故人が残したネットの定額有料サービスはどう止めるのが正解か
動画音楽配信や電子書籍の読み放題サービス、電子新聞の定期購読、オフィスアプリの有料プランなどの定額有料サービスを故人が利用していた場合、遺族はどのように処理するのがよいでしょうか。
提供側の実態に即して考えて行きましょう。
伸び続けるネットの定額プラン
インターネットには無料で読める記事や使えるサービスがたくさんありますが、お金を払って体験するもの(有料コンテンツ)も多く売られています。
利用時に決済して購入するものならお金のやりとりはその場限りなのでとくに問題ないですが、1カ月や1年などの期間ごとに使用料を支払う定額タイプのものは、利用者が亡くなったあとにも支払いが続いて遺族に迷惑をかけてしまう恐れがあります。
インターネット人口は右肩上がりを続け、全人口で83.5%、60代で75.7%、70代で53.6%の人が利用していると言われる現在(総務省「平成28年 通信動向調査」より)、この定額タイプのサービスを利用する人も、年代を問わず増加しています。
たとえば、KADOKAWAの調査サービス「eb-Xpress」が2017年5月に発表したニュースリリースでは、全国で1,100万人の人が定額タイプの動画配信サービスを利用していると推定されています。
2015年9月の同調査では約722万人とされていたので、1年半で1.5倍増になったというわけです。利用していると答えた6.5人に1人は60代でした。
また、電子版新聞も有料プランが伸びています。
2010年3月から電子版配信サービスを提供している日経新聞によると、2017年5月時点で有料会員数は54万人、無料会員数は350万人に達しています。
他の多くの全国紙も従来の紙版とともに電子版を提供しており、今後の伸びが期待されています。
その一方で、利用者が亡くなった後の対応については、大手企業であってもまだまだ手探りとなっている部分が多分にあります。
利用規約に、会員の死亡が確認された際は自動で解約されたり無料プランに移行したりすると明記してあるのはまだ良いほうで、死後や相続に関しての言及がまったくない場合も、筆者の調査した範囲では半数近くに上ります。そして、会員死亡時も規約に従った処理が実行されにくい現状があります。
死亡時の利用規約が生きることは稀
日本の人口は1億2,700万人で、2016年の死亡者数は約130万人です。1年のうちに100人に1人が亡くなる計算になりますが、それでも会員死亡時の処理に企業が及び腰な理由は主に2つあると考えられます。
1つは会員の生死を直接は知り得ない、という構造的な問題です。
この記事にあたって、電子版の新聞を発行している新聞社や動画音楽の配信サービス、電子書籍の読み放題サービス、クラウドサービスの計31サービスに会員死亡時の対応について質問しましたが、遺族対応の件数推移といった具体的なデータを教えてくれるところはありませんでした。
「クレジットカード払いのため、死亡に伴いカードが無効になった時点で有料会員は解除となります。しかし、死亡に伴うのかどうか確認はしていないため、件数は把握していません」(電子版新聞「デジタル毎日」を提供する毎日新聞社)
「残念ながら、こちらではお客様が死亡されたかどうかを知るすべはございません」(動画配信サービスを提供するNetflix)
上記の回答のように、生死を知り得なくても現実として契約解除が成立しています。
一般に、定額サービスには利用者がログインして入る会員ページがあり、そのなかにある解約やプラン変更などのメニューを通して処理するのが正規の道筋となります。
しかし、契約時に自動引き落とし先として登録したクレジットカードや銀行口座を解約・凍結させることで強制的にリセットさせる方法もあります。
利用者の生死に関わらず支払の停止をもって判断するというのは業界一般の筋となっているのです。
携帯電話の通信キャリアの契約に基づいたサービスの場合は、遺族による通信契約の解約と同時に支払いが止まることも多いですが、この場合も停止の理由がサービス側に降りてくる仕組みはありません。すると利用規約の死後に関する条項はなかなか出番が回ってこないということにわけです。
すると、提供側が会員の死亡を把握するほぼ唯一の手段となっているは遺族からの連絡となります。そして、その連絡実数がまだまだ少ないことが2つめの理由です。
取材を申し入れた31サービスのうち回答を取得したのは14件でしたが、もっとも多いのは遺族からの問い合わせが「年に数回程度」との回答でした。
次に多いのは「累計0件」との回答で、開始から2年に満たなかったり、有料会員数が1万件以下(推定値含む)の規模だったりと、新興のサービスに多い印象を受けました。一方で、「月に何本」といった頻度の回答は皆無です。
総合すると、「2年以上経過して、有料会員数が数万人以上の規模なら、遺族からの個別相談が年に数回は届く」という感触でしょうか。いずれにしろ、レアケースの範囲に止まるようです。
手っ取り早いのは引き落とし先の凍結だが、落とし穴も・・・
では、家族が定額サービスの契約を残して亡くなった場合、遺族はどうすればいいでしょうか。
もっとも手っ取り早いのは、支払い元となっている可能性のある故人のクレジットカードや銀行口座を凍結するということになります。スマートフォンや携帯電話の通信契約も、連絡先とのやりとりや中身の確認に支障がないとわかった段階で解約するのが有効でしょう。
ただし、突然の解約による未払い分は改めて請求する可能性を利用規約に明記しているサービスもあります。できれば(年額契約のサービスも想定して)過去1年間の取引履歴や利用明細に目を通して、支払い漏れのチェックはしておいたほうがいいでしょう。
実際、数カ月後に故人が契約していたサービスから連絡が届く場合もあるようです。そうした事態にうろたえないためにも、拾える情報は拾っておくという姿勢が肝要です。
利用しているサービスがはっきりとしている場合は、各サービスのサポート窓口に相談することもやはり大切です。サービスによっては、承継といって故人の契約や成果物、購入物を引き継げるものもありますし、個別に最適な方法に導いてくれることもありますから。
ただし、海外サービスは英文でのやりとりしか応じないというスタンスもありますし、国内サービスであっても相談の前例が少ないため、故人や遺族の身分証明に手間取るといった場合もあり得ます。
つまるところ、どちらの方法も一長一短あるのです。「こうすれば安心!」と明言できないところがもどかしいですが、会員の死と対峙するという意味ではネットサービスはまだまだ黎明期なので、手探りで対応しなければならない部分はどうしても残ります。
複数のアプローチを念頭に置いたうえで、状況に応じて使い分けるのが最善ではないかと思います。
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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。