古田雄介のネットと人生
第22回:故人のスマホの解約に必要な書類とお金

[2018/3/27 00:00]

人が亡くなっても、その人のスマートフォンや通信端末の契約は継続しています。

家族は契約解除や引き継ぎの手続きをしなければなりませんが、どのようにすればスムーズに事が進むのでしょうか。複数のキャリアから実情を聞いてみました。

端末の相談は通信キャリアへ

人が亡くなったら、所持していたスマートフォンや携帯電話の通信通話契約は遺族などの手によって解約しなければなりません。

そのままにしておくと引き落とし口座が凍結されるまで月額の支払いが続きますし、口座凍結にまかせるままにしておくと端末料金の残金や契約解除料などの請求が契約者の元に届いたりします。

では、どうすればよいのか。遺族の立場でシミュレーションしてみましょう。

まずは亡くなった家族が使っていた端末を確認することです。メインで使っている端末のほかに、会社支給のものや個人用のサブ端末、通話機能のない通信専用の端末を持っていることもよくあります。

総務省の統計値によると、2017年9月時点で国内の携帯電話とPHSの加入契約数は1億6,838万件。単純計算で国民1人あたり1.3台を所有していることになります。

よく見かけるメイン端末以外にも持っている可能性はわりと高いと見ておくのが無難でしょう。所有物や近しい人の証言、クレジットカードのやりとり、預金通帳の引き落とし履歴などから探っていくのが確実です。

見つかった端末のうち、遺族が対応すべきは個人所有のもののみになります。

その端末(厳密には、通信契約情報が保存された「SIMカード」)の通信キャリアに連絡して所定手続きを経れば作業完了となるわけです。

通信キャリアは契約書類から調べられます。

端末の通信表示である程度確認することもできますが、格安スマホや格安SIMなどの場合は、NTTドコモやau、ソフトバンクなどの大手キャリアから通信網を借りているため、端末内情報だけでは確定しにく場合が多い点は留意しておきましょう。

NTTドコモの端末に格安SIM(FREETEL)を入れている例(左)と、Y!mobileで契約しているiPhone(右)。端末のメーカーと通信キャリアは別モノと考えたい

解除のみの場合と引き継げる場合がある

キャリアが分かればあとは各社のサポート窓口が相談に乗ってくれますが、そのキャリアがどこまでのことをしてくれるかある程度知っておくことも重要です。

通信通話契約の解除はどこのキャリアでも応じてくれますが、契約の引き継ぎ(承継)についてはNifMo(ニフティ)やb-mobile(日本通信)のように受け付けないキャリアも少なくなくありません。

両方選べる場合は承継よりも解除を望む遺族のほうが多いようで、今回取材したところ、承継と解除の割合が「3:7」というキャリアが複数ありました。

なお、契約を解除する場合も、電話番号はナンバーポータビリティ(MNP)制度によって、別の契約へと引き継ぐことは可能です。

故人の電話番号に連絡が来る可能性があるけれど、現状の契約を維持するのは難しいという場合は有効な選択肢になるでしょう。

一方、端末自体に関してはどこのキャリアもノータッチです。処分を求めれば応じてくれるケースは多いですが、端末のロックが解除できない場合に手助けは期待できません。また、端末に入っているデータのバックアップに応じるところもありません。

通信キャリアの対応範囲。通信・通話契約の対応がメインで、要望があればナンバーポータビリティにも応じる。また、端末も販売している場合は端末代の残金対応のほか処分にも応じるが、中身には立ち入らない

承継手続きは故人と申請者の続柄証明が重要

処理の方針が定まったら、実際の手続きに入ります。

キャリアショップがある大手キャリアは店頭での処理が基本となりますが、格安SIMや格安スマホの提供元には郵送やFAX、メールなどで応じるところもあります。

契約解除に必要なものは、大きく分けて3種類あります。

  • 1…契約対象そのもの
  • 2…契約者の死亡が確認できる書類
  • 3…手続きする人の身分証明

1は契約書類や端末、SIMカードなどを指します。

2は戸籍謄本や死亡診断書などのほか、新聞のお悔やみ欄や葬儀で使った会葬礼状でも可というキャリアも複数あります。

3は運転免許証やマイナンバーカード、健康保険証などのほか、書類手続きを進めるうえで印鑑が必要になるケースが多いです。

承継手続きの場合、この3が厳密化するのが一般的です。キャリアによって承継対象が異なりますが、続柄が分かる戸籍関連書類など故人と手続きを行なう人の公的な関係性を示す書類が求められることは多いです。法定相続人であること証明する書類が求められるケースもあります。

これらの書類の不備があると、店頭で何時間も待たされたうえでやり直しになったりまします。とくに承継手続きは前述のように対応事例が少なめなので、店員さんが手続きに慣れていないために余計時間がかかるといったこともあるようです。

死亡時手続きの件数は、すべてのキャリアが「横ばい」もしくは「増加傾向にある」と回答しているので、現場にはノウハウが着実に蓄積していると思いますが、銀行の窓口レベルの安定感にいたるにはまだもう少し時間がかる感触があります。

今のところは、相手側に任せきってしまうのではなく、遺族側が手綱を握るくらいの心持ちのほうが安全かもしれません。サポート窓口に微に入り細に入り確認しつつ、場合によっては近隣の店舗や窓口で手続き慣れしているところを聞いてみるのも有効だと思います。

キャリアのサポートページで「死亡」「承継」などのキーワードで検索すると該当する情報が引き出せる。画面はNTTドコモのサポートページにある「ご契約者の死亡による承継または解約」 出典:NTTドコモ

大手以外は死亡時も契約解除料が発生する場合がある

最後に、もうひとつ重要なのが費用です。

どこのキャリアでも解約日までの通信通話料や端末代の分割支払い残金については支払う必要があります。しかし、契約者死亡における解除や承継の手続き料金についてはスタンスが分かれます。

NTTドコモやau、ソフトバンク(Y!mobile含む)、楽天モバイルなどは、解約・承継に関する事務手続き料金は発生しません。たとえ年契約型の割引サービスなどの更新日を迎えないまま解約となっても解除料は免除されます。契約者の死という緊急事態に対する特定措置といえるかもしれません。

一方で、契約者の生死に関わらず、所定期間内の解除であれば違約金や解除料が発生するというスタンスのキャリアもあります。

このあたりの違いも、相談の段階でしっかり確認しておく必要があるでしょう。

ちなみに、mineo(ケイ・オプティコム)は、解約手続きは無料で、承継手続きの場合は三親等以内なら無料、それよりも遠い続柄なら3,000円の手数料がかる規約になっています。しかし、「これまでの契約者死亡時の処理において、実際に費用が発生した事例はありません」とのことでした。


携帯電話市場が一般家庭に普及してからまだ四半世紀しか経っていません。契約者死亡時の対応について、現在も「ご遺族がいない場合のお手続きについてお問い合わせをいただくケースがあります」(NTTドコモ)、「実は別の家族が使っていたため名義変更したいという声をいただきました」(ニフティ)など、さまざまな声が届いているようです。

これからの日本は、身寄りのない方が契約を残したまま亡くなるケースや、一人暮らし世帯の増加によって遺族が契約の実態を把握しきれなくなるケースが増えていくと予測されます。そうした状況に応じて整備が強化されていき、スムーズな手続きができるようになることを期待しましょう。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]