旦木瑞穂の終活百景
第十九景『日本で唯一 宇宙葬の実績を持つ葬儀社「銀河ステージ」』

[2017/2/7 00:00]

みなさんは、「宇宙葬」をご存知ですか。

遺骨を搭載したロケットを打ち上げ、宇宙に送り出す供養の方法です。

おそらく、興味がある人は少なくないと思いますが、「遺骨はその後どうなるの」「打ち上げに失敗することもあるの」「いくらくらいでできるの」など、気になっていることがいろいろあると思います。

そこで今回は、日本で唯一宇宙葬の施行(打上成功)実績を持つ葬儀社「銀河ステージ」の事務局員、生地真人(おんじまさと)さんに、詳しいお話を伺ってきました。

「銀河ステージ」 生地真人氏

きっかけは介護施設

「銀河ステージ」は、1984年に設立された「国際通信社」のグループ企業です。

国際通信社は、出版事業を核として、広告、Webなどの分野にサービスの幅を広げる一方で、社会から寄せられる様々な期待に応えるため、新たな業界にも参入してきました。

現在は、教育・人材派遣、IT機器開発・販売、経営コンサルティング、管理、医療、介護・福祉、葬祭と、幅広い分野にわたってサービスを提供しています。

その一つ、2010年に有料老人ホーム「れんげホーム」の開設からスタートした、「NPO法人 れんげメディカルグループ」は、訪問介護やホームヘルパー資格の取得支援、高齢者福祉施設事業を展開し、大阪府内で老人ホームやクリニックの経営を行うなど、高齢者の健康維持活動に積極的に取り組んでいます。

「れんげメディカルのスタッフたちは、施設を利用している高齢者の方やその家族に、葬儀の相談をされる機会が数多くありました。そのため、2013年に『銀河ステージ』を設立する際、一部の利用者の方に葬儀についてのアンケートを行なってみたんです。結果、『死んだらお星様になりたい』『空から子どもたちを見守りたい』そんな回答が複数ありました。私たちはすぐに宇宙に埋葬できるのかどうか調べました。すると、20年前からアメリカで宇宙葬を施行している会社を見つけたんです」

アメリカ人と日本人の違い

「銀河ステージ」は、20年前から宇宙葬を施行するアメリカの会社「セレスティス社」と提携。「セレスティス社」は、過去には日本にも代理店がありましたが、なかなか宇宙葬が日本に浸透せず、苦戦を強いられてきたといいます。

「アメリカ人と日本人では、死に対して捉え方が違います。アメリカでは土葬がメインです。聖書では、神様が土の塊から人間を作ったと書かれています。だから土葬して、土に還します。宇宙葬をするためには、遺骨の一部を火葬しなくてはなりません。アメリカ人にとっての宇宙葬は、『かつて身内が宿っていた遺体の一部が宇宙に行く』という捉え方をしています」

アメリカ人は、遺骨が搭載されたロケットの打ち上げを、イベント的に盛り上がって楽しむと言います。

打ち上げ後に現地で行われるセレモニー

「一方日本人は、『魂が宇宙へ行く』『◯◯に宇宙旅行をさせてあげる』という捉え方をしています。また、日本人は、距離的な理由から、なかなか打ち上げに駆けつけられません。だから私たちは、日本で宇宙葬をリリースする際、日本人向けにカスタマイズが必要だと考えました」

同社では、打ち上げの様子を動画で見られるフォトフレームと打ち上げ証明書、打ち上げ施設で売っているフライトパッチ(ワッペン)をセットにして、実際に宇宙葬を行った後、遺族に贈っています。

「日本人にとっては、宇宙葬は供養の方法の一つであって、打ち上げたら終わりではありません。だから故人を偲ぶきっかけになるようなものがあった方がいいと考え、記念になるものを用意して、お渡しするようにしています」

フォトフレームには、打ち上げの前に、家族が故人へのメッセージを読む様子も収録しています。家族が高齢だったり、仕事の都合などで立ち会えない場合は、家族が書いたものを同社のスタッフが読み上げます。

フライトバッジは、打ち上げるロケットごとに毎回デザインが変わります。そのデザインのバッジが手に入るのは、打ち上げ当日だけです。さらに、出版社のグループ企業である特性を活かして、打ち上げ当日の様子を取材記事にして、家族にプレゼントしています。

左奥:フォトフレーム、右奥・右手前:宇宙葬搭乗券、中央:カプセル
宇宙葬搭乗証明書とワッペン
打ち上げ当日の様子を記事仕立てにした「メモリアル通信」

夢とロマンあふれる4つのプラン

遺骨を搭載するロケットは、NASAのものを使う場合と、一般の会社や大学が研究のために打ち上げているロケットに便乗する場合があります。

打ち上げ施設も同様で、NASAの施設を使う場合と、ニューメキシコ州にある商業用ロケットの打ち上げ施設を使う場合があります。

現在、同社の宇宙葬には、「宇宙飛行プラン」「人工衛星プラン」「月旅行プラン」「宇宙探検プラン」の4つのプランが用意されています。

「人工衛星、月旅行、宇宙探検は、NASAの人工衛星や探査機に便乗する形が多いですが、宇宙飛行プランでもNASAになる場合もあります」

どのプランも、宇宙空間へ行けます。

「宇宙空間とは、国際航空連盟やアメリカ航空宇宙局 NASAが定義する海抜高度100kmを示す『カーマンライン』を超えた領域を指します」

  • 宇宙探検プラン 250万円

    4つのプランの中で一番遠くへ行くプランです。(地球の周回軌道を離れる)

    2015年7月14日、冥王星に到着したNASAの無人探査機ニューホライズンズに、アメリカの天文学者で、冥王星を発見したクライド・トンボー氏の遺骨が搭載されていました。

    次回の打ち上げからは一般の方を募集していますが、どこへ行くかは分からず、特定もできません。ただし、申し込んだ後でも、行き先が決まり次第、「そこは嫌だからその次の打ち上げを待つ」ということも可能です。

    また、このプランは打ち上げられた後、地球に帰ってきません。最初に遺骨を搭載されたニューホライズンズは、冥王星に接近した後、次のターゲットに向かって飛行しながら、冥王星の観測データを地球に送信し続けています。

  • 月旅行プラン 250万円

    月面探査機に便乗し、探査機と一緒に着陸するか、もしくは遺骨が搭載された部分だけ切り離して、月面に落ちる設計になっています。

    2009年6月に、月に水の有無を調べるために打ち上げられた観測衛星エルクロスには、天文学者であるユージン・マール・シューメーカー氏の遺骨が搭載され、月面に埋葬されました。

    シューメーカー氏は、月のクレーターを研究していましたが、「月に行きたい」という夢を叶えられないまま、1997年に事故で亡くなりました。エルクロスに遺灰の一部が搭載されたのは、遺族の強い希望があったからです。

    シューメーカー氏が第1号となり、2017年の暮れに打ち上げを予定している2回目からは、一般の方を募集しています。

    「空を見上げれば見られる」ということで、人気のプランだそうです。

  • 人工衛星プラン 95万円

    人工衛星は、気象や通信などの役割を持ち、他の人工衛星や宇宙施設にぶつからないよう軌道計算されています。最長で240年ほど地球の周りを回るものもあり、役割を終えたら大気圏に突入します。給油機の摩擦によって燃え尽きてしまうため、宇宙のゴミになりません。

    また、打ち上げた後は、身内の遺骨を搭載した人工衛星の軌道を、携帯のアプリで確認することができます。

  • 宇宙飛行プラン 45万円

    先端の部分に納骨室を設け、胴体の部分には研究機材が搭載されている、商業用の無人ロケットを使用します。

    人工衛星は、周回軌道といって、長期間地球の周りを回る場合が多いですが、ロケットは、弾道軌道という弧を描く飛行形態なので、飛行時間は数分から数時間程度です。近年旅行社が扱っている「宇宙旅行」も、このタイプになります。

    着陸する必要がないので、最終的には大気圏突入時に燃え尽きるか、燃え尽きなくても、砂漠や海など、人がいない場所や立ち入り禁止の場所に落ちるよう管理されます。

宇宙葬を選ぶ人の傾向

宇宙葬は、一般の人でも手が届かないサービスではありません。

「重要なのは、家族や故人がどうしたいかです。『葬儀は火葬だけでいいので、宇宙に埋葬されたい』という人もいます。宇宙に行くのが夢だった娘さんの遺骨を何年も自宅に保管し、インターネットで宇宙葬がリリースされるや否や、すぐに申し込んだという方もいます」

宇宙葬を希望する人は、どんな人が多いのでしょうか

「立ち上げた当初は、宇宙が好きだったとか、宇宙に憧れやロマンを持っていたなど、『故人が希望されていたから』というケースが多かったのですが、最近は、遺された家族が選択されるケースが増えています。『お母さんを海外旅行に連れて行こうと思ってパスポートをとったけど、急に倒れてそのまま亡くなってしまった。だから世界中どころか、宇宙を旅行してもらおうと思って申し込んだ』という方もいらっしゃいました」

宇宙葬を選ぶ人に傾向はありますか

「生前にあちこち旅行していたような、活動的な人。もしくは、体が弱くてほとんどどこへも行けなかった人などです。思いのほか、富裕層の方とは限りませんでした。男性は純粋に宇宙が好きな方。女性は『空から子どもたちを見守りたい』といった方が多いようです」

「一番人気があるのは人工衛星プランです。宇宙飛行プランを考えていた方が、詳しい説明を聞いて、『人工衛星プランの方が長く地球を回っていられるから』と言って、変更する場合が多いです。生前予約では、月旅行プランが人気です」

同社では、生前予約をすると、「搭乗予約券」が渡されます。このカードは遺族に向けて、宇宙葬の生前予約がしてある旨と同社の連絡先が書かれてあります。

予約をしていた場合、宇宙葬の料金のうち、5万円を生前予約金として納め、残りは打ち上げまでに支払います。

生前予約をすると渡される「搭乗予約券」

宇宙葬の現実

宇宙葬をスタートさせて約3年が経ちました。

「2015年に、みんれびさんがアメリカのエリジウムスペース社と提携し、宇宙葬を始めました。今はまだ実績のないみんれびさんが実績を積んでいくことで、宇宙葬が広がるのは良いことだと思います」

現在日本で宇宙葬を取り扱っているのは、銀河ステージとみんれびだけだそうです。

「宇宙葬なんて売れるのかと半信半疑で始めました。しかし現在、16名の方のお申し込みと、約30名の方に生前予約をいただき、これまでに5名の方を宇宙へ送り出してきました」

打ち上げ自体は年に1~3回程度なので、申し込みをしてから実際に打ち上げられるまで、間隔が空く場合もあるようです。

「2016年10月に、宇宙ステーションに物資を運ぶロケットの打ち上げが失敗に終わり、その影響で、11月に予定していた遺骨を搭載したロケットの打ち上げが延期になりました」

延期になった場合、遺骨は打ち上げ施設の納骨室で次の打ち上げを待ちます。

基本的に、宇宙葬に必要な1人分の遺骨は1gです。1人用のカプセルと2人用のカプセルがあり、1人用でも、ちょっと多めの3gタイプのカプセルも用意しています。

「夫婦やカップル用に2人用を用意しましたが、『ペットと一緒に』と2人用を希望される方もいらっしゃいます」

ペットと一緒にと希望される方は、海洋散骨でも多いと聞きます。

「また、お子さんを亡くされた方は、宇宙葬を選ぶ割合が高いように思います」

最後まで『親として子どもに何かしてあげたい』と思う気持ちが想像できます。

宇宙葬は宇宙旅行の予約

同社は葬儀の素人が集まってスタートした葬儀社でした。

「古くから葬儀社で働いている人は、常識にとらわれていることが多いように思います。葬儀のことをほとんど知らない人間ばかりで始めた会社だからこそ、いっぱい宝物が眠っているような感覚があります。施設の方に話を聞くと、元気な人が考えないようなことを考えていることに驚かされます。宇宙葬も、いろんな話や希望の中から出てきたアイディアでした」

素人だからこそ、突拍子もない面白いアイディアを実現できるのかもしれません。

「私自身、『ほとんどの病院は目に見えないところで老舗の葬儀社と繋がっているから、営業に行っても仕方ない』と思い込んでいました。しかし、当社の若いスタッフが、『今はもうそんな病院ばかりじゃないはずだ』と言っていろんな病院に飛び込んだんです。するとある病院から、『リーズナブルな葬儀ができる葬儀社を探していた』と提携していただけました」

葬儀業界の常識や実態も、ここ数年で変化してきているようです。

「幸いなことに、最近は終活が広がっていて、元気なうちに自分が死んだときのことを考える人が増えています。いろんな人がいるので、その希望をお聞きしたいし、叶えられるものなら叶えてあげたいと思っています」

「お星様になりたい」そんな願いを叶えられたのも、身近な高齢者の声に耳を傾けたことからでした。

「宇宙葬も、宇宙旅行の予約って考えると、ちょっとロマンを感じられませんか?家族や大切な人が亡くなるのは悲しいことですが、自分の死にはちょっとしたロマンがあると思うのです。終活には、ロマンを活かしてもらいたい。死んだ後、希望通りになるかどうかはわからないですが、せめて生きている間は、ロマンを感じて生きていて欲しい。夢やロマンを取り扱っていることに、楽しさや誇りを感じています」

月旅行プランと宇宙探検プランは、2017年暮れに打ち上げを予定しています。

ロケットへの積み込みの期限によりますが、フライトの1カ月前に申し込めば間に合います。現在手元に遺骨があって、宇宙葬に興味がある方は、あと約10カ月悩むことができますよ。

関連サイト


旦木瑞穂(たんぎ みずほ)
1975年愛知県出身。
産経デジタル「New Roses Web」にてグルメ・イベントレポートや、鎌倉新書「月刊 仏事」で葬儀や介護に関する記事などを連載。
各種パンフレット、ガイドブックなどの企画編集のほか、グラフィックデザイン、イラスト制作も行なう。

Twitter:@mimizupon

[旦木瑞穂]