「財政検証」で分かった。20年先の年金は現役収入の50%がギリギリ
5年に一度の「財政検証」
厚労省の「社会保障審議会年金部会」という会議で、公的年金の「財政検証」が公開されました。
「財政検証」は、将来の年金の給付状況を、5年に1度検証するものです。
今回の財政検証は、過去の財政検証に比べて、経済成長の前提などが控えめな数字になっており、信頼性が上がったと感じられます。
それだけに、少子高齢化という課題を抱える年金制度の現状について、厳しい将来像が明らかとなりました。
経済成長によって6つのケースを想定
今回の財政検証では、経済状況によって6つのケースを想定し、現役世代の収入に対して、どれぐらいの比率で年金が給付できるかを表す「所得代替率」を計算しています。
経済が順調に成長した場合の「ケース1~3」では、政府が約束している現役世代の平均収入の50%以上が維持できるとしています。
一方、経済が不調な場合の「ケース4~6」では、年金の給付水準が50%を切り、制度の再検討が必要になるとしています。
現在の年金法では、「所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合は、給付と費用負担のありかたについて検討を行なう」としています。
そのため、所得代替率が50%を下回った場合は、年金保険料の値上げや、消費税の増税などの措置が必要になるのです。
現在よりも受け取れる年金が少なくなる
「財政検証」の内容を理解するためには、2つの用語を押さえておく必要があります。
まず、「所得代替率」です。
現在の年金制度は、現役世代の収入と同じ金額を給付することを目標とはしていません。その何割かを給付して、老後生活の柱とすることを目的としています。
2019年現在の年金制度で検証してみましょう。
夫婦2人のモデル世帯の年金額は、「2人の基礎年金(13万円)+夫の厚生年金(9万円)」で、「22万円」として計算されています。
これに対して、現役男子の平均手取り収入額は、月額で「35万7千円」です。
つまり、年金の給付水準は、22万円を35万7千円で割った「61.7%」です。
これを「所得代替率」と言います。
現時点での所得代替率は61.7%ですが、今回の財政検証では、一番良い「ケース1」でも、所得代替率は「51.9%」まで下がります。悪い場合は「50%」を維持するのがやっとです。
つまり、将来的には所得代替率は「50%」まで下がると思っていた方が良いでしょう。
例えば、現在の現役男子の平均手取り収入額「35万7千円」に対して、所得代替率が50%になると、夫婦2人で受け取れる年金の金額が「17万8,500円」まで下がります。
現在の物価水準で言って、月額で3~4万円下がると思えば、その重さが分かります。
所得代替率は「マクロ経済スライド」によって下がっていく
どうして「所得代替率」は下がっていくのでしょうか。
それは「マクロ経済スライド」のためです。
これが、もう一つの覚えておきたい用語です。
「マクロ経済スライド」は、少子高齢化の進展で、支え手である現役世代が減少しても、制度が維持できるよう、給付水準を自動的に下げる制度です。
つまり、年金制度に入る金額が減ったら、出ていく「年金」を自動的に減らします。
マクロ経済スライドが実施されているため、経済成長が進む「ケース1~3」でも、2046年には所得代替率は50.8%~51.9%まで下がります。
経済成長が進まない「ケース3~6」の場合は、所得代替率が50%を切りますから、どこかの時点で、マクロ経済スライドを止めるか、年金保険料を値上げするか、消費税を増税するなどの措置が必要になります。
財政検証の6つのケース。数字は経済成長率、所得代替率の順
- ケース1 0.9% 51.9%
- ケース2 0.6% 51.6%
- ケース3 0.4% 50.8%
- ケース4 0.2% 46.5%
- ケース5 0.0% 44.5%
- ケース6 -0.5% 38.0%~36.0%
年金が下がることは確定。上乗せ分の準備が必要
今回の財政検証によって、3つのことが分かりました。
- 経済成長が進むケースであれば、所得代替率50%は維持できる
- 経済成長が進まない場合は、マクロ経済スライドの停止など、なんらかの調整が必要になる
- いずれの場合でも、所得代替率の目標は「50%」である
つまり、将来の年金の所得代替率は、現在の61.7%よりも10%ほど低くなります。
20年先に受け取れる年金は、それだけ少なくなると想定しておくべきでしょう。
その分は、「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA(ニーサ)」などを利用して、少しでも上乗せできるように、自力で準備する必要があります。
また、所得代替率の計算方法でわかるように、日本の年金制度は、夫婦2人のサラリーマン家庭を前提に設計されています。
自営業で基礎年金しかない国民年金加入者や、一人暮らしの人は、モデルとなっているサラリーマン家庭よりも受け取れる年金が少なくなります。
特に、自営業の人は、「国民年金基金」や「小規模企業共済」など、利用できる制度を駆使して老後の生活に備えましょう。