古田雄介のネットと人生
第19回:年の瀬に最短30分でデジタル資産を整理する
ネットサービスのアカウントや保存したファイルなどのデジタル資産も大掃除のシーズンに整理するのがお勧めです。
とはいえ、時間をかけて大仕事するのは大変なので、なるべく短時間でざっくりと整理してしまいましょう。
ステップ1…最短20分で3つのメモで整理整頓
まずはデジタルの持ち物を整理するところから始めます。3つのメモ帳を左右に並べて、それぞれに「大切なもの+日付」、「保留+日付」、「不要なもの+日付」と見出しをつけましょう。
途中で項目を入れ替えるのが簡単なのでパソコンで作業するのがお勧めですが、スマートフォンのメモアプリを使うのもいいですし、紙の手帳やメモ用紙を3枚使って手書きしても構いません。自分にとって気軽な手段を選んでください。
そして、以下に挙げる項目をメモに書いていってください。
これからも持ち続けたいものは「大切なもの」、必須でもないけれどとりあえずとっておきたいものは「保留」、もういらないと思えるものは「不要なもの」といった具合に分けていきます。重要度の高いものから並べているので、上から順番に作業しましょう。
ただし、各項目を丁寧に書き込んでいくと膨大な時間がとられる恐れがあります。最短で20分程度、長くて1時間弱でまとめるくらいの感覚でサッとトライしてみてください。清書というより下書きのイメージが理想です。
【1】自分のスマートフォン&携帯電話
「iPhone SE パス:123456」「緑の折りたたみ式 パス:1234」のように、現在使っているスマートフォンや携帯電話を、パスワード(パスコード)つきで書き出します。パスワードを設定していなかったり、古すぎてパスワードが分からなかったりするものは、型番や端末の特徴だけで十分です。私物だけでなく、会社用のものがあればそちらも一緒に書き出しましょう。
【2】自分のパソコン
パソコンも同じようにパスワードつきで記載します。
【3】ネット銀行&ネット証券の口座情報
ネット銀行やネット証券会社の口座がある場合は、アカウント情報や口座名などを記載しましょう。余裕があれば残高や保有資産を書き添えておくのもいいでしょう。情報漏洩のリスクを踏まえたうえで、パスワードを併記するのもありだと思います。
【4】定額支払中の有料サービス
購入済みの電子書籍やアプリではなく、月額制や年額制の有料サービスが該当します。これからもお金を払い続けるものには何があるのか、クレジットカードの取引履歴や預金通帳などを見ながらチェックすると漏れが防げます。これも自己責任の範囲でアカウントやパスワードを添えてメモすると便利でしょう。
【5】報酬系サービス
アフィリエイトサービスやクラウドソーシングなど、報酬がもらえるサービスもリストアップします。
ここまでの5項目が最重要ラインといえます。
お金関連のものは放っておくと収支に直接的な影響が出ますし、愛用機のログイン情報は把握しておかないといざというときに全方向で大きな負担になりますから。あまり時間的な余裕がない場合は、ここで切り上げて次のステップに進むのも手です。
【6】SNSアカウント
FacebookやTwitterなどのSNSはめまぐるしく流行が変わるので、自然とアカウントが増えていきます。これを機に不要なものは抹消するのもいいでしょう。アカウントやパスワードを添えるのも必須ではありません。
【7】ブログ&ホームページ
ブログやホームページなどのアカウントも同様にまとめてみます。
【8】保存しているデータ
最後はスマートフォンやパソコンの内部に保存している写真や文書ファイルなども整理しましょう。ただし、本格的にやるといくら時間があっても足りなくなる人もいると思います。
ここでは「万が一のときに手元にないと家族や仕事仲間が困るもの」を大切なものリストに書き込むだけに留めてください。本格的な整理は最後にとっておきましょう。
ステップ2…不要はすぐ削除、大切なものは預金通帳と一緒に
では次のステップです。3つのメモを並べて、それぞれに対応していきましょう。作業時間は書き込まれた内容によりますが、持ち物が少なめなら10分もかからないと思います。
「不要なもの」はすぐにサービスを停止したりファイルを削除したりします。もう使っていないのにお金を払い続けているものがあればここで浪費を断ち切りましょう。無料サービスも不要な個人情報漏洩リスクを防ぐ効果が期待できますし、やると決めたこの時にすべてやりきる気持ちで臨むのが肝心です。
「保留」はそのまま保管しておいて、来年の年末に見返せるようにしましょう。1年間の間に必要性を思い返すことがなければ、改めて「不要なもの」に移せばいいですし逆もしかり。来年の自分に判断を委ねてしまう感じです。
「大切なもの」は、リストの項目を引き続き愛用しつつ、リストは印刷したりメモ帳から分離したりして物質的な形で保存しておくことをお勧めします。紙の預金通帳や実印などを保管している場所に折りたたんでおいてください。すると、自分に万が一のことが起こっても、家族や近しい人が発見してくれる確率が普通の貴重品と同程度に高まります。
デジタルの持ち物は本人以外には気づかれにくいという特性があります。普段ならとくに問題なく、むしろ持ち主にとって都合のいい性質ですが、不意に本人が動けなくなったときには周囲の悩みの種になりかねません。
重要な情報がまとまった「大切なもの」リストがあれば、大切にしていた思い出や財産に触れられなくなるといった悲劇が防げます。
ステップ3…家族にも大切なデータと自分だけのデータを仕分け
ここまで進んだら、あとはスマートフォンやパソコン、あるいはオンラインストレージ内にあるデータを個別に整理するだけです。
各端末やサービスに重複して保存してあるファイルを削除したり、色々なところに散らばったファイルをひとまとめにしたりしましょう。このあたりは普通の大掃除と変わりません。
整理する過程でポイントになるのは、データのなかの「大切なもの」をさらに2つに分ける意識です。「家族や周囲にとっても大切なもの」と「自分にだけ大切なもの」を区別して整理すると自然と保存場所が二手に分かれていくので、実用性がアップします。
前者は、家族写真や連絡先、仕事の資料など。
後者には趣味性の高いもの、できれば家族や友人には知られたくないものが含まれるでしょう。
前者はスマートフォンの最初の画面やパソコンのデスクトップ画面からアクセスしやすいように配置して、後者は一段目に付かないところに置いておけば、万が一の際も互いに恥ずかしい思いをするリスクが抑えられるはずです。
デジタル遺品の調査を専門としているため、ついつい万が一の際のことばかり考えてしまいます。申し訳ありません。縁起でもないですが、備えあれば憂いなし。年末は自分の持ち物を所持品を見返す絶好の機会ですし、ぜひ試してみてください。
古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2016年9月以降、デジタル遺品研究会ルクシー(http://www.lxxe.jp/)の理事を務めている。2017年8月にはデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行する。