旦木瑞穂の終活百景 第七景『創業103年の老舗葬儀社 永田屋の挑戦』

[2016/8/10 00:00]

今回の終活百景は、相模原市や町田市を中心に展開する葬儀社 永田屋のお話です。

永田屋は、創業103周年の老舗の葬儀社ですが、オリジナルの新しい会員制度や、月に複数回開催する終活イベント、近年急増している家族葬に対応した新しい施設への投資など、積極的な経営姿勢が目を引きます。

永田屋4代目社長の田中大輔(たなかだいすけ)氏にお話を伺いました。

地域を巻き込んだ会員サービス

田中大輔社長

まず、永田屋の会員サービス「あんしん倶楽部」から紹介しましょう。

あんしん倶楽部は、最近の葬儀社では珍しい有料の会員制度ですが、入会金が1万円かかるのみで、会費はありません。

入会者の特典として、永田屋直営ホールの式場使用料が半額になるだけでなく、祭壇の価格によって、最高15万円までの弔慰金が支給され、実質的には大きな値引きとなります。

ほかにも、通夜の送迎バスや、翌朝の朝食が無料になり、返礼品や仏壇仏具の割引などの特典もあります。

ここまでは永田屋のサービスですが、面白いのは、相模原・町田エリアにある飲食店や家電量販店など、159店舗で、割引や1品無料など、お得なサービスが受けられることです。

田中社長に、この会員制度について伺いました。

「あんしん倶楽部は、平成8年からスタートした、全葬連のif共済会の会員制度がベースになっています。そこに永田屋独自の優待サービスを加えました」

「永田屋だけではなく、地域の提携店でも使えるようにしたのは、日常的に使ってもらえる会員制度にしたかったからです。葬儀は人生で何回もあるわけではないので、永田屋の名前を忘れられないようしたいという狙いです」

先代から取り入れている会員制度ですが、その頃はまだ提携店は30店舗程度でした。しかし、それでは訴求力に欠ける」と考え、田中社長の代で約160店舗にまで増やしました。

「特に提携店からお金はいただいていません。当社の会員は現在5万人以上いますので、提携店にとってもメリットはあるのだと思います」

確かに、限られたエリアで5万人以上も会員がいれば、もはや強力なメディアです。

活発に行なわれるイベント

セレモニーホール永田屋 本社

103年もの歴史を誇る同社は、現在、相模原、町田、大和、座間、八王子の一部のエリアで、群を抜いて信頼と実績のある葬儀社です。しかし田中社長は「創業100年にあぐらをかいてるわけにはいかない」と言います。

「当社では毎月4~6回くらいはイベントを開催しています。終活イベント『終活なるほど教室』もその一つです。中でも各拠点で年間計6回開いている『感謝祭』は、1,000人規模の大イベントです」

毎年、感謝祭では著名な落語家や芸人をホールに招き、寄席や演芸を披露しています。

今年の4月30日に、メモリアルハウス小田急相模原で行なわれた感謝祭では、落語家の月亭方正さんが参加しています。高齢の方は、寄席に興味がある方が多いことや、林家木久蔵さんが永田屋のイメージキャラクターであることから、寄席をメインに、野菜即売会や健康チェックコーナー、入棺体験などを行ない、カレーライスや豚汁などを振舞っています。

こうしたイベントは、15年くらい前から開催してきたそうですが、毎回好評で、最近では来場者がホールに入りきれないほどの大盛況だといいます。

「事前に葬儀を考える世の中を作りたいという志の下、『終活』という言葉ができる前から地道にやってきました。事前に考えておかないと、いざ本当に心配な状況になったら、じっくり考える時間はありません。そうなる前に、楽しみながら学んで欲しいと考えています」

同社では、イベント企画専門の部隊があります。田中社長が育ててきた自慢の部隊です。

「全国的に見ても、ここまでのイベント企画実行力がある葬儀社は他にないのではないかと思います。責任を持って仕事をして欲しいので、イベント企画部隊は葬儀との兼務はしません。うちの強みの一つですね」

この他に同社には、田中社長の発案で始まった、ちょっと珍しいサービスがあります。

それは、故人の姿を含め、葬儀の様子を撮影するサービスです。

「葬儀は人と人との絆を再確認する場です。写真はそれが形になるので、安心につながるんですね。葬儀って、慌ただしく始まってあっという間に終わるので、喪主様が内容を覚えていない場合が多いんです。落ち着いた時に、『第三者の目で振り返って安心したい』『ちゃんと自分は供養してあげられたんだという納得感を得たい』と思われる方も少なくありません」

他にも行なっている葬儀社はあると思いますが、同社ではこの撮影サービスの説明をすると、3~4割くらいの方は「ぜひ、お願いします」と言うそうです。個人の価値観にも変化があり、以前は『記録として残したい』と考える方が大半でしたが、最近はそこに自分の思いを込め、『記憶として、思い出として残したい』と考える人が増えてきていると言います。

葬儀業界の乗り越えるべき課題

「葬儀に価値を見出せる人が減って、葬儀の簡略化が進んでいます。葬儀の意味や価値、目的や必要性を、我々自身が共有して発信していくことが重要です」

田中社長は力強い口調で語ります。

「業界全体の問題ですから、一社だけで頑張っても変わらないと思います。例えば自動車業界だって、個々の車の宣伝広告よりも、車の価値を業界全体で発信しています。葬儀業界も、その価値の発信をしていかなければならない。なぜ葬儀をするのか。それは命に対して正しく敬意を払うため、その人が生きてきた人生に敬意を払うためです。だから儀式が必要なんだと、私は思います」

弔いは、人間が持つ本能的な行動。「人間らしさ」が失われつつある危機的状況だと、田中社長は言います。

「葬儀の重要性を啓蒙していくことが、葬儀社の使命だと考えています」

葬儀の価値や意味、目的を啓蒙する場として、事前相談や、なるほど教室、感謝祭などのイベントもそのうちの一つです。

「お客様との最初の接点を大切にすると同時に、喪主様やご家族の悲しみをねぎらい、故人を正しく敬って、ご遺族が次の一歩を踏み出せるきっかけを作ることが重要だと考えています。『葬儀とは、弔いとお悔やみの場であると同時に、大切なけじめの儀式であり、人の命、故人が歩んできた道のりに正しく敬意を払うためにも、葬儀は必要』ということを、スタッフにもしっかり伝えています」

同社では、スタッフの教育や、経営者のビジョンを伝えるために、『アファメーション』という小さな冊子をスタッフ全員に配布し、毎日読んで共有しています。アファメーションとは、自分を肯定的に捉え、プラスの言葉を意識して使うことで、潜在意識に働きかけ、自分自身や組織が思い描くビジョンに近づいていく手法です。

「口で言っているだけでは伝わらないし、押し付けではいけないので、スタッフと一緒に1年くらいかけて作りました。2~3回改訂をするうちに、ページが増えて本みたいになってしまいましたが、一緒に考えて、理念のもとに進んで行くと、一本筋が通るんですね。個々の価値観も大事ですが、個人の価値観だけで動くよりも、会社の価値観や求める理念が根底にあった上で、お客様にサービスとして提供すると、成果が違ってきます」

24時間365日稼働している葬儀社では、スタッフが全員集まってミーティングをすることが難しくなります。ミーティングを予定していても、突発的に葬儀が入り、延期になってしまったり、そのまま立ち消えになってしまうこともしばしば。

「葬儀社の中で、スタッフ全員で毎月定期的にミーティングを行なっているところは少ないと思います。でも当社では、お客様満足の向上、業務改善など、事前に意見を出し合って、スタッフを半分ずつくらいに分けてのディスカッション・ミーティングは継続しています」

永田屋のスタッフは現在約70名。全員一丸となって会社や業界を良くしていきたいと考える、田中社長の強い意志を感じます。

家族葬と直葬への対応

メモリアルハウス城山

2016年3月、圏央道 相模原ICから車で2分の場所に、「メモリアルハウス城山」がオープンしました。「メモリアルハウス城山」は、まるでイタリアンかフレンチのレストランのような、オシャレで優雅な雰囲気の貸切邸宅型の家族葬施設です。

それと同時に、同社では「ハウスエンディング(R)」という言葉を商標登録し、アットホームな空間で、大切な人を偲ぶ、ゆったりとしたお別れの時間を提案しています。

メモリアルハウス城山 会食ホール

「『ライフエンディング』という言葉がありますが、当社も、事前から事後まで幅広くお手伝いできる企業にしていきたいと考えています。葬儀を出したら出しっぱなしにしない葬儀社です。アフターサポート専門部隊もいます。事前も事後もトータルでカバーできる会社にしていきたい。『永田屋さんなら何でも頼める』『永田屋さんなら安心』そんなふうに言われるようにしていきたい。こんなことが言えるのも、100年の実績があるからです。100年、200年後のお手伝いをお約束できる会社でありたいですね」

同社には、すべての施設に相談サロンと仏壇ショップが併設されています。また、葬儀を終えたらおしまいではなく、その後もお客様回りをして、困りごとがあれば対応していると言います。

「お客様の話を聞くことが、グリーフケアで一番大切なことです。グリーフケアは事後だけではありません。私たちにとっては、事前相談が最初のグリーフケアの場です。どれだけお客様をねぎらえるか。看病疲れや家族の問題を抱えている方も少なくありません。専門的な言葉が必要なわけでなくて、ただ『ここに来て、いろいろ喋れて安心した』と思ってもらえることが重要です」

スタッフたちには最初の研修から、「グリーフケアは事前相談から始まっている」と教えているとのこと。各拠点の相談窓口には、事前相談に来る方が毎日何組もいるそうです。

「残された時間を悔いのないものとして欲しい気持ちが一番です。葬儀費用の話も大切ですが、細かい話をするのではなく、大枠でいいと思うんです。必要なら見積もりも出しますが、多くのお客様がより求めてるのは、『自分の気持ちや話を聞いて欲しい』ということです。事前も事後も、しっかりと話を聞く時間を取るようにしています」

本社の隣にある「小さな家族葬ハウス」

2014年の6月には、本社の隣に「小さな家族葬ハウス」が完成しました。

「小さな家族葬ハウス」の特徴は、名前にもある通り、家族葬に適した約20名まで対応の「家族葬ルーム」と、「直葬ルーム」があること。「家族葬ルーム」には、引き戸を開ければひと続きになる和室が併設されているので、故人とご遺族が一緒に居られる最後の時間を、ゆったりと寛ぎながら過ごすことができます。

また、直送ルームでは、少人数でひっそりとお別れの時間を過ごせるほか、住宅事情などで自宅での遺体の安置が難しい場合に、遺体を預かる安置サービスも行なっています。

小さな家族葬ハウスの家族葬ルーム

若い力を求めて新卒採用を目指す

永田屋では、2年後に新卒採用を目指しています。

「若い人に葬儀の仕事に携わってもらうためには、魅力ある葬祭業界作りが必要であり、一社だけの力では難しいので、いろんなネットワークを使って、葬祭業界を若い人が魅力的だと思う業界にしていきたいと考えています」

葬祭業界では、若いスタッフだとお客様の印象が良くない場合が多く、若い人材の採用に躊躇していました。

「でも、若い感性は会社にとって必要です。これからはますます人材の取り合いになることが予想されます。魅力ある会社作り、仕事作り、社内研修や受け皿作りが急務です。そのためには現在のスタッフのさらなるレベルアップを図っていかなくてはと考えています」
ビジョンを熱く語るため、田中社長の採用面接は長いことで有名なんだそうです。「こちらが見極めるというよりも、共感してもらえるかどうかが大切」田中社長は言います。経営者のビジョンがスタッフに伝わっていれば、会社はぶれません。

また、地域に根ざした老舗葬儀社として、「大切な人を亡くした高齢者同士をつなげる活動がしたい」と田中社長は話します。

「すでにイベントはたくさん行なっているので、イベントを利用して、独り身になってしまった高齢者同士をつなげるお手伝いをしていきたいと考えています。息子や娘だけではなく、同じ境遇、同じ世代によって支え合うコミュニティが必要だと思うんです。そのつながり作りに貢献したいですね。『永田屋がある地域の高齢者は、活き活きしてるね』って言われるように。これは使命なんじゃないかと考えています」

美味しい料理は、参列してくれた方への感謝

最後に、永田屋の料理部門「銀匠」の、美味しい料理についてのお話です。

同社の終活イベントでは、月に何回か、「季節のお料理試食会」を行なっています。

その試食会に参加して、スタッフの方にお話を伺って来ました。

「よく、『家族葬の利点は何ですか』という質問を受けますが、家族葬は、『一般会葬者を気にしなくていい』という大きな利点があります。身内だけなので、お料理は、故人が好きだったものや、身内が食べたいものを選んで構いません。小さいお子さんがいらっしゃる場合は、唐揚げやサンドイッチを用意される方が多いです。季節に応じたオードブルもありますし、冬場はおでんや鍋物も人気があります」

実際にお通夜をした方の通夜振る舞いの例では、テーブルにお寿司とサンドイッチが交互に並べられ、その他のおかず類も和洋交互に配置されていました。ちょっとしたことですが、いろいろなものを盛り合わせ、少量ずつ交互に並べることで、不平等にならず、弔問客が遠慮することなく、好きなものを食べることができるといいます。

話は葬儀後の会食の意味に及びます。

「昔は、四十九日の間、魚や肉を食べずに過ごしました。四十九日後の食事を『精進落とし』『精進開け』と言い、これを機に日常生活に戻りました。現在では簡略化され、葬儀告別式後や、同日に初七日法要まで行なった後、会食を行なうことが増えました。精進の意味は薄れ、代わりに参列してくれた親族への感謝の意味や故人を偲ぶ意味、宗教者への感謝のねぎらいの意味などが込められています」

「通夜振る舞いは、『お清めの席』と呼ばれることもあります。死は汚れとされ、伝染していくものだと考えられていたため、塩やお酒で汚れを落とすなど、死の恐怖への対抗の意味があったようです。また、『故人との最後の食事』という意味もあり、再生を願ったり、『死者に変わって良いことをすることで、死者が少しでも良いところへ行けるように』という意味もありました。現在は、弔問に来てくれた方へのおもてなしの場や、故人への思いを語り合う時間として重要な機会になっています」

季節感のあるお重。「季節のお料理試食会」では500円で食べられる

この日、いただいたお重は、法事や精進落としに振舞われる料理に近い献立だそうです。

スタッフが手際よく料理を並べていきます。ご飯やお椀、天ぷらのつゆから湯気が立ち上っているのが見えます。
メニューには、鰻やナス、アスパラやオクラ、赤ピーマンやカボチャなどが彩りよく盛り付けられ、夏の季節感を演出しています。

季節感にこだわるのは、地元に根ざした葬儀社であることから、短期間に永田屋の葬儀に何度も参列された場合でも、季節に応じて内容を変え、飽きさせないようにという配慮もあります。

刺身は冷んやりとし、揚げ物や煮物はほんのり温かでした。

味付けも濃すぎず薄すぎず、丁度良い塩梅です。お椀には柚子がきいていて爽やかな後口。茗荷の天ぷらは初めてでしたが、噛むと甘みが出て、香りが程よく鼻を抜け、美味しかったです。

当たり前のことかもしれませんが、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、季節を感じられるものが食べられるだけで、人はほっとできますし、会話も弾みます。そんな細やかな心遣いが感じられるお食事会でした。

田中社長が語っていた、永田屋が目指すビジョンの一端が、美味しい料理やスタッフの方たちの細やかな心遣いに表われているように思いました。

セレモニーホール永田屋


旦木瑞穂(たんぎ みずほ)
1975年愛知県出身。
産経デジタル「New Roses Web」にてグルメ・イベントレポートや、鎌倉新書「月刊 仏事」で葬儀や介護に関する記事などを連載。
各種パンフレット、ガイドブックなどの企画編集のほか、グラフィックデザイン、イラスト制作も行なう。

Twitter:@mimizupon

[旦木瑞穂]