第43回:東京都世田谷区の重層的な高齢者見守り体制見守りが必要な高齢者の把握数は3年間で1.5倍に
日本の人口は減少してきているものの、65歳以上の高齢者人口は増え続けています。
しかも65歳以上の高齢者のひとり暮らしや高齢者のみの世帯は増加していることなどを背景に、高齢者の見守りに取り組む地方自治体が増えています。
そうした中、人口の多い都市部での高齢者見守りの好モデルの一つと言われているのが東京都世田谷区の高齢者見守りの取り組みです。
そこで、世田谷区高齢福祉部高齢福祉課の三羽忠嗣(みつわ ただし)課長に、高齢者見守りの仕組みや効果・成果、課題、今後の方針などについてお聞きしました。(役職はインタビュー時点)
「4つの見守り」で見守りを必要とする高齢者を把握
まず、世田谷区における高齢者見守りの取り組みの全体像をお聞かせください。
世田谷区では、地域住民や事業者、関係機関等による高齢者を見守る地域づくりを推進すると共に、身近な地区での、洗濯物が干しっぱなしになっているとか、新聞や郵便がたまっているといった「気づき」を、区やあんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)につなぐことで、安心・安全な地域での生活を支援する仕組みをつくっています。
具体的には、まず、「4つの見守り」と呼んでいる取り組みを行なっています。
1つは、ゆるやかな見守りである「地区高齢者見守りネットワーク」です。
これは、町会・自治会などの地区の活動団体等の連携を深め、地区のコミュニティを充実させることを目指した取り組みです。
取り組み内容は、高齢者が抱えている課題や孤立させない取り組みなどの「普及啓発」、住民の日常の中での気づきを、あんしんすこやかセンターに連絡し、適切な支援へとつなぐことなどです。
2つ目の見守りは、どういう内容でしょうか。
早めの相談のための見守りである「民生委員ふれあい訪問」です。
孤立を防ぐために、介護保険サービスを利用していない75歳以上の高齢者宅へ民生委員が訪問する取り組みです。
民生委員が各対象者宅に訪問し、世帯状況等の聞き取りを行ない、その際、高齢者の状況に合わせて各種介護・福祉サービスや相談窓口を案内し、必要に応じてあんしんすこやかセンター等の見守りや支援へつなぎます。
2019年度での訪問対象者数は1万3,280名、民生委員一人当たり22.9名となっています。
3つ目の見守りは、どういうものでしょうか。
安否確認のための見守りである「高齢者安心コール」です。
これは、ひとり暮らし等の高齢者が、地域で安心して生活を継続することができるようにすることを目的とした、次の3つのサービスです。
1つ目のサービスは、「電話相談サービス」です。
区内在住の65歳以上の高齢者やそのご家族、ご近所の方のお困りごとの相談を、電話で24時間365日お受けしています。
電話相談件数は年々増えてきており、2018年度は4,423件、2019年度は6,995件でした。
電話相談の内容はどういうものが多いのでしょうか。
2019年度では、生活全般や家族などの「相談」が最も多く、次いで病気や怪我、介護に関する「医療・介護」、各種サービス等の「問い合せ」の順になっています。
「高齢者安心コール」の2つ目のサービスは何でしょうか。
「電話による見守りサービス」です。
区内在住の65歳以上のひとり暮らしの方、高齢者のみの世帯の方を対象に、事前登録(無料)した方に定期的にお電話をして、お元気にされているかどうかを確認します。
3つ目のサービスは、「ボランティアによる訪問援助サービス」です。
区内在住の65歳以上で、ひとり暮らしの方、高齢者のみの世帯の方、日中ひとりで家にいる方で事前登録した方を対象に、ボランティアが訪問して、照明器具交換、換気扇のフィルター交換など簡単なお手伝いをします。
2019年度のボランティアの登録者数は40名、対応件数は47件でした。
2017年度から「高齢者見守りステッカー」というのも始められたとか?
はい。ステッカーを靴の中や衣類、杖などの身の回りの物に付けておくことで、警察等に保護された際に、「高齢者安心コール」を通じ、迅速に緊急連絡先に連絡できるようにする取り組みです。
要介護1以上の認定を受け、認知症などにより外出すると戻れないことが「ときどきある」や「常にある」状態で希望する方に、ステッカーを20枚配付します。
2019年度の登録者数は333名、緊急通報件数は8件でした。
4つ目の見守りは、どのようなものでしょうか。
専門職(社会福祉士、ケアマネジャー等)によるしっかりした見守りである「あんしん見守り事業」で、4つの見守りの中核になる取り組みです。
あんしんすこやかセンターの見守りコーディネーターが、訪問等により見守りの必要性が高いと考えられる高齢者を把握し、介護保険サービスや保険福祉サービスにつなぎます。
また、必要に応じ、「見守りボランティア」による定期的な訪問による見守りを行います。
「見守りの必要性が高いと考えられる高齢者」とは、どのような人ですか。
例えば、認知症の方や身体機能が低下している方、消費者被害の可能性のある方等です。
状況としては、家に訪問した時に、「洗濯物が干しっぱなし」、「ポストに新聞や郵便物がたまっている」、「同じ商品をたくさん購入している」、「髪や服装が乱れている」、「同じ話を繰り返す」、「殴られたような痕がある」などいつもと違う、気になる変化がある方です。
見守りコーディネ―ターが、それらの症状や本人の希望などを踏まえ、介護保険サービスの導入が必要なのか、あんしんすこやかセンターによる見守りが適当なのか、あるいは地域の支え合いによる見守りが必要なのか等を判断して、適切な支援につなぎます。
世田谷区と事業者で「高齢者見守り協定」を締結
4つの見守りの他にも、見守りの取り組みがあるそうですね。
はい。次の3つがあります。
1つは、「サービスによる見守り」で、救急通報システム、ごみの訪問収集、福祉電話訪問、介護保険サービス等です。
2つ目は、「地域の支えあいによる見守り」で、会食サービス、ふれあい・いきいきサロン、支えあいミニデイ、高齢者クラブ、せたがやはいからSOSネットワーク等があります。
3つ目は、事業者による見守りである「高齢者見守り協定」です。
3つの中で、見守りを主目的とした取り組みは「高齢者見守り協定」です。
「高齢者見守り協定」とは、どのようなものですか。
支援が必要な高齢者等を早期に把握し適切な対応を図ったり、孤立死を防止することを目的に、区と事業者の間で、「世田谷区における支援が必要と思われる高齢者等に係る情報の提供に関する協定」を締結し、異変を発見したときは、区に通報してもらう取り組みです。
事業の流れは、【1】協定締結事業者は「気になる状況(異変)を発見次第、世田谷区(あんしんすこやかセンター等)に通報、【2】通報を受けた区は、あんしんすこやかセンター、総合支所保健福祉課、生活支援課等が連携して、ご本人の状況確認と必要な支援を実施する、となっています。
東京都も事業者との間で高齢者等を支える地域づくり協定を締結して、見守り等の取り組みを行なっていますが、それとの関係は?
東京都の協定とは別に、区独自の協定を締結しています。
東京都が協定を締結しているのは54事業者/団体あり、一部重複がありますが、世田谷区では、区内で事業を展開している21事業者/団体と協定を締結しています。
ひとり暮らし高齢者・高齢者のみの世帯が70%を超える
次に、今お聞きしたいろいろな見守りを行なうようになった狙いや、その背景についてお聞かせください。
高齢者見守り事業を「4つの見守り」に体系化し、いろいろな高齢者見守りに取り組み始めたのは、2009年頃からです。
取り組み始めた背景は、1つは世田谷区の人口が東京23区の中でも最も多く、それに比例して高齢者人口も多いということです。
2020年年4月現在の区の人口は約92万1,600人です。うち65歳以上の方は約18万4,700人と、人口の約20%を占めています。
近年は区の人口全体が増えているため、高齢化率は横ばいですが、高齢者人口は増えています。
高齢者人口の中でも、ひとり暮らしの人が33.0%、高齢者のみの世帯の人が37.5%を占め、合計では70%を超えて増加しています。
高齢者の見守りに取り組み始めた背景は、このほか、介護保険の要介護認定者が増加していることや、要介護認定において認知症の日常生活度の判定が「II」以上の方の人数が増えていること、孤立死する方が増えていることなどがあります。
このように高齢者人口が多く、いろいろな方がいらっしゃいますので、ひとつの見守り制度に頼るのではなく、先ほどお話ししたような重層的な見守り体制を作ることによって、見守りを必要としている方をもれなく把握して支援したり、異変を早期に発見して対応できるようにしています。
見守りが必要な高齢者をより把握できるようになってきた
そうした重層的な見守り体制を作られたことによって、どのような効果や成果が出ていますか。
世田谷区では、「世田谷区高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画」を策定しています。
この計画は、高齢者に関する施策の総合的かつ計画的な推進、介護保険事業の円滑な実施、地域包括ケアシステムの構築を目指して、3年間ごとに施策の展開の考え方や方策、施策の目標および介護サービス量の見込み等を定めるものです。
2018年年4月1日~2021年3月末までの3年間が第7期で、その計画書の中の「地域で支えあう仕組みづくりの推進」の一つとして、「高齢者見守りの施策の推進」が入っています。
計画は期ごとに検証しており、第7期計画の検証を終えたところです。
第7期の「高齢者見守りの施策の推進」の検証結果は、どのようになっているのでしょうか。
次のようになっています。
(1)「民生委員ふれあい訪問」では、区やサービス事業者との関わりがない高齢者を訪問し、世帯状況や健康状態等を確認するとともに、必要に応じてあんしんすこやかセンター等の相談窓口や区の福祉サービス等を案内した。
(2)「高齢者安心コール」では、訪問援助サービスの対応件数を増やすため、高齢者安心コールの訪問援助サービスをシニアボランティア・ポイントの対象とするほか、訪問援助サービスボランティアを対象とした研修を実施した。
高齢者安心コールの電話訪問登録者数は、2017年度は319人であったものが、2020年度は325人に増えています。
(3)「あんしんすこやかセンターによる見守りが必要な高齢者の把握」については、6期の2017年度は2万2,623人であったのに対し、7期の2020年度には3万4,600件へと約53%増えている。
これは高齢者人口が増えているということもありますが、高齢者人口の増加率より把握数の増加率の方が伸びており、その意味では、重層的な見守り体制を充実させることにより、見守りが必要な高齢者をより把握できるようになってきた現れとみています。
重層的な見守り体制の一番の成果と考えて良いわけですね。
そう思います。
その他の検証結果は?
(4)点目は、「事業者との見守り協定」についてで、協定締結数は21事業者/団体となり、年1回、連絡協議会を開催し、情報共有および交流を図った。
協定締結事業者/団体からの通報実績は、2019年度で見ると50件でした。
どのような通報があり、それにどのように対応しているのですか。
例えば、次のような報告があがってきています。
- 新聞販売店から「新聞が1週間くらいたまっている」との通報があり、対応策としては、緊急通報したが、救急隊員が死亡を確認した。
- 不動産・住宅会社から「家賃を滞納している」との通報があり、確認したところ、長期入院中であることが分かった。
- コンビニから「支払が上手くできず、言動がおかしい」との通報があり、担当ケアマネジャーに連絡して対応してもらった、などです。
重層的な見守り体制を充実されたことにより、その他の効果や成果はありますか。
重層的な見守り体制の中には、先ほどちょっとお話ししたように、会食サービスやふれあい・いきいきサロンなども、高齢者の孤立を防ぐという意味合いで「地域の支えあいによる見守り」として、見守りの取り組みの中に含めています。
これらの会食サービスや、ふれあい・いきいきサロンを運営しているのは、「社会福祉協議会地域支えあい活動」に登録している団体ですが、団対数は、2017年度は755団体であったものが、2020年度では815団体に増えています。
また、この地域支えあい活動に参加した延べ人数は、2017年度は約21万4,400人であったものが、2020年度では約24万6,000人に増加しています。
登録団体数も参加者数も、東京23区の中ではかなり多く、世田谷区の地域での支えあい活動は進んでいる方だと思います。
訪問による調査が困難に
高齢者見守り施策の課題は、何でしょうか。
第7期の検証結果では、次のようなことが挙げられています。
1)「民生委員ふれあい訪問」においては、民生委員の高齢化、対象となる高齢者のさらなる増加、児童委員としての役割の増大が見込まれる。
2)表札のないオートロックの集合住宅の増加、就労やデイサービス等の利用による不在、特殊詐欺の増加に伴う調査への警戒感等から、年々、訪問による調査が困難になってきている。
その他に課題はないのでしょうか。
私見を述べますと、先ほどお話ししたように、世田谷区は人口と比例して高齢者人口も多く、さらに、ひとり暮らしの方と高齢者のみ世帯の方を合わせると高齢者人口の70%を超えてきています。
そうすると、ご家族の目に期待することも難しくなってきますので、重層的な見守り体制をより充実させていくことが課題だと思います。
高齢者の活動と参加を促進し、地域との関わりを深める
最後に、高齢者見守りに関する今後の方針をお聞かせください。
今年度からはじまる第8期「高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画」では、計画の方向を明確にするために、3つの目標を定めています。
【1】 区民の健康寿命を延ばす
【2】高齢者の活動と参加を促進する
【3】安心して暮らし続けるための介護・福祉サービスの確保を図る
――の3つです。
そして、【2】の高齢者の活動と参加を促進するための施策の1つとして「見守り施策の推進」を位置付けています。
見守りを主とした施策だけではなく、高齢者の活動と参加を促進し、地域との関わりを深めることによって、見守りにもつながるという考え方です。
高齢者が支えられる側だけでなく支える側にもなり、生きがいや役割をもって活躍できるよう、社会参加や地域活動に参加を促す施策にも取り組んでいきます。
本日は、貴重なお話しをありがとうございました。
【三羽忠嗣(みつわ ただし)氏のプロフィール】
世田谷区入庁後、主として、福祉系の業務を担当。
第2期(平成15年~)より高齢者保健福祉計画の策定等に関わったほか、高齢者虐待対策の立ち上げ等に携わる。
平成25年4月より砧清掃事務所長(高齢者等訪問収集実施)。
平成27年4月より玉川総合支所保健福祉課長(高齢者・障害者の相談機関)。
平成29年4月より烏山総合支所生活支援課長(民生委員への支援を担当)。
令和元年7月より高齢福祉課長。
記事に関連するWebサイト/関連記事
塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。