古田雄介のネットと人生
第9回:故人の電話番号やメールアドレスはどんな道を辿るのか
電話番号やメールアドレス、サイトのURLなどの個人情報は、その人が亡くなったあとにどんな将来が待っているのでしょうか。電話会社やプロバイダー、レンタルサーバー企業20社に取材しました。
再利用はされている
<5歳の子供が親のスマートフォンをいじっていて、登録してあった電話番号に誤ってかけてしまう。すぐに親が気づいて相手先に謝って電話を切った。が、よくよく通話履歴をみると、その電話番号は5年前に亡くなった叔父の携帯電話のものだった。>
……こう書くとなんだか怪談じみますが、実は筆者の体験談です。似た事例はネットで簡単に見つけられますし、それほど珍しいことではないのでしょう。また、サイトのドメイン(URL)を巡るこんなトラブルも過去に報じられたことがあります。
<秋田県警が2006年まで使っていたドメイン「akita-kenkei.net」が、第三者に取得され、車庫証明申請代行や中古車販売、廃車手続きなどの業者紹介広告サイトに使用されていることがわかった。県警広報広聴課は事実関係を調べて今後の対応を検討するという。(「秋田魁新報」2013年12月の記事を要約)>
電話番号や公式サイトのアドレス、および、それに付随するメールアドレスなどは個人情報であったり、組織を表す重要な情報であったりします。しかし、所有する個人や組織とは必ずしも運命を共にしないようです。使われなくなった電話番号やドメインがどんな道を辿るのか調べてみました。
電話番号は「数年程度」で再利用
電話番号は世帯の増加や携帯電話の普及などに伴って慢性的に不足しています。固定電話は昭和時代まで9桁番号の地域も多くみられましたが、90年代から00年台にかけて全国すべてで10桁化しています。携帯電話やPHSなどが1999年に10桁から11桁になったのも割り振り番号不足を解消するためでした。それでも現在まで逼迫は続いています。
そうした状況のため、持ち主が亡くなったり契約を解除したりして役目の終わった電話番号は、一定期間を過ぎたあとに再利用されることになります。総務省(旧郵政省)の「電気通信番号規則」第4条には「電気通信事業者は次の各号に掲げる基準に従って電気通信番号を使用しなければならない」と明記されていて、各事業者はその1つにある「電気通信番号の効率的な使用を図ること」を根拠に再利用しているようです。
では、一定期間とは具体的にどれくらいの長さを指すのでしょうか。多くの事業者は期間を明言していませんが、NTT東日本とNTT西日本は「基本的に数年程度」と答えています。
「地域や企業の事情で多少変動するところはありますが、間違い電話問題もあるため、1カ月や3カ月といった短いスパンということはありません」(NTT東日本)。全体的な傾向としては、人口の多い都市ほど再利用のスパンが短くなる傾向もあるようです。
なお、思い入れのある電話番号をずっと残したいと思ったら、契約を存続するしか手段はないようです。契約解除後は本人や周囲の手から離れてしまうと考えておいたほうがいいでしょう。
無料サービスは運営元のスタンスによって決まる
自分のサイトやSNSページのアドレスはどうでしょうか。その事情を知るためには、まずはインターネット上のアドレスのルールを知る必要があります。
この記事のページのURLは「https://seniorguide.jp/article/XXXXXXX.html」となっていると思います。このうち「http://」のすぐ右にある「seniorguide.jp」が一般的に本体のドメイン(ルートドメイン)と呼ばれる部分です。末尾の「.jp」は国別に割り当てられたトップレベルドメインと呼ばれ、最上位格に置かれているので、「seniorguide」は県名のようなものでしょうか。
その隣の「/article」以下はサブディレクトリーという下の階層です。サブディレクトリーは市町村以下という位置づけです。そのほか、「http://ZZZZZZ.seniorguide.jp」というように、本体のドメイン前に文字列が加わるものもあり、サブドメインと呼ばれます。いずれにしろ本体より下の階層のアドレスだと考えてください。
インターネット上に無料で自分のページを作っている場合は、まず間違いなくサブディレクトリーやサブドメインを使っています。ブログやSNSなどのサービスを提供する運営元が契約している本体のドメインの下に、それぞれの契約者のページが置かれているわけです。
これらのマイページのアドレスが自分の死後、あるいは契約終了後にどう扱われるかは、上位のドメインを管理している運営元のスタンスによって決まります。
15以上の主要サービスを調査したところ、多かったのは「契約解除後は二度とそのアドレスは使えない」というスタンスでした。
たとえばGoogleの場合、ユーザーが同社のサービスを利用する共通IDとある「Googleアカウント」がユーザーページのアドレスにも割り振られます。
そのユーザーがアカウントを抹消した場合、ユーザーが登録した文字列は永久的に使用不能となる規約になっているため、その後に他者に使われるといったことはありません。アカウントに紐づけられたGmailのメールアドレスも当然、ほかの人に使われる心配はないでしょう。LINEやYahoo! Japan、@nifty、アメーバ、はてな、BIGLOBEなども同様でした。
一方で、一定期間後は再利用可能というスタンスのサービスも複数あります。エキサイトブログの場合、削除後6カ月は同一URLの取得が不可能になりますが、それ以降は自由に指定できます。So-netブログは保護期間が1年になりますが、以降はやはり取得可能です。
Twitterのユーザー名は退会済みアカウントの復活猶予期間を30日間設けていて、これを過ぎると誰でも取得できるようになります。
livedoor Blogは少し特殊で、「http://blog.livedoor.jp/AAAA/」というサブディレクトリー型と「http://BBBB.blog.jp/」というサブドメイン型、ユーザーが別個に所有しているドメインを使うという3タイプのアドレスが選べます。
このうち、サブディレクトリー型はAAAAの部分にユーザーアカウントの文字列が入るため、抹消後も他者の利用は不可能ですが、サブドメイン型はBBBBの部分が自由に選択できるので、ユーザーの抹消後は他の人が自由が使えるようになります。別のドメインを使う場合は、そちらの契約に依存します。
本体のドメインはほぼ再利用可能
本体のドメインを所有している場合はどうでしょうか。こちらは電話番号と事情が近く、契約が切れた一定期間が過ぎた後は、大抵の場合は誰でも取得可能になります。
トップレベルドメインには、「.jp」のような地域別タイプのほか、「.com」や「.net」などの分野別タイプのものがあります。さらには、「都道府県名.jp」や「.co.jp」のように直下の層と固まって扱われているものもあります。どのタイプに属するかによって、契約終了後の再利用期間が異なります。
さらに、ドメインを売買するサービスによって、契約終了直後に半月~1カ月程度の保護期間を設けたりもするため、ドメインの種類や契約先のスタンスでばらつきがでます。また、「.com」「.cn」のような一部の上位ドメインは契約終了後も再利用不可と明記している企業もあります。
たとえば、さくらインターネットの場合は、地域別の「.jp」(汎用JPドメイン・都道府県型JPドメイン)タイプが1カ月後、分野別タイプがおよそ2~3カ月半後、「.co.jp」のような分野地域混合タイプが廃止確定から半年後となります。
大まかにみると、電話番号よりは再利用のスパンは短く、再利用可能なドメインなら1年以内には誰かに使われうる状態になるようです。冒頭の秋田県警の旧ドメインのようなことは誰にでも起こりうるといえるでしょう。
さらにいえば、抹消したIDは二度と使わないという規約のブログサービスやSNSページであっても、そのサービス自体が消滅した暁には、上位ドメインが誰かに買われて、その内部でまったく同じURLが使われるということもありえなくはないのです。
つまるところ、電話番号もインターネット上の住所も、土地とあまり変わらないのかもしれません。住まいの土地の権利を失えば住み続けることは難しくなりますし、巨大なショッピングモールのなかに自分だけの契約スペースがあっても、そのモールが潰れてしまえば手出しできなくなりますから。
使わなくなったものは再利用されるのが普通。しかし、サービスの枠組みならその後も封印され続けることもある――それくらいに捉えておくのがよいようです。
記事に関連するWebサイト
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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。