第41回:故人が残した「○○ペイ」の残高は相続できるのか
ここ1年で「○○ペイ」と名前のついたサービスが急成長を遂げています。
なかには100万円相当まで残高を残せるものもありますが、持ち主が亡くなったあと、それらは遺族に相続できるのでしょうか。
主要なサービス元に聞いてみました。
チャージするタイプの「○○ペイ」の残高は死後どうなる
「○○ペイ」は主にスマホを使ってQRコードやバーコードで決済するサービスを指します。
端末のNFCを使って決済する「Apple Pay」や「Google Pay」も含めることが多いようです。
これらのサービスには、紐づけたクレジットカードやデビットカード、預金口座から直接支払う仕組みのものと、サービス内にチャージした範囲の金額で支払って、残高が足りなくなったら振り込みやポイント購入などで補填する仕組みのものがあります。
前者は「Apple Pay」と「Google Pay」のほか、「Origami Pay」や「ゆうちょPay」などが挙げられます。
後者は「LINE Pay」や「PayPay」、「ファミペイ」、「メルペイ」などが知られています。
そのほか、残高によってスマホ決済できるサービスとしては、送金サービスの「pring(プリン)」や「モバイルSuica」、「楽天Edy」などの一部形態も加えることができるでしょう。
では持ち主が亡くなったとき、「○○ペイ」はどうなってしまうのでしょう。
前者は原則としてサービス内に固有の資産は残りませんが、後者は残高が残ってしまいます。
アカウントの相続は難しいが、払い戻しの可能性はあり
1アカウントが保有しておける残高の上限は下記のとおりで、サービスごとに大きな差があります。
- LINE Pay 100万円(本人確認前の「LINE Cash」では10万円)
- PayPay 100万円
- ファミペイ 10万円
- メルカリペイ 非公開。ただし、残高が100万円以上ある場合は追加チャージ不可
- pring 1億円
- モバイルSuica 2万円
- 楽天Edy 5万円
個人間送金を主眼にした「pring」を除くと、おおよそ100万円が最高額といえそうです。
アカウントの持ち主が亡くなったとき、それなりの額が置かれたままになることも十分に考えられる設計といえます。
にも関わらず、利用規約上は契約者本人が亡くなった時点で、残高を保有する権利が消滅してしまうサービスが多いのです。
分かりやすいことろでは、「LINE Pay」や「PayPay」、「pring」などは利用規約でサービスの「一身専属性」を明記しています。
サービスを提供するのはあくまで契約を結んだ本人のみ。たとえ相続人であっても、引き継いで利用することはできないというルールです。
「一身専属性」に言及していないサービスでも、権利の譲渡を禁止しているケースが目立ちます。
とりあえずは、故人が使っていたサービスをそのまま引き継いで使うという道筋は認められないと考えておくべきでしょう。
そうなると、利用規約上、残高も引き継げずに消滅することになりますが、実際には遺族からの問い合わせに個別に応じるケースが多いようです。
「LINE Pay」は、この連載の「故人が残したLINE Payの残高は相続できるのか」でレポートしたとおり、契約者の死亡証明書や申請者との関係性が分かる戸籍証明書などの必要書類を確認したうえで、残高の返金に応じています。
「PayPay」も同様の対応をとっていて、ファミペイも「法的性質上、原則払戻は不可。相続については個別に対応いたします」と言います。
モバイルSuicaは必要書類を郵送したうえで「会員専用退会・払い戻しフォーム」で申請する流れです。
細かな手続きの違いはあれ、応じてくれる場合も公的な書類を用意する必要があり、原則として相続人の立場にある人が申請する必要がある点は共通しています。
「○○ペイ」の遺族相談はすでに発生している
実際の相談件数は、サービスの普及期ということもあり、まだそこまで多いとはいえません。
2018年10月開始の「PayPay」は2カ月に1回のペースで、2019年7月開始の「ファミペイ」はまだゼロ件とのことでした。
2014年12月開始の「LINE Pay」は具体的な数字は非公開ながら、前述の記事時点(2018年4月調査)から横ばいとのことで、ブームによる増加傾向などは今のところみられないようです。
とはいえ、電子マネーという大きなくくりで捉えたとき、遺族からの相談は年を追うごとに着実に増えているのは確かです。
かつて、2012年に電子マネーの相続実態を調査した際は、ほとんどの提供元が「1件も届いていない」と答えていました。
当時は数十万円の残高を意識する規模のサービスが少なかったこともありますが、今回は上限数万円規模の某老舗サービスも相続相談が「月に3件程度ある」と話してくれました。
そうした遺族の声が運営側の対応努力を呼び、少しずつ現在の道筋を開いていったのだと思います。今後、「○○ペイ」の残高を含む電子マネーの相続という問題は少しずつ「よくあること」になっていくでしょう。
その過程で、遺族が自ら動く現在のスタイルよりも、より分かりやすい申請方法が生まれていくかもしれません。
現在は、遺族が「○○ペイ」や電子マネーなどの使用に気づき、サービス提供者に相談したりFAQページを検索したりするスキルが必要になります。
放置してしまったら、故人のお金が保管される保証はほとんどの場合ありません。
政府は2025年までに、キャッシュレス決済の比率を現在の2割から4割に引き上げる目標を立てています。その頃にはどんな対応がスタンダードになっているでしょうか。
引き続き注目していきたいと思います。
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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2019年3月に、コラム集『死とインターネット』をKindleで発行した。