古田雄介のネットと人生
第7回:認知症の兆しはインターネット上でどう現れる?

[2016/12/22 00:00]

いまの日本は社会全体で認知症と向き合う必要に迫られています。それはインターネットの世界も例外ではありません。オンラインで交わされるコミュニケーションの中で、認知症の兆候はどのように現れるのでしょうか。早期発見と早期対策のために考えてみましょう。

まもなく高齢者の5人に1人が認知症の時代に

厚生労働省が2012年に実施した調査では、全国の認知症患者は約462万人、正常と認知症の間にいるMCI(軽度認知障害/Mild Cognitive Impairment)の人は約400万人いるといわれています。

高齢者全体の割合でいえば認知症の人は15%。7人に1人という計算です。今後は高齢者の増加とともに数と割合が増えていき、2025年には約700万人、高齢者の5人に1人が認知症になると推計されています。

一方で、総務省の通信利用動向調査にある「年齢階層別インターネット利用状況」をみると、インターネットを利用している高齢者(65歳以上)の人が21世紀に入って安定して伸びていることが分かります。2015年末の時点では60代後半で7割超、70代でも半分以上の人がネットを使っているようです。

高齢者のインターネット利用率推移。総務省「年齢階層別インターネット利用状況」の2004年末~2015年末までのデータを基に作成

すると今後は、インターネット上のサービスにおいても認知症を取り巻く出来事は無視できなくなっていくでしょう。これまで問題なくコミュニケーションをとっていた人が不可解な行動に出たり、そこからトラブルを起こしたりする。そうしたことが増えてくると考えたほうが良さそうです。

ただ、認知症全体の7割近くを占めるアルツハイマー型認知症では、ある日突然認知症になるのではなく、徐々に認知機能が低下し、MCI(軽度認知障害)の状態を経るといわれています。

MCIはいわば認知症の前段階であり、回復が見込める状態です。この段階で兆候を発見できれば、家族も本人もいま以上の生活の質が保ちやすくなるでしょう。もしもインターネットのふるまいで異常の早期発見ができるのであれば、それに越したことはないと思われます。

オンラインで気づける4つの違和感

では、認知症の兆候はインターネット上にどのように現れるのでしょうか。地域の認知症予防活動を支援する人材育成やICT(情報通信技術)を使った認知症予防プログラムの開発に注力している、一般社団法人元気人の向川誉さんにヒントをもらいながら、考えていきましょう。

一般社団法人元気人 事務局長 向川誉さん

向川さんは「認知機能が低下しはじめた初期段階では、まずはわずかな変化として症状が現れることが多いです。何か違和感を感じたら、その違和感を見過ごさないことが早期発見では大切になります」といいます。

変化や違和感は相対的なもの。その人の本来の性格を知っていてこそ察知できるものなので、日頃からネットに親しんで、SNSなどでコミュニケーションを頻繁にとっている人ほど兆候が見つけやすいといえるでしょう。

それを前提にしたうえで、典型的な変化としては次の4つがあるそうです。


  • 同じ話を繰り返す

    SNSやグループチャットなどで、「庭に花が咲きました」や「先日孫が来ました」といった同じ話題の投稿を一週間や数日単位で繰り返す、繰り返しになっていることに気づかずに指摘されたら誤魔化すといった行為が典型例といえます。

    「症状が進行すると忘れていることにも気づかなくなりますが、初期段階では社交性が保たれていますので、とっさに取り繕うことが多くあります。そのとき『ちょっとつじつまが合わないな』『いつもと違うヘンな感じになったな』といった違和感があったら大切にしてください」(向川さん、以下同)

    認知症のなかでも過半数を超えるといわれるアルツハイマー型では、最近の出来事から忘れていく記憶障害が進行していきます。同時に、時間や場所などが分からなくなる見当識障害もみられるようになるため、そうした情報のズレや抜け落ちなどにも注意を払うのがよいでしょう。

  • 怒りっぽくなる

    投稿した記念写真に「いつもと違う感じですね」とコメントがついたら、「いつも楽しそうにしていないといけないのか!」と勝手に悪く捉えて怒ったり、逆にしばらくコメントがつかなくて拗ねてしまったりと、自分へのアクションに対して過剰反応する傾向が見られることも。

    「普段は理性により衝動的な感情表現をコントロールできていても、衰えた脳の部位によってはそうした反応が抑えにくくなる場合があります。インターネットやSNSでのやりとりでは、相手の表情や声の抑揚といった非言語の情報が少なくなるため、衝動的な反応が生じやすく、怒りっぽい症状は出やすいと思います」

    認知症の典型的な症状でもある病的なもの忘れ(出来事や体験自体を忘れる)により、周囲とのコミュニケーションが上手くいかないことが続き、イライラが昂じて怒りを発することもあるでしょう。また、幻覚や誤認妄想が目立つレビー小体型認知症の場合は、傍からは少し突拍子もないような理由で怒っているようにみえる可能性もあります。

  • 非アクティブになる

    たとえば山登りが好きだった人が特に理由もなく、急に山の写真や話題をアップしなくなったりしたときは、少し注意して様子を見たほうがいいかもしれません。単に興味が別に移っただけなら問題ないですが、ブログやSNS、チャットの利用頻度が下がっている場合も、非アクティブ(不活)を感じるようなら注意を払う価値があるでしょう。

    「以前と比べて活動量が低下するのは、認知症によっていままでやれていたことが上手くできなくなって辞めてしまう、ミスを自覚するのが嫌で遠ざかってしまうからだと考えられます。また、うつ病を発症して活動量が低下する場合もあります」

  • 笑いのツボが変わる

    いままでは漫才や落語の番組を好んでいたのに、NG・ハプニング集の番組を好むようになった、明日の天気といった日常的なニュースに笑うようになったなど、笑いのツボに変化が見られるようになります。この変化はWEBニュースのリツイートやシェアの傾向を追っていると見えてくる場合があります。

    「笑いは脳の情動反応が理性のコントロールを経て、引き起こされると考えられています。脳の器質的変化によって情動反応の仕方や理性のコントロール具合が変わり、そのことで笑いのツボも変化していると思われます」

大切なのは抱え込まず、継続の道を探ること

では、違和感や変化が感じられたら、どうすればよいでしょうか。本人であれ、家族であれ、友人であれ、大切なのは現実を冷静に受け止めて、必要以上に怖れないことだといいます。

「違和感や変化は『年のせいだから』と良いように捉えて忘れていくのではなく、かといって焦って断定して騒ぎ立てるのでもなく、いわば他人事のように淡々と対応するのがよいです。落ち着いた気持ちで認知症がどういうものか情報を集めて、不安が強い場合は行政や病院などが公開しているセルフチェックシートをひとまず試してみるといいでしょう」

加えて、一人で抱え込まないで、できるだけ早い段階から専門家に相談することも重要です。認知症専門の医療センターでなくても、地域包括支援センターや「社団法人認知症の人と家族の会」の電話相談などにアクセスするといった手があります。

厚生労働省が公式ホームページで紹介している「認知症に関する相談窓口」

そうした対策と同時に、これまで続けていたことはできるだけ継続できるように考えて行くことも忘れてはなりません。「認知症を発症すると、新しいことを習得することはなかなか難しくなりますが、長年にわたって繰り返して覚えてきた記憶、これは手続き記憶といいますが、認知症になってからも保たれる傾向にあります。手続き記憶を上手く活用することで、生活支援や認知症の重症化防止につなげることができます」

友人間でのトラブルが頻発するなら、あえてクローズドなグループチャットはおやすみして、代わりに全公開のブログを始めてみたり、SNSで不都合が起きたら当面はコメントをつけずに「いいね!」だけにしてみたり。効果的な対策は人それぞれに異なりますが、すべてを遮断する以外に道がないということはそうはないでしょう。

自分や周囲だけでよいアイデアが出なかったら、インターネットに詳しい親戚に聞いてみましょう。そうやって周囲に頼って、自分たちだけで抱え込まないようにする姿勢こそが重要なのかもしれません。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。

[古田雄介]