古田雄介のネットと人生
第8回:ネットでの介護補助はすごく便利。しかし、壁がある

[2017/1/30 00:00]

2015年11月にIT企業のエキサイトが始めた家事代行&介護サポートサービス「ファミリーサポーター」は、1年以上経った現在、徐々に利用者が増えてきているそうです。しかし、一方でインターネットを使った介護サポートの壁の厚さも実感しているとか。サービスの中枢に立つ担当者に実感を語ってもらいました。

エキサイトの「ファミリーサポーター」

介護や家事を支援するマッチングサービスが成長中

インターネットを介したサービスは住まいの場所や時間帯に関係なく利用できるものが多く、様々な事情で店舗の窓口まで足を運べない人にとって救いになります。近年はスマートフォンの普及も手伝い、手軽さは加速しているといっていいでしょう。数分の空き時間にポケットから取りだして情報収集したり、そのまま窓口で注文できたりしますから。

そのなかでも近年伸びている分野に、人と人をつなぐマッチングサイトがあります。子育て支援や婚活サポート、専門家斡旋など様々なサービスがあり、エキサイトの「ファミリーサポーター」のように介護周辺でも成長サービスがみられるようになってきました。

ファミリーサポーターは2015年11月に本格スタートしたサービスで、家事代行や介護家族のサポートなどを、同サービスに登録している「サポーター」に依頼できるというものです。

部屋の清掃から買い物代行、介護者の付き添いや見守りなど、日々の生活のちょっとした手助けを1,800円からの時給+交通費からで都度頼むことができます。対応エリアは東京23区を中心に大阪や名古屋を含む全国に広げているところです。

2016年6月には「民泊清掃代行」という項目が加わり、2016年10月には同社の電話相談サービス「お悩み相談室」に介護カテゴリーが新設されるなど、関連サービスを含めて順調に成長しているといえます。

実際、発足時に目標としていた成約実績数とほぼ同程度のペースで伸びているとのこと。ですが、本サービス前から中枢で推進してきた新規事業推進セクションの有澤真悠子さんは、「現状、ご依頼の8割は民泊清掃代行、次いで家事代行という感じです。個人的には介護家族支援ももうちょっと伸びてもいいんじゃないかと思っています」と言います。

エキサイト 新規事業推進部 新規事業推進セクション 有澤真悠子さん

保険適用外ゆえの割高感、介護する側される側の意識が壁に

有澤さんが実感している壁、インターネットにおける介護関連サービスの壁は3つあります。

1つはお金の問題。ファミリーサポーターは介護保険ではまかなえない領域を手助けするサービスのため、当然ながら保険適用外となります。すると、ヘルパーさんが実費負担400円/時間程度から頼める介護保険内サービスと比べると、1,800円~/時間という価格設定はどうしても割高に映ってしまう面があります。「ユーザーヒアリングをしても、介護家族支援は高いというお声が多いです」という。

ただし、この部分は折り込み済み。2018年の介護保険法改正により、要支援1と2の家事補助が保険適用外になることを見越して事業化した背景があり、当初から初期は家事代行を収益の柱にすることで実績を積み重ねていく考えだったそうです。

もう1つは、介護される方とインターネットとの距離感の問題です。介護する側の家族がファミリーサポーターを利用する場合、その裏には介護される側の家族がいます。

多くは高齢な世代で、インターネットを介したサービスに慣れ親しんでいるという人は少数派でしょう。するとどうしても、「ネットを介した手伝いの人を家に入れる」抵抗感が拭えないというケースが出てきてしまいます。

「ベビーシッターのマッチングに比べて浸透がゆっくりなのは、そこの問題も大きいと思います。依頼される方はもちろん、介護される方にも受け入れてもらわないとご利用いただけない。サービスの特性上、介護される方のお宅に伺うことも少なくないですから。それは分かっていたのですが、壁は想定した以上に高いと感じています」

そうした背景もあり、介護関連の依頼は同じサポーターを指名するパターンが圧倒的に多いそうです。その人を知るという意味において、会って仕事を頼んだ後の信頼感の高さは、プロフィール欄の情報だけでは太刀打ちできないものがあるのでしょう。

サポーターはエキサイトの面接を経て登録される。このページから特定の人を指名して依頼することも、条件指定して依頼することもできる

最後の壁は、介護している側の「介護の自覚」といいます。「車椅子を引いている、ベッドでの食事を手伝っている、みたいな身体介護をしていない人は、要介護のご家族がいても介護していると捉えていないことが多いんですよね。介護じゃなくて、ちょっと世話をしているだけだと」

家事代行として届く依頼には、「母の実家の掃除をお願いいたします。母は要介護1ですが、自分の事はできますのが、心配な部分もありますので、見守りも宜しくお願いいたします」のような、本来は介護家族支援側の内容と思われる内容がたびたびあり、それらを目にするうちに実感したそうです。

介護していると思われたくないというネガティブイメージもあり、知らず知らずのうちに家庭内で我慢を重ねて疲弊してしまう。そんな悪循環も容易に想像できます。

時間解決を追い越す何かが必要

これらの壁を取り払うには、どうしたらいいのでしょうか。

2018年の法改正を含めて、時間が解決する部分は大いにあるでしょう。5年10年と経てば、(世代が更新されることも含めて)介護される側のインターネットに対する理解が深まっていくはずです。介護者の介護の自覚についても、併行して緩和していきそうです。

しかし、時間に寄りかかるだけでは後手後手に回るのも確実。電話でカウンセラーに悩みを相談できるサービスとして展開している「エキサイトお悩み相談室」に介護カテゴリーを追加したのは、多死/多介護時代に先手を打つ意図があるそうです。

「電話相談で、介護のさらに手前側がフォローできたらいいなと思って計画しました。ファミリーサポーターを始めて実感したのですが、家族の介護問題に直面していても『いま何を助けてほしいのか』『そもそも何を悩んでいるのか』という部分が曖昧になっている人も多いんですよね。ならば、家事代行や介護家族支援を依頼する前段階として、電話で専門家に相談するという窓口があったほうがいいんじゃないかと」

有澤さんの狙いは的中し、こちらは想定した以上のペースで利用されているといいます。介護カテゴリーでの相談のみならず、それ以外のカテゴリーで介護に絡んだ相談も伸びているそうです。

エキサイトお悩み相談室の介護カテゴリー。100円~/分で専門家に相談できる。24時間対応だ

介護保険が適用されるような領域からどんどん裾野を伸ばして、ライトな状況から介護関連の手助けになるサービスを充実させていく。それが“壁”への対抗策といえそうです。

また、数年スパンで事業を継続する安定性も欠かせません。有澤さんはそれを実現するのは、会社が蓄えたノウハウと担当者のモチベーションだと言います。

「弊社は1999年頃から様々なマッチングサイトを運営しているので、そのノウハウが強みになると思います。それと、ITとかけ離れた分野でも理解して応援してくれる風土があること。個人的にはそこが大きいですね」

有澤さんは20代後半からの5年間、祖母を介護してきました。当時の経験がファミリサポーターを生む力になり、現在の成長を支えているところがあると分析します。数年後にどんな発展を遂げているのか、注目したいサービスの1つです。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。

[古田雄介]