旦木瑞穂の終活百景
第二十一景『遺族の心も霊園も明るくするアートガラスのお墓「光り墓」』

[2017/3/15 00:00]

今回は、モニュメントなどに使われるアートガラスのお墓のパイオニア、フォースプレイス株式会社のメモリアルコーディネーター、石田賢孝さんに「光り墓(ひかりぼ)」が誕生した経緯や、お墓離れの影響などについてお話を伺ってきました。

夕暮れ時の「光り墓」

「光り墓」誕生の経緯

フォースプレイスの株式会社岸洋路社長は、同社設立以前は外資系の企業に勤めており、欧米を訪れる機会が数多くありました。欧米の街を歩いていると、人々の生活の中に自然と溶け込んでいる墓園が目にとまったといいます。

「日本の墓園には、半年に一度、春と秋のお彼岸の時くらいしか人は訪れませんが、欧米の墓園は地域と一体化していることが多く、犬の散歩やランニングをしていたりと、人々の生活の場となっています。岸は長い間、この違いを何とか縮められないものかと模索していました」

岸社長は様々な研究と探求を重ねた結果、美術館や博物館などでモニュメントなどに使われているアートガラスが、耐久性やビジュアルともに「墓石に代わる素材として最適ではないか」という結論に達します。

さっそく、岸社長は、大型ガラスを制作できる工房を探しました。当時、日本国内には希望を叶えられる工房はありませんでした。やがて見つけたのが、アメリカのシアトルにある世界トップクラスのアートガラス製造会社、ランドグレンモニュメント社でした。

同社は、アートガラスの製造のみならず、修理やカスタムデザイン、アンティークガラスの修復にまで至り、長い経験と実績に基づき、世界中から厚い信頼を重ねてきました。

モニュメントを始めとしたアート作品、インテリア家具、映画セットデザインに関わり、幅広く支持されています。

「岸が構想を話すと、偶然にもその会社に所属するアートガラスデザイナーが同様のことを考えていました。それが運命の出会いでした。それからランドグレンモニュメント社と当社はパートナーとして共同開発をスタートし、これまでになかった全く新しいアートガラスのお墓『光り墓』が誕生しました」

「光り墓」の名前は、アートガラスが日の光を受けて輝く様を表すとともに、「ご遺族の心を明るくしたい」という想いが込められています。

洋風墓碑の中でもひときわ目をひく

「光り墓」の特徴

一般的に、「ガラスは壊れやすい」というイメージがあります。しかし、「光り墓」に使用されているアートガラスは強度が高く、同じ厚みであれば御影石で作られた一般的な墓石と同等の強度を持っています。

「御影石は、ガラスの素材である珪石が最大85%も含まれています。アートガラスと御影石の特性は非常によく似ているのです。一方でアートガラスは、御影石のように水分の吸収や塗装などによる劣化の心配がありません。石材は雨水の給水や乾燥を繰り返すため、数十年で風化してきますが、アートガラスは経年劣化が少なく、大変強固であるという特徴から、古来より教会のステンドグラスや美術作品などに使われてきました」

ヨーロッパの国々に残る大聖堂や教会などのステンドグラスは、古いものでは700年以上も経過しているものも少なくありませんが、今も変わらない美しさを保っています。

「『光り墓』もステンドグラスと同様、メンテナンスがほとんどかからず、何百年も維持できる仕様で設計されています。しかし、ガラスは厚みを増すごとに制作が難しくなり、技術と時間を要します。厚手のアートガラスメモリアルは、製作が極めて困難なため、世界でもまだ珍しいものです」

独自の製法によって生み出された、驚くほどに鮮やかな発色と豊かな色彩表現は、他の素材では到底真似できない、アートガラスならではの特徴です。

アートガラスは、窯の鋳型の中で1,500度まで加熱され、成型後、長い月日をかけて冷却されます。熟練のガラス職人の手仕事によって丁寧に1つ1つ制作されたアートガラスを使い、お客さんの要望をもとに、専属のデザイナーが墓碑のデザインイメージを起こします。

綿密な打ち合わせを経て、イメージを形にしていくため、注文から建立までは3~4カ月を費やします。

「光り墓」を選ぶ人の傾向

「光り墓」は、2008年に販売をスタート。現在までの約10年の間に、世界で600基ほどの利用があったといいます。

「よくご相談に来られるご遺族は、お子様を病気や事故で亡くされたご両親や、若くして配偶者を亡くされた方です。そういったご遺族は、故人に対して特別な想いがあります。『故人らしさ、家族らしさをお墓に反映したい』『伝統的な墓碑では、あまりにも故人のイメージとギャップがある』という方が多いようです」

故人に対する想いが強ければ強いほど、亡くなった後にも何かしてあげたいと思うのは自然なことです。特に、故人が幼い子どもの場合は、昔からある和式の灰色の墓碑がそぐわないと思う感覚も理解できます。

「故人への『最後のプレゼント』という意味も込められているのだと思います。私たちはご遺族と一緒に、故人への想いを反映した墓碑を考え、じっくりと時間をかけて制作していきます。『どのガラスを選ぶか』『全体的なデザインは』『彫刻や文字はどうするか』と、故人のことを想いながらカタチにしていくサポートをします。そういった制作の過程が、ご遺族にとって故人と向き合うための大切な時間となります」

故人を思い出しながらお墓を形にしていく作業は、悲しい気持ちを整理するグリーフケアにつながっています。

「故人のイメージや、遺族の故人に対する想いを反映した『光り墓』を建てられた方は、半年に一度のお彼岸だけでなく、もう少し頻繁にお墓参りをする傾向があります。お墓参りに足繁く通うことで、悲しみや後悔などの気持ちに折り合いがつけられ、前向きに過ごせるようになっていきます。『光り墓』の存在が、ご遺族の心を明るくする一助になっているように思います」

「光り墓」と「光り墓S」

「光り墓S」ハートフルコレクション「プレシャス」

同社の顧客は、ほぼ大半が女性だそうです。

「一番人気があるのは、『光り墓S』のハートフルコレクション『プレシャス』です。お子様を亡くされた方や、お母様のご意向が強いご遺族の方からのご依頼が多いです。『かわいらしくて愛着が湧く』『手を合わせに来たくなるようなデザインがいい』と喜んでいただいています」

「光り墓S」とは、アートガラスと御影石を組み合わせた、同社オリジナルのデザイン墓碑です。提携しているアメリカのランドグレンモニュメント社のランドグレン氏をはじめ、アジアで活躍している国際的墓石デザイナー、日本国内の墓石に精通している国内墓石デザイナーなどのコラボレーションによって誕生しました。

ハートフルコレクション「プレシャス」は、ハートを象ったピンク色のアートガラスを御影石に組み合わせたキュートなデザイン。傍に花を飾る花立が添えられ、華やかな印象です。次に人気があるのはナチュラルコレクション『花の光』シリーズ。草花をイメージしたグリーンやレッドなど、4色のアートガラスと御影石を組み合わせた、シンプルな印象のデザイン墓碑です。

「『光り墓』は素材としてのオリジナルアートガラスを指し、『光り墓S』はそのアートガラスを使ったデザイン墓碑を指します。お客様に墓碑の完成イメージがしやすいように、『光り墓S』を作りました」

同社は直接顧客に墓碑を製作・販売するだけでなく、墓碑やモニュメントの素材として「光り墓」を石材店に卸しています。中でも、オパール、ブルー、クリアグリーンの3種類が人気だそうです。

オパールはガラスの中にキラキラする物質が入っていて、光の当たり具合によって様々な色に輝くのが印象的です。ブルーはブルーグラスの濃淡を融合し、見る角度により色の表現が変化するのが特徴です。クリアグリーンは淡いグリーン色のガラスの中に、小さな気泡が無数に入っていて、爽やかなイメージのアートガラスです。

ギャラリーではアートガラスを実際に見て選べる

「家単位」から「個人単位」へ

ここ20~30年は、お墓離れ進む一方で、墓園に行くと、色や形が個性的なデザインの墓碑が増えています。

「欧米諸国では、昔から当たり前にデザイン墓石が建っていました。なぜ欧米にオリジナルなデザイン墓石が多いかというと、個人単位のお墓だからです。一人一人の人生は違います。だから、お墓だって違ってくるのは自然なことです」

日本のお墓は、先祖代々受け継がれるものという考え方が根強く、家単位で建てるのが基本でした。そのため、あまり個性的なものは好まれない傾向がありました。

「日本でも、ここ30~40年くらいの間に個性を重視されるようになり、服や車はもちろん、電化製品や家に至るまで、デザインが発達しました。遅かれながら、その流れが墓石にも反映されるようになったようです。日本では、故人の想いや生前の趣味、家族のメッセージや物語を表した個性的なデザイン墓石が増えつづけています」

御影石を使った一般的なデザイン墓碑は、1980年代後半から紹介され、徐々に増えていきました。伝統的な縦型の墓碑ばかりだった当時は、従来のお墓の概念に縛られない斬新さが多くの人に受け入れられました。

「しかし、様々な色や形のお墓が増えても、素材は同じ御影石です。さらなるオリジナリティや個性を重視する人々は、物足りなさや閉塞感を感じていました。そこで、御影石と同等の強度を持った厚手のアートガラスを、墓碑に大胆に採用しようとチャレンジしたのが、当社のブランド『光り墓』でした。岸は、朝と昼、夕方と刻々と変化する光の加減で輝き方が変わる「光り墓」で、御影石ばかりで暗いイメージの日本の霊園を少しでも明るくし、欧米のような人々の憩いの場に近づけたいと考えました」

自然をイメージしたグリーン&イエローのアートガラス

進学や就職を機に都心部へ出てくる人が多い昨今、不便な場所にある一族の墓を移転する人も増えています。また、親族との付き合いが途絶えれば、新たに自分の墓を建てようと考える人もゼロではありません。

その際、自由な色や形を採用しても、素材が同じではせっかくの個性が埋没してしまいます。素材の選択肢が増えることで、より故人の個性や好みを表現できるようになることは、新たにお墓を建てようと考える人にとって、喜ばしいことかもしれません。

お墓の役割と今後の展開

同社は、アートガラスを使った「ガラス墓」メーカーのパイオニアです。墓石業界で使われるようになった「ガラス墓」という言葉も、同社の発案だといいます。

「当社がアートガラスを使った『ガラス墓』の製造販売をはじめてから、日本国内の『ガラス墓』を製造する会社は、3社以上増えているようです。多くの方に『ガラス墓』を広めるためには、1社だけでは難しいので、各社がお互いに切磋琢磨していいものを作っていかなくてはいけないと思っています」

海洋散骨や、合祀墓、手元供養などが増えて、お墓を建てようと考える人自体が減っている今、同社に影響はないのでしょうか。

「まだ今のところ、さほど影響はありませんが、今後もそうとは限りません。これまでは特に宣伝や広告は行なってこなかったので、まだまだ『光り墓』を知らない人が圧倒的に多いのが現状です。最近では、一人でも多くの方に『光り墓』を見てもらいたいと考え、見本を置かせてもらうなど、石材店や霊園とタイアップする動きを進めています」

「光り墓」は目を引くので、墓園の中に1基でも建っていれば、口コミ効果が期待できます。

「葬儀・供養業界は2極化が進んでいます。葬儀業界では家族葬や直葬が増え、日本の風習や慣習が崩れてきていますが、一方で、『最期はきちんと送りたい』と考える方や、日本の風習や慣習を守ろうとする方もいます。同じように、供養業界についても、墓じまいや墓離れが進み、『お墓なんていらない』という方が増えている一方で『しっかりお墓を持って守っていきたい』という方もいます。『ああ、素敵だな。これなら自分も建てたい』と思ってもらえるものをどう提供していくか。それがポイントです。時代の流れに柔軟に対応していかなくては生き残れません」

2013年には、自宅に置ける小さなアートガラス製のお墓「手元墓」を、手元供養品などの企画・製造・販売を行っている株式会社インブルームスと共同開発し、2016年には、株式会社WITHARTの手元供養ブランド「TOMONI」から、光り墓のコンセプトにそった供物台やミニ骨壷を共同開発し、「家の中の光り墓」の販売を開始しました。

「家の中の光り墓」

今後、お墓は無くなるのでしょうか。

近年、都心部では人口集中の影響から、墓園不足が問題になっていますが、地方や郊外の交通の便が良くない墓園では、なかなか利用者が現れず、区画が余っているという正反対の現象が見られます。

お墓という存在は、大切な方を偲び、想いを巡らすきっかけを作るだけでなく、その人の記憶が刻まれたモニュメントであり、供養や祈りの拠り所です。

屋外か室内か、御影石かアートガラスか、場所や素材、形はどうあれ、大切な方を偲び、想いを巡らす「存在」や「拠り所」は、未来永劫なくなることはないような気がします。

関連サイト


旦木瑞穂(たんぎ みずほ)
1975年愛知県出身。
産経デジタル「New Roses Web」にてグルメ・イベントレポートや、鎌倉新書「月刊 仏事」で葬儀や介護に関する記事などを連載。
各種パンフレット、ガイドブックなどの企画編集のほか、グラフィックデザイン、イラスト制作も行なう。

Twitter:@mimizupon

[旦木瑞穂]