旦木瑞穂の終活百景
第十四景『“墓じまい”のパッケージ販売をスタート!「お墓まごころ価格.com」』

[2016/11/24 00:00]

「墓じまい」とは、地方や郊外のお墓を解体し、お骨を取り出して、更地に戻してしまうことです。

「継承者がいなくなった」「継承者が遠方にいるため管理ができない」などの理由で、「墓じまい」をする人が年々増えています。

今回は、今年5月に「墓じまいまごころパック」をリリースした「お墓まごころ価格.com」の代表取締役 石井靖(いしい やすし)社長に、お墓を取り巻く現状などについてお話を伺ってきました。

石井靖 社長

「お墓まごころ価格.com」が誕生するまで

「お墓まごころ価格.com」の設立は7年前の2009年。もともと青森県で、「やまと石材」という石材会社をしていた石井靖社長が立ち上げました。

「親が飲食店をしていて、店を継ぐために東京に修行に来ていました。しかし親が廃業してしまい、知り合いから『それなら手伝いに来てくれ』と言われて行った先が、石材会社でした。当時は公園霊園ブームで、何百万もするお墓がぽんぽん建つような時代です。それまで飲食業しか知らなかった私は、『なんていい仕事だろう』と思いました。私みたいな若造に何百万も預けてくれて、涙ながらに『ありがとう! ありがとう!』と感謝される。それで人生がぐいっと変わりました」

石材会社に6年ほど勤めた後、石井社長は独立します。

「今も少なからず残っていますが、当時はもっと職人気質で、『俺が作ってやる!』みたいな『いらっしゃいませ』も言わないような石材店が多かったんです。展示してあるお墓に、プライスなんてどこも付けていません。いちいち聞かないと値段が分からない。石屋さんの中には、『お客さんを見て値段を決める』なんて豪語している人もいました。私は常識的に考えてもおかしいと思いました。『業界の常識は世間の非常識』と私はよく言うんですが、業界と世間とのズレを正したくて、独立を決めました」

石井社長は当時を振り返り、「ずいぶん地元でもいじめられました」と笑います。

「うちが特別優秀だったわけじゃないと思います。世間では当たり前のことをしてきただけで、5年目から地元で1番の石材会社になりました。7年前に『お墓まごころ価格.com』を立ち上げて、ネット販売を始めたのは、お墓に代わる永代供養墓などといった選択肢がどんどん増えてきて、『今までのやり方ではもう、お墓を建てることの意味がお客様に伝わらないんじゃないだろうか』と思ったからです。

当時はまだ、『お墓なんて気軽に見に行けない』『見積もりなんて頼み難い』など、『石屋さんは敷居が高い』と言われていました。それなら、営業マンを使わずに、インターネットを利用して、お客様主体の仕組みを作ろうと考えました」

日本初! お墓のカタログ&ネット販売

「お寺や石材店のおしつけではなく、お客様が主体となってお墓作りができるカタログ&ネット通販を、60万円/80万円/120万円の3つの価格で始めました。業界初、日本初だと思います」

お墓まごころ価格.comでは、インターネットのサイトから、カタログを請求するところからスタートします。

カタログは無料で送られて来ます。営業マンは行きません。ガイド用のDVDとメジャーが付いているので、お客様自身でお墓を建てたい場所の寸法を測ります。

「初めは、業界で『墓石をカタログ販売だなんて乱暴だ』と笑われました。でも最近では、うちのやり方を模倣する会社もちらほら出てきています」

メールでお墓を建てたい場所の写真を送ると、カタログから選んだ墓石のデザインと石の種類を組み合わせ、コンピュータグラフィックス(CG)で完成予想図を作ってもらえます。

CGは、納得したお墓ができるまで、何度でも作ってもらえます。隣との高さの兼ね合いや、風景との調和などが確認できると好評です。

希望の石のカットサンプルも、3枚まで送ってもらえます。分からないことがあれば、コールセンターがあるので、電話で相談もできます。

同社で扱う銘石のサンプル
東京支社のエントランス

スタッフは全員、石材産業協会の資格であるお墓ディレクターを取得済み。毎月外部講師や石井社長から研修も受けており、お墓に使う石の種類や特性、お墓の歴史や石の加工の仕方まで、お墓に関することなら何でも答えてくれます。

「CGにはA案B案と順に名前を付けていますが、最高Z案まで作ったことがあります。不幸があったお客様には、もしかしたら失礼かもしれませんが、お墓作りを家族で楽しんでもらいたいのです。『石材店のおしつけではなく、お客様主体になって検討することが、悲しみを癒して、故人の供養になるはず』と思って始めました。当初は、『お墓なんてどうでもいい』『安ければいい』というお客様ばかり集まったらどうしようと思っていました。しかし実際は、安さももちろん重要だけど、それよりも『自分たちが主体になってお墓を決めたい』という方が集まりました」

石井社長は、「これでダメならお墓はなくなっても仕方がない。お墓作りの最後の砦になろう」と思っていたと話します。

「自分たちが主体になってお墓を決めることは、グリーフケアにもつながるんじゃないかという狙いもありました。『こうした方がグリーフケアになる』と言って直接的なことを強制するよりも、『やらなければならないものに取り組んでいるうちに、結果的にグリーフケアになっていた』みたいなことができないかと考えたんです。私は、元横浜国立大学の臨床心理の先生について、10年くらいグリーフケアを学びました。そこで、『故人をネタにして笑えたらもう大丈夫』と教わりました。だからお客様から、『家族でカタログを囲んでお墓を決めていたら、いつしか故人の昔話をしながら笑っていた』と聞いたとき、すごく嬉しかったんです」

石井社長は目を細めます。

墓じまいを請け負う石材会社

「お墓まごころ価格.com」は、全国47都道府県に、お墓職人のネットワークがあります。

同社では、研修を設け、一定の基準を上回る技術や知識のある職人を、「まごころ職人」と呼び、3人以上のチームで仕事を依頼しています。

「お墓職人さんたちの空き時間を利用させてもらうことで、効率的に仕事が回せるため、現在の価格が実現できるようになりました。職人さんたちとのネットワークが私たちの強みです」

それは、石井社長が石材会社設立以前から、40年近く積み上げてきた、経験と実績の為せる技とも言えます。

「正式な業者でない場合、墓石の不法投棄などの問題があるので、見極めには注意が必要です。また、解体専門の業者だと、時々、『隣の墓石を壊してしまった』といった話を聞きますが、私たちは、お墓を建てるのが本業ですから、お墓の仕組みは熟知していますし、墓石扱いのプロです」

お墓まごころ価格.comでは、墓石の解体と処分までをパッケージにして請け負っています。墓じまいに関わる行政手続きも、委任状さえ用意すれば、全部職人さんが代行してくれます。

「墓じまい」の料金は、解体するお墓の広さで4通りに分かれています。都心部の一般的な2平方mまでの広さで、198,000円(税別)、一番広い4~5平方mで298,000円です。

「本来は、お墓を解体してお骨を取り出すときは、立ち合いが望ましいですが、最近はお忙しい方が多いので、立ち合いがなくても、お墓を開けた状態、お骨を取り出すところなど、全部写真を撮っておきます。解体も行政手続きも全部含めた墓じまいパッケージです」

墓じまいは僧侶とともに閉眼供養を行なうところから始まる
クレーンを使って墓石を吊り上げる
他の墓石にも注意を払いながら慎重に作業を行なう

同社が「墓じまいまごころパック」の販売をスタートしたのは、今年の5月です。

「今のペースで行くと、1年で200件くらいの受注になりそうです。『土日祝日を除くと、毎日日本のどこかで墓じまいをしていることになるね。笑ってられないね』って先日、社内で話してました」

順調なようでも、長年石材会社を営んできた石井社長の胸中は複雑なようです。

墓じまいを依頼される方は、その後お骨をどうするかを考えているのでしょうか。

「最初の約1カ月間に受注したお客様は、行政の手続きは全部してあって、お墓の解体と処分のみを依頼される方ばかりで驚きました。行政手続きが大変だから、そこをウリにパッケージングしたのに、需要を見誤ったかと思ってショックでした。しかし、それは最初だけで、今は『お墓の引越先を探して欲しい』とか、『墓じまいしたいけど、その後どうするべきか一緒に考えて欲しい』といった、『何から手をつけたらいいか分からないからアドバイスが欲しい』という方が多くなりました」

同社のコールセンターでは、永代供養墓や散骨など、お墓の引越しに関するさまざまな相談にも応じています。

最初のお客さんたちが行政手続きを自分たちの手で終えていたのは、「墓じまいまごころパック」以前は、墓じまいに対応するサービスがあまり多くなかったということを表しているのかもしれません。

「墓じまいまごころパック」専用オプション

「墓じまいまごころパック」には、お骨のパウダー化や墓じまいした墓石を薄くスライスしたメモリアルプレートの作成、コンパクトな納骨家具やお坊さん派遣など、いろいろなオプションが用意されています。

メモリアルプレートや納骨家具は、同社のオリジナル商品です。パウダー化したお骨を置いておくスペースがあり、インテリアとしてリビングなどに飾ることもできます。

「私たちはもともと石材店なので、石を加工するのはお手の物です。お墓の石は硬くていい石です。切って磨くと新品同様になります。しかし、墓じまいした墓石は、産業廃棄物扱いになってしまいます。再利用したとしても、クラッシュして、道路工事に使う砂利などに加工されてしまうのです。だからせめて墓石の一部でも記念に残したいと思い、メモリアルプレートを考えました」

「お骨のパウダー化や納骨家具、メモリアルプレートといったサービスを考えた理由は、もうひとつあります。東北に実家がある息子さんが、お父さんの遺言に従い、遺骨を永代供養墓に埋葬しました。でも、永代供養墓には2種類ありますよね。個別に分かれていて、何年かしたら合祀するタイプと、最初から合祀するタイプです。息子さんは最初から合祀するタイプの永代供養墓にお父さんのお骨を埋葬しました」

息子さんは、それまでお世話になっていた菩提寺とは、礼を尽くし、スムーズに離檀していました。

「ところが、お父さんのお墓が本家のお墓だったために、『並んでいた一族のお墓の真ん中がすっぽり無くなった。お墓をどこへやったんだ』と、お父さんの兄弟が怒ってしまいました。『お墓もない。お骨もない。どこに手を合わせればいいんだ』と。息子さんは一族から縁を切られてしまったそうです」

そういう経験から、石井社長は、墓じまいして取り出したお骨は、一部でも手元に残しておくことを勧めています。

「一部でもとっておけば、『自宅にお骨を祀ってあります。ぜひお参りにいらしてください』と言えます。墓じまいは、どうしてもネガティブな部分があります。代々続いてきたものを、自分の代で断ち切ってしまうような罪悪感。それを少しでも和らげるようなサービスを考えました。しかしまだ、オプションを利用される方は2~3割程度です」

「ただ、お骨のパウダー化を希望されるお客様は増えています。粉末化して容量が減ると、次のお骨の行き先になる、納骨堂や永代供養墓の選択肢が増えるからです。また、東京など、東日本地域の骨壷は7寸ですが、西日本は4寸と小さいことが多く、例えば東京のお骨をそのまま大阪に持っていくと入りません。さらに最近では、海洋散骨を希望される方も増えています」

同社では、海洋散骨の斡旋も行なっています。

「先日は沖縄の海への散骨を希望されるお客様を紹介しました。沖縄は関東圏の方に人気があって、沖縄県内の永代供養墓の2割近くは関東の人が占めているんだそうですよ」

出身だからというわけではなく、生前に夫婦で旅行した思い出があるとか、好きだからといった理由で、沖縄を選ぶ方が年々増えているようです。

石材業界に対する思い

業界を変えたいとの思いから、独立を決意し、約40年間石材業界で試行錯誤を続けてきた石井社長。石材業界は変わったのでしょうか。

「基本的には石材会社は墓じまいをしたがりません。なぜなら、単価は安いし、手間がかかるし、自分たちが否定されたような気持ちになるからです。私も石材業界の人間なので、気持ちは分かります。でも、頑なに『うちは墓じまいはやらない』と頑張っている石材会社や、やりたくない仕事に対して高い見積もり『断り見積もり』を出す石材会社があると聞きますが、意地を張っていても、業界のイメージダウンにつながるだけだと思います」

唯一の非営利統一団体である、石材産業協会の中でも、墓じまいに対する考え方は真っ二つに分かれているといいます。

「私も去年までは、墓じまいに対して複雑な思いがありました。『簡単にお墓を壊してしまうような文化でいいんだろうか』『先祖やお墓を大事にしないと、日本の道徳観まで失われるんじゃないか』と、今も危惧しています。でも、墓じまいの問い合わせが去年の秋くらいから急激に増えてきたので、私はお客様に、『どういったご事情で墓じまいをお考えですか』と直接お会いした際やお電話で、聞き取りしてみたんです」

結果、石井社長は誤解していたことに気付きます。

「それまで私は、墓じまいを考えている方は、『お墓もお骨もどうでもいい』『邪魔で負担だ。要らない』そう思っていると勘違いしていました。どうでもいいものなら、無縁墓にしてしまえばいいんです。1999年に墓地埋葬法が変わって、管理者が比較的簡素な手続きで、お骨を撤去できるようになりました。だから要らないものなら、放っておくこともできます。でも、墓じまいを選択する方は、『大切なお墓を自分の代で無縁にするのは忍びない』『荒れさせたくない』と思うから、不安や罪悪感を乗り越えて、ものすごく面倒くさい手続きや多額の費用をかけて、親戚の批判にも対応しながら、それでも墓じまいを『やるんだ!』と決意した方なんだと気が付きました」

確かに、お墓なんてどうでもいいと考えているなら、お墓の管理もせず、荒れ放題にしておいてもいいはずです。墓じまいは、先祖やお墓を大切に思っているからこその行為なのだと分かります。

「それならなおさら、お墓のプロである私たちがやるべきだと思うのです。お墓解体業者よりも、お骨の扱いは慣れています。お寺とのつながりや関係、行政の手続きも分かっています。お墓の作り方が分かっているから、解体の仕方も分かっています。私はそれまでの考え方を変えて、積極的に動き始めました」

石井社長は、「カッコつけすぎですね。もちろん、お墓職人さんの仕事を増やしたいという理由もありました」と照れ笑い。

「現在も賛否両論あります。『あいつはお墓文化を壊そうとしている』という批判もあるし、『いや、時代やお客様の要望にしっかり答えようとしている正しい活動だ』と言ってくれる方たちもいます。私はお客様が良ければ業界はどうでもいいと思っています。実際に困っている方がいるのに、石屋が駄々をこねても意味がない。私はこういうことを結構言うので、煙たがられているんですよ」

石井社長は笑います。

確かに、石材業界にかかわらず、どこの業界でも、自分たちよりもお客さんの方を向いている会社や、時代の流れに沿ったサービスの方が受け入れられています。

「私は墓石屋ですが、墓石のことよりも、お墓参りの大切さみたいなものは、日本人として残していけたらいいなと思うんです。だけど、そればかり叫んでいてもお客様はこちらを向いてはくれません。まずは私たちが、お客様に寄り添わないと」

今年の5月以降、マスコミにも多く取り上げられ、池上彰さんの番組にも出演した石井社長。8月からイオンライフとの提携も決まったそうです。

今後、都市への人口集中や少子高齢化が進むにつれ、「墓じまい」の動きはますます広がっていくのではないでしょうか。

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旦木瑞穂(たんぎ みずほ)
1975年愛知県出身。
産経デジタル「New Roses Web」にてグルメ・イベントレポートや、鎌倉新書「月刊 仏事」で葬儀や介護に関する記事などを連載。
各種パンフレット、ガイドブックなどの企画編集のほか、グラフィックデザイン、イラスト制作も行なう。

Twitter:@mimizupon

[旦木瑞穂]