第45回:札幌の終活関連団体が提携先を全国20法人に拡大毎日新聞など新聞社3社、テレビ局2局も提携
終活を推進している一般社団法人などの民間団体には、大きく分けると3種類あります。
1つは終活に関する講座や検定試験を実施することにより、終活資格を認定する団体です。
2つ目は、特に高齢者が直面する介護・医療から相続、葬儀、納骨など様々な問題について、ワンストップで相談に応じ、必要に応じて専門家・事業者などを紹介する終活サポート団体です。
そして3つ目は、1と2の両方を行なっている団体です。
この3種類の団体の中で、3つ目は、団体数もさほど多くはありませんし、ビジネス的に成功しているところもあまりありません。
そうした中で、札幌を拠点とする一般社団法人 シニアライフサポート協会は、提携先を全国20法人まで拡大してきています。
20法人の中には、毎日新聞など新聞社3社、北海道文化放送などテレビ局2局も入っています。
そこで、同協会の小番一弘(こつがい かずひろ)代表理事に、ここまで拡大してこられた要因などについてお聞きしました。
介護離職して札幌に戻り、全く新たな事業を始める
まず、2014年1月にシニアライフサポート協会を立ち上げられるまでの経緯についてお聞かせください。
そもそものきっかけは母の介護です。私は、東京でサラリーマンをしていましたが、認知症の母の介護をするために介護離職して札幌に戻りました。49歳の時です。
介護をしながらヘルパー2級の資格を取得し、高齢者施設で夜間の当直の仕事を行ないました。
その際、介護現場の厳しい実情を自らの肌で感じると共に、高齢者住宅を探す人と施設を提供する側のミスマッチが多いことを強く感じました。
そこで、高齢者住宅を探す人と施設をマッチングさせるために、2013年10月にNPO法人「札幌高齢者住まいのサポートセンター」を立ち上げました。
無料で相談を受けていると、住まいのことだけでなく、引越し、不用品処分、身元保証、遺言書作成など様々な困り事があることを知りました。
困っている人たちをタライ回しにはしたくありませんでしたので、2014年1月に新たに一般社団法人「シニアライフサポート協会」を立ち上げました。
NPO法人を立ち上げられた3カ月後に、住まいからシニアライフ全般に広げて再スタートされたわけですね。
そうです。サポート協会の立ち上げと同時に、1つは、高齢者の住まいのことだけでなく、シニアやその家族の様々な困り事にワンストップで相談対応する「シニアライフ相談サロン」に衣替えしました。
様々な困り事にワンストップで相談対応する上で特に難しいのは、相談対応できる人材をどう育成するかです。
そこで、ワンストップで相談対応できる人材を育てることと、自分や家族のために介護、終活関係の知識を得たいという人たちを対象に、「シニアライフカウンセラー養成講座」を2014年10月から開始しました。
「シニアライフ相談サロン」での相談件数は5年間で4000件に
「シニアライフ相談サロン」と「シニアライフカウンセラー養成講座」それぞれについて、スタートされてからの実績とその要因についてお聞きします。まず、「シニアライフ相談サロン」からお願いします。
「シニアライフ相談サロン」での相談件数は、初年度(2014年度)は約500件でしたが、3年度目(2016年度)は約2,000件、5年度目(2018年度)は約4,000件と順調に増えました。
全くのゼロからのスタートで、5年で4,000件というのはすごいですね。その主な要因は、ご自身は何だとお考えですか。
1つは、「それは、うちでは対応していません」などと絶対に断らないことです。
いままで対応していない相談があったら、ワンストップ対応と言っている以上、対応できるようにしています。
中には対応できないものもありますが、その場合でもゼロ回答はしません。
例えば、旦那に暴力を振るわれて困っているといったDV関係の相談も時々あります。そうした場合は、少し話を聞いてあげて、そうした場合の窓口を設けている社会福祉協議会を紹介したり、警察に相談した方がいいのではないですかとアドバイスすることもあります。
要因の2つ目は何でしょうか。
高齢者とその家族と日頃関わっている地域包括支援センター、ケアマネージャー、病院のソーシャルワーカーなどが応援してくれていることです。
応援してくれるのは、公平、公正を保つようにしているからです。
例えば、困り事を解決するために紹介する専門家や専門業者などの提携先は、各業種1社ではなく、3社~7社にしています。
なぜかと言いますと、1~2社だと、当協会に都合のよいところを紹介しているのでないかと思われてしまう可能性があるからです。
つまり、お客さんが選択できるようにして公平、公正を保っているから、行政なども小番さんのところを紹介してくれるということですね。
そういうことです。
相談件数が増えてきた3つ目の要因は、「シニアライフカウンセラー養成講座」を受講して資格を取得した人たちが、自分の家族や親族、さらには地域の人たちにも口コミで広めてくれていることです。
ですから、相談サロン開設当初は、広告・宣伝を行なっていましたが、現在は、口コミ中心になっています。
シニアライフカウンセラー資格取得者は5年間で4800名に
次に、「シニアライフカウンセラー養成講座」の実績推移とその要因についてお聞かせください。
養成講座を受講して資格を取得した人の数は、初年度(2014年度)は36名、3年度目(2017年度)の累計資格取得者数は約2,900名、5年度目(2019年度)には累計約4,800名になりました。
資格取得者数も急速に増えてこられましたね。その主な要因は何だとお考えですか。
1つ目は、養成講座は、シニアの相談に多岐にわたって応えられる総合力を習得できる科目数、内容にしていますが、講座科目は、相談サロンでの相談事例から、知っておいた方が良いと思うものを中心に組み立てたことです。
ですから、単に知識を得られるだけでなく、実践にも役立つ内容になっています。
2つ目は、養成講座のいわゆるCP(コストパフォーマンス、費用対効果)が高いことです。
講座は、初級、中級、上級の3段階あり、初級は2日間10科目19,800円で、1科目当たり1,980円です。
中級は1日5科目で23,000円、2日間10科目セットで35,000円、上級は1日5科目で25,000円、2日間10科目セットで40,000円にしています。
他の同種の講座と比べると、CPはトップグループだと思います。
初級の料金は、開講当初から値上げしていません。
というのは、一般の人が、シニアライフや終活について学ぼうと思えば、今はYou Tubeなどでいろいろ出されており、無料で観られるからです。
ですから、実践に役立つノウハウ講座でないといけませんし、ノウハウ講座にしてもYou Tubeなどでも出てきていますから、値上げは簡単にはできません。
「相談サロン」と「カウンセラー養成講座」は車の両輪
では、本日一番お聞きしたかった他法人との提携についてお聞きします。他法人と提携しようと思われた意図は何でしょうか。
一番の理由は、自分のところでも行ないたいという希望が多かったからです。特に、相談サロンがそうです。
最初は、他法人に教えてうまくいくという自信はありませんでしたが、2法人に試行錯誤しながら教えているうちに、これはいけると確信しました。
そこで、2018年中頃からコンサルティング形式による提携にも力を入れ始めました。
提携は、相談サロンとカウンセラー養成講座のセットを基本にされているそうですが、それはどうしてでしょうか。
相談サロンとカウンセラー養成講座というのは車の両輪です。
なぜなら、最初に相談サロンに来られて養成講座を受講されるお客さんもいれば、養成講座を受講してから相談サロンに来られるお客さんもいるからです。
どういうことかと言いますと、前者の場合、例えば、遺言書を書いた方が良いと思って養成講座を受講した人だと、知識中心の講座が50分あるだけですから、家で実際に書こうと思っても書けなくて、相談サロンに相談する人もいるわけです。
後者の場合は、相談サロンに来られる方は知識が何もないという方も結構いらっしゃいます。
例えば、親の退院が迫っており、ケアマネさんから施設を探しなさいと言われたのだけど、そもそもケアマネって何ですかとか聞いて来られる方や、親の介護度を聞いても分かりませんという方もいるのです。
そうすると、何も知らないがために、損をしてしまう人がいます。特に相続がらみでは、下手をすると1,000万円も2,000万円も損してしまう人もいるわけです。
だから、何も知らない方には、「お金はちょっとかかりますけど、講座を受講してみてはいかがですか」とお勧めすることもできます。
車の両輪というのは、そういう意味です。
提携した法人の業種・業態はさまざま
では、現在の提携先数と内訳を教えてください。
提携しているのは20法人です。そのうち従業員6名以上が13法人、5名以下が7法人です。
昨年10月までは、6名以上の法人だけを対象にしていましたが、5名以下のところの希望も多いことから、11月から提携を受けることにしました。
業種・業態はどのようになっていますか。
6名以上の法人の内訳は、新聞社が毎日新聞など3社、テレビ局は北海道文化放送など2局のほか、保険代理店3社、物流関係1社、介護・福祉関係1社、IT関係1社となっています。
5名以下は、相続関係2法人、税理士1法人、社労士1法人、研修講師1法人です。
「相談サロン」と「カウンセラー養成講座」をセットで行なうことを勧められているとのことでしたが、実際にはどうなっていますか。
相談サロンは20法人全部が設置していますが、養成講座を自分のところで運営しているのは、新聞社3社とテレビ局2局の計5法人です。
しかし、他のところも養成講座の受講を受け付けることができます。
というのは、1つは、本部の私のところでは、Eラーニングも行なっています。
また、提携先で養成講座を行なっている5法人では、コロナになってからオンライン(ZOOM)でも受講できるようにしましたので、他のエリアの人も受講が可能です。
ですから、現在は、日程の合いそうなところを選んで、オンラインで受講することができるようになっています。
提携先は自由度が高く、サポートも充実している
提携先をつくり始めてから3年位ですよね。比較的短期間で20法人になった要因は、何だと思われますか。
1番の要因は、日本の人口は減っても高齢者は年々増えており、当協会が行なっているようなことに対するニーズが増え、市場が拡大しているからです。
2つ目は、高齢者の困り事は、行政や地域包括支援センターなどが対応してくれると思っている人が多いですが、行政に行っても、話は聞いてくれることがあっても具体的な解決策は持っておらず、解決できないことが多いので、我々のような民間業者に頼らざるを得ないということです。
3つ目は、既存事業が厳しくなって、何か新しい事業を始めなければいけない事業者が増えており、そうした事業者がシニアや終活のマーケットに目を向けていることです。
我々と提携した新聞社やテレビ局もそうですし、保険代理店などもそうです。
もう1つは、SDGs的な流れもあると思います。
企業もただお金儲けをしているだけでは、株主や生活者などから振り向いてもらえない風潮になってきています。
儲かれば何でもよいではなくて、地域貢献、社会貢献ということも考えなければならなくなっており、我々が行なっていることには、そうした貢献性もあることです。
今挙げられた要因は、社会構造変化などのいわゆる外部要因が多かったですが、内部要因としてはいかがですか。
1つは、提携先の自由度が高いということです。
我々が行なっているのはフランチャイズ(以下、FC)みたいなことですが、FC組織にはせず、提携先にコンサルティングするという形にしています。
ですから、FCのようないろいろな縛りがなく、提携先の自由度が高いのです。
「相談サロン」の名称も好きなように付けてよいことにしており、実際に付けている名称もバラバラになっています。
また、私は、FCは行ないませんので、提携先が行ないたければ自由に行なうことができるようにしています。
小番さんは、なぜFCは行なわないのでしょうか。
FCにした方がいいのではないかと言ってくれる人もいますが、このビジネスは、本当に地域密着で、地元の人が地元のために行なわないとうまくいきません。
なぜなら、地域のことをよく分かっている人でないと、地域の人たちの困り事や問題・課題は解決できないからです。
私が全国に出て行って、いろいろ口出ししても、地域のことをよく分かっていないので解決して、良くすることは出来ません。
内部要因の2つ目は何でしょうか。
FCだと加盟店が本部に払うロイヤルティは高いですが、我々がいただくコンサルティング料は、ロイヤルティなどに比べるとかなり安くなっています。
しかし、安くても、提携先に対するサポートは充実しています。
具体的にはあまり言えませんが、例えば、6名以上の法人の場合は、ZOOMでの研修は月間50時間、電話サポートは月間30時間まで行なえるようにしているなど、サポートには自信があります。
3つ目は、誰もが名前を知っている新聞社やテレビ局が提携してくれたことは、我々が行なっていることの信用の裏付けになりますから、これも大きな要因です。
新聞社、テレビ局と良く提携できましたね。先ほどのお話ですと、新聞社、テレビ局も経営が厳しくて新しい事業を探しているということが背景にあるということでしたが、提携できた要因として他にもありますか。
新聞社やテレビ局というのは、公共性や社会貢献性の高い業種です。我々の取り組みも、地域貢献性、社会貢献性がありますので、それで採用されたということもあると思います。
提携先では既存の顧客を持っているところが好調
次に提携先の状況についてお聞きします。カウンセラー養成講座の資格取得者数は、協会本部と提携先を合わせると何名になりましたか。
約6,800名です。
終活系とシニアライフ系を合わせた終活関連資格で資格取得者数を公表している中では、3位になりますね。2位のところは、受講者数は多くても資格として活かせている人は少ないようですから、実質的には小番さんのところが2位でしょうね。
「相談サロン」で実積が良いのは、どのようなところでしょうか。
既存のお客さんを持っているところです。
というのは、とりあえず「こういうことを始めましたので、こういうお困り事があればご利用ください」とご案内すれば良いからです。
新聞社、テレビ局は読者や視聴者がいますから良いですし、提携先に、保険の代理店さんが多いのも、既存のお客さんがいるからです。
金融機関や証券会社、不動産会社と取引がある士業では、取引先のお客さんで困っている人がいらっしゃったら相談対応しますよと案内することによって、お客さんを紹介してくれるようになっています。
また、そうした案内を行なうことによって、なかなか提携できなかった大手とも提携できたということで、とても喜んでいます。
実積が良いところの要因として他にありますか。
首都圏は良いです。人口が多いというだけでなく、単価が高いです。
例えば、不動産1つ売却するにしても、北海道の都市部と比べても、10倍、20倍高いわけです。そうすると手数料も違います。
また、相続額も違いますから、相続でもいただく手数料が違うわけです。
では、「相談サロン」は地方では駄目なのかというと、地方では他にやっているところはありませんから、地域一番店になれます。
あそこに行けば、何でも相談にのってくれ、解決してくれるという噂は、狭い地域ほどすぐに広がります。
そうすると、取り扱う量が少なく、単価も低いけれど、長い目でみると優位性が保てます。
「相談サロン」を全国47都道府県に設置する
今後の課題は何でしょうか。
IT化です。相談は、顔を合わせてリアルで行なえた方が良いですが、コロナによって、スマホやLINEで相談できないのかなど、いろいろ要望が出てきました。
高齢者施設の見学も、バスをチャーターしてご案内していたところ、コロナによって見学に行けなくなりなりました。そうすると、動画で観ていただくという手もあるわけです。
こうしたことは、コロナが終息しても、必要なことだと思います。
お客さんにとって、特に息子さん、娘さんはIT世代ですから、ITは便利ですし、我々にとっても効率が良いということもあります。
対面で相談できるサロンは、ズッーと続けていきますが、IT化についても、力があるところと提携して進めていきたいと考えています。
最後に、今後の目標、方針についてお聞かせ下さい。
目標は、相談サロンを全国47都道府県全部に設置することです。これを2022年度中、遅くとも2023年度中に実現したいと思っています。
ものすごく意欲的ですね。何か目的があるのでしょうか。
例えば、次のような要望もあります。
ある大手企業さんが、「当社の社員やOB・OGは全国にいます。そういう人たちを、福利厚生の一環として、カバーしてもらえませんか」というのです。
福利厚生というと、従来はホテルを安く使えるとか、食事の割引券が使えるといったことでしたが、今はそれだけではなくて、人材不足だし、介護離職されたりすると困るから、少しでも長く勤めてもらうために、あるいは人材を集めやすくするために、そういった福利厚生も行ないたいというのです。
そういった福利厚生は、ノウハウのある小番さんのところにアウトソーシングしようというわけですね。
そうです。本来は人事や総務が行なうべきことですが、アウトソーシングする方が費用効率も良いからです。
例えば、1人当たり月500円を我々のようなところに払うとしても、1,000人の会社でも月50万で済みますからね。
相談サロンについては、こうしたニーズもあり、全国の各提携先がグループとして協力すれば対応できるわけです。
ですから、出来るだけ早く全国に設置していきます。
今日はとても貴重なお話しをありがとうございました。
【小番 一弘(こつがい かずひろ)氏のプロフィール】
一般社団法人シニアライフサポート協会 代表理事。NPO法人札幌高齢者住まいのサポートセンター 代表理事。
1959年 札幌市生まれ
2014年1月 シニアライフサポートセンター設立。
2014年1月 高齢者やその家族の困りごとをワンストップで解決する「シニアライフ相談サロン」設置。相談件数は、2018年度には約4,000件に増加。
2014年10月 元気なシニアがシニアを支える「シニアライフカウンセラー養成講座」を開講。資格取得者数は、2019年度には累計約4,800名に。
2018年中頃 コンサルティング形式による提携を開始。提携先は2021年5月末までに全国20法人に拡大。
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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。