第35回:Yahoo!ジオシティーズ終了にみる、ネット世界の暫定感

[2019/3/28 00:00]

1994年にルーツを持つ無料ホームページサービス「Yahoo!ジオシティーズ」が2019年3月31日にサービスを終了します。

これを機に多くの古参ホームページがインターネットの世界から姿を消すでしょう。その実情を追いかけました。

15年間静止しながら生きていたサイトが移転

「魔法の笛と銀のすず」というホームページがあります。

ハンドルネーム・しのぶさん(男性)が1999年に開設した個人サイトで、自らが愛するクラシック音楽や小説、漫画、一般ゲーム、成人向けゲームについて丹念に繊細に批評する文章が少なくないファンを集めました。

しかし、2004年2月に32歳の若さで自ら命を絶ち、更新は終わりを迎えます。死の直前に差し替えたトップページには、こんなメッセージが添えられました。

「読んでくださってありがとうございます。ありがとう。ありがとう。今までも、いつまでも。ありがとう。」

往年の「魔法の笛と銀のすず」トップページ。海辺の写真の下にしのぶさんのメッセージが添えられている。

今までも、いつまでも――この言葉を堅持するように、主を失ったサイトは消えることなく15年以上も同じ場所にあり続けました。そして、利用しているホームページサービス「Yahoo!ジオシティーズ」が終了を告知した後も、新たなURLで残り続けています。

それはサイトを引き継いだ現・管理人さんがサービス終了の告知を受け、2月に新たなサーバーへの移設を済ませたためです。15年の間、「魔法の笛と銀のすず」はほぼ止まったままでしたが、存在が消えないように見守る目はあったのです。

管理人さんは「先日、当サイトのファンでいらした方がお墓参りにお見えになりました。そういった方とのご縁をつなぐための場として、これからも手を付けないことを方針とし、できる限りは管理していきたいと思います」と言います。

2019年3月時点のサイト画面。移転を完了しており、しばらくすると新サイトへジャンプする。

2018年10月時点で約400万件のサイトを保有

Yahoo!ジオシティーズのルーツは1994年に米国で誕生した無料ホームページサービス「ジオシティーズ」です。

1997年に日本法人化し、2000年から現行の体制となりました。インターネットブーム、並びに個人サイトブームを支えてきた最重要なサービスのひとつといえます。

最盛期の登録サイト数は非公開ですが、サービス終了を告知した2018年10月時点で約400万サイトを抱えています。

2016年11月にサービスを終了した、ニフティ(@nifty)の同種のサービス「@honepage」が、ピーク時に約34万件でしたから、それよりも1桁大きな規模ということが伺えます。

なお、「@homepage」終了時の詳細は、この連載の「ネットに存在するマイページはいつでも死にゆく」で取り上げています。

Yahoo!ジオシティーズ サービス終了のお知らせ

それだけ巨大な場であり、個人サイトの全盛期を支えた場がまもなく消失します。

往時にインターネットを盛り上げて、いつしか管理されなくなった趣味のサイトやデータベースサイトは膨大にあります。

そのなかの少なくない割合が、4月以降は廃屋としてすら存在しなくなるわけです。

ヤフーは2018年10月から半年間の猶予を設けましたが、その間に移行を済ませたのは、現在進行形で管理人が更新しているサイトや、「魔法の笛と銀のすず」のように引き継いで管理している人がいるサイトに限られます。

この連載の「故人のサイトが生き続けるために必要なこと」でも紹介しました「『福祉世界』研究所」のように、管理人の子供たちが先んじてミラーサイトを構築するような例はさらにレアでしょう。

それ以外の担い手を失ったサイト――誰にも手綱を握られずに糸の切れた凧のような状態になったサイトは、どれだけ熱心な読者がいても存続の道を辿るのが難しい状況といえそうです。

オリジナルの「『福祉世界』研究所」。2017年10月時点で新設サイトを構築している。

2020年3月31日まではFTPの一部利用が可能

それは悲劇のようにみえて、実のところは道理に適ったごく自然な成り行きのようにも思われます。

インターネットはあまりに広く、多彩な個性をたたえていますが、いずれも各国各団体に割り振られたドメインに基づいた人工的な土地であり、誰の意思やコスト負担も働いていない自然物のような領域はありません。

個人サイトの管理人がいなくなると空き家が生まれるだけですが、土地を確保している側の管理人がいなくなるとその範囲内だけ奈落の底に落ちていきます。

インターネットに乗った情報は半永久的に残ると言われることがあります。しかし、それはデジタルデータが無劣化であることと絡めた過大評価といえるでしょう。

経済活動が成り立たなくなった土地は運営側の判断や何らかの事故でいつでもロストしますし、サイト管理者側の都合で数年で幕を閉じることも普通といえます。

実際に数千件の故人のサイト=元の管理者の手を離れたサイトの追跡調査をしていると、10年以上残っているケースのほうがまれです。半永久というより、数年で消え去るような“暫定的な場"と捉えたほうが正確なように思えるのです。

現在、Yahoo!ジオシティーズには、移行に関する実務的な問い合わせを中心に、サービス終了に関する苦言に近い声や、長年の運営に対するねぎらいの言葉なども届いているそうです。

それを受けて、ヤフー株式会社の広報担当の方は「SNS上などではまだ移行されていないサイトについての懸念や、アーカイブサービスへの保存を行なわれている方などもいらっしゃると把握しています。多くのサイトが移行されるよう最後までサポートさせていただきたいと考えております」と語っていました。

3月末を過ぎてサイトが表示されなくなっても、2019年9月末まではデータの転送が可能です。FTPサーバーによるダウンロードやデータ削除は2020年3月末まで可能です。

結局のところ、自然の流れに抗えるのは人力ということになるでしょう。もしYahoo!ジオシティーズにアクセスできる環境にあり、まだオリジナルのデータが残っていそうなら、手が届くうちに触れてみるのがいいかもしれません。

Yahoo!ジオシティーズのサービス・機能ごとの終了スケジュール


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2019年3月に、コラム集『死とインターネット』をKindleで発行した。

[古田雄介]