第24回:遠隔地の空き家の不安はスマホで解消できる時代に

[2018/5/23 00:00]

実家やお墓などの土地に根付いた資産は、その地に足を運んで管理しないと安心できないところがあります。

しかし、管理代行の様子をスマートフォンやパソコンから動画で確認できるサービスが登場して話題になっています。ネットが物理的な距離の問題を解消する可能性の一例を覗いてみましょう。

「日本空き家サポート」の空き家管理作業の様子

目の前にある問題として空き家が無視できなくなっている

荒廃や不法侵入、地域全体の治安低下リスクに、相続と固定資産税、片付けの問題などなど……。空き家に関する様々な懸念は社会問題として採りあげられることが多くなってきました。

総務省が実施した「平成25年住宅・土地統計調査」によると、2013年時点で全国の空き家は全体の13.5%となる約820万戸に及び、野村総合研究所の推計では2033年には約2,170万戸、全戸の3割強まで膨らむというデータも出ています。

この問題に対して、行政は下記のように空家等対策特別措置法の制定や対策計画などで様々な手を打ってきましたが、根本的な解決にはまだ時間がかかるのが現状のようです。

空き家問題に絡む法律や計画の例

現実問題として眼前に横たわる空き家。いますぐの問題解決が世の中に委ねられないのであれば、持ち主やその家族が動かなければなりません。しかし、管理しようにも身体が弱っていたり、住まいが遠隔地にあって距離の問題で定期的な訪問が難しかったりと、簡単にはいかない事情を抱える人も少なくないでしょう。

そこで近年は空き家管理代行サービスが人気を集めるようになっています。空き家物件の近くにある不動産管理会社などが提供していて、定期的にスタッフが現場を訪れて庭や玄関の様子をチェックしたり、通水通気をしてくれたりします。

なかでも「日本空き家サポート」のサービスはユニークです。

代行スタッフが頭部に固定しているウェアラブルカメラにより、一人称視点の動画で代行作業をレポート。契約者はスマートフォンやパソコンで会員ページにログインして、その動画が閲覧できます。

この取り組みの狙いと今後の目標について、運営会社L&Fの森久純代表に話を聞きました。

森久純 L&F代表

空家等対策特別措置法を機に始動

サービスの提供を始めたのは2015年7月。基本的な構想は2000年前半、前職で賃貸アパートマンションの借り上げ事業に携わっていた頃から描いていたそうです。

「当初から『実家が空き家になると売るに売れない』といったご相談を多く受けていたので、将来的に需要がきっと高まるだろうと。ただ、まだ空き家管理にお金を払う土壌はまったくなかったので、情報を集めながら機を待っていました」

その機は、空家等対策特別措置法が完全施行されると同時に熟すと予想し、国会で成立する少し前から事業化を推進。

図らずも世間ではスマートフォンやウェアラブルカメラ、クラウドサービスが普及していたため、動画による作業レポートが可能だと現在の枠組みを作り上げたといいます。

「毎回作業を動画でアップするなら遠方にお住いの空き家所有者様にとって、とても安心感がありますし、何より情報量が文字より写真よりはるかに大きい。一人称視点ということもあって、実際に家に行ったような感覚にさえなります。

そして、そのレポートがネットですぐに見られるというところが重要です。代行スタッフがレポートをアップするとお知らせメールが届いて、すぐ閲覧可能になります。スマートフォンなら場所を選ばずチェックできるでしょう。郵送や電話などではそうはいかない」

依頼者の平均年齢は54.3歳。「ご依頼者はご両親の実家をどうするか考えている方が中心」という予想通りで、スマートフォンやパソコンの操作に抵抗がない年代ともいえます。

実際、離ればなれに暮らす兄弟が実家の管理のためにサポートを依頼し、兄弟が各々の端末で様子をチェックして連絡を取り合うといった使われ方も珍しくないそうです。

動画レポートの確認ページサンプル。動画や写真のほか、空き家管理代行で一般的な作業報告書類も同時に作成されて一連のページにアップされる

これまでの契約者の13%強が売却済み

契約件数は非公開ながら、平均年齢以外にも依頼者の属性を可能な範囲でうかがいました。

依頼者のパターンでもっとも多いのは首都圏在住で地方に空き家を抱えている人で、全体の3割程度に及びます。

「どちらかといえば郊外に不動産を持つ方のほうが危機感を持たれていることが多いです。周りに空き家が多いという場合も少なくありません。あとはご近所に迷惑をかけないようにという配慮が動機になっている方も多いです」

契約パターン別では、全4プランのうち7割は月額1万円+税で屋内外を管理する「スタンダードプラン」とのこと。次いで多いのは屋外管理のみで月額5千円+税の「ライトプラン」です。いずれも月1回の管理が基本のコースで、隔月管理を選ぶこともできます。

月2回の巡回を行う「スタンダードプラスプラン」(月額1万3千円+税)を選ぶ人はわずかということです。そこまで頻繁な管理を求める人は現状それほど多くないということかもしれません。

パンフレットのプラン比較表。マンション管理プランも用意している

そして、筆者が意外だったのは、これまでの契約者のうち13%強が空き家を売却しているということです。

空き家の処分は不動産価値のほか持ち主の思い入れや相続問題などが絡んで簡単にはいきません。2015年7月スタートのサービスですから、契約から1~2年で手放すパターンがまずまず多いといえそうです。

「2年以上の管理はそうそうないだろうと考えています。契約中は毎月管理料がかかりますし、毎月空き家の様子をチェックすることになるわけです。すると空き家問題が意識の遠くのほうに行かないといいますか、家の将来にしっかりと向き合う、そういう効果もあるんじゃないかと思います」

空き家に限らず、終活関連では、面倒な問題にフタをして先送りにしてしまって、後々もっと大きな問題になるといったことがよくあります。今の暮らしのエリアから遠いからと、忘れたふりをさせないサービスは、後回しにしがちな心にも訴える力がありそうです。ネットを使って手元に情報がすぐ届くからこその効果ともいえるかもしれません。

同社は今後の目標として、「空き家管理マーケットの半分のシェアをとりたい」といいます。

総務省「平成25年住宅・土地統計調査」の空き家総数は約820万戸ですが、そのうち賃貸や売却目的などを除いた「その他の住宅」は約320万戸になります。そのうちの管理ニーズが出てくる物件のうち半分――ということになりそうです。

新興の業界だけに今後の変化も大きそうです。これからも市場全体をチェックしていきたいと思います。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年8月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]