第30回:近所のよろず屋にデジタル遺品を持ち込む世の中に――「ミチノリ」増子さんの見立て

[2018/11/30 00:00]

2018年7月にスタートした、デジタル遺品整理サービス「ミチノリ」を運営する代表社員の増子貴仁(ますこ たかひと)さんは、デジタル遺品の問題を最新技術の追求だけでなく、昔からある町の資産も活用して解決する道を模索しています。

ライターとして、デジタル遺品を研究する一人として、増子さんにその真意を尋ねました。

Cross&Crown合同会社 代表社員 増子貴仁さん

スマホのパスワード解除や見せたくないデータの破棄も視野に展開

「ミチノリ」は故人のスマートフォンやパソコンのパスワード解除をはじめ、中身のファイルやインターネット上にある資産の抽出と調査、それに遺族が見たくないデータの破棄といった、デジタル遺品に関する問題解決を行なうサービスです。

「ミチノリ」の公式サイト

東京と大阪の拠点では持ち込みでの対応も可能で、今後は代理店契約を結んだ全国の拠点も窓口として機能していく予定とのこと。

また、デジタル遺影の制作や、生前から見られたくないデータの「物理破壊のお約束」を引き受けるなど、デジタル遺品の周辺業務の相談も行なっています。

料金はスマートフォンのパスワード解除が成功報酬49,800円、パソコンは同じく成功報酬で35,000円。

SNSの退会やアカウント削除は1件あたり5,000円、ブログやサイトの閉鎖とバックアップは1件10,000円となります。FXや仮想通貨取引の有無などの調査は1口座あたり5,000円です。

不定形の相談は条件にあわせた料金提示となるようです。

ミチノリの料金体系

ミチノリのサービス概要で特徴的なのは、インターネット上のデジタル遺品に関するメニューが充実していることです。現在提供されているデジタル遺品サポートは、パソコン修理やデータ復旧企業が担っている例が多く、デジタル機器のケアが中心となっています。

オンライン上の金融資産の調査だけを依頼できるのは、新しい切り口といえるでしょう。

「デジタル遺品単体では大きなビジネスにならない」

この特色は提供するCross&Crown合同会社の成り立ちとも関係しています。増子さんは「当社グループは経営コンサルとしてスタートし、他社事業を吸収するうちにITとセキュリティ事業に拡大していった背景があります。ミチノリの構想もそのなかで生まれました」と語ります。

具体的な起点になったのは、会計事務所のコンサル業務でした。「オンライン上に持ち主も忘れてしまったような遺産が残っていて、税務署の調査で後から発覚するということがたびたびあったんです。それで、パソコンやスマートフォンの中を調べないとどうしようもないものがあると気づきまして」(以下同)

そこから思い出に関連するデジタル遺品の調査や、持ち主の生前整理契約といった構想が膨らんでいったそうです。ただ、「デジタル遺品だけでは大きなビジネスにならないだろう」という視点は当初から持ち続けていました。

「デジタル遺品はスマホのアンロック(パスワード解除)の問題が多くを占めると思いますが、アンロックの時間単価を考えると、1回あたり数千円にはできません。けれど、それくらいの安さじゃないと広がらない。現実的には『アンロックだけで5万円払ってもいい』という人が対象になるので、単体でビッグビジネスに成長するかといったら、それはないと思うんですよ」

この考えには概(おおむ)ね同意します。筆者が所属するデジタル遺品研究会ルクシーに届く相談の8割は「故人のスマホが開けない」といった内容で、「故人の金融資産が把握できない」などの差し迫った事情を抱えている方が多いのです。

その背後には解決を諦めていたり、デジタル遺品自体に気づかないまま放置したりしている方が相当数いるのではないかと思われます。

仮に3,000円でロックが解除できるとなったら、諦めていたニーズを掘り起こせるでしょうが、スマホのセキュリティは機種やOSのバージョンアップでどんどん進化していきますし、残された環境によって作業の難易度は変動します。

そうした作業にかけるコストを考えると、価格破壊は相当難しいように思います。

増子さんは「いずれハッキングでのスマホのアンロックは不可能になると思います」ともいいます。「近しい人の誕生日や、故人が好んでいたワードなどをヒアリングしてパスワードを見つける“ソーシャルエンジニアリング"の手法を磨くのが現実的になっていくでしょう」

近所の人たちがポンと持ち込める窓口を増やしていく

ミチノリの広まり方としては、相続や遺品整理に絡む業務のオプションサービスとして多くの人に認知されていくといったイメージのようです。

このため、ミチノリのサービス窓口を担う営業代理店にはとくにITスキルを求めないといいます。「近所のコンビニやたばこ屋の人が宅配サービスの窓口業務を委託されるイメージが近いです。近所の人たちがポンと持ち込める窓口になってもらって、技術的なことは我々が請け負うという。実際の窓口は士業(しぎょう)事務所であったり、葬儀社さんであったりするかもしれませんが」

ミチノリの営業代理店募集ページ

サービス開始から1カ月時点で契約締結に至った代理店は3軒あり、問い合わせは順調に増えているそうです。デジタル遺品の相談自体は同じタイミングで10件程度とのことですが、このペースは想定内のようです。

今後は窓口を拡大しながら、前述のデジタル遺影や、見せたくないデータの「物理破壊のお約束」サービスといった周辺サービスを整えていくことになるでしょう。

物理破壊の生前契約などは法的リスクが高いメニューといえますが、「顧問弁護士を含む複数の弁護士の見解をもとに考慮しています」とのことで、個別に慎重に対応していくそうです。

また、オンラインサービスの契約解除や資産調査についても、不正アクセス禁止法に抵触するおそれがありますが、同様に慎重に向き合っていくといいます。

「本人の許諾なしにログインしたりデータを変更したりすることは違法になります。しかし一方で、孤独死した人の部屋には鍵を壊して入ることがあります。これは遺産となった資産の状態を許諾なしに変更していますが、必要最低限の仕方ない行為ですよね。デジタル遺品における“必要最低限の行為"はどこまでなのか。それを常に考えながら動いています」

いずれにしろ、デジタル遺品周りは未整備な部分が多く、サポートの枠組みもまだまだ不足しているのが現状です。これらの問題を解決する有力な担い手となることを期待しつつ、ミチノリの今後に注目したいと思います。

記事に関連するWebサイト


連載内の関連記事


古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年8月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]