第32回:墓石業界における新型コロナウイルスの影響と対応策
消費マインド低下でお墓離れが加速することが懸念される

[2020/8/3 00:00]


一般社団法人 日本石材産業協会(以下、石産協)は、石材小売業、石材加工業、石材施工業など全国の石材関連業者で組織された団体です。

2001年11月に設立され、1,162事業者が加盟する(2020年5月末現在)石材業界最大の団体になっています。

この石産協の3代目会長として、6月19日の総会において、森田石材店(兵庫県)の常務取締役の森田浩介(もりた こうすけ)氏が選任されました。

そこで森田新会長に、お墓/墓石業界における新型コロナウイルスの影響と対応策や、新会長としての抱負などについてお聞きしました。

森田浩介(もりた こうすけ)氏

売上高が減少している石材関連業者は7割

石産協の昨日の総会において新会長に選任されたばかりの取材で恐縮でございますが、よろしくお願いいたします。

まず、お墓/墓石業界における新型コロナウイルスの現状での影響についてお聞かせください。

石産協では、加盟会員を対象に、「新型コロナ影響」のアンケート調査を、2月~4月にかけて実施しました。回答数は128件で、そのうち墓石小売業が99件(77.3%)となっています。

この調査結果によりますと、来店客数・問い合せ数(回答数:128件)は、前年同時期(2月~4月)と比べて「減少している」と回答した業者は78.9%と8割近くにのぼっています。

前年の同時期と比べた来店客/問合せ数の状況 出典:石産協

「減少している」と回答した業者(回答数:99件)の減少幅は、1割~9割と大きくバラついていますが、平均的には3割位減少している感じです。

大体何割くらい減少していると感じますか 出典:石産協

売上高については(回答数:128件)、前年同時期と比べて「減少している」と答えた業者は68.8%と7割近くになっています。

前年の同時期と比べた売上状況 出典:石産協

売上高が減少している要因はお分かりですか。

アンケート調査(回答数:93件、複数回答)では、売上高の内容に関しては、

  • 「新規建墓数の減少」 76.3%
  • 「納骨・追加彫刻の減少」 17.2%

――という結果でした。
また、コロナの影響に関しては、

  • 「不要不急の外出を控えているため」 65.6%
  • 「人が集まる機会が少なくなったため」 30.1%

――となっています。

売上高の内容別では「新規建墓数の減少」が多くなっていますが、新型コロナはどの程度影響している感じでしょうか。

個人的な見解ですが、当店の状況からしますと、コロナの影響より昨年10月の消費税アップによる影響の方が大きいのではないかと感じています。

消費税アップ前に、いわゆる駆け込み需要があり、その反動で昨年10月以降は落ち込みました。消費税導入時のいつものパターンですね。

消費税アップの反動で落ち込んでいたところに、新型コロナが追い打ちをかけたということですね。そのほか、新型コロナによってどのような影響が出ていますか。

アンケート調査では、「お客様の反応について、感じることはありますか」という設問もしています。

これに対する回答は(回答数:123件、複数回答)は、多い順に、次のような結果でした。

  • 「四十九日や納骨、法事などを延期している」 70.7%
  • 「店舗に来ることを避けているように感じる」 48.0%
  • 「お墓参りが減っている」 23.6%
  • 「変わりはない」 8.9%
  • 「お墓参りが増えている」  5.7%

「四十九日や納骨、法事などを延期している」との回答が多いですね。

納骨の延期や墓参を控えるように檀家に通知しているお寺もあるようです。

ただ、当店のお客様は、皆さん予定通りに行なっていらっしゃいます。当店は田舎ですし、皆さん車で移動されていますので、コロナに対してそれほど神経質になってはいない感じがします。

ですから、地域によっても違うのではないでしょうか。

「お墓参りが増えている」という回答も5.7%あり、注目されます。これは、どういう理由だと思われますか。

ハッキリとしたことは分かりませんが、お墓も各ご家庭の平穏を守る場所のひとつです。こんな時だからこそ、その祈りの場所へ行くことが増えるというのも自然なことなのだとも言えます。

新型コロナの影響で店舗休業の業者も

新型コロナウイルスによるそうした影響に対して、石材産業はどのような対応策を取っているのでしょうか。

アンケート調査では、会員が現在行なっている対応策についても聞いています。多い順に、以下のような結果でした(回答数:128件、複数回答)。

  • マスクと徐菌(アルコール等)を常備 78.1%
  • 訪問営業を止めている 38.3%
  • 補助金の活用 36.7%
  • 店舗の休日を増やしている 20.3%
  • オンライン(ZOOM、LINEなど)での営業の推進 14.8%
  • コロナ対策のマニュアルを作成している 14.8%
  • 在宅勤務・テレワークを進めている  14.1%
  • お墓参りの代行業務 7.8%
  • 店舗を休業している 3.9%
  • 特になし 3.1%
  • 現場作業を停止している 1.6%

この調査結果を見られて、どう思われましたか。

率直に感じたことは、新型コロナウィルスが実際にはどのようなものなのかが分からない状況で、各社が出来ることをしていこうという表れだということです。

コロナ後がどのような社会に変貌するかは分かりませんが、この機会に様々な事態を想定し危機管理の準備を多くの業者が行なっているのは無駄にはならないでしょう。

新型コロナウイルスによる影響に対して、石産協として何か対応策を取られているのでしょうか。

協会の事務局にテレワークを導入したり、協会の会議はZOOMなどのオンラインで行なうなどITの導入は積極的に行なっています。

会員向けには、いまお話しした「新型コロナ影響」のアンケート調査を行ない、会員に参考情報としてフィードバックしました。

コロナウイルス問題に関しては、今のところその他には特に行なっていません。

成長する業者と衰退する業者の差が顕著に

次に、新型コロナウイルスによる今後の影響と対応策についてお聞きします。新型コロナウイルスは、お墓/墓石業界に中長期的にはどのような影響を及ぼすと予想されますか。

新型コロナの専門的なことは分かりませんが、マスコミなどの報道を聞いていますと、新型コロナが収束するのは結構先になりそうです。

そのことによって、景気がさらに低迷し、収入が減ることなどによって、消費マインドが低下することが予想されます。

消費マインドが低下しますと、その影響を受けやすいのは高額や不要不急な商品やサービスです。

お墓や墓石はそういう商品ですから、購入が先送りされたり、お墓離れが加速することが非常に懸念されます。

そうした影響によって、お墓/墓石業界では、どのようなことが起こってくると思われますか。

成長する業者と衰退する業者の差がより顕著になってくるのではないでしょうか。

先ほどのアンケート調査でも、前年同時期と比べて、来店客数が増えている会員は18.8%、売上高が増えている会員は23.4%あります。コロナ禍という厳しい状況の中でも、増えている会員もいるのです。

一方、今までは企業努力もなくやってこられていた業者などは、コロナの影響で余計に苦しくなり、これを機に廃業を余儀なくされるかもしれません。

コロナの影響が長引けば、廃業するところも増えてくるかもしれません。

初心に帰って行なうべきことを行なう

中長期的には、そうした影響が出てくることも予想される中、石産協として、何か対応策を考えていらっしゃいますか。

コロナ対策ということでは、今のところ特に考えていませんが、お墓および石の啓発は、今までも行なってきましたが、今後も積極的に行なっていく考えです。

私たち日本石材産業協会は、石材を取り巻く環境が少しでも良くなるためにある団体と考えています。そういった意味では、消費者の方にお墓を建てることを敬遠されないためにも、正しいことを正しく推進していくしかないと思っています。

墓石店などの業者の今後の対応策につきましては、先ほどのアンケートでも質問されていましたね(記述式、複数回答)。

はい。ネットでの販売、営業、広告など、「ネットの活用」を挙げた回答が19件ありました。また、オンラインでの営業、相談、ネットワーク作りなど、「オンライン化」を挙げた回答も11件ありました。

このほかに多かった回答は、「情報発信、広告宣伝などの強化」(8件)、「新規事業の立ち上げ」(11件)です。

数は少ないですが、次のような記述もありました。

  • 「コロナウイルス感染はかなり長期化すると思われるので、その対策に集中する」(1件)・「今後、供養文化の見直しが行われると思われるので、それに対応したことを考えていかないとと思っている」(1件)
  • 「作業の合理化を考えている」(1件)
  • 「収束までに不足していた社員教育を十分に行ないたい」(1件)
  • 「お墓参り代行業務の強化」(2件)
  • 「墓石修理のメンテナンス事業を全面的に進めていきたい」(1件)
  • 「会社規模の縮小」(1件)
  • 「対策のしようがない」(2件)

森田会長個人としましては、墓石店は今後どのような対応策が必要だとお考えですか。

こういう時こそ、墓石店としての初心に返って自店で行なっていることを見直し、行なうべきことをきちんと行なっていくことが大事だろうと思います。

例えば、アンケート調査結果では、売上高減少の要因として「新規建墓数の減少」を挙げた会員が多くなっていますが、私たちのお客様は新規に建墓される方だけでなく、過去に建墓されたお客様も多くいらっしゃいます。

今までは、新規建墓ばかり追いかけて、既存のお客様はあまり大事にして来なかった墓石店も多いと思いますので、そういうところを見直すことも必要だと考えます。

もちろん、既存のお客様も大事にして、納骨・追加彫刻を含めお墓のリフォームで売上を増やしている墓石店もいますが、リフォームのメニューを増やして売上を増やしていくことも必要でしょう。

それから、今までは忙しさにかまけて、いい加減になってしまっているのをそのまま放置しているということもあるでしょう。例えば、礼状とか送り状などです。

この際、そうしたものまで見直してきちんとすることにより、お客様との繋がりや絆づくりを強化していくことが大事だと思います。

石産協の事業・活動を「選択と集中」する

石材協の新会長としての抱負をお聞かせ下さい。

昨日の総会で所信表明を行ないましたので、それをお話しします。

私が石産協にとっていま必要だと思うことは、「選択と集中」です。

石産協と言うのは、どちらかというとボトムアップの組織です。その良い点は、会員が行ないたいことを行なえていたということです。

ただ弱点は、まとまりに欠けていたということです。各種委員会や部会でいろいろな事業や活動を行なっていますが、行なっていることが重複していたり、成果が見えにくい面もありました。

そこで、私は、石産協の事業や活動の重点目的を選択し、そこに集中することによって成果を見えやすくしようと考えています。

6月19日の総会はオンライン(ZOOM)で行なわれた

「選択と集中」するのは何でしょうか。

3つあります。1つは「消費者の駆け込み寺になる」ことです。消費者に安心して石材を購入していただくための事業/活動です。

そのための具体的な事業/活動としては、一つは「ガイドラインの作成」です。

このガイドラインというのは、消費者に安心して石材を購入していただくための石材事業者の自主的ルールとして制定するものです。

説明責任、料金体系の明確化、見積書交付の義務などを謳った石材事業者向けの行動指針です。

このガイドラインの内容が昨年度末に決定しましたので、今年度はそれを石産協内に浸透させ、徹底を図っていく計画です。

「ガイドライン」を作成するのは、石材業者・業界に対する消費者からのクレームが多いからですか。

それもあります。お墓については、日本消費者協会が運営している消費者センターへの相談やクレームなどが多く、日本消費者協会から石産協に対して、ガイドラインを作って欲しいとの要望がありました。

「消費者の駆け込み寺になる」ための具体的な事業/活動の2つ目は、「Q&Aの作成」です。

石産協では、「全国お墓なんでも相談室」を開設し、消費者のお墓に関する悩みや相談にお応えしています。

これを10年以上行なっており、悩みや相談のデータが相当数たまっていますので、それを整理してQ&Aという形で、Webに掲載したいと思っています。

お墓なんでも相談室の様子

「選択と集中」の2つ目をお聞かせください。

「行政と業界のパイプ役になる」ことです。

石産協は、事業者の要望を実現するための組合ではありませんので、圧力団体になるつもりはありません。

行政と石材業界のパイプ役として、行政から情報をいただき、こちらからも行政に情報を提供することにより、石材業界の発展に寄与していく考えです。

「選択と集中」の3つ目は何でしょうか。

「お墓および石の啓発を行なう」ことです。

啓発に関しては今までいろいろなことを行なってきましたが、昨年は新たな取り組みとして、SNSを活用した広告を行ないました。

お墓参りを啓発する動画を作成し、それをツイッターで10万回再生する広告です。

今年度も新しい動画を作成して、インターネットを活用した啓発活動を行なおうと考えています。

「選択と集中」の具体的な事業・活動として今お話ししたのは、消費者向けのものです。このほか、石産協内部の事業・活動としては、「支部活動の活性化」「協会会員数の拡大」などに取り組みます。

今日はご多忙の中、インタビューをさせていただきありがとうございました。



【森田浩介氏のプロフィール】
一般社団法人 日本石材産業協会会長。
株式会社 森田石材店 常務取締役
1970年兵庫県丹波市生まれ
1993年同志社大学工学部卒業後、高砂熱学工業株式会社を経て祖父の代から続く森田石材店へ。積極的なマーケティングに取り組み事業を拡大、2008年からは葬祭業にも参入し現在に至る。

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]