国民年金も厚生年金も、保険料を払う期間が「5年」も長くなる!?
将来の年金政策が見える「オプション試算」
厚労省が公開した「年金制度の財政検証」には、オプション試算という項目があります。
これは、厚労省などが議論している年金制度の改定によって、年金の給付水準が改善されるかどうかを試算したものです。
つまり、ここで挙げているオプション試算の内容は、厚労省が年金制度を維持するための、次の一手として打ってくる可能性が高いものです。
この記事ではオプション試算として挙げられている項目を簡単に紹介します。
厚生年金の加入者拡大
財政検証で「オプションA」として挙げられているのは、「被用者保険の適用拡大」です。
簡単に言えば、厚生年金に加入する人を増やしましょうということです。
具体的な方法は、3段階用意されていますが、いずれの場合も、所得代替率の向上には有効でした。
特に「一定の賃金収入(月5.8万円以上)がある全ての被用者へ適用拡大した場合」は、4%以上も改善されます。
将来の被用者保険は、『学生、雇用契約期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者についても対象』となり、『雇用者の中で月5.8万円未満の者のみ対象外』になるでしょう。
年金の保険料を払う期間が長くなる可能性が高い
財政検証の「オプションB」は、「保険料拠出期間の延長と、受給開始時期の選択」です。
具体的には、次のような方法が検討されています。
- 65歳以上を対象とする「在職老齢年金」を撤廃する
- 基礎年金の保険料を払う期間を、20歳から65歳までの45年間に伸ばす
- 厚生年金の加入年齢を70歳から75歳に延長する
- 現在、70歳まで延長できる年金の支給開始年齢を75歳まで延長する
このうち、「在職老齢年金の撤廃」については、所得代替率の向上にはつながらないとしています。
これについては、政府と見解が異なっており、今後も議論があるでしょう。
ほかの3つについては所得代替率の向上が見込まれるので、将来的に導入される可能性が高いでしょう。
つまり、現在60歳で終わっている国民年金の保険料の払い込みが「65歳」に、現在70歳で終わっている厚生年金の保険料の払い込みが「75歳」になります。
年金の支給開始年齢が、70歳ではなく「75歳」まで繰り下げできるようになると、受け取る金額は40%以上も増えます。
しかし、75歳まで支給開始を遅らせて、年金を受け取らずに働き続けるという選択には、かなりの勇気が必要でしょう。選択肢が広がっても、実行する人は限られるのではないでしょうか。
できることは限られているので、実行される可能性は高い
世界銀行のコンサルタントなどを勤めた、ニコラス・バー氏が、年金制度についての講演で、次のように述べたことがあります。
もし年金の支払いに問題がある場合、4つの解決策がある。そして、この4つしか解決策はない。
- 平均年金月額の引き下げ
- 支給開始年齢の引き上げ
- 保険料の引き上げ
- 国民総生産の増大政策
これらのアプローチが含まれていない年金財政改善方策は、いずれも幻想である
日本の年金制度に当てはめてみましょう。
「平均年金月額の引き下げ」は、すでに「マクロ経済スライド」によって実現しています。
「支給開始年齢の引き上げ」は、今回のオプション試算には含まれていませんが、「支給開始年齢の選択肢を75歳まで広げる」という形で誘導を試みています。
「保険料の引き上げ」は、現在、厚生年金の保険料の上限が定められているため、これ以上の引き上げには法律の改正が必要になります。
「国民総生産の増大政策」については、今回の財政検証でも、経済成長率の優劣がそのまま年金に影響することが再確認されました。
こうしてまとめてみると、現在の日本の年金制度でできることは、すでに行なわれており、これ以上できる選択肢は限られていることが分かります。
特に、国民年金は65歳まで、厚生年金は75歳まで、これまでよりも5年長く保険料を払うようになれば、確実に年金制度に寄与します。
残念ながら、遠からず実現すると思っていた方が良いでしょう。