第23回:故人が残したLINE Payの残高は相続できるのか

[2018/4/27 00:00]

スマートフォンが財布の代わりになる機会は最近ますます加速しています。さて、その財布に残高を残したまま亡くなってしまった場合、お金は遺族のもとに行くのでしょうか? それとも消滅? 決済サービス大手のLINE Payに話を聞きました。

公共料金も払えるようになった「LINE Pay」

2017年年末から2018年年始にかけて世の中に出回っていたお札(日銀券)の合計額は、過去最高の106兆7,165億円となりました。超低金利が続くなかで「タンス預金」が増えたことが背景にあると言われています。

しかし世界に目を向けると、物体的なお金を持たないキャッシュレス化の時代に突入しています。

日本銀行が2017年2月に発表した資料によると名目GDPに対する現金の使用比率は日本が19.4%と突出して多く、米国や英国、韓国などは10%を切っています。スウェーデンにいたっては1.7%。お札やコインを使う機会がかなり少なくなっていることがうかがえます。

現金支払いの代わりに台頭しているのが、スマートフォンなどを使ったモバイル決済です。

店舗で商品についたQRコードやバーコードをスマートフォンで読み取って決済するという仕組みが急速に広がっていて、中国ではこの仕組みを応用したレジや店員さん不在の「無人コンビニ」が話題になっていたりします。

そして、このキャッシュレス化の波は日本でも広がっています。なかでも目立っているのは2014年12月にスタートした「LINE Pay」です。

日本で使えるモバイル決済サービスの大手で、2018年3月には請求書のバーコードを読み込むだけで支払いが完了する新サービスも発表しました。公共料金や通信販売の支払いまでまとめてLINE Payで済ませてしまえる環境が近いうちに整うかもしれません。

ただし、ひとつ懸念があります。LINE Payのアカウントは登録者以外の誰にも渡せない「一身専属契約」。大本のコミュニケーションサービス「LINE」と同じスタンスで、登録者が亡くなった場合も家族が引き継げないルールになっています。

言ってみれば、相続できない財布のようなものなのです。では、財布の中身は持ち主の死後にどうなってしまうのでしょうか?

2018年4月2月改訂のLINE Cash利用規約。第3条に「LINE Payアカウントに関する一切の権利は、利用者に一身専属的に帰属します」と明記してあり、相続も禁止している。

「LINE Money」も「LINE Cash」も残高振り込みに応じる

運営元のLINE Payに問い合わせると、次のような回答が返ってきました。

「亡くなった方のLINEアカウント内のLINE Pay残高の返金のご要望については、お問い合わせがあった場合、故人がアカウントを保持していたことの確認や故人と申請者との関係等の確認等を、死亡証明書や戸籍証明書等、必要書類を確認させていただいたうえで対応いたします」(同社広報)

残高の没後処理について利用規約には何も記載はありませんが、LINE Payの普及に伴って遺族から問い合わせが届くようになり、「ユーザー保護の観点から対応を始めました」といいます。

具体的には、LINE Pay残高を所定の銀行口座に振り込む方法で処理するそうです。アカウントという財布は引き継げませんが、問い合わせれば中身は遺族の元に戻ってくるとわかりました。

なお、LINE Payには他者への送金や換金が可能な「LINE Money」と、非対応の「LINE Cash」というという2種類の電子マネー(もしくはアカウントの状態)がありますが、どちらの状態で残っていても変わらず対応してくれるそうです。

LINE Cashは、本人確認の設定をせずにLINE Payを使っている場合のマネーです。そのままでもチャージや決済は可能ですが、銀行口座や身分証の登録で本人確認を経ると、LINE Moneyに切り替わり、やれることが増える仕組みです。

本来LINE Cashには日本円への換金機能がなく、利用規約でも「資金決済に関する法律に定める例外に該当すると当社が認めた場合を除き、LINE Cashアカウント保有者が、当社所定の方法によりLINE Cashアカウントを廃止した場合であってもできません」(第13条)と明記されています。

それでも、譲渡や出金が認められているLINE Moneyと同じように対応するというのは、とても画期的なことのように思います。

同じくLINE Cash利用規約。第13条「LINE Cashの払戻し等」では、「資金決済に関する法律に定める例外に該当すると当社が認めた場合」と、「当社の都合によりLINE Cashの取扱いを全面的に廃止した場合」以外の払い戻しは認めていない。

故人周りのプライバシーを尊重しつつ、お金は社会に戻す

現状、特定サービス内だけで使えるポイントや電子マネーの多くは相続の手立てが確立されていません。仮想通貨に関しても同様です

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しかし、運営元と遺族とのやりとりが増えれば道が整備されていくのではないかと思います。LINE Payに届く遺族の相談件数もまだ多くはないそうですが、「今後社会の流れやサービス拡大により、ご相談も増えてくると考えております」と、運営元が先々を見据えて動くきっかけになっているのは確かです。

LINE Payは一方で、グループ全体の一身専属契約については今後も同じスタンスを貫くと明言しています。

「LINEアプリの根底は個人の関係に基づく“友だち”間のコミュニケーションサービスです。LINEでの故人のご友人その他お知り合いとの関係やトーク内容は、当該故人特有のものです。以上の考えから、LINEアプリについてあくまで個人の限りで安心してご利用いただくために、一身専属とさせていただいております」

故人周りのプライバシーは尊重しつつ、お金に関しては遺された人たち、ひいては社会に戻していく。コミュニケーションと財布の機能を併せ持つサービスとしては妥当な線引きではないでしょうか。

ただ、このあたりの考え方は運営社ごとに違いが出てきそうです。スマートフォンの財布化が進むなか、今後も注視していきたいと思います。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年8月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]