障害年金と一緒に覚えておきたい「障害者特例」

[2019/2/28 00:00]

「障害年金」と「障害者特例」

事故や病気などで、身体に障害が残ったときに、頼りになるのが「障害年金」です。

「障害年金」は一定の障害を受けた場合に、障害の状態や、年金保険の加入状況などによって、一定の年金がもらえる制度です。

しかし、あまり知られていませんが、「障害年金」同様に、障害であることによって受け取れる年金があります。

それが、厚生年金の「障害者特例」です。

そして、「障害年金」と「障害者特例」を両方受け取ることはできません。どちらか一つを選ぶ必要があります。

この記事では、あまり知られていない「障害者特例」について紹介し、「障害年金」とどちらを選ぶべきかを考えてみましょう。

対象者が限られる「障害者特例」

「障害者特例」があまり話題にならない理由は、対象となる人が少ないことでしょう。

具体的な条件を並べてみましょう。

  • 生年月日が、男性なら「1953年4月2日から1961年4月1日」、女性なら「1958年4月2日から1966年4月1日」の間にある
  • 厚生年金に加入していたが、すでに退職していて、現在は加入していない
  • 厚生年金保険法に定める3級以上の障害状態にある

とくに、生年月日の制約が大きいでしょう。

これは「障害者特例」が、「特別支給の老齢厚生年金」という制度を利用しているためなのです。

65歳への移行の隙間を狙う

「特別支給の老齢厚生年金」というのは、年金の支給年齢が60歳から65歳へと引き上げられるときに、変化をやわらげるために支給される年金です。

先に上げた生年月日に年代の男女は、60歳から65歳までのどこかで、「特別支給の老齢厚生年金」の支給が始まります。

出典:データを基に編集部が作成

しかし、「特別支給の老齢厚生年金」は、現役時代の報酬に比例した部分だけが支給されます。

つまり、64歳までの年金は、65歳からの年金よりも「基礎部分」の分だけ少ないのです。

出典:データを基に編集部が作成

現役時代の報酬と勤務期間にもよりますが、本来の半分か、もっと少ない金額を想定していれば、当たらずといえども遠からずという感じです。

そして、「障害者特例」というのは、「特別支給の老齢厚生年金」で削られてしまった、「基礎部分」を貰えるという仕組みです。

つまり、65歳からと同じ、丸々全部の年金が受け取れるわけです。

数年間のこととはいえ、受け取れる年金が大きく増えるのですから、ありがたい制度と言えるでしょう。

出典:データを基に編集部が作成

どちらが多いと、一言では言えない

しかし、「障害者特例」は、なかなか使い所が難しい制度です。

そもそも、「厚生年金保険法に定める3級以上の障害状態にある」という条件は、「障害厚生年金」と同じです。

であれば、「障害厚生年金」が受け取れる可能性があれば、そちらの方が、生年月日の制限はありません。

両者の金額は、現役時代の勤務期間や報酬に左右されるでの一概には言えません。

また、「障害年金」は無税ですが、「障害者特例」で受け取った分は所得税などの対象です。

つまり、個人の状況によって、どちらが有利かという判断が異なるのです。

正確に判断するためには、年金事務所に相談して、どちらの金額が大きくなるか計算してもらうことをおすすめします。

「障害者特例」ならば受け取れる2つのケース

では、どんな場合ならば、「障害年金」よりも「障害者特例」の方が有利になるのでしょうか。

2つのケースを考えてみました。

【ケース1】退職後に初診日がある

Aさんは、退職後に時間ができたので、気になっていた症状を診てもらうために、医師の診察を受けました。

そこで初めて病気が判明し、最終的には3級の障害状態になりました。

【ケース1】の解説

Aさんの場合、初診日は退職後なので、障害年金は「障害厚生年金」ではなく、「障害基礎年金」になってしまいます。

「障害厚生年金」と異なり、「障害基礎年金」では、3級の障害は対象となりません。

したがって、「障害年金」をもらうことができません。

この場合、「障害者特例」であれば、初診日が退職後であっても、問題ありません。

また「3級以上」であれば、支払いの対象となります。

年金事務所で「障害者特例」について相談してみましょう。

何か気になる症状があるならば、必ず退職前に診察を受けましょう。

退職するとサラリーマンを護っているさまざまな制度が利用できなくなります。

【ケース2】年金保険料の滞納があった

Bさんは、会社員として勤めたあとで独立し、フリーランスとして長く働いています。

しかし、最近は収入が安定しないため、健康保険や年金などを滞納することが珍しくありません。

ある日、腹部に強い痛みを感じて、救急車で入院することになりました。

最終的には、2級の障害と判定されたので、障害基礎年金を申請しましたが、滞納などが原因で支給されませんでした。

【ケース2】の解説

「障害年金」の受給条件の一つに、保険料納付要件があります。

これは、次の2つのうち、どちらかを満たしている必要があります。

  • 年金加入期間において、年金保険料の納付月数と免除月数の合算月数が3分の2以上ある
  • 初診日の属する月の前々月迄の過去1年間に年金保険料滞納月が無いこと(直近一年要件)

加入期間全体の納付月数が少なくても、「直近一年要件」が満たされていれば大丈夫なのですが、Bさんの場合は滞納があったので、これを満たすことができませんでした。

この場合も、「障害者特例」であれば、支給される可能性があります。

具体的に、年金保険料を何年分支払っているかなどの情報が必要ですので、年金事務所に相談に行きましょう。

「障害年金」を補える可能性がある制度

厚生年金の「障害者特例」は、対象となる年齢が限られていることから、使いかたが難しい制度です。

しかし、なんらかの原因で「障害年金」が受給できない場合でも、「障害者特例」ならば受給できる可能性があります。

もし、あなたや、あなたの家族が、なんらかの障害を負い、「障害年金」の受給を考えるときには、「障害者特例」も覚えておいてください。

例えば、現役時代に厚生年金の加入期間が長く、報酬も大きかった場合は、「障害者特例」の方が金額が大きくなる可能性があります。

この場合は、検討すべき要素が多いので、素人判断を避け、年金事務所に相談してから判断しましょう。

手続きなどが複雑過ぎて手に負えない場合は、社会保険労務士(社労士)の助けを借りることも検討してください。

[シニアガイド編集部]