障害が残った状態で退院するときは、入院中に介護保険の手続きを

[2020/12/10 00:00]

病院に入院できる期間には上限がある

例えば、脳卒中などの病気で倒れて入院した場合に、ずっと入院を続けることはできません。

それぞれの病院によって、入院できる期間には制限があるのです。

基本的には、命を救うための「急性期病院」が2カ月、その後の「回復期リハビリテーション病院」が6カ月(180日)で、合わせて8カ月ほどが上限となります。

病気の後遺症で、障害が残っている場合でも、それ以上、入院を続けることはできません。

つまり、「回復期リハビリテーション病院」での入院の後半には、そこを退院した後で、どうするかを決め、準備を始める必要があります。

主な選択肢は、自宅で療養する「在宅」、障害者を対象とした「障害者病棟」への転院、高齢者の場合は「地域包括ケア病棟」への転院などがあります。

また、高齢者の場合は、「介護付き老人ホーム」や「特別養護老人ホーム」などの、高齢者向け施設への入居も選択肢になります。

この記事では、選択する人が一番多いであろう「在宅」について、いつから、どのような準備をすれば良いかを紹介します。

在宅で頼るのは「介護保険」

「在宅」で療養を続ける際に、頼りにする制度は「介護保険」です。

一言で言えば、「入院中に介護保険の手続きを終え、退院後の生活を準備する」ことが大切です。

なお、介護保険は、基本的には65歳以上が対象ですが、「脳卒中」などの「特定疾病(とくていしっぺい)」が原因である場合は、40歳以上であれば利用できます。

では、介護保険を利用するためには、どんな手続が必要なのでしょうか。

主な流れを箇条書きにしてみましょう。

  • 病院の相談室に声をかけ、退院後の方針を相談する
  • 現在、住んでいる地域の「地域包括支援センター」に行き、介護保険の申請をする
  • 入院中に「認定調査」を受ける
  • 1カ月ほどで「要介護認定」が下り、利用できる介護保険の範囲が決まる
  • 「地域包括支援センター」に相談して、介護を委託する「居宅介護支援事業者」を決める
  • 「居宅介護支援事業者」のケアマネジャーと相談して、利用するサービスの「ケアプラン」を決める
  • 退院する病院の主治医と関係者、ケアマネジャー、家族などが集まって「退院前カンファレンス」を開き、退院の日時や今後の方針を話し合う
  • 利用するサービスに応じて、それぞれの事業者と顔合わせをして、迎え入れる準備を進める
  • 退院して自宅に戻る
  • 退院後の状況に応じて、ケアマネジャーと相談して「ケアプラン」を調整する

これだけの準備をするのに、約2カ月ほど掛かります。

つまり、回復期リハビリテーション病院に入院後、3~4カ月経ったら、退院後の進路を決めて、準備を整える必要があります。

できるだけ早い時期に、病院の相談室に声をかけて、退院に向けて相談を始めてください。

退院までは、病院の相談室に頼る

大きな流れについては、上記の通りですが、それぞれの段階で注意すべきことがあります。

まず、「退院」までの期間は、病院の相談室を味方に付けることが必要です。

相談室には「ソーシャルワーカー」などの肩書で、経験のある相談員が在籍しています。

退院して在宅になる場合、介護保険の認定調査への立ち会い、家族への「退院指導」、多種多様な書類の準備など、病院側にも大きな負担がかかります。

それらを順調にこなすためには、相談室の協力が不可欠です。

忙しいことが多い主治医に任せていては、退院準備が進みません。

無事に、在宅に移行するためにも、相談室を「退院という目的を共有する仲間」として、円滑に協力を進めてください。

退院したら「ケアマネさん」がパートナー

退院前後から、自宅に戻ってから頼りにするのは「ケアマネージャー」です。

「ケアマネージャー」は、介護保険で利用するサービスの「ケアプラン」を作成する人で、介護の司令塔にあたります。

「居宅介護支援事業者」を選ぶときは、会社を選ぶのではなく、ケアマネージャーを選ぶつもりで臨んでください。

例えば、地域包括支援センターでは、次のように具体的に相談します。

「今回、おかげさまで要介護5で認定が下りました。しかし、本人は持病もありますので、単に介護だけではなく、訪問看護や通院の支援など、医療の面でも支援が必要です。そちらの方面に詳しく、経験のあるケアマネさんがいる事業者は、どこでしょう」

そして、ケアマネージャーが決まったら、最初に介護の方針を説明します。

例えば、「退院直後は、本人も自分も何ができるのか分からないので、ヘルパーさんを多めに入れてください。最初の1カ月は、ともかく無事に過ごせることを目的とし、2カ月目からヘルパーさんを減らして、その分をリハビリテーションに回してください」というように意思を明確にします。

また、介護保険のサービスは、直接、現金が支給されるのではなく、サービスの利用料金の何割かを介護保険が負担し、1割~3割を自分が負担します。

そのため、要介護度ごとに、利用できるサービスの枠(金額)が決まっています。

この枠内で、どのようにサービスを組み合わせるかが、介護保険を利用するコツなのです。

そのため、ケアマネージャーさんには、次のように自分の方針を伝えましょう。

例えば、「自分が払える金額は、月に6万円までなので、介護保険の自己負担分も含めて、それで収まる範囲でプランを立ててください」と、はっきりとした金額を伝えます。

その方が、ケアマネージャーさんもケアプランを立てやすくなります。

余談ですが、介護保険のサービスのうち「訪問看護」は、入院中の主治医の先生に「特別指示書」を書いてもらうと、2週間分が「医療保険(健康保険)」になります。

介護保険の枠を気にせずに、訪問看護に入ってもらえるので、できるだけ利用してください。

退院後の体調などに不安がある場合は、必ず「特別指示書」を書いてもらいましょう。

ケアプランは、常に見直しを

退院から2週間ほど経つと、自分ができること、ヘルパーさんにお願いすべきことが分かってきます。

また、リハビリテーションや訪問入浴などのサービスの回数が適切かどうかも判断できるでしょう。

そうやって、少しずつ進みながら、ケアマネージャーさんと二人三脚で、次のケアプランを立ててください。

介護生活に余裕が出てきたら、病状に応じて「障害者手帳」の取得を目指しましょう。

「障害者手帳」があると、地域によっては、介護保険では利用できない「手当」や「補助」の制度が用意されています。

また、収入を補うための「障害年金」の手続きも重要です。

こちらは、症状が安定してからになりますが、一度、年金事務所に相談しておくと、必要な書類などの準備が楽になります。

[シニアガイド編集部]