第43回:ネットの金融資産、相続の専門家はどう向き合っているのか

[2019/11/29 00:00]

ネット銀行の預金口座に、オンライン証券会社で運用している有価証券、FXや仮想通貨、○○ペイの残高などなど…。最近はデジタルの状態で保有する金融資産が増えていますが、相続の現場ではどう対応しているのでしょうか。

チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表社員の元木翼さんに最前線の様子をうかがいました。

チェスナット司法書士法人 代表社員 元木翼さん。司法書士と行政書士、宅地建物取引士、AFPの資格を保有している

近いうちに訪れる「把握しようがない」未来

元木さんは、相続や終活関連の相談をこれまで千件以上受けてきた遺産調査のエキスパートです。最近は相談のなかで「死んだらデジタルの資産はどうなるの?」といった質問を受けることもあるとのこと。しかし、現在は明確な回答が伝えられないと正直に吐露します。

「デジタル遺品の問題について、我々の周囲ではまだ本格的な検証がほとんど行なわれていません。今のところ亡くなる人の多くはまだスマホを持っていない世代で、デジタル資産が相続の現場に現れてこないことが関係しているでしょう。相続の専門家でもまだ気にしていない人が多いのが現状だと思います」(元木さん、以下同)

デジタルの金融資産を扱う要となるのはスマホですが、スマホと折りたたみ式携帯電話(ガラケー)の保有比率は高齢になるほど後者が優勢になる傾向があります。

2019年3月のシニアガイドの記事にもあるように、70代でもスマホが優勢となる結果が見られるようになったのはようやく今年に入ってから。

平均寿命が男女ともに80歳を超えていることを考えると、デジタル資産と相続の現場との距離感もうなづけます。

2010年から2018年までの年代別通信利用動向の推移。80代以上は極端に下がる(総務省「通信利用動向調査」より)

ただ、元木さんは10年以上の猶予があるとは思っていません。スマホ世代といえる団塊の世代の全員が後期高齢者入りする2025年頃までに状況が改善できていないと、深刻な事態になりかねないと不安視しています。

「最近はペーパーレス化が進んでいて、デジタルでしかたどれない金融資産が増えています。調べようにもスマホのロックが解除できない、金融機関のアプリのIDやパスワードが分からないということは今でも起こりえます。そして、遺族もログインの方法が分からないとなると、もう把握しようがないのです」

金融資産が芋づる式に照会できる手段はない

そもそも従来の金融資産を調査する際も、士業(しぎょう、さむらいぎょう)だからと一気に全容を掴むような特別な手段はありません。

ひとつ一つの金融資産を手探りで見つけていく、地道な作業を続けることで財産目録は作られていきます。

元木さんが故人の財産を調べる際は、まず家族にヒアリングするといいます。どんな金融資産があって、どこに口座を持っていて、どうやって運用していたのか、などとにかく情報を集めます。

併行して、通帳やクレジットカードの入出金情報、一定期間にストックしておいてもらった郵送物なども調べていきます。メインの預金通帳を辿れば、収入の額やペース、ライフラインの支払いや他の金融資産とのつながりなどがみえてきます。それらを細かくチェックしていくことで、故人のお金の流れを把握していくのが通常の流れです。

「どこかに照会すれば誰かの金融資産が芋づる式で出てくるといった仕組みはないので、とにかく原始的です。公開株などは証券保管振替機構(ほふり)で全部把握できますが、証拠金取引や普通の預金口座はバラバラです。不動産の登記簿もオンラインでつながっていますが、持ち主をキーワードにした横断検索はできず、土地のアドレスからしか調べられない構造になっています。だから、故人がどことどこの土地を持っているのかを知らないことには始まらないんですよ」

海外に資産がある場合はさらに大変です。金融機関や不動産などを遺している場合はその土地の法律に則った手続きを経る必要があるので、関わる専門家が増えるのが一般的です。

「先日も、故人が米国の金融機関に口座を持っているというケースがありました。あちらの手続きに従えば相続対応は可能ですが、メールや電話のやりとりだけでなく、遺言も戸籍謄本もすべて英訳する必要があるので、手続きのコストが非常にかかります。このケースでは数十万円しか預金がなくて、手続きにかかるコストのほうが大きくなりました」

デジタル資産の台頭は、この工程において不安材料を巨大化させるような脅威となるわけです。

今の時代、海外のネット口座もその気になれば作れますし、家族に内緒で運用するのにもデジタル環境は有利に働くかもしれません。

しかし、本人が亡くなっていざ相続となったとき、生前の気軽さとは裏腹な難しさが遺族を襲います。そして、それを防ぐような法律や業界の対応策などはまだ存在していないのです。

使わないまま放置した資産はとても厄介

では、私たちはどんな手を打っておくべきでしょうか。元木さんは「最善をいえば、ご本人が元気なうちから、できるかぎり財産を整理しておくこと。これに尽きます」と言います。

「デジタルでも、使わなくなった口座や○○ペイはそのままにしないでまとめておく意識が大切だと思います。これは従来の資産も同じです。

没後に、バブル時代に購入したとみられる山林の土地や別荘、あとは付き合いで契約した定期預金や信託、手つかずの未公開株などが見つかるということは珍しくありません。資産価値はそこまで高くないことも多いですが、名義変更を含めて相続手続きはどれも非常に煩雑です。

相続についてのノウハウが蓄積されているはずの不動産や金融資産でもこうした状況です。

今後、相続に関して新興のデジタル業界とデジタルに不慣れな士業がやりとりする機会が増えていくとなると、単に作業の繁雑になるだけでなく、予想だにしない様々なトラブルが起こる可能性があると思います」

おそらくはこれから急速にデジタル遺品回りの対応策が練られていくことになるでしょう。しかし、法律が施行されるのには何年もかかるのが普通ですし、相続法は約40年ぶりの法改正のただ中にあります。5年や10年で万全な法環境が整うのを期待するのは難しいところがありそうです。

だからこそ、持ち主が元気なうちから対策を立てておくことが重要だと思います。使わなくなって放置しているネット口座や仮想通貨、○○ペイ、定額サービスなどがあるなら、一度整理してみるのはいかがでしょうか。

来月は師走。ちょうど良いので、次回は「デジタル資産の大掃除<最新版>」をお伝えします。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2019年3月に、コラム集『死とインターネット』をKindleで発行した。

[古田雄介]
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