第27回:デジタル遺品でよくある6つの誤解

[2018/8/27 00:00]

「デジタル遺品」という言葉は、まだなじみが薄く、わかりにくいものという印象を持っている方も多いと思います。しかし、いくつかの事例をお話すれば、その印象が薄らぐのではないでしょうか。

6月から7月にかけて私が講演した内容をベースに、よくあるデジタル遺品の6つの誤解を解いていきましょう。

葬儀供養業界向け見本市『フューネラルビジネスフェア2018』(2018年6月、パシフィコ横浜)での講演「発表! デジタル遺品の誤解トップ5」の様子。日本デジタル終活協会代表の伊勢田篤史氏とともに登壇

誤解1「デジタル遺品はスマホやパソコンを処分すればOK」

答えは「×(バツ)」。

デジタル遺品には、スマホやパソコンとその中見だけでなく、SNSアカウントやネットの有料サービスとの契約、ネット銀行の口座なども含まれます。

目に見える端末だけを処分してしまうと、ネットに残った遺品とのひも付けが切れてしまい、後で気づいても手出しできなくなってしまうといった事態が起こりえます。

スマホやパソコンはデジタル世界の家みたいなものです。そのなかにはデジタル写真やダウンロードしたアプリ、仕事の書類といったオフラインデータが置かれていますが、家の外、つまりインターネットにある資産に通じる窓口にもなっているわけです。

デジタル遺品をきちんと処分するなら、そうした全体像をまずは見据えて、「見えているところ」と「見えていないところ」を意識することが重要です。そうすることで、クラウド上のデータや職場の端末に残ったデータなど、意識下から外れていたデジタルの持ち物に気づけることはよくあります。

デジタル遺品(デジタル資産)はウチとソトに点在している。プレゼン資料より

誤解2「キャリアやメーカーは端末のロックを解除してくれる」

答えは「×」。

メーカーやキャリアは、その端末が壊れたり不具合が発生したときはハードウェアの修理や交換によって助けてくれますが、中身に関しては原則ノータッチです。

たとえば、スマホの持ち主がパスワードを忘れてしまった場合、キャリアショップでは端末の初期化は応じてくれますが、それ以上のことは受け付けてくれません。これが遺族になっても対応は同じです。

相談に応じてくれるのは一部のパソコンサポート会社やデータ復旧会社となります。ただし、スマホのロック解除が行なえる会社はさらに絞られますし、100%の解錠を保証しているところはありません。

他者によるロック解除という道筋は狭き門と考えておきましょう。

誤解3「生体認証でロックをかければ、死んでも中見は見られない」

答えはこちらも「×」。

指紋認証や顔認証、虹彩認証などで持ち主が解錠できる仕組みを搭載している端末は増えていますが、生体認証でしかロックが解除できない構造にはなっていません。

手袋やサングラス、マスクなどが外せない状況でロックが解除できないと困りますから、生体認証を登録する際はパスワードやパターン認証などを同時に設定する仕組みになっています。

このため、パスワードやパターン認証が家族に伝わればロックが解除されます。同様にGoogleアカウントやApple IDなどを通してクラウド上にあるバックアップファイルにアクセスされる可能性もあります。

死後まで通用する鉄壁というのは簡単には作れないと考えておいたほうがよいでしょう。

誤解4「FXで作った数千万円の借金が遺族に請求されたことがある」

この答えはおそらくですが「×」です。

FXや先物取引のような証拠金を使った金融派生商品は、予想を外すと元手を超える負債に変わるリスクがあります。

オンライン証券でそうしたやりとりをしていた方が亡くなり、残されたポジションが負債化して遺族に請求が行く。構造上は確かに起きうることですし、不安がる声も多く耳にします。

しかし、この連載の第6回でもレポートしたとおり、数千万円という規模の請求が遺族に届いたケースは取材した範囲で確認できていません。

遺族への請求自体は国内で年に1~2回程度発生しているようですが、金額は十数万円~120万円程度に止まるそうです。

ただし、今後キャッシュレス化が加速するとスマホの財布化が進みますし、パスワードが分からなければ手出しができない仮想通貨が遺産として問題視される懸念もあります。

これらの遺産を遺族が把握しきれないまま相続税が発生してしまう――そんな事態も考えなければならない世の中になってきてはいます。

誤解5「デジタル遺品はその道に詳しい親族や知人に任せればOK」

こちらもやはり「×」。

ITやデジタル機器に詳しくないと、デジタル遺品を正しく処理するのは確かに難しいと思います。ただし、作業スキルと判断スキルは別物です。

たとえば、ITに詳しい親族によってパスワードのかかったパソコンが開けられたとします。

その中に故人が見知らぬ異性と親しげにしている2ショット写真が入っていた場合、その写真は人知れずこっそり消すべきものなのか皆で追憶すべきものなのかといった判断まで親族に任せるのはあまりに酷です。

デジタル遺品といっても、本質は普通の遺品と変わりません。その道に詳しい親族や知人にはデジタルというベールを外す作業をお願いして、ベールを剥がしたあとの判断は遺族が責任を持つべきです。英文の遺品が出てきたら、英語に詳しい親族に翻訳だけお願いするということはよくあります。それと同じですね。

パソコンやスマホ作業をしてもらっている傍らに遺族がいてくれれば、手伝っている側も安心するでしょう。

誤解6「デジタル遺品は半永久的に残る」

これは原理的には「○(マル)」なのですが、現実的には「×」に限りなく近いです。なので誤解とさせてもらいました。

大雑把にいえば、デジタルは0と1で表現できる記号なので、その配列だけ伝えられれば完全なコピーができますし、元の情報も劣化しません。それが「無限に拡散して半永久的に消せない」というデジタルの怖さの元になっていると思われます。

ただし、デジタル情報を記録している媒体には寿命があります。個人向きのHDDやSSDは5年程度で故障することが多く、インターネット上にあるデータは運営サイトと命運を共にしています。一般に、紙よりはるかに短命だといえるでしょう。

人の手により定期的にバックアップしていけばオリジナルと同等のデータがずっと保持できますが、誰も手を加えずにいると10年も経たないうちに消失してしまう可能性が高いのです。

ですから、デジタル遺品を形見として残しておきたい場合は、外見を大事にするのとは別に、中見をバックアップして管理し続ける意識が必要になります。

連載内の関連記事


古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年8月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]