第42回:日本郵便の「終活紹介サービス」は全国展開されるかコロナ禍でも東京都の相談件数は前年度比120%に
日本郵政グループの日本郵便株式会社(郵便局数:24,341局、従業員数:193,257名)は、「終活紹介サービス」を、東京都江東区内の郵便局において、2018年10月から試行開始しました。
その後、サービス提供エリアを拡大したり、サービスメニューを増やしてきており、同社は依然、「試行段階」とアナウンスしていますが、私は、全国展開を視野に入れた動きではないかと感じています。
そこで、「終活紹介サービス」の担当部署であるトータル生活サポート事業部の小川晃弘(おがわ あきひろ)専門役に、終活紹介サービスの現状や今後の方針、課題などについてお聞きしました。(役職はインタビュー時点)
地域のコンシェルジュを目指す
まず、「終活紹介サービス」を試行開始された意図をお聞かせください。
日本郵便では、郵便局の果たすべき社会的使命は、創業以来培ってきたお客さまや地域からの信頼を基に、ユニバーサルサービス(誰もが等しく受益出来る公共的なサービス)を提供しつつ、地域と寄り添い、地域と共に生き、地域を丸ごと支えることと考えています。
そのために、地域住民が困った時に何でも相談できる、地域のコンシェルジュ(地域の見守り役)を目指して、幅広いサービスを提供することに取り組んでいます。
具体的には、郵便、貯金、保険等の従来から郵便局が取り扱っているサービスに加え、見守り、趣味娯楽割引特典等の「生活支援サービス」や、地方公共団体事務の包括受託、手続代行等の「行政関連サービス」を提供しています。
こうしたサービスを提供している中、「終活紹介サービス」も試行開始しました。
「終活紹介サービス」は、ビジネス的にはどのような位置づけをされていらっしゃるのですか。
終活紹介サービスは、それ自体で大きく収益を得るというより、終活紹介サービスを提供することで郵便局の利便性や信頼度が高まり、顧客満足の向上につながればと考えています。
サービス提供エリアとサービスメニューを拡大
「終活紹介サービス」は、東京都江東区の郵便局(40局)で、2018年10月10日から試行開始されたわけですが、その後の取り組み経過についておしえてください。
主な取り組み内容は2つです。
1つは、サービス提供エリアの拡大です。2019年2月に、東京都内の郵便局(1,467局)に試行拡大しました。
次いで、2020年9月に、札幌市内の郵便局(226局)に試行拡大し、2020年11月には北海道内の郵便局(1,208局)に拡大しています。
※ 郵便局数は、各エリア拡大時の局数
東京都内に次いで、北海道にされた理由は?
一番の理由は、当社の組織的特性です。
当社は、全国13支社体制を取っていますが、北海道は1支社で、北海道しか管轄していませんので、意思疎通が図りやすいということがあります。
また、地元郵便局から積極的に取り組んでみたいという意見をもらえたことも大きかったです。
つまり、終活事業を進めやすいということですね。主な取り組み内容のもうひとつは何でしょうか。
サービスメニューの追加です。
試行開始当初は、供養関係、相続関係、介護施設関係からスタートしましたが、その後、シニア向け出張撮影サービス、自分史作成サービス、身元保証等を追加しました。
メニューはどのような考えで追加されているのですか。
2つありまして、1つはサービスを行なっているうちに見えてくるニーズに基づいて追加しています。
例えば、介護施設の紹介を行なっていくうちに、入居時の身元保証や生前事務、死後事務などのニーズがあると分かりましたので、それらをサービスメニューに追加しました。
もう1つは、終活関連サービスを行なっている事業者からのお声掛けです。
私どもがすべてのニーズを把握しているわけではありませんので、事業者の方々からお声掛けいただいたサービスの中から、シニアの方に利用していただけそうなものをトライアル的に追加しています。
冊子「終活のことを考えようBOOK」が好評
次に、終活紹介サービスの基本的な流れについてご説明ください。
「終活紹介サービス」というのは、日本郵便が、様々な終活サービスを行なっている専門家・事業者と連携して、お客さまのお悩みを解決するまでしっかりサポートするサービスです。
まず、相談受付は、「生活相談ダイヤル」と呼んでいるフリーダイヤルによる電話相談をメインにしています。
このほか、日本郵便のホームページ内に終活紹介サービスの専用サイトを設け、メールでの相談も受け付けています。
また、北海道の郵便局では、貯金、保険の相続手続きを行なうお客さまに、アンケート用紙を記入してもらうことで、郵便局でもご相談の申込みが可能です。
例えば、相続手続きの中で、相続人全員の戸籍謄本等が必要となる場合があり、それらを集めるのは大変なので、終活紹介サービスを通じて紹介した行政書士等が代行することも可能です。
「終活紹介サービス」や、相談は「生活相談ダイヤル」で受付けているといった案内・PRは、どのようにされているのでしょうか。
各郵便局内にポスターを張り、冊子「終活のことを考えようBOOK」や各種チラシを窓口カウンターなどに設置しています。
窓口で終活に関わるような話があると、冊子やチラシをお渡ししていますが、それよりも興味がある方や必要とされる方がご自分で持ち帰るケースが多いようです。
冊子やチラシには、Webから相談するためのQRコードも入れていますが、「生活相談ダイヤル」の電話番号が目に入りやすいように大きく掲載しています。
これは、郵便局に来られるお客さまは高齢者が多く、Webに誘導しても実際に使っていただけるお客さまが少ないためです。現に、相談受付は電話がほとんどを占めています。
チラシ、冊子の中で、多く持ち帰えられているのは何でしょうか。
一番多いのは、冊子「終活のことを考えようBOOK」です。
内容は終活についてよくいただくご質問を中心に記載していますので、ご自身のこととして捉えていただきやすいのではないかと考えています。
また、A5サイズよりも少し小さいサイズにしているため、お客さまからも持ち帰りやすいとの声をいただいています。
郵便局でのポスター掲示、チラシ・冊子以外では、案内・PRはされていらっしゃらないのですか。
一部の地方公共団体では、庁舎内等に冊子やチラシを設置いただいています。
また、JR北海道の車内誌にも広告を掲載しており、その広告をきっかけにお問合せいただいたケースもあります。
「生活相談ダイヤル」に電話がかかってきた以降の流れについてご説明ください。
ご相談の内容をおうかがいし、一般的な質問・相談については、コールセンターのオペレーターが回答します。
サービス内容や費用をもっと詳しく知りたいという場合には、コールセンターから日本郵便が提携している協力会社にご相談内容を連携し、協力会社からお客さまにご連絡します。
そして、もしご利用していただけるとなれば、協力会社と提携している専門家・事業者がお客さまに見積もりを提示し、合意していただければご契約となり、初めて料金が発生するという流れになります。
北海道では「相続」関係は内製化
「終活紹介サービス」というのは、終活サービスを行なっている専門家・事業者を紹介するサービスですが、どのようなスキーム(仕組み)になっているのか分からない読者も多いと思いますので、ご説明ください。
東京都と北海道とでは一部違います。
まず東京都ですが、生活相談ダイヤルに入ってきたご相談の中で、もう少し詳しく知りたい方や専門的な相談への対応は、2パターンに分かれます。
1つは、供養、相続、介護施設関係など相談・紹介が多いサービスについては、仲介会社を介して、それぞれの分野の事業者や専門家につなぎます。
供養、相続、介護施設関係以外の出張撮影、自分史などのサービスについては、仲介会社を介さず、事業者、専門家に直接顧客を紹介します。
そういうスキームの東京都に対して、北海道は何が違うのでしょうか。
相続関係についてのスキームが異なります。
相続関係については、日本郵便の北海道支社の社員が相談を承って、相続関係の専門家につなぐようにしています。
相続関係は、いわゆる内製化したということですね。なぜ、そうされたのですか。
郵便局では、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の商品の相続手続きを行なうお客さまが多いこともあり、郵便局の社員が担当した方がお客さまにより安心してご利用いただけるのではないかと考えたからです。
内製化したのは、北海道支社の意向ですか。
東京都内での試行で見えてきた課題に取り組むため、仲介会社への紹介と内製化を並行して行なうことにしました。
両者を比較検討して、その後のことを考えていこうと思っています。
サービス別相談件数は相続関係が約半数でトップ
それでは、数値実績についてお聞かせください。
東京都の相談件数は、2020年度は2千件弱となっており、対前年度では120%となっています。
また、北海道は、2020年9月からの7カ月間で1千件弱のご相談をいただきました。
それらの数値をどのようにみていらっしゃいますか。
新型コロナウイルスの影響もあり、郵便局で終活紹介サービスをご案内する機会が少なくなった中では、多くのお客さまにご利用いただけたと感じています。
東京都と北海道の比較については、まだサービスが始まったばかりということもあり、一概には比較できないと考えています。
サービス別の相談件数のベスト5をお聞かせください。
相続が約半数を占めており、以下、お墓、介護施設紹介、遺品整理、葬儀及び思い出整理の順になっています。
サービス別の順位をどうみていらっしゃいますか。
相続は、郵便局で取り扱っている金融商品との親和性が高いため件数が多いのかなという印象です。
ご親族の相続手続きをきっかけに、ご自身の財産の分割について遺言書に残しておきたいなどのご相談をいただくことも多いです。
2番目に多いお墓に関するご相談は、納骨堂や樹木葬など新しい形の供養の在り方についての関心の高まりが表れているのではないかとみています。
終活紹介サービスを利用された人の声などは集めていらっしゃいますか。
はい。郵便局に寄せられる声のほか、コールセンターで対応時にいただく声などは共有いただいています。
例えば、以下のような声があります。
「遺品の供養や整理は、どこに頼んでいいのか見当がついていなかったが、信頼できる先が判明してありがたいです。まさに、郵便局にこういうことをやって欲しかった」
「戒名や老人ホームの選び方など、ずっと気にかかっていたが、相談先が分からず、そのままにしていた。郵便局みたいな中立的な立場で、客観的なアドバイスをもらえるのはありがたい」
「特定の介護施設に偏ることなく、利用者の立場に立って案内してくれる業者につないでもらえるのは助かる」
「不安な気持ちでポスターを眺めていたら、声をかけられた。そのまま局長とお話しすると、やっぱり郵便局は信頼できる。終活を扱っている業者も、きっと信頼できるだろうと思ったので、相談ダイヤルに電話した」
「いただいたパンフレットが非常に分かりやすく良いものだったので、郵便局にお礼の電話をした。郵便局で安心しました」
いまご紹介いただいた声をお聞きして感じたことをちょっとお話しします。終活関係を取材していて感じるのは、生活者が終活サービスを紹介してくれるところを探すに当たっては、紹介主体の信頼性が重要になっていることです。その点では、中小の紹介主体では知名度がないために信頼性に不安を持つ生活者が多いようです。また、知名度がある大手の紹介主体でも、事業者が多いので、事業者の商品・サービスを売ることが目的ではないかと思って警戒する生活者が多いようです。
それに対して、御社の場合は、「郵便局だから信頼できる、安心できる」という声が多かったのが印象的でした。そのように評価されているのは、どうしてだと思われますか。
郵便局ではこれまで、地域のお客さまのために様々なサービスを提供してきた実績があります。
終活紹介サービスにおいても、お客さまのお困りごとを解決するために適した専門家を、お客さまの側に立って、中立的な立場で紹介することを大事にしていますし、決して無理をお願いすることは行なっていません。そうしたことが評価されているのではないかと考えています。
郵便局そのものが安心できるだけでなく、「郵便局が信頼できるから、終活を扱っている業者も信頼できるだろう」とか、「利用者の立場に立って案内してくれる業者につないでもらえる」という声もありましたが、こうした声も多いのでしょうか。
実際のサービスを提供するのは、郵便局ではなく外部の専門家であることは、最初にお話しします。
そうすると、「じゃ、いいわ」などと断られるお客さまもいらっしゃいますが、一方で、郵便局だから紹介してくれる専門家・業者も信頼できるというお客さまもいらっしゃいます。
全国のお客さまへのサービス提供を目指す
今後の方針についてお聞きかせください。まず、サービス提供エリアですが、ズバリお聞きします。全国展開は考えていらっしゃるのでしょうか。
冒頭で申し上げましたように、地域住民が困った時に何でも相談できる、地域のコンシェルジュを目指したサービスの一環ですので、全国のお客さまがご利用いただけるような体制とすることを目指しています。
ただ、取り扱いエリアを段階的に増やしていくのか、どこかの段階で一気に全国に拡大するか等、拡大方法については状況を見ながら判断していきます。
サービスメニューについては、いかがでしょう。
下図が現在のサービスメニューです。
貯金や保険などの金融関係は日本郵便が行なっていますので、それ以外の基本的なものはほぼ網羅できたのかなと考えていますが、ほかにも見えていないものは多くあると思っています。
最後に、今後の課題点についてお聞かせください。
東京都と北海道で実施してみた一番の課題は、お客さまに郵便局が終活紹介サービスを行なっているということがまだまだ知られておらず、いわゆる認知度が低いということです。
郵便局は、高齢のお客さまが中心ですので、終活に関心がある方が多いと思っています。たくさんの方にお知らせすることが、これからもっと必要だと考えています。
何か方策を考えていらっしゃるのですか。
現在は、郵便局にポスターや冊子・チラシを設置しているのですが、今後は地方公共団体や法人の協力を得ながらチラシを設置する場所を増やしたり、オンラインセミナーなどを開催して、郵便局の終活紹介サービスの露出を増やしていきたいと思っています。
本日は、貴重なお話をありがとうございました。
【小川晃弘(おがわ あきひろ)氏のプロフィール】
日本郵便株式会社 地方創生推進部 担当部長。
2012年から郵便局における高齢者向けサービスの検討に携わる。
2013年からは郵便局員が訪問して高齢者を見守るみまもり訪問サービス等の企画を担当し、2017年にサービスをリリース。
現在は、みまもりサービスや終活紹介サービス等の生活関連サービスを幅広く担当している。
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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。