古田雄介のネットと人生
第14回:遺影は家族のもの――オンラインで遺影を準備する方法

[2017/7/27 00:00]

終活の一貫として生前から遺影用の写真を残すことは珍しくなくなってきました。

また、インターネットを通して遺影用写真を保管したり、加工を依頼したりできるサービスも増えています。帰省ラッシュ前のこの時期に、遺影という“依り代”(よりしろ)について考えてみましょう。

故人の象徴となる遺影、しかし生前準備するのはごく少数

亡くなった人の象徴として遺影が飾られるようになったのは、日露戦争(1904~1905)の頃といわれています。

それ以来、葬儀の祭壇で位牌や棺以上に目立つ場所に置かれるようになったり、式後も語りかけたり手を合わせたりする対象となったりと重要な存在であり続けています。故人を偲ぶアイテムという意味で、依り代としての機能を果たしているともいえそうです。

そんな遺影ですが、本人が生前から「これを使ってほしい」としっかり準備していることは稀です。
経済産業省が2012年2月に発表した『安心と信頼ある「ライフエンディング・ステージ」の創出に向けた調査研究事業報告書』によると、同年1月に国内で暮らす30歳以上の4,181人のうち、すでに準備している人は2%で、現在準備中という人を含めても4.6%しかいませんでした。

『安心と信頼ある「ライフエンディング・ステージ」の創出に向けた調査研究事業報告書』のなかの生前準備の実態調査から。「準備すべきと感じているがしていない」という回答を含めて、ようやく過半数を超える程度だった。

多くの葬儀社に話を聞くと、この傾向はいまに始まったことではなく、昔から運転免許証や社員旅行の集合写真をどうにかして使うといったことが日常茶飯事で行なわれてきたといいます。

元の写真から大きく引き延ばし、背景や周囲を加工して、喪服を合成することでどうにか形にするという流れです。

知り合いの葬儀社スタッフは「人は歳を重ねると写真を残さなくなるので、遺影に適した写真は意外と見つからない」とぼやいていました。

しかし最近は、多くの人がデジカメやスマホ、カメラつき携帯電話で気軽に写真が残せるようになっています。デジタルの素材を活用すれば、遺影が作られやすい環境になってきているのは確かでしょう。

そうしたなかで、オンラインで遺影作成をサポートするサービスも増えています。どのようなニーズが集まっているのか、主要サービスの実情をみていきましょう。

残された家族が困らないために遺影写真を用意する心理

遺影写真事業大手のアスカネットは、2011年2月に「遺影バンク」という遺影写真保管サービスを始めています。

無料登録すると1GB分の容量が使えるマイページが与えられるので、遺影にしたい写真を複数枚アップしておけます。亡くなった際は遺族が葬儀社に伝え、葬儀社がアスカネットとやりとりすることで本人の希望が反映される仕組みです。

遺影バンクのユーザーページ。自分史や自由文のメッセージ、家系図などを残すページもある。

2015年以降はFacebookアカウントと連係可能になり、Facebookページ上の写真が手軽に遺影候補に設定できるようになりました。

また、手元にある遺影写真をデジタル加工で退色した色味を復活させたり、モノクロ写真をカラーにしたりするサービス「遺影ラボ」も併行して提供しています。

登録者数は非公開となっていますが、2017年6月に展示会で同社社長とやりとりした際、当時の時点で2万人を越えていると話していました。

その多くは終活セミナーのオマケで実施される遺影写真撮影イベントによるものとのことです。自らの意思でページにアクセスし、会員登録して遺影写真の選定とアップロードまで行なう人は、まだまだ少ない様子です。

同社広報は、終活セミナー等で遺影バンクの概要を説明する際、もっとも共感されるのは家族に迷惑をかけたくないという感情だといいます。「とくにご家族の葬儀をされた方には、写真を探すのに苦労した、遺影を作った後に他の親族にあれこれ言われる、といったことで困った経験をされた方もいらっしゃいます」

自分の番になったとき、家族にその苦労をかけないため――。遺影を残すモチベーションとしては、自意識よりも家族への配慮のほうが大きいということかもしれません。

かつて、佐渡島などの一部地域では、高齢者が自ら死に装束を準備する風習があり、遺影も自分で用意しておくことが多かったといいます。※

山間の集落では、死後に街へ行ってそれらを用立てすると葬儀に間に合わなくなるために広まった習俗とも考えられますが、家族への配慮という面で共通するものを感じます。

※出典:『現代日本の死と葬儀 葬祭業の展開と死生観の変容』(山田慎也著/東京大学出版会)

デジタル化により遺影写真が残しにくくなっている側面も

一方で、葬送サービスの新興企業であるユニクエスト・オンラインが2016年11月にスタートした「遺影写真加工サービスnocos(ノコス)」は、「お葬式の時は遺影を作らなかったけれど、やっぱりあの人にもう一度話しかけたい」と公式ページに記載しているとおり、葬儀後に遺影を作ることに主眼を置いています。

遺影バンクと比べると、本人よりも家族に向けたサービスという色が強そうです。

スマートフォンやデジカメにある写真をアップすると、遺影用の写真に加工してくれる有料サービスで、集合写真のなかで顔の一部が隠れていたり、室内で肌の色が暗く見えたりするショットでも、遺影加工専門チームが最適なフォトレタッチを施すといいます。費用は税込みで6,000円からです。

nocosの遺影写真加工サービス。背景や衣装も選べる。推奨画素数はL判サイズで157万画素以上となる。

サービス開始時から2017年7月18日時点までの注文件数は91件で、うち9割以上がやはり葬儀後の依頼となるそうです。「とくに若くしてなくなられた方の遺影を残したいというご依頼が目立っています。タイミングとしては、四十九日法要の際に作られる遺族が多いです」(同社広報)

同社によると、最近のデジタル化の流れにより、遺影写真が家族に渡る機会はむしろ減っているといいます。「写真を現像することが少なくなった現代では、ご遺族の方が遺影写真に最適な故人の画像を見つけることが難しくなっています。結果として、スナップ写真や証明写真など不鮮明な遺影で葬儀を迎える方も見られるようになってきました」

実際、私が参加しているデジタル遺品研究会ルクシーにも、遺影に使いたい写真が入っている故人のスマートフォンやパソコンを開きたいといった相談はしばしば届きます。

写真はたくさん残せるようになったものの、遺族に渡らずに故人と一緒にお墓のなかに入ってしまう。そういったケースも無視できない規模で増えているのかもしれません。

どんな写真がいい? 話し合うだけでも大きく前進

本人が遺影を残す意識はそこまで高くなく、家族の遺影を求める人は多い。そして、両者の間にはデジタルという膜がかかっていて、たくさん候補はあるかもしれないけれど、膜が破れずに閉口する家族が少なからずいる。と、そういうことなのかもしれません。

今後もこの傾向は大きく変わらない可能性がありますが、実情が分かれば打てる手もみえてきます。家族のために、一応遺影になりそうな写真を残しておいたり、家族が探せるようにしておくのは有効そうです。

では、どんな写真が遺影として適しているのでしょうか。

アスカネット広報は「年齢的には、“遺影適齢期”とも言える65歳から75歳ぐらいまでの年代の姿を残しておくのがベストではないかと考えています」といいます。家族の記念日や還暦祝いなどの機会に写真を残すことを意識してみたりするのがよさそうです。

また、ユニクエスト・オンライン広報は「誕生日のたびに撮り直すことをおすすめしております。あとはご家族で集まられたとき、お友達と旅行に行ったときなど、思い出がつまった写真が撮れた時はその写真を使うのもいいかと思います」とアドバイスします。

年齢を問わずに考えておくことも大切かもしれません。

いずれにしろ、自身の人となりが表に出た元気な姿を残しておくことが重要だと思います。どれが自分らしいか。いっそのこと家族と話し合ってみるのもいいかもしれません。そうすれば写真の保存場所の確認など、周辺問題も自然と片付きます。

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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。

[古田雄介]