて、利益を稼ぐということをビジネスモデルとしてきたところです。

こういうところは、参列者が少なくなれば、当然、苦しくなります。

一方で、都市部で、会葬者は5人~10人程度であっても、70万~100万円くらい費用のお葬式をきちんと提案できる葬儀社さんは、そんなに大きな影響を受けないのではないかと思います。

いま、葬祭会館の多くは家族葬会館になってきていますが、その中でも小規模な家族葬会館で快適な時間と空間の中で家族葬を提供できているところです。

これを葬儀業界では葬儀会館に「プレミアム」や「コンパクト」といった修飾語をつけて呼んでいます。

では、先ほど言ったような地方の葬儀社が、それにすぐ転換できるかというと、会葬者数によるビジネスモデルから脱却できないまま今日まできましたから、非常に難しいと思います。

そうした中で、葬儀業界全体では、どのような変化が起こってくると思われますか。

簡単な言い方をしますと、二極化が進むのではないでしょうか。

大きなお葬式がなくなると、数をこなさなければならなくなるので、先ほど言った参列者の人数で売上を上げ、利益を稼いでいる葬儀社や、たまに入る数百名規模の大きな葬儀に利益を依存している老舗葬儀社の中で、1つの葬祭会館だけでやってきたところは、無くなってしまうと言っても過言ではないと思います。

葬儀専業で生き残ころうと思ったら、5~6カ所の葬祭会館に見合った商圏を持ったところか、広範囲にデリバリー型のお葬式を提供できるところでないと、難しくなるでしょうね。

ですので、今、一部の葬儀会社は、吸収/合併などを行なって船のサイズを大きくして転覆しないようにしていますが、この流れが加速するでしょう。

そのほか、業界内ではどのような変化が起こると予想されますか。

大きなお葬式が無くなると、地方では、お葬式を支えていた料理屋さん、返礼品屋さん、寝台屋さんなどの外注先が商売を続けていくのが厳しくなります。

そうなると、地方の葬儀社さんは、葬儀を行なうことそのものが難しくなることも懸念されます。

規模を追わない葬儀社は生き残るのが難しくなる

そうしますと、葬儀会社、特に地方の葬儀会社は、これからのあり方をゼロベースで考え直す必要がありますね。

そう思います。私は、葬儀社さんにも話をするのですが、葬儀だけで事業を行なっていくのなら、次の4つの戦略しかありません。

1番目は、永遠に拡大を目指していく戦略。

2番目は、規模は追わずに、独自性を持って勝ち残り、生き残っていく戦略。

3番目は、どこかの葬儀社と一緒になって連合体をつくっていく戦略。

4番目は、どこかの時点で葬儀社を止める戦略、です。

葬儀社さんに、「この4つしかありませんが、さあどれにしますか」と聞いても、すぐ答えられる方は、とても少ないです。

今まで何とかやってこられたから、今までのやり方でやっていきたいと思っている方が結構多いのです。

しかし、この4つの戦略の中で、2番目の規模は追わずに生き残っていくという戦略は、どんどん難しくなってきており、今回のコロナショックで一段と難しくなると思います。

そうすると、選択肢は残りの3つとなり、葬儀社さんにとっては、非常に厳しい選択を迫られることになります。

葬儀会社、特に葬儀専門会社は、2番目のタイプが多数ですから、多数が厳しい選択を迫られるということですね。2番目のタイプが生き残っていくのが難しいのは、どうしてでしょうか。

今回のように葬儀市場が変化するということもありますし、雇用環境がものすごく悪化してきており、人が採用できないということもあります。

私は、葬儀社さんの人の採用のお手伝いもしていますが、現状は、葬儀業界で働きたいという人は、都市部ではごく少数です。都市部では、いろいろな職業と比べられますので、給料が同じくらいだったら、他の仕事の方がいいという人もいますので、採用するのは難しいです。

地方で葬儀屋さんを希望する人で一番多い理由は、「今住んでいるところから近いから」、「ここからで出ずに働けるから」ということで、都市部よりは多少採用が出来ているという感じです。

葬儀会社が人を採用できるようになるためには、何が必要ですか。

葬儀社さんには、社員に長く働いてもらうためには、2つのことが必要ですよと言っています。

1つは給料で、45歳位で年俸750万円位を払えるようになることです。結婚して、子供が1人、ないし2人を養って大学に行かせようと思ったら、1人の収入で家族を支えるのに最低そのくらいは必要です。

しかし、葬儀社さんで750万円の年俸を払えるところは、ごくわずかだと思います。だから、独立してしまう人が多いのです。

必要なことのもう1つは、いま、先進的な葬儀社さんが働き方改革と言って一生懸命取り組んでいる、労働時間を法定労働時間内にし、休日や有給休暇をきちんと取れるようにすることです。

昔と違って今は、お金を稼ぎたいから、葬儀社さんで働くという人はあまりいないと思います。お金を稼ぎたいという人は、激務でも耐えられますが、今の若い人は、多くのお金を稼ぐより、自分の休み時間もしっかり取りたいという人が多いのです。

高い給料を払えるようにして、労働環境も法律に合わせないといけないのですから、至難の業です。一定の規模がないと実現できません。

ですから、4つの戦略の中の、2番目の規模を追わないという葬儀社さんが生き残っていくのは、非常に難しいと思うのです。

4つの戦略の中の、1番目や3番目の戦略を取って規模を拡大していく葬儀社にとっても、高い給料を払えるようにして、労働環境も法律に合わせるようにしていくのは、簡単ではありませんよね。

そう思います。そのためには、葬儀社の売上や利益の上げ方や、仕事の仕方なども見直さなければなりません。

仕事の仕方では、例えば、葬儀社さんというのは事務的な作業に結構な時間を取られています。

お花や棺など、葬儀に必要なものの発注は、全部ネットで行なえばいいのに、葬儀屋さんに商品を供給している業者さんもテクノロジーがないことから、発注がいまだに電話、FAXが多いからです。

そういう事務的な作業はIT化しようということで、大規模な業務管理システムを葬儀社に提案する企業も増えていますが、最近、私が注目しているのはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。

これは、簡単に言いますと、人間のやるFAXとかメールで発注する作業などを、パソコンのソフトに覚え込ませると、その後は自動的に行なってくれるというシステムです。

これを今、上場企業や資金力のある会社が一生懸命開発して導入していますが、導入が進むと価格も下がってくるはずですから、葬儀業界に多い中小企業でもちょっと頑張れば導入できるようになるはずです。

今後は、こういうものを活用して、業務を効率化するなどして、スタッフ1人当たりの生産性を上げていくことが非常に重要だと思います。

非経済行為を経済行為に変えてビジネス化する

1番目や3番目の戦略を取っていく葬儀社が、今後、行なっていくべきことについて、もう少し質問させてください。規模を拡大していく上で、葬儀以外に、どのような商品/サービスを扱ったり、増やしたりすると良いと思われますか。

先進的な葬儀社さんは、お葬式の前と後のことをビジネスにできないかということで、生前整理、相続、遺品整理、散骨などさまざまなものを、自社で行なったり、専門業者を紹介するようなことを行なっています。

しかし、お葬式の利益が大きいので、片手間で扱っており、さほどの売上/利益になっていないところが多いですね。

最近の言葉で言いますと、「終活のワンストップ対応」、つまり、終活としての困り事、必要なさまざまなことに、ワンストップで対応しますということですね。その取り組み自体は、良いですか。

そう思います。根本に立ち返ると、お葬式というのも、元々は地域の人たちが担っていた非経済行為であったものを、葬儀社さんがサポートの幅を広げ経済行為にすることによってビジネス化したわけです。

遺品整理もそうです。家族で一生懸命行なっていた非経済行為を、遺品整理屋さんが経済行為に変えたのです。

高齢者の見守りサービスというのも、家族や近所の人が行なっていた非経済行為であったものが、経済行為に変わってきています。

このように、いままでは非経済行為であったものを、経済行為に変えていくというのは、少子高齢化社会がますます進んでいきますので、まだまだ工夫の余地があると思います。

それを、葬儀社さんがどこまで広げ、売上/利益としていけるかだと思います。

葬儀会社の売上/利益を拡大していく上で、もうひとつポイントになるのは、葬儀サービスを提供する先の拡大です。これについては、いかがですか。

日本人の死亡場所で、ここ数年で、急増しているのは高齢者施設です。全体の死亡者数の10%を超えました。

そして、つい最近、大手介護事業者が全国の葬儀社二十数社と提携して、葬祭事業を本格的に始めました。

これにより、他の介護事業者も葬祭事業に目をむけ、今後、葬祭事業に力をいれる介護事業者が増えてくると予想されます。

ですから、葬儀社さんが葬祭サービスの提供先を拡大していく上では、介護事業者と提携できるかどうかが重要になります。

もう1つは、自宅で葬儀を行なうというニーズへの対応です。これについても、自宅葬儀を中心に行なう葬儀社さんや、高齢者施設や自宅への出張葬儀を葬儀社のチェーンで展開しようとしている葬儀事業者も出てきています。

葬祭会館を持っている葬儀社さんは否定するかもしれませんが、私は、葬儀も自宅で良いという人は結構いると思います。

なぜなら、今は葬儀の参列者が少ない葬儀が多くなっていますし、10人以内の葬儀なら、自宅でも十分できるからです。

また、葬儀会館を自社で所有してしまうと、葬儀社は自社会館での葬儀を最優先で提案してしまうので、掘り起こされていない自宅葬ニーズは一定量存在すると考えられます。

最後に、付け加えることがありましたら、お願いいたします。

多くの葬儀社さんは「お葬式の価値を高めたい」と考えておられますが、お葬式に価値を感じてもらうためには、お葬式の時だけではなく、むしろその前が大事なのです。

その前の人生が輝いていなければ、お葬式だけを輝かせることは難しいでしょう。これからの葬儀社の役割は、人生を輝くものにする為のサポートにも目を向けて、地域での役割や取り組みを検討した方が良いと感じています。

今日は、率直で貴重なお話をありがとうございました。



【藤野正成(ふじの まさしげ)氏のプロフィール】

株式会社トランスブレイン 専務取締役、イデアルシーズ株式会社 取締役・人材開発室長。

1978年生まれ。地方自治体の介護・福祉計画コンサルタント、葬祭関連IT企業の人事責任者を経て、トランスブレインの設立に参加。

葬儀社を中心に、医療/介護/供養/法律家などの事業者を対象に、広告宣伝物制作、ブランディング構築、経営コンサルティング、ブランディング構築、集客戦略、イベント運営の企画立案を行なう。
「ささえる仕事をもっと元気に」をテーマに、経営・広告支援セミナー、講演など全国で実績多数。

訪問看護・介護サービスを関西・東京で提供するイデアルシーズ株式会社の取締役・人材開発室長を兼任。

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]