第26回:故人のサイトが生き続けるために必要なこと
小林麻央さんのブログは、一周忌を迎えたいまもコメントの書き込みが続いています。
そのように亡くなった人のサイトを生かし続けるには、残された家族や仲間の支えが欠かせません。故人のサイトを引き継ぐということはどうことなのか。3つの事例から考えていきましょう。
一周忌まで英訳投稿が続いた小林麻央さんのブログ
フリーアナウンサーの小林麻央さんは、がん闘病を公表した3カ月後の2016年9月にブログ「KOKORO.」を開設しました。以降、亡くなる数日前の2017年6月20日まで300回以上更新し、多くの読者を集めたことはご承知の方も多いと思います。
麻央さんが亡くなった後も「KOKORO.」の更新は途絶えませんでした。ご家族の意思により、過去の投稿の英訳というかたちで更新が続けられたのです。
記事執筆現在(2018年7月20日)の最終更新は一周忌となる2018年6月22日。麻央さんが生前にアップした最後の記事の英訳でした。各投稿のコメント欄は開放されていて、毎日複数の書き込みがなされています。
子孫によって15年以上維持されている「『福祉世界』研究所」
2003年1月に亡くなった社会福祉研究者の岡田藤太郎さんのサイト「『福祉世界』研究所」は、現在もオリジナルと新設サイトが運営されています。
藤太郎さんが亡くなった直後にご家族がサイトの存在に気づき、ひとまずはネットに詳しいお孫さんの手により維持することになったそうです。
その後、多くの若手研究者に「『福祉世界』研究所」が読まれているとわかり、家族会議の結果、三男の信さんが改めてサイトを立ち上げることになりました。
パソコン教室に通い、蔵書等の写真も加えて新設サイトを公開したのが2017年10月。現在も藤太郎さんの仕事を後世に残すべく、どちらのサイトも併存させて地道な管理を続けています。
信さんは「テレビで聞いたことですが、人間は二度死ぬ。一度は肉体の死、二度目は忘れられたとき、とのこと。だから父はまだ生きていると思います」と語ります。
夫の手で完全保存版ととなった妻の闘病ブログ
亡き伴侶のブログをコメントごとコピーして、自ら取得したドメインに丸ごと移した事例もあります。
2年半の闘病の末、38歳の若さで2008年8月に亡くなった女性のブログ「みづきの末期直腸ガンからの復活の記録」は、旦那さんによる葬儀後の投稿を最後に更新は停止しました。
しかし、その後も旦那さんの手で維持管理され、2015年には新たに取得したドメインに完全移行を果たしています。
サーバー関連の仕事をしていて知識があったとはいえ、残された600本の記事を読者から付けられたコメントごとコピーするのは「かなり手間がかかりました」と振り返ります。
ブログの最終更新で「記事はこれで最後とさせていただきますが、このブログの閉鎖はしませんのでご安心ください」と書いていた旦那さんは、およそ10年経った現在も宣言どおりに見守っているわけです。
生き続けるのに欠かせないのは「引き継ぐ人」「場」「閲覧者」
この3つのサイトは、本人が亡くなった後も生き続けているといえるでしょう。
「KOKORO.」は更新自体がごく最近まで続いていますし、「『福祉世界』研究所」と「みづきの末期直腸ガンからの復活の記録」も能動的に管理されています。荒らされたまま放置されたり、誰も意図しないかたちで急に閉鎖したりという、忘れ去られた状態とはまったく異なります。
こうした状況を実現するのは簡単ではありません。サイトを引き継いだご家族の尽力はもちろん、サイトという「場」を提供する運営者の協力なくしては成立しないでしょう。
「KOKORO.」のスペースを提供しているAmeba(サイバーエージェント)は累計約5,300万のブログを抱えていますが、契約者が亡くなった後に独断でブログを閉じるということは原則行なわないそうです。
2008年12月に亡くなった飯島愛さんのブログもそうでしたが、遺族や関係者からの要望がなければ基本的には閉鎖しません。
ただ、すべての運営元がこのスタンスというわけではなく、遺族であっても本人以外がログインすることを禁じているサービスも多いです。だから、家族が新たに別のサービスのスペースを契約したり、ドメインを取得したりして、安心できる「場」を確保する必要が生じることもあるのです。
そしてもうひとつ。アクセス数やコメントなどでリアクションを残していく閲覧者の存在も欠かせません。閲覧者は家族や知人だけということもあれば、不特定多数のファンを含むこともあるでしょう。いずれにしろ、岡田信さんがいうように「忘れられないこと」が重要だと思います。
この点に関して、みづきさんの旦那さんの経験は示唆に富みます。
移設後は新たなコンテンツを追加せずに管理を続けていますが、Googleの検索アルゴリズムが変更されるタイミングで記事の検索順位が大きく下がり、アクセス数が落ちるという経験を何度かしたそうです。
2016年末に質の低いまとめサイト(キュレーションサイト)が問題視された際の変更では、医療関係記事のルール変更によって、総アクセス数の7割減も経験しました。
そのとき「ネットから徐々に抹殺されるような印象を受けました」といいます。
新しいコンテンツの検索性を優先することで、過去のコンテンツはどんどん気づかれにくくなっていく。その構造を変えるのは難しいかもしれません。ただ、その傾向を知っておけば、閲覧者側で「故人のサイトはブックマークしておく」などの対策が打てそうです。
そうやって、故人を知る人々、故人を偲びたい人々が残されたサイトを大切にする意識を持つことが、サイトの長寿につながるのところはあるでしょう。
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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年8月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。