第34回:覆面座談会(下) 終活普及活動の問題・課題点とあるべき方向
終活の資格やセミナー等は多いが、実践に役立つものは少ない

[2020/9/2 00:00]


昨日掲載した「上」に続き、「終活・葬送業界の今とこれから」というタイトルで、終活・葬送に携わる3名の専門家と一緒に行なった覆面座談会の内容を掲載します。

今回のテーマは、「終活普及活動の問題・課題点とあるべき方向」についてです。

この覆面座談会は、8月6日に行ないました。事実関係などは、その時点のものです。

なお、 【塚本】 は司会役ですが、討論にも参加しています。

中身のない「終活セミナー」「終活講座」も少なくない

【塚本】 今回は、「終活普及活動の問題・課題点とあるべき方向」とのテーマで意見交換したいと思います。それぞれが問題・課題点として感じられていることを2つ挙げていただき、それに対して他の人が質問やコメントをするという形で進めさせていただきます。

まず、Aさんから、問題・課題点を1つ挙げてください。

【A氏】 私は葬儀社に勤務し、業務の傍ら終活普及活動を行なっています。

コロナへの感染対策のための自粛から、当社の終活普及活動にも影響が出ています。

終活に関心の高いシニア層には、安全対策を優先しているため、今の状況ではセミナーなどの講座開催が出来ません。また、シニア層へのオンラインセミナー開催も中々難しい状況です。

行政関連での地域でのイベントや地域のコミュニティ活動も縮小しているのでシニア層の交流もしにくくなり、孤立しやすくなるのではと懸念しています。

また、景気の後退も影響して高齢者を狙った悪徳商法が増えそうで、終活関連ビジネスでのトラブルが出なければと願っています。

【塚本】 Bさんは、終活普及活動の問題・課題点はどう思いますか。

【B氏】 私は、終活関連の法人で高齢者のサポート事業を中心として、ライフプランのコンサルティングも行なっています。

終活がなかなか普及しないのは、生活者がいざ終活を行おうとすると、介護から納骨までやることが多く、さらにはその一つ一つの分野でも取り扱うサービスや商品によって対応が違うので、自分で探すこと自体が大変なことが要因になっていると感じています。

終活を普及する側の問題としては、Webなどで流す情報があまりにも終活をあおる内容が多く、その情報をそのまま流すポータルサイトなどもたくさんあり、情報過多になっていることが挙げられます。

情報を流す側は、終活を普及させるために行なっていると思っていても、生活者側には終活を行なう阻害要因になっていると思います。

【塚本】 Cさん、終活普及活動の問題・課題点の1つ目をお願いします。

【C氏】 私は元葬儀社に勤務。現在は終活関連のコンサルティング業務を行なっています。

私は、結構いろいろなところに出かけて行って「終活セミナー」「終活講座」というものをよく聞いたりしているのですが、これは聞いて良かったというのもありますが、中身がぜんぜん無かったり、何の実績もない人が講師として登壇していることもあります。

先日参加したセミナーでも、普通のサラリーマンをしていたという人が講師で、何を言いたいのかよく分らない話をして、偉そうに「終活しましょう」などと語るのです。信じられないというか、すごく摩訶不思議な終活セミナーでした。

また、「生前整理セミナー」と謳っているセミナーでも、お片づけについての悩みをただ話しあうだけというものもありました。ただのお片づけなのに、それをなぜ終活と謳っているのかの説明もないのです。

このように、終活という言葉をくっつければ集客できるのではないかという、終活という言葉が安易に使われているケースも多くなっています。

あるファイナンシャル・プランナー(FP)の「最新葬儀・お墓事情」というセミナーを聞いた時には、あぜんとしました。

パワーポイントのスライドは全部、エンディング産業展で写真をとったもので、「これは、どこどこの業者さんの新しい商品です」という説明があるだけで、中身が何もないのです。

FPならFPとして、自分の専門性を生かしたセミナーをすれば良いのに、無理して専門外のことを行なうから、中身がないわけです。

【塚本】 そういうセミナーって、結構ありますよね。世間知らずというか、終活をなめているというか……。

【C氏】 そういうことをしていると、終活セミナーに参加者する人の情報・知識が肥えてくると、その人だけでなく、終活普及活動全体に対する信頼も損ないます。

終活自体は、本当にこれだけ広まって、市民権を得ているのに、そういうくだらない人たちのために足を引っ張られるのはもったいないなーと思います。

【A氏】 今のお話の「中身の無いセミナー」ということには私も同感です。

私たちの葬儀業界でも集客目的で「終活」という言葉を使っているケースが多々あります。

式場などの内覧イベントで、以前は「○○葬祭フェア」だったのが、「○○終活フェア」に名前が変わっても中身は何も変わっていなかったり、「終活セミナー」と題して互助会勧誘の説明会もありました。

確かに葬儀も終活に関連したことではありますが、「終活=葬儀」で普及はしてほしくないですね。

【B氏】 私はセミナーをする側でもあるので、その点から言うと講師を依頼する側や主催する側にも問題があるのではと思います。

テーマの設定や場所、講演時間や内容の提示など、「それでいいの?」と思うようなことを担当者から言われることがあります。

実際に私が経験したのは、某介護施設で認知症をテーマに講演を頼まれた時、会場は施設のホールで出席者の半数以上は既に認知症になっていらっしゃる方たちでした。

同じ終活資格を持った人たちが、各地域で連携活動を行なえば良い

【塚本】 終活普及活動の問題・課題点として、私が感じている1つ目を話します

終活を普及させようとしている事業者の立場から見れば、一番の問題・課題点は、次のことだと思います。

生活者を対象としたアンケート調査結果では、生活者に、終活とは何かということが広く知られるようになり、終活を行ないたいという生活者もかなり増えてきたけれども、終活を実際に行なっている生活者は、それほど増えていないということです。

調査によっては、30~40%という調査結果もありますが、その場合は「身の周りの持ち物の整理・処分」などの項目が入っており、そういうことまで終活に入れると、増えるのは当たり前で、そうした項目を除くと、10%以下という調査結果がほとんどです。

終活を実際に行なっている生活者は、なぜそれほど増えていないのか、生活者側の要因もありますが、ここでは終活を普及する側の要因に絞って感じるところを話します。

終活を普及促進している代表的な存在の一つは、終活資格の認定を行なっている「終活資格認定団体」です。

終活を実際に行なう生活者を増やす上で、「終活資格認定団体」の問題・課題点だと思うことを、1つだけ挙げます。

【B氏】 それはどういうことでしょうか。

【塚本】 終活を実際に行なう生活者を増やしていくためには、私は、終活資格認定団体が、資格を取得した会員を各地でグループ化して、皆で協力して終活を実際に行なう生活者を増やす活動を展開していくのが一番良い方法だろうと考えています。

生活者にとっては、地域で相談、依頼できれば便利ですし、会員にとっても、様々な専門家とグループを組み、共同で集客、相談対応、終活実務などを行なうことによって、成果を挙げることが期待できるからです。

しかし、そうしたことを積極的に行なおうとする終活資格認定団体はありません。

そうしたことは団体の収益にすることは難しいからかもしれませんし、団体の会員からはそうした声も聞こえてきます。

そうであるなら、団体が地域での会員のグループ活動を主導するのではなく、そうした活動を希望する会員にゆだねれば良いと思うのです。

しかし、団体の会員からは「団体本部は、本部のお金にならないことは認めない」、「地域の会員が集まって勉強会を行なおうとするだけでも団体本部は嫌がる」などとの声が聞かれます。

これでは、終活資格を自分や家族のために取得した人や、葬儀社など終活関連会社などに勤務している人などは別にしても、個人で仕事に活かそうと思って資格取得した人などは、活かすのはなかなか難しいでしょう。

では、団体本部はそれ以外に、終活を実際に増やすことを行なっているのかというと、生活者向けのイベントやセミナー以外では、終活を実践するためのサービスを提供している団体もありますが、団体の収益確保を主眼としたものが多く、サービスの中には問題があると指摘せざるを得ないものもあります。

【A氏】 私も今の塚本さんのご意見に賛成です。

私も生活者に正しい終活を普及し、終活業界を良くするためにも終活資格団体の問題点改善を願っています。

特に終活は分野の範囲も広いことから、同じ終活資格の保持者でも得意な分野や苦手な分野もあり、それぞれの地域で普及やサポートをしていくうえでも連携は不可欠だと思っています。

同じ終活資格ブランドを持った人たちが、地域でグループとして連携ができれば、知識の向上やサポート対応の向上、そして地域での終活普及など大きな発展にも繋がっていくと思います。

終活普及者の活躍の場とより良い終活の普及を図っていきたいです。

【B氏】 確かに終活が実践的になっていない事は納得できます。

一番大切な相続や葬儀は、他人の中にかなり入りこまないといけませんから、全部専門家任せになっていて、ハブ役である終活資格団体や終活関連業者は実践的な情報提供ができていないのが本当のところだと思っています。

キュレーションサイトで集客する時代はピークを過ぎた

【塚本】 では、終活普及活動の問題・課題点として皆さんが感じている2点目を挙げてください。Aさんからお願いします。

【A氏】 終活に関心があっても中々実践できない理由の一つとして、先程Bさんも指摘されましたが、「情報の氾濫」もあると思います。

今ではテレビ、ラジオ、週刊誌、インターネットなど様々なメディアで「終活関連」のことが取り上げられ、終活の範囲も広いことから情報が氾濫し、「何をどうして、何から始めて良いのか」、わけがわからない状況になっていると思います。

また、その情報も「間違っているものも多く」あります。

特に、インターネットサイトでは、検索に有利になるように「終活」関連のキーワードを盛り込んだ記事や、ページ数を増やすために正誤性や内容も確認しないで他のサイトの記事を引用し同じような間違った記事が拡散されているケースも良くあるので注意が必要です。

さらに、「終活」という言葉が「死」をイメージしやすいことから前向きにはなれず、切羽詰まらないと取り組めない人が多いのも現実だと思います。

理想的には、生活者支援を目的に終活業界を引率する機関みたいなものが出来れば変わってくるとは思いますが、現実的には難しく、終活業界を良くしていくことが今後の大きな課題だと思います。

【C氏】 私も終活系情報サイトは問題だと思います。

終活系情報サイトは、コンテンツの内容が薄いことに加えて、SEO目的に、どんなキーワードで検索してもヒットするように、どうでもいいようなことまで2,000文字くらいで説明しているのも問題です。

例えば、斎場と式場との違いや墓地と霊園との違いを、えんえんと説明しています。

そうすると、確かにヒットはしていますが、私はこのキュレーションサイト、いわゆるまとめサイトですが、これによって集客する時代は、ピークを過ぎたなと感じています。

某大手企業がM&Aしたネット企業があまりうまくいかずに、そこの創業メンバーが大量に退職したのは、その象徴的な現れではないかと感じています。

ネットはやはり、進化のスピードが速いので、次なる集客策が出てくるでしょう。それは終活というキーワードを利用して出てくるのではないかと想像しています。

【塚本】 終活関連のキュレーションサイトは、その後もどんどん増えてきていますが、マネタイズがうまくいっているという話はあまり聞かないですね。なぜ、あまりうまくいかなくなってきたと思いますか。

【C氏】 それは、終活関連のキュレーションサイトがたくさん出てきて、書いてある内容はほとんど同じだからでしょう。

サイト上でくどくど説明しても、自分たちの悩みを解決してくれる実働部隊の顔が見えてこないと、売上にはつながりにくいと思います。

むしろ、「小さなお葬式」などの紹介サイトのコンテンツの方がシンプルで分かりやすく、

売上につながりやすくなっているのではないでしょうか。

終活資格の受講者は多くても、資格更新率は低い

【塚本】 Bさんが終活普及活動の問題・課題点として感じている2つ目をお聞かせください。

【B氏】 終活事業者・団体と言えば、終活資格を発行する団体が主流となっています。

そのため、終活は、以前は親族や地域のコミュニティが共同でできた事なのに、資格や特別な知識がないとできないと思われるような風潮があります。

しかし、その資格講座の内容はどれも同じで実践的でないため、実際には役に立つことは少ないことが課題だと思います。

【塚本】 資格講座が実践的でないということには、私も同感です。

終活資格認定団体の受講者は、上位3団体だけでも4万人位になっています。4位以下の団体を含めれば、受講者数は5万人近くになるかもしれません。

資格認定団体では、資格認定講座を受講し、検定に合格した人で会費を払った人に資格を付与して会員とし、1年に1回、ないし2年に1回、会員の更新を行なうのが一般的になっています。

この会員の更新率は公表されていないので分かりませんが、資格認定団体の会員などの話を聞いていると、更新率が高い団体でも5割以下、資格認定団体によっては2割、1割というところもあるようです。

資格認定講座の受講者数は多くても、資格を更新していく人は、2~3割程度しかいないと推測されるのです。

更新する人がなぜ少ないのかというと、端的に言えば資格が役に立っていないからでしょう。

役に立っていないという理由にもいろいろあると思いますが、大きな理由の一つは、資格を認定するための講座の内容は、Bさんが言うように、終活の実践にはあまり役立たないものが多いからだと思います。

【B氏】 どうしてそう思われるのですか。

【塚本】 私も仕事柄、終活資格認定団体の講座や、その他のセミナー、勉強会などを受講したり、取材したりしましたが、そのほとんどは資格を認定するためのもので、いわゆる知識を学ぶための講座になっており、実践に役立つものは少なかったです。

実践に役立つものにしていくためには、講座内容を見直したり、実務に役立つ講座や勉強会を加えたり、講師も替えていく必要があると思います。

講師も替えていく必要があるというのは、実務の話をする講師もいますが、講師業の人が実務の話をするのと、実務を実際に行なっている人がリアルな話をするのとでは、実はかなり違うからです。

講師業の人は、実務の話もして、その話がうまくても、実は、実務経験はあまりないという人も多いので、実務に役立つとは限らないのです。

資格認定団体を批判しているようですが、資格認定講座のテキストを実務中心のものに作り替え、対面相談のロールプレイングなどの実習も組み込めば、かなりボリュームのある講座カリキュラムになり、他の認定講座との差別化もできるので、一つのビジネスチャンスだと思いますよ。

終活として必要なこと、希望することは生活者によって異なる

【塚本】 では、Cさんが終活普及活動の問題・課題点として感じている2点目をお聞かせください。

【C氏】 資格取得講座については、「シニア」「シニアライフ」「終活」「エンディング」といった名称の講座が乱立していて、一般の人には、どれがいいのか悪いのかが分かりにくくなっています。

そのため、それらしい名前が付いていれば、あとは安ければいいやと考えて選んでいるのが現実だろうと思います。

資格の中身にはさほどこだわっていなくて、手軽で、安くて、名刺に資格名を書ければいいや、というレベルになってしまっているなーと感じています。

私もある資格認定団体から、「この日空いてる? じゃ、1講座90分5,000円でよろしく」と一方的に言われて、勝手に講師にさせられそうになったことがあります。

もちろん丁重にお断りしましたが、認定団体の中には、とりあえず認定講座を開催するだけでいいのだというところもあり、資格認定講座全体の足を引っ張ってしまっているなーと実感しています。

【塚本】 1講座90分で5,000円というのは、Cさんのように実力のある人に対してとても失礼な話ですね。常織がないというか、自分のところの都合しか考えていないという問題もありますね。

私が「終活普及活動の問題・課題点」として感じている2点目は、先程話したことの続きになります。

終活を普及促進している代表的な存在のもう一つは、葬儀社などの専門業者が終活全般のことまで手掛けている「各種終活事業者」です。

終活を実際に行なう生活者を増やす上で、「各種終活事業者」の問題・課題点だと思うことを、1つだけ挙げます。

葬儀社など各種終活事業者も、自社の本業以外の終活サービスに関する情報提供や相談対応を行ない、必要に応じて専門家を紹介するところが多くなっています。

自社への顧客サービスとして行なっているところから、本業以外でも少しでも収益を増やそうとするところまで、幅がありますが、すべからく本業の顧客を獲得し、売上を上げることがメーンの目的になっています。

事業者ですから、それはそれでいいのですが、しかし、終活を実際に行なう生活者を増やしていくという視点からみると、それではなかなか増やすことはできないし、逆にマイナスになる面もあると思います。

【A氏】 マイナスになる面もあるというのは、どういうことでしょうか。

【塚本】 終活として必要なこと、希望することは、その人の置かれた家族関係や資産状況などによって大きく変わり、生活者によってバラバラです。

ですから、終活を行なう生活者を増やしていこうと思ったら、まず、生活者の希望、おかれた状況などを聞き、それに応じて適切な相談、サポートをしていく必要があります。

また、たくさんの終活がある中で、生活者によっては必要のない終活や優先順位の低い終活もありますから、本業の売上につなげることがメインの目的だったら、お客さんから迷惑がられたり、不信をかうこともあるわけです。

ですから、葬儀社などの終活業者が終活トータルで実際に終活を行なう人を増やすと同時に、事業としても成功させようと思うなら、本業から切り離して取り組む必要があるのではないかと思います。

本業から切り離して、事業として成り立たせるのは至難の業だと思いますが、その位の覚悟を持って取り組まないと生活者の立場に立った終活普及活動はうまくいかないだろうと思います。

当初の勢いは無くなり低迷する終活資格認定団体も……

【塚本】 終活資格認定団体の中で、当初は資格認定者をどんどん増やし、資格認定者数で上位になった団体があります。しかし、今や当初の勢いは全くなくなり、低迷してしまいました。

この要因は、何だと思いますか。

【B氏】 この団体には、私の知り合いが数人いましたので、その人たちから聞いたことを私なりにまとめると、低迷した要因は以下のようです。

  1. 発足当時から、事業規模に比べ売り上げが少ない。
  2. 死後の終活サービスは、問題がいくつかある。
  3. 終活資格事業なのか、終活サービス品を普及させるのかなど、企業理念が見えてこない。
  4. 本部スタッフの入れ替わりが激しく、終活の実践的な対応ができる人がいない。
  5. そのほかにもマイナス情報が聞こえてくる。

【塚本】 私も団体の関係者複数にヒアリングしましたので、お話しします。

ヒアリングして、低迷するようになった要因にはいろいろあると感じましたが、主な要因と感じたことを2つあげます。

1つは集客・販売戦略の立て方が、いわゆる甘かったことです。

終活資格を低料金で受講・認定するようにしてたくさんの人を集客し、同団体が用意した終活サービスを資格取得者に販売したり、資格取得者に販売させることによって収益を得ようとするビジネスモデルだったようですが、その終活サービスが思うようには売れなかったということです。

売れなかった要因は、販売力があまりなかったということに加え、いま、Bさんが話されてように、終活サービスの内容にも問題があったようです。

2つ目の要因は、組織の運営の仕方や人の使い方がずさんだったということです。

組織や人の動かし方は、典型的な「飴と鞭」と言ってよく、数字をあげる人を厚遇して、数字をあげない人は酷評したり、やめさせたりする。

それだけならまだしも、経営責任まで社員に転嫁するために、人がどんどん辞めていく。新しい人を入れても終活には素人同然ばかりの人が多く、すぐには戦力にはならないなどの要因から、余計に低迷するようになっていったようです。

それらの状況を聞くと、根本要因は、終活に対する思いや理念などはあまりなく、終活ブームに乗って一儲けしてやろうという安易な考えで参入したところにあるのではないかという感じがします。

【C氏】 「終活に対する思いや理念などはあまりない」ということは、私も感じます。

某終活資格認定団体の新セレモニー企画の行方は…

【塚本】 ある終活資格認定団体が新しいことを始めました。終活関連のセレモニーを行なうというのですが、これについてはどう思われますか。Aさん、どうでしょうか。

【A氏】 この新企画の取り組みは、依頼者の終活と華やかなセレモニーをサポートし、高い付加価値も提供できることから非常に良いことだと思います。

しかし、誰もが手軽にできる終活ではないですね。

当然、選ばれるのは終活実践者ですが、内容や費用を考えるとハードルは高く、関心を持たれても実践される方はごく一部の方だろうと推測します。

私も終活普及者として、いつかは究極の終活もサポートしてみたい気持ちもあります。

でも、終活は多くの人に必要な活動ですので、まずは誰もが手軽に出来るように普及をし、必要なサポートを実践していきたいと思っています。

【B氏】 私は、このセレモニーをきちんと行なうこと自体が大変だと思います。

会場のセッティングや様々なスケジュール調整、そして人員の管理など……加えて終活の知識も、となると莫大な時間とお金がかかると思われます。

資格認定を主としてきた団体が、それをどう行なうのだろうと感じています。

【塚本】 Cさんは、どう思われますか。

【C氏】 セレモニーの中身については、正直言って良く分かりません。

ただ、日本には古希、喜寿、傘寿、米寿など長寿をお祝いする儀式がいろいろあるのに、さらに同じような新しいものが必要なのかなとは思います。

そうした長寿をお祝いする儀式さえすたれてきているのですから、それをないがしろにせず、もう一度呼び起こすようなことを行なう方がスマートで良いのではないかという気がします。

【塚本】 私も感じることを一つだけ挙げます。

セレモニーが完了するまでをサポートするまとめ役を置くそうですが、そのまとめ役になるための資格認定講座料がすごく高い。

すごく高くても、それに見合うだけのものを団体が資格所得者に提供できればいいでしょうが、できなければ団体がガタつくことになるかもしれませんね。

終末期や看取りに関する資格が増えてくるのでは

【塚本】 最後に、終活普及活動のこれからについて、どうあるべきか、どういう変化が起こってくるかなどについての見方、考え方をお聞かせください。まずAさんから。

【A氏】 終活業界全体を良くしていきたいとは思いますが、個人レベルで出来ることではないので会社として出来ることをお話しします。

活動しているエリアでは終活普及の中心的な存在でありたいと思います。

そのためには地域の企業や団体、機関などとのご縁を大切にし、連携をとりながら役立つ情報発信やお役に立てる活動をしていきたいと思っています。

サポート面でも地域の専門家などを中心に連携し、いろいろな悩みを改善できるような環境の向上を目指していきます。

【塚本】 Bさんはどう思われますか。

【B氏】 終活を普及させていくためには、終活業界自体を正常化できる力も備えた、業界の中心的な存在になる組織が必要だと思います。

それは一企業でも団体でもいいと思いますし、皆がまとまった協会やホールディングス(持株会社)でもいいと思います。

そういう組織ができると、普及活動の活性化は元より、業界内の相応しくない団体や資格の排除にも繋がります。

そのことを、メディアや行政も巻き込んでユーザに促していけばより良い方向に向かっていくのではと思います。

【塚本】 Cさんはいかがでしょう。

【C氏】 終活という言葉は、認知度が高いことなどから、葬儀社も、石材店も、士業も、FPも皆が使うようになってしまったことにより、混乱してきてしまっています。

だから、終活ということは前提にしながらも、各分野の専門性ということをもう少し謳っていくべきではないと考えます。

終活全部をひとくくりにして、何でもかんでも万能にさばける人や団体はないので、それぞれの専門性を生かした活動を行ない、それが最終的に終活につながるということだと思います。

【塚本】 混乱してきているというのは、どういうことですか。

【C氏】 例えば、先ほどもちょっとお話ししましたが、「終活セミナー」に行き、講師は税理士さんだったのでお金のことを聞けると思っていたら、お金のことに付随して葬儀のことでも何でもお応えしますよと言われてしまうと、やはり違うと思います。

自分たちは、この分野のここをメーンに行なっているという業種であることをきちんと謳った上で、終活を推進していく方が混乱を招かないし、お客さんに親切だと思うのです。

【塚本】 終活資格についてはどう思われますか。

【C氏】 いま、「シニア」とか「エンディング」「終活」といった名称の資格は乱立していますので、次に出てくるのは、終末期や看取りに関する資格ではないかと見ています。

既に「看取り士」や「看取りケアパートナー」、「終末期ケア専門士」という資格などが出てきていますが、今は、自宅や高齢者施設で看取るということが、とても注目されています。

特に昨年度、「人生会議」がクローズアップされてから、どこでどのように終末期を迎えるのかということが議論されるようになりましたので、この辺の資格が増えてくるのではないかと思うのです。

そうすると、今の終活資格のように、また、あやしい資格も出てくるかもしれません。

【塚本】 本日は、長時間にわたりありがとうございました。



塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]